NEDO Web Magazine

新エネルギー

「再生可能エネルギー熱利用技術開発」

未利用エネルギーを季節で切り替えて活用する帯水層蓄熱システムの普及を目指す

日本地下水開発株式会社、産業技術総合研究所

取材:Nov. Dec. 2020

INTRODUCTION 概要


再生可能エネルギー熱利用システムのコスト削減

地球温暖化防止などのため再生可能エネルギーの利用拡大が社会的な課題となっています。再生可能エネルギーの利活用には水力発電、風力発電、太陽光発電などの発電もありますが、地中熱、太陽熱、雪氷熱などの熱利用にも期待が高まっています。しかし、再生可能エネルギー熱は導入コストや運用コストが高いことが、普及拡大の大きな壁となっています。そこでNEDOは、2014年度に「再生可能エネルギー熱利用技術開発」プロジェクトを立ち上げ、再生可能エネルギー熱利用システムのコストダウンに関する技術開発を実施しました。同プロジェクトに参画した山形市の日本地下水開発株式会社は、同市内に実証システムを構築して研究開発を行い、同社の従来システムと比べて初期導入コスト21%削減と、年間運用コスト31%削減を達成しました。また、同じくプロジェクトに参画した産業技術総合研究所(産総研)は、帯水層蓄熱システムの適合性評価のためのポテシャルマップ作成技術を研究開発し、本システムの普及拡大を後押ししています。日本地下水開発と産総研は2019年度から引き続き「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」プロジェクトに参画し、別々の研究開発テーマではありますが、システムの効率化向上と普及拡大に取り組んでいます。

BIGINNING 開発への道


積雪寒冷地域の企業だからこそ開発できた消雪システム

冬期の積雪寒冷地域で、きれいに雪が融けて路面が露出している道路に出くわすことがあります。そうした道路で活躍しているのが、本プロジェクトに参画した日本地下水開発が開発した「地下水還元式無散水消雪システム」です。

同社専務取締役の桂木聖彦さんは、「弊社のシステムは、道路に埋設した放熱管に地下水を通し、地下水の温かさから発生する熱で消雪します。直接、道路に地下水を散水すると地下水の枯渇化や地盤沈下を招きかねませんが、この方法だと水を無駄に使わずに済むためその心配はありません。また、再生可能エネルギーである地下水熱を有効利用するので、環境にも優しいシステムです」と説明します(図1)。

left01@2x.jpg

図1 2本の井戸を掘り、道路に放熱管を埋設して、一方の井戸から地下水を送水して地下水の持つ熱を路面に伝えることで雪を融かし、他方の井戸から地下水を戻すシステム(資料提供:日本地下水開発)

日本地下水開発は、1962年、山形市に設立されたボーリング会社で、1970年代半ばからは、東北や日本海側の積雪寒冷地域を中心に独自開発の「地下水還元式無散水消雪システム」、つまり「水を路面に撒かない消雪システム」を設計・施工してきました。

「実は、日本は狭い国土ながらもたくさん雪が降る、世界でも珍しい国です。そんな日本の中でも積雪寒冷地域である山形で生まれた弊社は、雪を克服する技術では世界でも負けないものを持っていると自負しています」(桂木さん)

また、日本地下水開発は、ボーリング、つまり「井戸を掘る技術」でも日本トップクラスの技術を誇っています。桂木さんは言います。「地下1,500メートルの井戸が掘れる技術を弊社は持っています。その技術を生かして温泉源開発なども行っていまして、山形県内の温泉の約半分は弊社が掘ったものです」

そしてこの「井戸を掘る技術」と「地下水還元式無散水消雪システム」を応用・発展させたのが、「帯水層蓄熱(ATES:Aquifer Thermal Energy Storage)冷暖房システム」です。地下水の持つ熱エネルギーを冬の消雪だけでなく、夏・冬の冷暖房の熱源としても利用できないかと考えたことが、その研究開発のきっかけでした。

日本地下水開発は1975年に山形大学と「ATES」の共同研究を開始し、1983年には本社に「ATES冷暖房システム」を導入。その後、2009年から「環境省クールシティー事業」、そして2011年から「環境省地球温暖化対策技術開発事業」にそれぞれ採択されました。

夏と冬で地下水の熱を交互に利用する冷暖房システム

「ATES冷暖房システム」は、「帯水層」と呼ばれる地層から地下水をくみ上げ、その地下水熱をヒートポンプで熱交換して、夏には冷房、冬には暖房に利用するシステムです。夏には冷房に使うことで温度が上がった地下水を再び帯水層に戻し蓄熱します(図2)。冬には、夏に蓄熱された帯水層の熱を暖房に使い、その結果温度が下がった地下水を帯水層に戻し、夏の冷房利用に備えます(図3)。帯水層に熱を貯めておく必要があるので比較的地下水の流れが遅い場所で成り立つシステムです。

日本地下水開発が山形市内で行った実験例では、夏にくみ上げられた地下水温度は15℃程度で、帯水層に戻すときには20℃程度まで上昇します。冬にくみ上げられる際の地下水の温度は16~17℃くらいに下がっていますが、気温が低く積雪量も多い山形市内ではヒートポンプを利用すれば十分、暖房の熱源として利用できます。ヒートポンプで熱を放出した地下水は10℃程度になって帯水層に戻り、夏の冷房熱源に利用されます。

left02@2x.jpg

図2 夏期の稼働模式図(3本の井戸があり、1本で地下水をくみ上げ、残りの2本で帯水層に戻す仕組み)(資料提供:日本地下水開発)

left03@2x.jpg

図3 冬期の稼働模式図(資料提供:日本地下水開発)

効率アップとコストダウンで帯水層蓄熱(ATES)冷暖房システムを山形から全国へ

日本地下水開発は、本社建物などで帯水層蓄熱(ATES)冷暖房システムの実証を繰り返し、データを蓄積してきましたが、全国展開するには、設置、運用ともに大きなコストダウンを図る必要がありました。また、山形市以外の他地域の気象条件への適応力を高める必要もありました。

桂木さんは、「環境省事業で研究開発できることは精一杯取り組んだつもりでしたが、やはり積み残しや、後から気づいたり、発生したりする問題もあります。環境省事業後、そうした問題にどう取り組むかを考えていたとき、研究開発を一緒に続けてきた秋田大学や産総研から、NEDOでも再生可能エネルギーのプロジェクトが始まる、という知らせがあったのです」と当時を振り返ります。

「時代の要請に応えていこうとATES冷暖房システムの研究開発を続けてきた中、NEDOが再生可能エネルギーのプロジェクトを立ち上げて下さったことは、本当にうれしいことでした」(桂木さん)

日本地下水開発と秋田大学、産総研は、2014年度のNEDOプロジェクト「再生可能エネルギー熱利用技術開発」に採択され、ATES冷暖房システムのコストダウンを含む高効率化(高効率帯水層蓄熱(Hi-ATES)冷暖房システム)の研究開発に着手することになりました。

BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口


密閉式井戸の開発

日本地下水開発はNEDOプロジェクトの中で、「密閉式井戸の開発」と「専用ヒートポンプの開発」という、2つの研究開発目標を立てました。これらの開発により、ATES冷暖房システムの設置や運用における大幅なコストダウンや冷暖房能力の強化を目指したのです。

中でも最も困難な課題となったのは「密閉式井戸の開発」でした。密閉式井戸は熱利用した後の地下水を余すことなく帯水層に戻すのに不可欠です。従来のATES冷暖房システムの開放型井戸だと、地下水の水位が高い時、地下水を帯水層に戻すと水が噴き出してしまう可能性がありました。それを避けるために、日本地下水開発では熱利用した地下水を戻すための井戸を2本用意し注水量を分散させていましたが、それでも十分に地下水を帯水層に戻すことができませんでした。

日本地下水開発営業本部企画開発部部長の山谷睦さんは、「開放式の井戸は、圧力をかけると水が噴き出してしまいます。これではくみ上げた地下水を100%帯水層に戻すことができません。実際、2本の井戸から注入しても、夏場は77%しか戻すことができず、熱効率が落ちてしまいました。それを克服するために井戸の上部をセメントで固めた 「密閉式井戸」を開発する必要があったのです」と説明します(写真1)。

set01.jpg

写真1 (左)開放式井戸上部と、(右)密閉式井戸上部

密閉式井戸を開発、実用化できれば、井戸も揚水と注水の2本に減らすことができ、初期導入コストを大幅に下げることができます。

また、従来の開放型の井戸では、井戸内の水位が上昇して井戸に戻すことが困難になった場合、注入量の回復を図るため、その都度地下水をくみ上げる操作を行う必要がありました。そのため、ポンプの電力コスト、さらにくみ上げた地下水を排水するための下水道料金が発生しますが、密閉式井戸ではこの操作を行う必要がないため、運用時のコストダウンも可能となります。

山谷さんは、「この密閉式井戸を掘るコストをいかに下げるか、が課題でした。今回のプロジェクトでは4本の井戸を掘りましたが、我々がこれまでいろいろな現場で積んだ経験が役に立ちました。1本目の井戸はてこずりましたが、残りの3本は順調に掘ることができました」と話します。

いかに安く、早く密閉式井戸を掘るか、という課題を解決したのは、日本地下水開発がこれまでにたくさんの井戸や温泉を掘ることで培ってきた技術力の蓄積でした。まず注目すべきは、「ソニックドリル」(写真2)を用いることで高速の掘削を可能にしたことです。ソニックドリル工法とは、ドリル先端のビットに回転と特殊振動を与えることによって高速掘削する方法です。

set02.jpg

写真2 (左)高速掘削が可能なソニックドリル(右)そのビット

このソニックドリルで掘削した孔に、ケーシング・パイプと呼ばれる管を挿入し、帯水層上部をモルタルで固めて確実に遮水します。さらにこの工程を短縮する方法を開発し、密閉式井戸を低コストで施工する技術を確立しました。

山谷さんは話します。「揚水と注入両方に対応可能なデンマーク製のインジェクションバルブ(写真3)を導入しました。密閉式井戸の実績のない日本ではあまり使われませんが、NEDOプロジェクトでは自由に挑戦をさせていただくことができ、プロセスの簡略化に向けた課題解決に、極めて効果的でした。NEDOさんとチームを組むことができたからこそ、密閉式井戸の研究開発は上手くいったと思います」

left04@2x.jpg

写真3 1本の配管で揚水、注入を可能にするインジェクションバルブ

無散水消雪システムの応用

雪国ならではの課題である、夏と冬との熱収支のアンバランスを補うために応用したのは、日本地下水開発の最も得意とする地下水還元式無散水消雪システムです。

桂木さんは説明します。「山形の場合、冬場の冷熱注入期間が長く約半年も続くため、帯水層に冷熱ばかりが貯まり、温熱の4倍にもなってしまいます。その結果、温熱を貯めている帯水層にも、冷熱が入り込んでしまいます」

そこで日本地下水開発では、従来のATES冷暖房システムに無散水消雪システムを応用し、冷熱/温熱を増強して帯水層に蓄熱して利用する「Hi-ATES冷暖房システム」を開発しました(図4)。

set03.jpg

図4 (左)夏期稼働模式図、(右)冬期稼働模式図(資料提供:日本地下水開発)

Hi-ATES冷暖房システムでは、システムを導入する建屋前の駐車場の地面から5〜6cm下に伝熱管を敷設し、ヒートポンプで熱交換した後の地下水を通します(写真4)。

set04.jpg

写真4 駐車場への伝熱管敷設状況(写真提供:日本地下水開発)

夏には駐車場に敷設された伝熱管に通すことで太陽光の温熱を集熱し、冬には地下水を暖房に使った後、同じく伝熱管に通して駐車場を無散水消雪することで、雪の融解熱を放出します。この仕組みによって、より一層、帯水層に戻すときの地下水の温度を上げ下げすることが可能になり、冷暖房に効率よく熱利用できるようになりました。

「夏場は山形でも、太陽光が当たると路面温度が50℃以上になり、駐車場下の伝熱管に流した地下水は、最高で40℃ぐらいまで温度が上昇します」(山谷さん)

逆に冬場は、駐車場を消雪した後、帯水層に戻すときには地下水の温度が5℃まで下がりました(図5)。

set05.jpg

図5 伝熱管の赤外線画像。(左)夏期稼働時、(右)冬期稼働時(資料提供:日本地下水開発)

桂木さんは、「消雪システムを夏期も使うという考えは、それまでなかったのですが、夏期に稼働させると路面温度が下がる、つまり送水した水が温まることは経験的に分かっていました」と言います。

山谷さんは、「今までの4倍近い量の温熱を帯水層に注入できることで、夏と冬との熱収支のアンバランスを打ち消すことができました。これもNEDOプロジェクトで実証できた非常に大きな成果です」と話します。

地下水と冷媒を直接熱交換できる新型ヒートポンプ

本プロジェクトにおけるもう一つの大きな成果は、Hi-ATES冷暖房システム専用のヒートポンプを、再委託先のゼネラルヒートポンプ工業株式会社と共同開発したことでした。

ゼネラルヒートポンプ工業と日本地下水開発は地中熱利用の研究開発で協力関係にあり、桂木さんは、「今回のNEDOプロジェクトで、我々が今まで熱望していたヒートポンプを実用化できました」と話します。

今回新たに開発したヒートポンプは、地下水を直接蒸発器に流すというもので、間に熱交換器を挟まない分、効率的に熱交換することが可能です。従来のATES冷暖房システムでは、配管にスケール(地下水中に含まれる鉄分等)が付着するおそれがあるため、行われていませんでした。

山谷さんは言います。「自然の水ですから、地下水にはいろいろな成分が含まれます。それらが、ヒートポンプの細かい配管に付着し効率低下を起こさないように洗浄したり、ヒートポンプの前に分解清掃が容易な熱交換器を設置したりしていました。もし、地下水と冷媒を直接熱交換できるヒートポンプがあれば、システムの効率が格段に上がるはずと考え続けていました」

そこで、日本地下水開発とゼネラルヒートポンプ工業では、スケール付着を抑制する電磁処理装置を組み込み、地下水をヒートポンプの蒸発器に直接送水して熱交換できるように改良しました。その結果、ヒートポンプの前の熱交換器や循環ポンプも不要になりました(図6)。

「2シーズン、NEDOプロジェクトで使ったヒートポンプの蒸発器の中身を観察したら、ほとんどスケールが付着していませんでした。しかも、わずかに付着していたスケールも、流水洗浄で簡単に剥がれてしまいました」(山谷さん)

left05@2x.jpg

図6 新旧ヒートポンプの比較(上:新、下:旧)(資料提供:日本地下水開発)

ATES冷暖房システムの適地を示す

本プロジェクトの大きな成果に、ATESの普及に欠かせない研究である、産業技術総合研究所(産総研)による「地中熱・地下水熱利用ポテンシャルマップの構築」があります。

産総研再生可能エネルギー研究センター地中熱チーム(現在は地圏資源環境研究部門)の吉岡真弓さんは、「ポテンシャルマップと言ってもいろいろなものがありますが、今回の場合は、ATES冷暖房システムの導入適地かどうか、地下水がどこにあるか、また地下の温度環境、さらに地下水の流速などをシミュレーションし、マッピングしていきました。地下水の流れが速い地域では蓄熱効果が低くなることや、くみ上げた地下水が戻りにくい地域では、ATESには不向きとなる可能性があります」と話します。

今回、産総研では、NEDOとディスカッションを重ねながら、ATES冷暖房システムなど「オープンループ」の東北主要地域のポテンシャルマップを、日本地下水開発と共同で作成しました(図7)。

具体的には、これまでに存在する地下水位や水温の観測データを基に3次元地下水流動熱輸送モデルを作ってシミュレーションを行い、それらの結果を重ね合わせ、ポテンシャル(適地)をマッピングしていきました。さらに5年かけて東北5地域で新たに100mの深さのボーリング調査を行いました。

left06@2x.jpg

図7 山形盆地のATESポテンシャルマップ

吉岡さんは、「何よりも難しかったのは、『シミュレーション結果から、ATESのポテンシャルを具体的にどのようにマップに落とし込むか』ということでした。オープンループの事例は日本にはほとんどありませんから、基準がありません。どのくらいの帯水層があればATESのポテンシャルがあると言えるのか、どのような地下水環境であれば安定して地下水を戻せるのかなどの基準データがありません。日本地下水開発の経験も伺いながらマップを作成していくのですが、作成したマップと現場の感覚が合わないこともしばしばありました」(写真5)

set06.jpg

写真5 (左)ポテンシャルマップと(右)吉岡さん

また、ポテンシャルマップへの記載の仕方もいろいろと配慮したと吉岡さんは言います。「マップに『不適地』と書いてしまえば、そのマップを見た人は『その場所はATES冷暖房システムに適さない土地だ』と思い込んでしまうからです」

「でも、システムの規模によっては可能性がないわけではありません。そこで『不適』ではなく、『事前調査推奨』という表示にすることで、ATES冷暖房システムの普及を阻害しないように、最大限の配慮をしました」(吉岡さん)

吉岡さんは言います。「NEDOのプロジェクトリーダーの方から『こういうマップが欲しい』と言われるとモチベーションが上がりましたし、迷いも吹っ切れました。『システムを売り込む営業の方が活用できるマップを』と言い続けてくださった結果、迷いながらもどうにかマップを仕上げられ、その評判も上々で安心しました」

実際、同ポテンシャルマップを参考に、山形県河北町役場の新庁舎に、本プロジェクトで研究開発された日本地下水開発の「Hi-ATES冷暖房システム」の導入が決まり、2021年度中にも稼働が予定されています。

FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来


研究開発目標のコストダウンを達成

こうして行われた研究開発の結果、日本地下水開発の「高効率帯水層蓄熱(Hi-ATES)冷暖房システム」では、従来の「ATES冷暖房システム」と比べて(図8)、初期導入コスト21%削減と、年間運用コストの31%削減という大幅なコストダウンを達成しました。

set07.jpg

図8 コスト比較の模式図(資料提供:日本地下水開発)

また、夏場は一般的なエアコンを、冬場は重油焚き温風暖房機を使った場合と比べると、今回の実証実験では、ランニングコストが夏場64%、冬場58%ものコストダウンとなり、年間では60%コストダウンできました。そして、二酸化炭素の排出量でも、年間59%の削減を達成しました(図9)。

set08.jpg

図9 (上)ランニングコストの比較グラフ、(下)二酸化炭素排出量の比較グラフ(資料提供:日本地下水開発)

また、周辺環境への影響についても調査を行い、地下水を採水して微生物の検査を行った結果、特定の微生物が増えるなどの変化は無かったことが明らかになり、地下環境への悪影響はないと判断されました。

そして日本地下水開発の「Hi-ATES冷暖房システム」への取り組みは、いま新しい段階に入っています。2019年度からNEDOの「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」プロジェクトに参画しています。

桂木さんは、「このプロジェクトで弊社は、ATESを利用して、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化に最適な、トータルな熱供給システムの研究開発に挑みます。具体的には、冷暖房のみならず給湯も賄うなど、新しい目標達成を目指しています」と語ります(写真6)。

left07@2x.jpg

写真6 新システムの機器室とそこからZEB化建物へと続くパイプ群(写真左奥)。

冬期には暖房・給湯・無散水消雪の三つの熱需要に対応し、夏期には地下水を直接放熱器に送水する、ヒートポンプを使用しない冷房を行うことを目指し、旧システムをアップデートして実証実験を実施中です。

このプロジェクトでは、「Hi-ATES冷暖房システム」の ZEB事務所への適応性や、熱供給システム全体の低コスト化の設計・評価手法の確立、そして暖房に加えて給湯にも対応可能な専用ヒートポンプの開発(写真7)など、さまざまな課題の解決に向けて、新しいチャレンジが始まっています。

産総研でも、新しいNEDOプロジェクトでさらにポテンシャルマップの精度を高めていくことに挑んでいます。吉岡さんは、「マップを出すことによって、地中熱関連の企業や研究者の方々からさまざまなフィードバックがありました。それに対応することで、熱利用のみならず、地下水利用者全体にも使えるマップになることを期待しています」と話します。

今回のポテンシャルマップにより、東北地方は比較的広範囲でオープンループのATESシステムの利用が可能であることが明らかになりましたが、他の地域でもATES利用に期待が高まってきています。

left08@2x.jpg

left09@2x.jpg

写真7 (上)給湯も可能となった新ヒートポンプと(下)システムの稼働状況モニター

例えば大阪府では、東北地方と同様の方法で「大阪ポテンシャルマップ」を作成して、大阪府のホームページなどで公開を始めました。さらに大阪市は地下水規制地域である中心部の「うめきた2期区域」(JR梅田貨物駅跡地)でATESの実験を行い、国家戦略特区によるATESの規制緩和措置の区域指定を受けたところです。

NEDOプロジェクトでも、京都盆地や沖縄など、東北地方に比べて気候が温暖な西日本でのポテンシャルマップ作成の試みが始まっています。吉岡さんは言います。「ATESが、日本の他のいろいろな地域でも使えるかをこれから調べていきます。今のところ導入コストは高いかもしれませんが、環境への配慮という視点から大手企業などで導入が進めば、東京や大阪などの大都会でも、ATESがトレンドになるのではと期待しています」

開発者の横顔


天の時、地の利、人の和

桂木聖彦さんは、日本地下水開発の専務取締役を務めながら、山形県サッカー協会の会長も務める行動派です。

「実は私は文系出身なのですが、今回のNEDOプロジェクトで工学の博士号をとることができました」と照れ臭そうに笑います。

「秋田大学、産総研と、本当に産学官が非常に良いチームを組めたと思います。私は上杉謙信公の『天地人』という言葉が好きです。『天の時、地の利、人の和』NEDOプロジェクトでこれらが上手く結びつくことができたからこそ、上手くいったのだと思っていて、NEDOさんにも深く感謝しています」

face01@2x.jpg

日本地下水開発株式会社

専務取締役

桂木 聖彦 さん

山から地下へと

山谷睦さんは、もともと専攻は農学で、地下水に関わったのは日本地下水開発に入社されてからということです。

「私は青森出身で、元々、林業の研究をしていたのですが、林業は雪の多いところでもやるものなので、雪つながりで日本地下水開発に入りました。林業をやる山から地下水のように、上流から下流へと流れてきた感じですね(笑)」

face02@2x.jpg

日本地下水開発株式会社

営業本部企画開発部 部長

山谷 睦 さん

求められるマップとは

吉岡真弓さんは、学生時代の専攻は地球学で「山を歩いて地質図の描き方を学んでいた」ということです。産業技術総合研究所に入所後、地中熱の世界に入りました。

10年ほど前からポテンシャルマップの作成に関わっていて、直近まで産総研福島再生可能エネルギー研究所で研究活動を続けてきました。

「どのようなマップが求められているのか、それを考えることは、なかなか気力の要る工程でしたが、マップが出来上がっていくにつれて達成感が湧いてきて、やりがいもありました」

face03@2x.jpg

国立研究開発法人産業技術総合研究所

地圏資源環境研究部門地下水研究グループ

吉岡 真弓 さん

なるほど基礎知識


地中熱利用システムのいろいろ

クローズドループと、オープンループ

地下水の温度は地表の温度に関わりなく一定なので、その温度差が熱源になります。その地中熱の利用方法にはさまざま形式がありますが、冷暖房に一般的に使用されている方式は、地中熱をヒートポンプで回収し、供給する方式です。さらにこのヒートポンプ方式は、熱回収の方法で「クローズドループ方式」と「オープンループ方式」(図10)に分類されます。

◆クローズドループ方式では、地中から熱を取り出すために、地中に挿入したパイプに水や不凍液、冷媒などを循環させて熱を取り出します。取り出した熱を、ヒートポンプで必要な温度に変えて、冷暖房などに利用します。設置場所を選ばない、メンテナンスがほぼ必要ないなどの特色があります。水や不凍液が閉じたパイプを循環することから「クローズドループ方式」と呼ばれます。

◆オープンループ方式では、帯水層から汲み上げた地下水を熱源にして、ヒートポンプへ送ります。熱が回収された地下水は、そのまま帯水層に戻します。そのため「オープンループ方式」と呼ばれます。ATESはこのタイプの地中熱利用システムです。

set09.jpg

図10 ヒートポンプを利用した地中熱利用システムのクローズドループとオープンループの比較模式図

NEDOの役割

「再生可能エネルギー熱利用技術開発」
(2014〜2018年度)

(NEDO内担当部署:新エネルギー部)

2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにするという気運の中で、再生可能エネルギーに対する期待はこれまでにないほど高まっています。再生可能エネルギーの利用拡大には、電力に加え熱の利用も重要ですが、設備の導入コストや運用コストが高いことが課題となっています。

そこでNEDOでは、再生可能エネルギーの熱利用のコストダウンを促し、その普及拡大に貢献することを目的に、再生可能エネルギー熱利用の技術開発を実施してきました。本プロジェクトでは、ボーリング会社である日本地下水開発が秋田大学、産総研との連携により、地下水が貯留されている帯水層に蓄熱された温冷水を利用した冷暖房システムのコストダウンに成功し、実用化することができました。

関連プロジェクト


アンケート

お読みいただきありがとうございました。
ぜひともアンケートにお答えいただき、
お読みいただいた感想をお聞かせください。
いただいた感想は、
今後の連載の参考とさせていただきます。

Top