CONTENTS
BEGINNING
より低い温度範囲の熱を吸収冷凍機に利用したいBREAKTHROUGH
2台分を1台にして小型化・効率化をはかるFOR THE FUTURE
欧州で採用が増加中、2050年へ需要増の期待高まるFACE
吸収冷凍機はミニプラントINTRODUCTION 概要
私たちはエネルギーを、動力、電力、熱、光などに変換して利用しています。一方で、変換過程で利用されないまま廃熱として放出されるエネルギーもあります。国内で消費される一次エネルギーの約6割が未利用のまま捨てられるため、この未利用熱エネルギーを有効活用するための技術開発が進んでいます。日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社は、NEDOプロジェクト「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」(2015〜2022年度)などにより「一重効用ダブルリフト吸収冷凍機」を開発。 今までは捨てられていた低温度域の廃熱も回収し、従来機比で約2倍の廃熱エネルギーを冷房向けに活用できる仕組みをコンパクトなボディーで実現、2017年4月に「DXSシリーズ」として製品化しました。海外の複数の国で採用されるなど、カーボンニュートラル時代を見据えた低温未利用熱の活用手段として期待されています。
BIGINNING 開発への道
より低い温度範囲の熱を吸収冷凍機に利用したい
温暖化防止や資源の有効活用などの観点から未利用熱の有効活用が社会的課題となっています。というのも、現在、自然エネルギーや化石燃料などの一次エネルギーが最終形態として動力や電力などに使われるまでの間に、エネルギーの約6割が未利用熱エネルギーとして放出されてしまう現状があるからです(図1)。もし、捨てられている未利用熱を利用できるようになれば、エネルギーの無駄を大幅に削減できる可能性があります。
図1 一次エネルギーからエネルギーの最終消費に至るまでに生じる未利用熱エネルギーの比率 (出典:資源エネルギー庁令和2年度[2020年度]エネルギー需給実績[速報値]を基にNEDOが作成)
この未利用熱エネルギーは蓄熱・断熱技術や熱電変換技術、ヒートポンプなど、さまざまな技術の開発により有効活用が進められています。その活用先の一つとして、吸収冷凍機があげられます。吸収冷凍機は、「蒸発」「吸収」「再生」「凝縮」、そしてまた「蒸発」というサイクルを繰り返して冷水を作り、冷房などに利用する装置です(詳細は「なるほど基礎知識」参照)。この吸収冷凍機の特色は、冷水を作るために使う冷媒(水)と吸収剤とを分離させる「再生」という過程で「熱」を使うことです。
冷やすための装置に「熱」を使うのは一見、不思議にも思えますが、「再生」の過程で、冷媒(水)を気化させて、水より蒸発温度の高い吸収剤と分離させるために熱が必要となります(図2)。この再生過程に使用する「熱」に廃熱を利用することで未利用熱エネルギーの有効活用が可能になります。
図2 吸収冷凍機の動作概念図(左)と装置の模式図(右)。各「器」内は低温でも冷媒(水)が蒸発・凝縮しやすいように圧力を真空近くまで下げている (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
ただし、従来は90℃以上の廃熱しか使われていませんでした。ジョンソンコントロールズビルディングエフィシエンシージャパン*エンジニアリング事業部事業部長の内田修一郎さんは、「われわれにとって、90℃台より低い温度の有効活用は使命の一つでした。70℃以下の廃熱まで吸収冷凍機に利用できれば、未利用熱をさらに有効活用することにつながるからです」と、プロジェクトメンバーの間で共有していた課題意識を語ります(図3)。
*日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社の大型冷凍機製品の開発・設計は、ジョンソンコントロールズビルディングエフィシェンシージャパンが担っています。
図3 従来の熱駆動型吸収冷凍機の駆動温度帯。従来の吸収冷凍機では、75℃未満の温水(廃熱)では冷房に利用可能な冷水(7〜8℃)を得ることは難しく、低温廃熱の利用は進んでいなかった (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
従来の吸収冷凍機では、95℃程度の熱を「再生」の過程で使ったとしても、使用後の温水はまだ80℃程度と高温のまま捨てられていました。残っている熱エネルギーをさらに「再生」の過程で使えれば、たとえば95℃から55℃までの大きな温度差の廃熱を冷房に利用できるようになります。この考えの下、NEDOプロジェクトにより同社が製品化したのが「DXSシリーズ」です(写真1、2)。
写真1(左) 2019年の「INCHEM TOKYO 2019」展示会で紹介された「DXSシリーズ」と、写真2(右)同機側面。同製品は「コージェネ大賞2017特別賞」を受賞 (写真提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
熱利用の可能性拡大を視野にプロジェクト参加
未利用熱を効果的に削減・回収・再利用するための技術開発を目的に、2013年度から経済産業省が「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」プロジェクトを発足させ、2015年度からNEDOが実施しています。低温の熱まで有効に使える吸収冷凍機を実現すべく、日立製作所と共同で本プロジェクトに取り組み、技術開発を進めました。
プロジェクト参画にあたり、当時、日立製作所に勤務していた、ジョンソンコントロールズビルディングエフィシエンシージャパンエンジニアリング本部設計部主管技師の藤居達郎さんは、その経緯を次のように話します。「未利用熱関連のナショナルプロジェクトが立ち上がるという話を聞き、日立としても熱利用関係の新製品開発を模索していたタイミングだったため参加しました。とは言っても、社内で事業の意義を説得したり、日立社内の関係する研究・技術部門のサポートを得たりするのは大変でした。NEDOプロジェクトに参加することが、社内を説得するときには大きな材料になったと感じます」
こうして日立製作所(当時)は、NEDOの委託事業者である未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)の組合員となり、未利用熱エネルギーの「リユース(再利用)」を主なテーマとして、技術開発を始動しました。
BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口
2台分を1台にして小型化・効率化をはかる
低温廃熱の利用には何が必要か? 原理から単純に考えれば、2台の吸収冷凍機を並べてつなげばそれは可能です。60℃程度の温水から7℃の冷水を作るためには、吸収冷凍機を2段として、1段目の冷凍機で発生した15℃程度の冷水を2段目の冷却水として用いる方法があります(図4)。
「けれども、冷凍機を2台置いた装置をそのまま世に出しても、コストも設置面積もかさんで普及しないのは明らかです。工夫をしてコストを下げ、大きさもコンパクトにする必要があります」と、内田さんは開発の狙いを説明します。
図4 2台の吸収冷凍機を並べて冷房利用可能な冷水を作る仕組み。原理的には、加熱力が弱い温水(60℃)を活用するには、冷凍サイクルを2段化すればよいが、1段目、2段目それぞれに駆動熱源が必要で、コストと設置面積も2倍になってしまい、実用化には適さない (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
そこでプロジェクトでは、1台のコストと大きさで、2台分の働きをする吸収冷凍機を目指しました。「1台の吸収冷凍機には、蒸発器、吸収器、再生器、凝縮器の4つの素子(熱交換器)があります。単純に冷凍機2台を並べると素子の数は2倍の8つになりますが、1台にまとめると、蒸発器と凝縮器はそれぞれ1つに集約できます。すると残る課題は、吸収器と再生器となります」と藤居さんは説明します。
では「吸収」と「再生」をどのような設計にするか。内田さんや藤居さんらがまず取り組んだのが、「吸収」と「再生」における「ダブルリフトサイクル」の設計でした。60℃程度の低温の熱を生かすための仕組みで、吸収冷凍の大きなサイクルに、もう一つ小さなサイクルを組み込んだ状態になっています(図5)。
図5 二つのサイクルを合成し、蒸発器と凝縮器を共用することで
低温廃熱水で駆動できる「ダブルリフトサイクル」を構成する (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
「ダブルリフトサイクル」の過程を順番にたどると、吸収器で「吸収」した冷媒(水)を再生器で熱して気化させる「再生」の過程を踏んだあと、その気化した冷媒(水)を補助吸収器でさらに「吸収」させてから補助再生器へと送り込み、ここでも冷媒(水)を熱して気化させる「再生」の過程を踏むというものです。つまり「吸収」と「再生」を2段式で実行します(図6)。「吸収」と「再生」を2段にすることで低温の廃熱でも、高温廃熱を利用したときと同程度のエネルギーを得ることができ、結果として冷房に使用できる低温水を作り出せます。
図6 「ダブルリフトサイクル」の模式図 (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
これだけで1台分のコストと大きさで低温廃熱を利用する吸収冷凍機を実現することはできそうですが、さらに、プロジェクトのもうひとつの狙いであった「広域な温度範囲の熱を使う」効用を高めるため、「ダブルリフトサイクル」の前段に、95℃の高温廃熱で冷媒(水)を気化させる「再生」過程も取り入れることにしました。 高温廃熱を一度「再生」過程で利用し、その後、温度が下がった廃熱を「ダブルリフトサイクル」で、もう一度「再生」に利用することで、大きな効用向上が実現します(図7)。
図7 本プロジェクトで実現を目指した冷凍サイクルの原理。低温の熱で駆動される「ダブルリフトサイクル」(左)と、従来から使われている高温の熱を利用した「一重効用サイクル」(中)を組み合わせて、「一重効用ダブルリフトサイクル」(右)を実現し、広域な温度範囲の熱回収を目指す (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
「もちろん、線図で表したりすることは簡単です。それをどう形にするかの難しさは、また別にありました」と藤居さんは振り返ります。
機器の開発では、まずは単純な「ダブルリフトサイクル」の原理試作機(図8)を作ることから始めました。その結果、60℃の温水を熱源として、冷房に利用できる7℃の冷水を作ることが可能であることが実証できました。そして次の段階として、「一重効用ダブルリフトサイクル」を採り入れた機能試作機を作り(図9)、原理どおりに冷却できるかを確かめました。
図8 開発の第一段階として「ダブルリフトサイクル」の原理試作機を製作。60℃の温水による動作を確認 (出典:日本機械学会論文集 88巻906号)
図9 機能試作機の原理 (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
機能試作機までで、高温再生とダブルリフト再生を組み合わせた機能面の確認はできましたが、製品化するためには課題が残っていました。
「それでもまだコンパクト化のため、製品幅を小さくする必要がありました。また、大量の冷媒の水蒸気が機内でスムーズに移動できるように、各機器をつなぐダクトも十分な通過面積を確保するように注意して設計しました」と内田さんは振り返ります。
つまり機能試作機からもう一段、各素子などの配置を改良する必要があったわけです。そのためにレイアウトを5案ほど考え、最善と考えられる案を基に製品試作機が作られました。
「機能試作機から製品試作機にかけて大きく変更したのは、横並びだった補助吸収器や補助再生器などを縦に並べたことです」と藤居さんは改良点を挙げます。横並びだと幅をとりますが、縦並びにすれば設置面積は小さくできます。
一方、これまで使用したことのない部品などはできるだけ使わないことを心がけたと藤居さんは言います。「従来から使っている部品には信頼性があります。われわれの経験に基づいた信頼できる部品を使いながら、仕組みとしては新しいものを実現していきました」と内田さんが補足します(写真3)。
写真3 コンピュータを利用した素子・部品レイアウトの検討 (再現イメージ)
こうして、2台を単純に組み合わせただけの原理試作機から、機能試作機、さらに製品試作機と進むにつれ、装置はコンパクトになり、エネルギー効率も大幅に向上していきました(図10、表1、写真4、5)。
図10 製品試作機の原理 (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
表1 原理試作機、機能試作機と製品試作機のサイズ、能力比較 (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
写真4、5 製品試作機の組み立て風景 (写真提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
柔軟な熱利用へ「パラレルフロー」の採用
冷媒(水)と吸収剤からなる溶液である吸収液を、「吸収」から、高温と低温での「再生」にいかに流していくかについても、検討を重ねました。
「いくつか選択肢があるなかで、われわれは『パラレルフロー』方式を選びました」と内田さんは言います。
「パラレルフロー」とは、吸収液を高温再生器と低温再生器に分配して流し込む方法のことです。流し込み方には他に、2つの再生器に順番に流し込む方式の「シリーズフロー」や、「シリーズフロー」と逆方向に流し込む方式の「リバースフロー」などもあります。「パラレルフロー」を選択したのは、「熱の使い方の重みづけを自由に変えやすい方式だからです」と藤居さんは説明します。
「これまでの吸収冷凍機では、『再生』に使う熱源の温度は固定されていました。これからは、あるときは高温の熱を使い、またあるときは低温の熱を使うといったように、使う熱の温度範囲がさまざまに変わる状況も増えてくるでしょう。その点、パラレルフローでは、使用する熱源温度に合わせて吸収液の流量を変えることでよりエネルギー効率が上げられます。流量調整はバルブ操作で簡単にできるので、設置後も高温の熱をより多く使いたいときは吸収液を高温側に多く流し、低温の熱をより多く使いたいときは吸収液を低温側に多く流すことができます(図11、写真6)」(藤居さん)
図11 設計イメージにおけるパラレルフロー。吸収器から出た吸収液を、高温再生器と低温再生器に分配して流す。流量の配分も調整可能 (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
写真6 「DXSシリーズ」の操作画面に表示されるサイクルフロー図 (写真提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
状況に応じた計画変更でユーザーニーズに対応
NEDOプロジェクトの「柔軟性」により、技術開発の進むべき道を状況に応じてシフト変更できたことも実用化を後押ししたと藤居さんは言います。
「実は当初の計画は、『ダブルリフトサイクル』を採り入れるという単純なものでした。けれども、プロジェクト期間中、ユーザーに近い立場の方々の話を聞いていくと、廃熱を高温で使ってさらに低温でも使う高効用な利用法にニーズがあることがわかってきました。そこで、こうした情報や事情を、NEDO省エネルギー部の担当者にきちんと説明したところ、計画変更の了解を得られました。NEDOプロジェクトは、当初の計画書どおりに進めなければならないと思っていたので、この点はとてもありがたかったです」(藤居さん)
開発途中での計画変更はほかにもありました。NEDOから海外メーカーでは冷房能力の目標値をより高く設定しているといった最新の情報を提供したところ、「海外勢に負けてはいられない」(藤居さん)と、開発目標の修正を柔軟に行いました。
FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来
欧州で採用が増加中、2050年へ需要増の期待高まる
NEDOプロジェクトの成果により生まれた一重効用ダブルリフトサイクルの吸収冷凍機「DXSシリーズ」は、2017年4月に発売されました。藤居さんは、「従来の吸収冷凍機では、90℃の温水を供給し、最大で約20℃の温度差分の熱を回収していました。今回の『DXS』では、約35℃の温度差の熱が回収でき、1.75倍の熱を回収できる計算になります」と説明します。内田さんも、「より低い温度の熱まで使いたいというニーズに応えられる点が、今回の開発のなによりのポイントです」と強調します。
これまで、ドイツのオフィスビルと機械工場に2件、ポーランドの病院に1件、合計5台が納入され稼働中で、そしてスロバキアの化学系繊維工場で1件を受注しました(2021年10月現在)(表2、3)。
表2 これまでの納品事例 (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
表3 ケース1の仕様 (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
「ポーランドでは、発電所からの廃熱水を冬場は暖房用に利用しているが、夏場には利用していないため、その熱源を病院の冷房向けに使うということで、『DXS』を採用していただきました」と藤居さんは言います。欧州では、温水などの熱エネルギーの供給ネットワークや、熱電併給(コージェネレーション)システムが発達しており、廃熱利用の需要や関心が高いのです。
「日本国内については、廃熱利用への興味や検討が徐々に増えている段階です。とくに国内の工場などでは、新たなシステムを導入するには実績が必要といった考え方もあるので、潜在需要がある中、どう採用いただけるようにするか思慮しています。2050年までにカーボンニュートラル実現という大きな目標もあるので、今後の期待は大きいです」(内田さん)
さらにユーザーの利用シーンの多様性を考え、50〜70℃といった低温の未利用熱の有効活用に特化したダブルリフトサイクル吸収冷凍機の開発なども、内田さんたちは視野に入れています。NEDOプロジェクトで得た高度技術のノウハウが製品開発を加速していきそうです。
環境に放出されるだけの「目的なき熱エネルギー」を有効活用することは、省エネルギー社会と、その先にあるカーボンニュートラル社会の実現に向けての重要な手立てとなります。NEDOプロジェクトで実現した、新しい吸収冷凍機とその技術のさらなる普及拡大が期待されます。
開発者の横顔
吸収冷凍機はミニプラント
内田さんは1986年に日立製作所に入社、土浦工場の設計部で吸収冷凍機の設計開発に着手し、大型吸収冷凍機の事業化などを手がけてきました。途中、マネジメント職に移りますが、一貫して対象製品は冷凍機です。
「吸収冷凍機は、複雑な配管もあり設計も多岐にわたるので、ミニプラントのようなものだと思っています。圧縮式の冷凍機では、1+1=2のような単純計算が成り立ちますが、吸収冷凍機ではそうならないこともあります。そこにやりがいや面白さもあります。入社時はたまたま吸収冷凍機の担当になった程度の認識でしたが、いまは巡り合えてよかったと思っています」
ジョンソンコントロールズビルディングエフィシエンシージャパン
エンジニアリング事業部 事業部長
内田 修一郎 さん
邪魔者扱いされがちな熱を主役に据えて
藤居さんは1991年、日立製作所の研究所に入所後、1994年末に土浦工場に転勤し、吸収冷凍機の研究開発に携わりました。その後、空調機器や家電製品などの開発業務を経て、2013年4月から5年間、今回のNEDOプロジェクトに従事しました。2018年4月にジョンソンコントロールズビルディングエフィシエンシージャパンに転籍し、現職に就いています。
「インバーターなどの発熱する機器では、熱は邪魔者です。この吸収冷凍機は熱がいわば主役です。エネルギーが最終的に行き着く状態である熱をしっかり有効利用できるという点に、特段の思い入れと愛着があります」
ジョンソンコントロールズビルディングエフィシエンシージャパン
エンジニアリング本部 設計部 主管技師
藤居 達郎 さん
なるほど基礎知識
吸収冷凍サイクル(一重効用)の動作とは?
冷凍機には、冷却法によって、圧縮した冷媒ガスの気化熱を利用して冷凍する圧縮式など、いくつかの方式があります。今回紹介の「DXSシリーズ」は、「吸収冷凍サイクル」と呼ばれる仕組みを利用しています(図12)。
図12 吸収冷凍サイクルの概略図
吸収冷凍サイクルは、温度を下げるための物質である冷媒、ここでは水が、「蒸発」「吸収」「再生」「凝縮」、そして再び「蒸発」へ戻るという循環の過程を経て使われます。
まず「蒸発」では、打ち水と同じように、冷媒(水)を蒸発させ、そのときに熱エネルギーが使われて周囲が冷える原理を利用して、冷水(冷媒に冷やされた水)を作ります。その冷水を冷房などに使います。蒸発器の内部はほぼ真空状態になっているため、高地で水が100℃にならずに沸騰するように、3〜4℃でも蒸発します(図13)。
図13 蒸発器の仕組み (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
蒸発した水蒸気は、「吸収」の過程へ向かいます。ここでは水蒸気を、臭化リチウム液に触れさせて吸収します。食塩が湿気を含んでべっとりとする状態と同じです。これで冷媒の水蒸気は吸収液に溶け込みます。「吸収冷凍サイクル」の名称は、この「吸収」過程があることに由来します(図14)。吸収器は一般的な家庭用エアコンでは、コンプレッサーの吸込み口に当たります。
図14 吸収器の仕組み (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
臭化リチウム液に吸収された状態の冷媒(水)は、次の「再生」過程に向かいます。冷媒(水)と吸収剤は混ざり合った状態にあるので、冷媒(水)を分離し、吸収剤を元の濃さまで戻して「再生」します(図15)。この過程で吸収液から冷媒(水)を蒸発(気化)、分離させるために使うのが、サイクル外部から運ばれてきた温水(廃熱)などの熱です。家庭用エアコンではコンプレッサーの吹き出し口に当たります。
図15 再生器の仕組み (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
吸収液から分離された水蒸気状態の水は、次の「凝縮」段階へ向かいます。蒸気が液体に変わる現象を「凝縮」といいます(図16)。水蒸気を冷やして凝縮し、再び液体の水にします。
図16 凝縮器の仕組み (資料提供:日立ジョンソンコントロールズ空調)
こうして凝縮して液体になった水は、「蒸発」の段階へ向かいます。これでサイクルを一周したことになります。
NEDOの役割
「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」
2015~2022年度
政府目標である2050年のカーボンニュートラルを達成するためには、さまざまな手段を講じる必要があります。エネルギー供給過程で排出されてしまう未利用熱を有効活用する技術を開発し、社会実装することも重要になります。
NEDOは本プロジェクトにて未利用熱エネルギーを活用することで、産業、運輸、民生の各分野でさらなる省エネ化を目指しており、未利用熱エネルギーを削減、再利用、変換利用する技術と、分野横断的に求められる熱マネージメント技術の開発を実施しています。
本プロジェクトでは、日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社が、従来に比べて低温の排熱を利用可能な一重効用ダブルリフトサイクルの吸収冷凍機「DXSシリーズ」を開発し、エネルギー回収性能の大幅な向上に成功しました。本プロジェクトでは他にも、空調における消費エネルギー低減につながる長期蓄熱材料やエンジン排熱から発電ができる中高温熱電変換モジュールなどさまざまな成果が出ており、未利用熱エネルギーの活用促進が期待されます。
関連プロジェクト
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