「農林水産業×衛星データ」で懸賞金、最終選考会を開催
Penguin Labsとフィッシュパスが1,000万円を獲得、「NEDO Challenge, Satellite Data」
NEDOは2026年7月15日、懸賞金活用型プログラム「NEDO Challenge, Satellite Data -農林水産業を衛星データでアップデート!-」の最終選考会を東京都内で開催しました。本プログラムは、人工衛星から撮影・測定した地表データなどを活用した社会課題解決策のコンテストで、経済産業省製造産業局宇宙産業課とNEDO航空・宇宙部が主催しています。
最終選考会の様子
応募総数59件、11チームがピッチコンテストに登壇
今回は、2024年度に実施した「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」に続く2回目の衛星データ活用プログラムで、農林水産業の課題解決に資する技術開発を募りました。募集テーマは「テーマ1:生産現場の課題解決に資する技術開発」と「テーマ2:資源の管理・監視および物流の高度化に資する技術開発」の2つ。懸賞金はテーマごとに1位が1,000万円、2位は500万円、3位が300万円、審査委員特別賞は100万円です。
応募総数は59件。1次審査(書類審査)通過者には、NEDOが半年以上かけて合同ワークショップや個別メンタリングで支援してきました。最終選考会では、テーマ1の5チーム、テーマ2の6チームの計11チームがピッチコンテストに臨みました。持ち時間は1チーム当たりピッチが10分、審査委員との質疑応答が8分。各ピッチでは開発した技術そのものに加え、技術の実用化で目指す社会の姿についても語られ、聴衆は熱心に耳を傾けていました。審査は、テーマごとに全チームのピッチが終了した後、別室に審査員が集まって実施しました。
テーマ1の審査委員による審査の様子
アンバサダーを務めるタレントの村上信五さんが参加者を激励

ピッチコンテストに先立ち、NEDOの増田理事は今回の最終選考会への期待を次のように語りました。「前回は環境・エネルギーをテーマに実施しましたが、受賞者全員がサービス化を実現、または実現見込みとなっています。今回も実用化に向けた応募者の強い意欲を、メンタリングなどを通じて感じています。本選考会が参加者相互、あるいは参加者と視聴者の間における協業や投資など、事業化を加速する機会となることを大いに期待します」。
本プログラムのアンバサダーであるタレントの村上信五さんも、サプライズゲストとして登壇しました。村上さんは芸能活動のかたわら、農業スタートアップ企業での事業開発にも携わっています。衛星データ活用については、ぶどう園の電気柵の最適配置、気候や土壌のデータに基づく栽培地の選定、海域の温度監視などによるカキ養殖適地の選定、災害時の物流ルートの確保など、自身が考える具体的なアイデアを紹介。「応募資料を読ませてもらいましたが、ビジネスとして汎用化していったら良いのにと思うものばかり。期待しかないです」と参加者を激励しました。
オープニングセッションで挨拶をする村上信五さん
受賞者が決定、表彰と講評を実施
イベントの最後に、厳正な審査を踏まえて決定した受賞者が発表されました。テーマごとの受賞者と開発内容、および審査講評は以下の通りです。
テーマ1:生産現場の課題解決に資する技術開発
●第1位(懸賞金1,000万円)
Penguin Labs合同会社
「TWINZ Plus:衛星×気象データで農地ポテンシャルを可視化し、適地適作をアップデート」

衛星・気象・土壌データや将来気候シナリオを統合し、農地のポテンシャルや作物適性、将来リスクを可視化するプラットフォーム「TWINZ Plus」を開発しました。全球的な適地探索ができること、土壌成分の解析誤差が約10%と小さいことが特徴です。同社は土壌を可視化するだけでなく、営農計画書や事業計画書の作成支援サービスを提供。現在は群馬県玉村町で実証実験を行っています。サブスクリプション型サービスを展開して早期に100自治体での導入を目指すとともに、民間企業への浸透を図ります。
●第2位(懸賞金500万円)
キリンホールディングス株式会社
「スペーステロワール ~衛星データによるテロワール可視化技術の開発と日本ワインの高付加価値化~」

衛星データと土壌成分データをオントロジーで意味付けし、ワイン用ぶどうの栽培に関してAIが圃場の特徴と改善策、ぶどうの適切な収穫期などを提示する「スペーステロワール」サービスを開発しました。福島県の農家・醸造家20人との対話から「テロワールは単なる土地の特徴にとどまらず、手掛ける人の情熱や理想などの人的要素も重要」との発見があり、ユーザーが目標とするワインと自分の圃場とを比較する機能を盛り込みました。農家向けの技術支援機関をターゲットとし、福島県ハイテクプラザで試験導入中。2027年に商用化し、2028年以降に他県への展開を目指します。
●第3位(懸賞金300万円)
株式会社アグリライト研究所
「食料・飼料自給率向上および遊休農地解消のための衛星データ活用システム」

飼料用トウモロコシのサプライチェーン向けに、好適な作付け候補地や排水対策、収穫期や収量の予測などを提示するサービス「ALLMASSY(アルマシー)」を開発しました。データソースは衛星データや気象、農地データ、営農記録、筆ポリゴン(農地の区画情報)など。山口県にて実証実験中で、2028年度の事業化を目指しています。
●審査員特別賞(懸賞金100万円)
株式会社極洋
「スマート水産養殖:分子生態情報と海洋データ統合による魚病早期検出技術の開発」

水産養殖業向けに、魚病(魚類の感染症)の発生リスクを検出し、予防や事前の対処につなげるシステムを開発。関係者が扱いやすい「魚病予報アプリ」を提供します。データソースは既存の魚病の発生情報、環境DNA解析情報、衛星データ、海洋データです。当面はブリとマダイを対象とし、2027年秋のリリースを予定しています。

テーマ1の審査委員長代理を務めた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の松尾尚子氏は「Penguin Labsは衛星データを活用するだけでなく、モデルを組み合わせて将来の予測を導き出す点、世界のデータを取得できる衛星の強みを生かした点がすばらしい。キリンに対しては、さまざまな情報を価値情報に変えていく取り組みへの期待感が強い。アグリライトはこれまでの実績や関わった人々をまとめ上げて作り上げており、実現可能性が非常に高い。極洋は環境DNAと衛星データを組み合わせる技術的にチャレンジングなテーマ。引き続きトライしてほしい」と講評を述べました。
テーマ2:資源の管理・監視および物流の高度化に資する技術開発
●第1位(懸賞金1,000万円)
株式会社フィッシュパス
「eDNA(環境DNA) × 衛星データで内水面漁業をDX化 -効率的な漁場整備と持続可能な水産資源管理の実現-」

環境DNAデータと衛星データを組み合わせ、魚類の生息適地を推定し、内水面漁業における水産資源管理や漁場整備の効率化につなげるシステムを開発しました。同社はオンライン遊漁券アプリ「フィッシュパス」を手掛ける2016年設立のベンチャーで、全国400以上の漁協と連携していることから、継続的にデータを収集できるといいます。実証実験では、アジメドジョウを対象魚種とし、開発したシステムで生息適地を推定し、現地調査を実施。保全や整備の優先順位付けをする用途では、実用に足る予測精度が得られたといいます。今後は漁協や大学との連携の下、モデルの進化・更新を続けます。
●第2位(懸賞金500万円)
三菱電機ソフトウエア株式会社
「水稲栽培に関わる全ての人のための「ものさし」の開発」

水稲栽培の出穂期や登熟期、収穫量の予測を提供するシステム「SPARROW」を開発しました。衛星データや実測データを基に、全国の圃場を毎日、同一アルゴリズムで解析するもので、米の生産者や消費者、行政などのステークホルダーに「ものさし(=共通基準)」を提供する狙いです。不安感から生じた「令和のコメ騒動」のような事態を防ぐ効果が期待できるほか、生産・流通や行政判断の効率化に寄与します。
●第3位(懸賞金300万円)
富士通株式会社
「食料レジリエンス・アトラス(FRA) - Food Resilience Atlas -Satellite & Causal AI Platform -」

水衛星データや気象データ、農林水産統計、人口統計、物流データなどを統合して食料供給リスクを可視化する「食料レジリエンス・アトラス」システムを開発。マルチAIエージェントによって、代替調達や備蓄放出などの対策案を提示する仕組みも用意しました。食料はあるのに、災害や地政学リスクによって供給網が寸断されて需要地に届かないという社会課題に焦点を当てたものです。日本では約4,000万人が都市部に集中し、物流が一部の拠点や幹線に依存しているという課題感から、開発に至ったといいます。2027年頃まで国内で実証を行い、2027~2028年頃に食料危機国での実装を目指します。
●審査員特別賞(懸賞金100万円)
スターフィールド株式会社
「衛星データを起点とした竹資源のサプライチェーン構築」

衛星データに農地や道路、森林などの公表データを組み合わせ、GIS(地理情報システム)データと重ね合わせて竹林情報を可視化する「たけナビ」を開発しました。竹林の位置や面積、竹害リスク、伐採・管理の優先度などを提供することで、竹林を適切に整備・管理でき、竹の資源化への道を開くとしています。

テーマ2の審査委員長を務めた一般社団法人SPACETIDEの代表理事兼CEOである石田真康氏は、業界で長年解決できなかった課題に衛星データやAIで挑む提案が多かったと総括。「農林水産業は課題を自分ごと化しやすく、熱量を持って取り組みやすい分野だと感じた。今後、日本の衛星を応募者が率先して活用し、フィードバックしていくことで、日本の産業が強くなると期待している」と講評しました。
「衛星データ利活用の成功ポイント」を語るトークイベントも実施
今回のイベントでは、テーマ2の審査中にステージ上でテーマ1の審査委員などが登壇するトークイベントが開催されました。ファシリテーターはJAXAの松尾氏とPwCコンサルティングの片桐紀子氏。パネリストとして、それぞれ農業、林業、水産業のエキスパートである農業・食品産業技術総合研究機構の石塚直樹氏、鹿児島大学 教授の寺岡行雄氏、漁業情報サービスセンターの斎藤克弥氏が登壇しました。
左からJAXAの松尾氏、PwCコンサルティングの片桐氏、農業・食品産業技術総合研究機構の石塚氏、
鹿児島大学の寺岡氏、漁業情報サービスセンターの斎藤氏
トークテーマは「審査委員が語る農林水産分野における衛星データ利活用の成功ポイント」。石塚氏は衛星画像を利用した小麦の収穫適期マップなどを成功例として示し、「時間・継続」「人」「地域・スケール」の3つを成功ポイントに挙げました。「農作物は生もの。1年や2年試しにやったことを基にこの先もこれでいけると考えてしまうと失敗する」と話しました。
寺岡氏は、林野火災の早期警戒や海岸林のマツ枯れ被害の抽出を成功例として紹介しました。一方で、日本の主要樹種であるスギとヒノキは現時点で衛星データからは見分けにくいという課題も提示。成功ポイントには「長期性」「大面積」「変化の抽出」「客観性」「手軽さ」を挙げ、「データが家電のように現場で手軽に使えるようになっていなければいけない」と指摘しました。
斎藤氏は、水産分野における衛星データ活用の歴史を説明しました。1970年代後半に研究が始まり、1990年代後半には洋上をカバーする衛星電話サービスの登場で、技術開発から実用化の時代へ移行。現場の端末も短波FAXの時代を経て2010年代にはパソコンが主流に。「長らく洋上の通信費が課題だったが、これからは洋上ブロードバンドにより、通信料を気にせずにデータ配信できるようになる」と語りました。
トークイベント後半には農林水産省の東野昭浩氏と農林中央金庫の宮路出氏が加わりました。トークテーマは「政策と投資から読み解く研究資金獲得のポイント」です。
左から農林水産省の東野氏と農林中央金庫の宮路氏
東野氏は、農林水産分野の労働力不足を受け、補助事業や委託事業を通じて無人化・省力化を後押ししていると話しました。農業での衛星データ活用シーンに、トラクターやコンバインの自動走行、作物の生育ムラに合わせて肥料の散布量を変える可変施肥技術を挙げ、さらに「自治体職員が交付金の対象となる作物の作付状況を現地確認する業務も、衛星データで軽減できる可能性がある」と期待を寄せました。
宮路氏は、衛星データ活用においてはデータの収集・解析の仕組みが注目を浴びがちだが、その先の社会実装や持続的なビジネスモデルが重要だと語りました。「誰がいくらで、何のために、そのサービスを買うのか。データを一度購入して終わりではなく、サブスクリプションのような形でデータを継続的に使ってもらうなど、営農の基盤に必要なサービスとして組み込んでいけることが大切」と解説しました。
次回は「衛星データ×都市インフラ」をテーマに開催
第3弾となる衛星データ活用プログラムも始まります。「NEDO Challenge, Satellite Data -衛星データで革新する未来の都市インフラ-」と題し、衛星データ×都市インフラを対象として、テーマ1「インフラマネジメント及び都市活動における課題解決に資する技術開発」、テーマ2「インフラに係る防災・災害対応における課題解決に資する技術開発」を募集。
公募期間は2026年7月15日~8月31日。その後、今回と同様に書類審査、システム開発(メンタリング)、ピッチコンテストを経て受賞者を選定、懸賞金を交付します。懸賞金は1位が2,000万円と今回比で2倍に増額しており、総額で約8,000万円となります。
