CONTENTS
INTRODUCTION
従来機に比べ燃費・CO2排出量40%削減
BEGINNING
建設機械が排出する温室効果ガスの59%を占める油圧ショベル
BREAKTHROUGH
プロジェクトの突破口FOR THE FUTURE
旋回のみに絞ることで大幅なコストの削減と機器の小型化に成功
FACE
世界初の試みに挑戦し、地球環境に貢献INTRODUCTION 概要
従来機に比べ燃費・CO2排出量40%削減
日本では建設機械による温室効果ガス排出量のうち油圧(パワー)ショベルの占める割合は約6割になります。そのため油圧ショベルの省エネルギー化に建設・土木業界の関心が高まってきています。燃費向上策の一つとして着目されているのが、油圧ショベルのハイブリッド化です。NEDOでは、1999~2002年度に「ニューサンシャイン計画/新規環境産業創出型技術研究開発制度/ハイブリッド建設機械の研究開発」プロジェクトを、2003~2004年度に「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー使用合理化技術実証研究/ハイブリッドショベルの研究開発」プロジェクトを実施しました。コベルコ建機株式会社と株式会社神戸製鋼所では、約6年間にわたるNEDOプロジェクトで得た成果を基に、2006年、世界初のハイブリッドショベルの開発に成功しました。その後も実用化に向けた研究開発を続け、2010年1月には、従来機に比べ約40%燃費を向上した8tクラスのハイブリッドショベル「SK 80H」の製造、販売を開始しました。SK 80Hは2010年度「地球温暖化防止活動 環境大臣表彰(技術開発・製品化部門)」を受賞したほか、国土交通省「低炭素型建設機械」第1号機にも認定されました。研究成果はこのようなハイブリッドショベルの実用化にとどまらず、従来機の省エネ化にも生かされ、コベルコ建機では合計で約20%の燃費向上を達成しました。
BIGINNING 開発への道
建設機械が排出する温室効果ガスの59%を占める油圧ショベル
1997年12月に開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で、2008~2012年までに温室効果ガス排出量を1990年比で5%以上削減することを定めた京都議定書が採択されました。
その同じ月、世界に先駆けて販売開始されたハイブリッド乗用車がトヨタの「プリウス」でした。以降、エンジンとモーターを備えたハイブリッドシステムは、乗用車だけでなくトラックやバスでも採用されるようになり(参考:シリーズ2「トラックやバスにもハイブリッドの風」)、エコカーの中心的な存在になりました。
COP3以後、建設機械業界でも、自動車業界同様に温室効果ガス排出削減が注目されるようになりました。というのも建設機械の国内稼働台数は乗用車、トラックに次いで100万台を超え、その温室効果ガス排出量は日本全体の約1%を占めているからでした。
そうしたなか、建設機械にもハイブリッドシステム導入の気運が高まり、NEDOでは1999~2002年度に、「ニューサンシャイン計画/新規環境産業創出型技術研究開発制度/ハイブリッド建設機械の研究開発」プロジェクトを実施しました。そして、このプロジェクトに応募し、採用されたのがコベルコ建機と神戸製鋼所でした。
コベルコ建機は建設機械の中でも油圧ショベルの製造・販売に強い建設機械メーカーです。油圧ショベルの出荷台数は建設機械全体の50%以上(販売台数ベース)を占めており、温室効果ガス排出量も建設機械全体の59%に及びます。
従来機より40%燃費向上で「環境大臣表彰」受賞
コベルコ建機と神戸製鋼所では、6t以上のクラスの油圧ショベルのハイブリッドシステム化に取り組むこととしました。まず、1999~2002年度に要素研究を実施。さらに、2003~2004年度には、前回のプロジェクトで得られた研究開発の技術的成果および開発部品を活用し、6tクラスの実証機を製作しました。その結果、従来機に比べて64%の省エネルギー効果を達成することができました。
コベルコ建機と神戸製鋼所は、プロジェクト終了後も研究開発を続け、商品化を目指しました。そして、2005年12月には、7tクラスのハイブリッドショベルを完成させ、翌2006年4月にパリで行われた建設機械の国際見本市「INTERMAT 2006」に世界初のハイブリッドショベルとして出展、会場来場者の注目を集めました。
しかしながら、この機種の製造コストは高く、そのままでは販売することはできませんでした。そこで、製造コストを削減しつつ、燃費向上と品質確保を図るという二律背反の課題に挑戦。その結果、従来機比約40%燃費向上を実現した8tクラスのハイブリッドショベル「SK 80H」を商品化しました。
SK 80Hは、国土交通省による「低炭素型建設機械」の第1号機に認定されたほか、2010年度「地球温暖化防止活動環境大臣表彰」を受賞しました。この賞は環境省が年に1回、地球環境防止に顕著な功績を残した個人や団体を表彰するものです。
パリの国際見本市で発表された世界初のハイブリッドショベル
現在発売されているコベルコ建機のハイブリッドショベル
自動車のハイブリッドシステムを油圧ショベルに適用することはできない
では、コベルコ建機と神戸製鋼所はどうやって油圧ショベルをハイブリッド化し、40%の燃費削減を実現したのでしょう。
そもそもハイブリッドとは、"混成"という意味です。「ハイブリッドカー」や「ハイブリッドショベル」における「ハイブリッド」とは、特性の違う2つのものを上手に組み合わせ、性能や機能を向上させる技術のことを指しています。
ハイブリッド自動車の場合、CO2は排出するものの燃料さえあれば駆動し続けることのできる「エンジン」と、CO2は排出しないが連続稼働時間がバッテリー容量によって制限される「電動機(電気モーター)」を組み合わせて、自動車全体の燃費向上を図っています。車体の起動時には電動機で動かし、加速時にはエンジンと電動機を使い、そして定常走行時にはエンジンで走行すると同時に動力の余剰分をバッテリーに充電する。こういった仕組みを導入することで、エネルギー利用の最適化を図っています。
車体の起動時には電動機で動かし、加速時にはエンジンと電動機を使い、そして定常走行時にはエンジンで走行すると同時に動力の余剰分をバッテリーに充電する。こういった仕組みを導入することで、エネルギー利用の最適化を図っています。
この考え方を、油圧ショベルにも適用しようというのが、コベルコ建機と神戸製鋼所の取り組みでした。とはいえ、自動車と油圧ショベルでは同じ乗り物でも機能も使い道も全く異なります。自動車が"走行"を主たる目的としているのに対して、油圧ショベルの役割は"掘削"や"地ならし"が中心で、高速で長距離を走行する機能は求められていません。逆に、デコボコの地面でも転倒することなく縦横無尽に進めるよう工夫されています。
そのため、ハイブリッドショベルの研究開発に当たることになったコベルコ建機開発生産本部要素開発部マネージャーの小見山昌之さんと鹿児島昌之さんは、既存のショベルの動きを解析し、油圧ショベル向けハイブリッドシステムをゼロから考え出さなければなりませんでした。
現在発売されているハイブリッドショベルの動力部分。ここに至るまでに、数多くの試行錯誤と技術的なブレークスルーが必要だった
発電電動機やバッテリーの搭載で、エンジン出力の負荷を平準化しエネルギーを回生
油圧ショベルはブームやアームと呼ばれる長い腕を持ち、その先には、バケット(アタッチメント)が装備されています。自動車のタイヤにあたる2個のクローラーは左右独立に稼働し、その上に搭載されている運転席の部分は360度旋回します。
これらの複雑な動きは、アクチュエーターと呼ばれる複数の駆動装置によって実現しており、その動力源は油圧ポンプです。油圧ポンプはエンジンで動かしており、元を辿れば、エンジンが動力源ということになります。そしてこの油圧ポンプで発生する力をアクチュエーターで分配し合うことで、動作させているのです。
また、油圧ショベルの場合、掘削など負荷の高い作業と地ならしなど負荷の低い作業を短時間で繰り返すため、アクチュエーターにかかる負荷の変動が大きいことも特色です。しかし、作業内容に関わらず油圧ポンプはいつでもすぐに強い力が出せるように、常に最高レベルの動力をアクチュエーターに供給しています。そのため、負荷が低い作業の場合、余った動力は熱として放出されてしまいます(図1)。
図1 油圧ショベル(8tクラス)の動力消費パタ-ン。常にポンプ入力パワーが余剰状態になっている
加えて、ショベルの腕を下げる際や、旋回を停止する際に発生する位置エネルギーや運動エネルギーも、全て熱として放出されています。その結果、エンジン出力の約20%のエネルギーしか有効に活用されておらず、残りの80%は無駄に捨てられていました(図2)。
図2 油圧ショベルの動力伝達図。エネルギー効率の損失が大きく、エンジン出力の20%しか生かされていない
そこで小見山さんと鹿児島さんは、ハイブリッドシステムを使って油圧ポンプから発生している無駄な動力を削減すると同時に、熱となって逃げている位置エネルギーや運動エネルギーを回収して有効利用することで、大幅な燃費向上を図ろうと考えました。
具体的には、従来のエンジンに加え、発電電動機、バッテリー、キャパシタを搭載することで、油圧ポンプ、すなわちエンジン出力の余剰分をこれらに蓄電すると同時に、コンピューターを使って油圧ポンプを最適に制御することで、エンジン出力の変動を平準化することにしました(図3)。
図3 コベルコ建機・神戸製鋼所が最初に考案したハイブリッドショベルのシステム構成図。油圧ポンプによる制御系のほとんどを電動(モーター)化して燃費向上を目指した
そして、従来は油圧ポンプで稼働させていた旋回部を電動化することで、旋回を停止する際に発生する運動エネルギーを電気エネルギーに回生。加えて、ショベルの腕を下げる際に発生する位置エネルギーも回生し、全てバッテリーなどに蓄積することにしたのです。
BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口
ハイブリッドショベルの商品化を果たしたコベルコ建機と神戸製鋼所。その背景には、エンジン、発電電動機、バッテリー、キャパシタ、そして旋回電動機をどう制御すれば燃費を最大限に削減できるかを計算するコンピューターシミュレーターの存在がありました。その結果を試験装置に落とし込み、シミュレーターと同様の燃費削減効果結果が得られたとき、ハイブリッドショベル開発が現実味を帯びてきました。
コンピューターシミュレーションで最適な制御方法を検討
瞬発力はあるものの電池容量の少ないキャパシタ、ある程度の電池容量は確保できるもののパワーやコストの面でキャパシタに劣るバッテリーなど、それぞれの特性に合わせたハイブリッドシステムを構築していく必要があることは明らかでした。
しかし、エンジン、発電電動機、バッテリー、キャパシタ、そして旋回電動機をどのように制御すれば、エネルギーの利用効率を最大限まで高められるかまでは、見当がつきません。
そこで、小見山さんと鹿児島さんは、まず、油圧ショベルの作業現場に出向き、その様子をビデオカメラに収めることから始めました。油圧ショベルがどのような動作を、どのような割合で行っているかを計測していくことにしたのです。
6tクラスの油圧ショベルの作業の代表的なものに、下水管の埋設工事や家屋の解体工事があります。小見山さんと鹿児島さんはこれら工事の際、1時間あたり油圧ショベルが腕を何回上げ下げするのか、何回旋回するのか、それに要した時間はそれぞれどれくらいなのかなどを何度も計測し、それを基に平均値を割り出していきました。
表1 油圧ショベルの作業割合
図4 従来機とハイブリッドショベルの燃費比較シミュレーション
64%の燃費削減に向け実証機を製作
小見山さんと鹿児島さんはコンピューターシミュレーションに基づき、試験装置を構築しました。「試験装置による実験は2000年から2001年にかけて約2年間実施しました。当初バッテリーにはリチウムイオン電池を採用する予定でしたが、電池メーカーから『これをいきなり使うのは危険だ』などと助言され、最初の1年間は大きな鉛蓄電池を使って実験を行いました」と鹿児島さんは語ります。
また、コベルコ建機ではそれまでバッテリーや発電電動機など電力系の機器をほとんど扱ったことがなかったため、充電量や温度によって性能が大きく変化するバッテリーの特性について、実験を通して一つひとつ確認し、知識やノウハウを蓄積していきました。
試験装置による実験結果をシミュレーターに反映させることで、シミュレーターの精度も高まっていきました。小見山さんと鹿児島さんは、シミュレーションと実験を研究開発の両輪として、ハイブリッドショベルにおけるエネルギーの利用効率の最適化を図っていきました。
鹿児島さんは、「実は試験装置は、最初のうちは全く動きませんでした。しかし、原因を究明し、克服していく中で、シミュレーションと同じ結果が試験装置でも得られたとき、ハイブリッドショベルの開発は可能だ、という確信を得ることができました。いま思えばこの瞬間が、本プロジェクトのブレークスルーだったと思います」と語ります。
その後、小見山さんと鹿児島さんは6tクラスのハイブリッドショベルを実証機として製作。従来の油圧ショベル同等の操作性能を有しながら、シミュレーションの予測結果とほぼ同じ60%以上の燃費削減効果が得られることを、下水枝管工事などによる実証実験を通して確認しました。
現在販売されているハイブリッドショベルにはニッケル水素バッテリーが採用されている
(左)研究開発中の実証機
(右)図5 下水枝菅工事での燃費評価結果
FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来
旋回のみに絞ることで大幅なコストの削減と機器の小型化に成功
「しかし、実証機にはバッテリー、キャパシタ、発電機、5台の電動機、さらにこれらの制御機器など研究開発に必要なあらゆるものを搭載した上、どれも特注品だったため、莫大な製造コストがかかってしまいました。事業化には大幅なコスト削減が避けられませんでした」と小見山さんは言います。
そのため、2004年度のNEDOプロジェクト終了後も、コベルコ建機と神戸製鋼所は商品化を目指して研究開発を続けました。そして完成させたのが、2006年4月にフランス・パリで行われた建設機械の国際見本市「INTERMAT 2006」に世界初のハイブリッドショベルとして出展し、国内外から大きな注目を集めた7tクラスのハイブリッドショベルです。
しかしながら、この機種もやはり製造コストが高く、事業化には至りませんでした。製造コストの大幅削減には大胆な決断が必要です。そこで、小見山さんと鹿児島さんは、2010年1月に商品化した8tクラスのハイブリッドショベル「SK 80H」では、アーム用、バケット用、旋回用など計5台搭載していた電動機を、発電電動機と旋回電動機の2台のみに集約。電動化に関しては最も大きな効果が期待できる旋回のみに絞ることで、大幅な製造コストの削減と機器全体の小型化を図りました。
図6 現在販売されているハイブリッドショベルのシステム構成図。モーターを減らしてコストダウンを図るとともに、シミュレーションで鍛え上げた制御技術で燃費向上も実現
図7 ハイブリッドショベルの蓄電、エネルギー回生、エンジンアシストの仕組み
一方で、コンピューターにより油圧ポンプを最適に制御。エンジン出力を超える負荷がかかった場合には発電電動機やバッテリーでアシストするようにしたことで、負荷変動の平準化にも成功しました。常にエンジンが最高効率で稼働できるようになったことで、エンジンの小型化が可能となりました。これは騒音の低減にもつながりました。
旋回用モーター(左)、エンジン小型化でサイズの小さくなったラジエーター(右)
その結果、SK 80Hでは、エンジンだけで22%の燃費削減を果たすことができました。また、エンジンの最適な使用により10%、旋回の電動化と旋回時のエネルギー回生により8%、合計40%の燃費削減効果を得ることに成功しました。こういった成果が認められ、2010年度「地球温暖化防止活動 環境大臣表彰」の受賞につながりました。
図8 バッテリーと電動機によるアシストで、標準機(赤線)並みの出力を、小型エンジン(青線)でも達成できる
「低燃費」のブランドイメージが定着
この燃費削減効果は、ハイブリッドショベルだけにとどまりませんでした。従来型の油圧ショベルに関しても20%の燃費削減が実現されたのです。
コベルコ建機技師長 小林真人さんはこう説明します。「私は、ハイブリッドショベルだけでなく、従来機の研究開発も統括する立場にありました。そのため、ハイブリッドショベル用のコンピューターシミュレーターの精度が向上し、より最適な油圧システムの制御方法が示されていく中、この制御方法は従来機にも適用できると考えたのです」
そこで、小林さんはハイブリッドショベル用のコンピューターシミュレーターの内容の一部を従来機の開発用のコンピューターシミュレーターに反映。シミュレーション結果を基に油圧システムのどこでエネルギーの損失が起こっているかを可視化することで、油圧システムおよびエンジンの制御方法を改良しました。その結果、現在では、「低燃費」がコベルコ建機のブランドイメージとして定着するまでになりました。
NEDOプロジェクトに参加した意義について小林さんはこう振り返ります。「仮にNEDOプロジェクトに参加していなかったら、コベルコ建機ではハイブリッドショベルの開発への取り組みが遅れていたと思います。1999年から2000年初頭にかけて建機市場が低迷し、資金も人材も潤沢にない中、リスクの高いハイブリッドショベルの研究開発に人材を投入できたのは、NEDOプロジェクトに参加できたからこそと言えるでしょう。その成果は、ハイブリッドショベルの商品化のみならず、従来機にも波及し、大きな燃費およびCO2削減効果をもたらしました」
今後、コベルコ建機では、さらなる製造コスト削減を図りハイブリッドショベルの量産化を目指すと共に、8tクラス以外の油圧ショベルのハイブリッド化にも取り組んでいく予定です。(2012年3月取材)
開発者の横顔
世界初の試みに挑戦し、地球環境に貢献
新しい分野に挑戦することの素晴らしさと意義を実感
1978年に神戸製鋼所に入社した小林真人さん。20年間にわたり研究所で鉄やアルミニウム、チタンなど素材の研究開発に従事してきました。自動車、新幹線などの開発にも関わりました。1999年にコベルコ建機に転籍。2005年からは、ハイブリッドショベル開発プロジェクトの統括者を務めることとなりました。「ハイブリッドショベルの商品化において最も苦労したのは部品の調達です。試作機や実証機では各メーカーに特注して作ってもらえばよいわけですが、商品機となるとそうはいきません。いかに安く製造していただくかという点で大変苦慮しましたね。とはいえ、世界初のハイブリッドショベルを上市できたことは技術者冥利に尽きます。新しい分野に挑戦することの素晴らしさと意義を、NEDOプロジェクトを通じて改めて実感しました」
コベルコ建機株式会社/株式会社神戸製鋼所
小林さん
コンピューターシミュレーション通りに実証機が動いたときには感動
1990年に神戸製鋼所に入社し、研究所に配属となった鹿児島昌之さん。入社2年目から油圧ショベルの電子制御の仕事に従事するようになりました。NEDOプロジェクトには1999年度の開始当初から携わっています。「NEDOプロジェクトでは、専任としてハイブリッドショベルの研究開発に当たり、特にシステム制御を担当しました。通常、油圧ショベルの開発については、前モデルの改良がほとんどで、一から開発するといったことは滅多にありません。その点、ハイブリッドショベルの開発は貴重な機会でした。最初は手探り状態でしたが、シミュレーション通りに実証機が動いたときは本当に感動しました。このような機会に恵まれたことに心から感謝しています」
コベルコ建機株式会社/株式会社神戸製鋼所
鹿児島さん
着実に課題を解決していけば、誰もやったことの無いものも実現できる
1992年に神戸製鋼所に入社以来油圧ショベルの電子制御の開発に携わってきた小見山昌之さん。1999年度のNEDOプロジェクトの開始と同時に専任となり、鹿児島さんと共にハイブリッドショベルの研究開発にまい進してきました。現在は、NEDOプロジェクトの経験を生かし、次の省エネルギー技術の研究開発に従事しています。「ハイブリッドショベルの開発では、これまでの自分の技術力や知識、ノウハウだけでは前に進めない部分も多く、様々な人や文献から情報を得るなどして、課題を一つひとつ乗り越えていきました。逆に、一歩一歩着実に開発ステップを踏んでいけば成果につながり、今まで誰もやったことのないものでも実現できるのだということを学びました。今後もこの経験を生かし、世の中に貢献していきたいです」
コベルコ建機株式会社/株式会社神戸製鋼所
小見山さん
なるほど基礎知識
油圧ショベルの種類と仕事内容
油圧ショベルは大きさによって呼び方が変わります。日本では6t未満のクラスのものを「ミニショベル」と呼んでいます。狭い場所への進入が容易なため、住宅の基礎工事や内装の解体などに使われます。建設ラッシュが盛んな新興国よりも、建て替えや改装の多い先進国での需要が多いのが特徴です。
6tを超すものは「通常形ショベル」に分類されます。現在は20tクラスの需要が最も多く、世界最大級のものは800tにも及びます。掘削はもちろんのこと、バケットの平らな部分を使って地ならしをしたり、土地を押し固めたりもします。バケットの部分に、「ニブラー」と呼ばれるハサミやマグネットなどアタッチメントを装着することで、目的に応じた様々な作業が行えます。
大型のものは、建物の解体や砕石、スクラップ処理などに利用されています。こちらは先進国よりも新興国で多く使われています。最近は、中国やインド、インドネシアでの需要が高まっています。
また、ブームやアームと呼ばれる腕の部分は油圧ポンプで動いています。人の手の代わりとなって働くため、俊敏かつ複雑な動作が可能になっています。自動車のタイヤにあたる2本のクローラーは左右独立に動きます。クローラーではなくタイヤになっている種類もあり、そのようなものは「ホイールローダ」や「ホイール式ショベル」と呼ばれています。
NEDOの役割
「ハイブリッドショベルの研究開発」
このプロジェクトがはじまったのは?
日本の温室効果ガス排出量の約1%が建設機械の燃料消費によるもので、そのうち油圧ショベルが約59%を占めると言われています。その削減対策の手段として注目されているのが、建設機械の省エネルギーやエネルギーの変換効率向上を目的とするハイブリッドシステムの適用でした。そこでNEDOでは1999年度に「ハイブリッド建設機械の研究開発」を開始し、2004年度まで約6年間にわたり、取り組みを続けました。
プロジェクトのねらいは?
建設機械の中で過半数を占める油圧ショベルに的を絞り、油圧ショベルをハイブリッド化することで、40%以上の省エネルギー効果と、それに伴う温室効果ガスの削減を目指しました。1999~2002年度の「ハイブリッド建設機械の研究開発」では要素研究を行い、2003~2004年度の「ハイブリッドショベルの研究開発」では、前プロジェクトで得られた研究成果を基に、6tクラスのハイブリッドショベル(実証機)を製作。エンジンとバッテリーを動力源とするハイブリッドシステムが、実作業時に40%以上の省エネルギー効果を発揮することを目標としていました。
NEDOの役割は?
「ハイブリッド建設機械の研究開発」と「ハイブリッドショベルの研究開発」の両プロジェクトで、コベルコ建機および神戸製鋼所の取りまとめ役として共同研究開発を実施しました。そして、実証機の製作、実証試験、シミュレーション評価、ハイブリッドショベルの総合評価に関わり、コベルコ建機がハイブリッドショベルを事業化、商品化するための課題を明確化するためのお手伝いをしました。NEDOでは2002年6月に経済産業省において取りまとめられた「省エネルギー技術戦略」に沿って、2003~2010年度に「エネルギー使用合理化技術戦略的開発事業」を、2009~2013年度に「省エネルギー革新技術開発事業」をそれぞれ行ってきました。この中で、エネルギー需要側の課題を克服するべく、ハイブリッドショベルをはじめとする様々な省エネ技術の開発を推進してきました。
関連プロジェクト
- ニューサンシャイン計画/新規環境産業創出型技術研究開発制度/ハイブリッド建設機械の研究開発(1999-2002年度)
- エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー使用合理化技術実証研究/ハイブリッドショベルの研究開発(2003-2004年度)
お読みいただきありがとうございました。
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今後の連載の参考とさせていただきます。