特集
実用化へのカウントダウン
セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバー(CNF)は、軽さ、強度、耐膨張性などに優れた、植物由来の次世代素材です。NEDOは、このCNFの可能性に着目し普及に向けたプロジェクトを進めています。
CNFの普及により、環境問題の解決と、世界をリードする産業の創出を目指す
CO2の排出を実質ゼロにする動きが世界各国に広がっています。すでにEUなどが表明しているほか、日本政府も2050年までの実現を宣言しました。脱炭素社会への移行を着実に進めるためには、再生可能エネルギーの活用とともに、バイオマスなどさまざまな非石油由来原料への転換が必要です。こうした中、新たな化学品の原料として、NEDOは植物由来の素材「セルロースナノファイバー(CNF)」の実用化を急いでいます。
NEDOはこれまでのプロジェクトで、高性能ナノ繊維と、それによって補強した樹脂複合材料を、高効率で連続的に製造するプロセスの開発を推進しました。また、これらの技術を基に、木材や竹などの原料から樹脂複合材料を製造するテストプラントを京都大学宇治キャンパス内に完成させ、稼働しています。
さまざまな優れた特性を持つCNFは、使用用途が幅広く、例えば、粘度特性を生かした、なめらかな書き心地で、かつ垂れ落ちしないボールペンのインクをはじめ、スポーツ用品、音響機器、化粧品などの消費者向け製品が開発されています。
しかし、今後、普及と市場の拡大を進めるためには、なお一層のコストダウンが必要です。中でも革新的な製造プロセス技術の開発と、量産効果が得られる用途の開拓は大きな課題です。そこでNEDOは2020年度から、製造プロセスの改良と、市場規模が大きい分野での用途開発、さらに新しい複合材料の実用化や普及を支援する安全性評価の確立を目指した事業をスタートしました。CNFの実用化は、SDGsのゴールの一つ「気候変動に具体的な対策を」の達成にも大きく貢献することから、取り組みのスピードアップに多方面から期待が寄せられています。
「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発」プロジェクトを担うNEDO材料・ナノテクノロジー部では、将来、CNFが身の回りのあらゆるものに使われるようになれば、資源の大半を輸入に頼っている日本が、植物資源大国になることも夢ではないとしています。
次ページからは、CNFの製造プロセスの革新と利用技術の広がり、CNFを活用できる人材育成など、CNFの普及に向けた取り組みの数々を紹介します。