大阪工業大学に開設「バイオものづくりセンター」、目的は二つ
同センター長の長森氏とNEDOプロジェクトマネージャーの木下氏に聞く
微生物や植物の力を活用し、化石資源に依存しないものづくりを実現する「バイオものづくり」。持続可能な社会の実現や経済安全保障への貢献が期待される一方で、企業が新たに参入するには高いハードルがあります。菌株の選定から培養条件の最適化、スケールアップ、生産プロセスの構築まで、多くの知識や設備が必要になるためです。
2026年6月、大阪工業大学は大宮キャンパス内にて「バイオものづくりセンター」の開所式を行いました。NEDOが2020年度〜2026年度まで実施中の「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」事業(通称、NEDOバイオものづくりプロジェクト)の一環として整備され、人材育成から試作、生産を見据えた開発支援までを担う施設です。
同センター開設の狙いやNEDOの支援について、センター長の長森英二氏(大阪工業大学 工学部生命工学科 教授)、プロジェクトマネージャーの木下理子氏(NEDO バイオ・材料部 バイオプロセスユニット スマートセルチーム 主任)にそれぞれ話を聞きました。
実験室と工場の間にある“壁”を埋める
まず、バイオものづくりセンターの狙いや特徴、今後の展望などについて、センター長の長森氏に聞きました。

――バイオものづくりセンターで取り組むこと、目指すものは何かを教えてください。
長森氏 目的は二つあります。一つは、バイオものづくりに新規参入する企業を支援することです。バイオものづくりにはさまざまな培養設備や機器、試薬が必要になりますが、中小規模の企業にとっては、それらを一から揃えるのは大きな負担になります。仮に大手のメーカーでも、開発段階で必要な設備をすべて購入するのは容易ではありません。
バイオものづくりセンターの設備を活用していただくことで、企業は設備投資の負担を抑えながら開発を進めることができます。開発担当者の手間も減らし、短期間で試作・検証に取り組める支援を行います。
もう一つは、人材育成です。バイオものづくりの経験がなく、何もわからない状態で来ていただいても構いません。微生物の力を活用してものづくりを行うための考え方や、培養を工学的に扱うための知識を学べる座学セミナーに加え、実技セミナーも用意しています。
内容も基礎編から応用編、下流工程まで幅広く揃えていますので、まずはセミナーを受講していただき、バイオものづくりについて共通言語で話せる人材を増やしたいと考えています。これらの人材育成そのものが、将来的に市場の拡大や産業の発展につながると思っています。
――バイオものづくりセンターの特徴や強みはどのような点にありますか。優位性や独自性についてもお聞かせください。
長森氏 小型の培養槽を多数並列で運用しており、0.25L規模であれば最大40本で条件検討を同時に進めることができます。また、最大90L規模までスケールアップできる設備を揃えています。

小型の培養装置が多数並ぶ
バイオものづくりにおいては培養だけでなく、その後の分離・精製も重要です。そこでバイオものづくりセンターでは分離・精製の検討を行う装置も整備しており、培養から分離・精製まで条件検討や試作支援をワンストップで行うことができます。こうした設備を一貫して備え、企業の条件検討からスケールアップまで支援できる施設は国内でも珍しいと思います。
培養や分離・精製の技術に精通した技術者が複数在籍していることも特徴です。設備そのものはお金をかければ導入できますが、それを使いこなし、開発を前に進めるためには経験やノウハウが必要になります。このように設備と人材の両方が揃っていることが、バイオものづくりセンターの強みです。
――新規参入企業がセンターを活用する場合の流れを教えてください。
長森氏 まずは人材育成から取り組んでいきます。セミナーを受講し、それらを学んだうえで開発支援を希望される企業には、技術指導の契約を結んでいただき、センターの設備を活用しながら実践的な支援を行います。実験計画法なども活用しながら、複数のパラメータを同時に最適化していくことで、短期間で最適条件を見つけられるようにしています。
私たちは、企業や技術者の負担を抑えながら検討できることを念頭に置いています。培養装置を1台導入するかどうかという程度のコストで利用できるため、まずは試してみるという形でスタートしやすくなっています。
加えて経験豊富な技術者が支援しますので、培養から分離・精製の検討まで効率的に進めることができます。そのため、基礎的な育種研究に取り組む段階から「最終的にどのような形で生産するのか」というイメージを持って開発を進めていただけることもメリットです。生産プロセスまで含めた全体像を理解しながら研究開発を進めることが、結果として効率的なバイオものづくりにつながるというのが、私たちが伝えたいメッセージです。
――5年後、10年後に目指すセンターの姿やビジョンについてお聞かせください。
長森氏 NEDOや大学の手厚い支援と理解があったからこそ活動を続けることができており、大変感謝しています。前身のバイオものづくりラボから数えて5年ほどが経ちますが、初期にセミナーへ参加された方々の中には、すでに自社で体制を整え、実際に開発を進めている企業も出てきています。独自に培養装置などを導入し、本格的にバイオものづくりへ取り組み始めているケースも増えてきました。
私たちのところで学んだり、設備を活用したりした経験が、無駄のない設備投資につながっている面もあります。その結果として、装置メーカーの立場から見れば、市場そのものが広がってきたと言えるかもしれません。人材育成を始めた当初からそこまで意識していたわけではありませんが、一つの成果として表れてきていると思います。
今後は、育成した人材や支援してきた企業が、その時間と経験を生かして実際の製品化までたどり着いてほしいと思っています。5年後、10年後に、ここで学んだ企業から新しい製品や事業が生まれ、バイオ由来の製品を世の中に送り出すところまで寄り添いながら支援することがこのセンターのビジョンです。
バイオ由来製品が当たり前になる未来へ
次に、NEDOバイオものづくりプロジェクトでプロジェクトマネージャーを務める木下氏に、これまでの事業の取り組みや成果について聞きました。
――バイオものづくりプロジェクトの概要・目的をあらためて教えてください。

木下氏 バイオものづくりは、微生物や植物などの生物を活用し、これまで化学プロセスで生産していた物質や、従来の方法では作ることが難しかった物質を生産する技術です。この技術は、資源に乏しい日本にとっても重要だと考えています。なぜなら石油などの化石資源に依存せずにものづくりができるため、炭素循環型社会の実現や持続的な経済成長、経済安全保障の観点からも意義があるからです。
ただし現状では、化学プロセスと比べてコスト面の課題があります。生物を使った生産では、細胞内で起きる反応が非常に複雑で制御が難しく、条件によって生産性が大きく変わることもあります。また、培養液の中にはさまざまな物質が含まれているため、目的物の分離・精製にも手間がかかります。
このように技術的なハードルが高いため、企業が単独で新規参入するには負担が重く、事業として成立させることが容易ではありません。そこで国が支援し、研究開発から事業化までを後押しするためにバイオものづくりプロジェクトを立ち上げました。
本プロジェクトでは、生物を活用した生産技術そのものの課題解決に加え、人材育成や実証・試作の場の整備など、企業がバイオものづくりに取り組むうえでのボトルネックを解消することを目指しています。長森先生がお話しされたような人材や設備の課題も含め、事業化に向けた環境づくりを進めています。
――これまで整備を進めてきたバイオものづくり研究開発拠点(バイオファウンドリ)の意義と、今回のバイオものづくりセンターの位置づけについて説明ください。
木下氏 設備や人材、ノウハウの不足によって企業が直面するハードルを下げ、バイオものづくりの事業化を後押しすることがバイオファウンドリの役割です。具体的には、企業が考える製品や技術のコンセプトを実際に試作できる場や人材育成セミナーを提供しています。どのような条件で培養すればよいのか、どのようなプロセスで生産や分離・精製を進めればよいのかといった開発支援も行っています。
本プロジェクトではGreen Earth Institute(千葉県茂原市)や横浜国立大学など全国に複数のバイオファウンドリを整備し、それぞれの強みを生かしながら企業支援を進めています。大別すると微生物を活用したものづくりを支援する拠点と、植物を活用したものづくりを支援する拠点があります。
その中でバイオものづくりセンターは、微生物を対象としていることに加え、人材育成に力を入れている点が特徴です。また、研究開発の初期段階にある企業を対象に、小規模から中規模の試作やプロセス開発を支援しています。
言わば、バイオものづくりに新規参入したい企業にとっての「駆け込み寺」のような存在です。何から始めればよいかわからない段階でも相談でき、人材育成や培養技術の習得、試作支援などを受けることができます。
さらに、個別の生産プロセスに特化した、より専門性の高い支援が必要な場合には、企業の課題に応じて適切な研究開発拠点を紹介する役割も果たしています。バイオものづくりへの入り口として、企業を支えながら次のステップへつなぐハブになっていると捉えています。
――これまでのプロジェクトでの実績・成果・社会実装事例などを教えてください。
木下氏 まずは人材育成や試作・開発支援の場を整備し、多くの企業の参入を後押ししてきたことが挙げられます。そして個別技術の成果も生まれています。例えば、培養条件を自動的に最適化・制御する技術です。発酵分野ではこれまで、熟練技術者が経験や知見をもとに培養条件を調整してきましたが、AIを活用して最適な条件を提案し、人の経験に頼っていた部分を高度化する成果も出てきています。培養液の粘度が高く、撹拌が難しい菌株に対応するためのバイオリアクターの開発・製品化といった事例もあります。
――今後、NEDOとしてバイオものづくりにどのように取り組み、どのような変化を業界・社会にもたらしたいですか?
木下氏 バイオファウンドリの整備や共通基盤技術の開発などの取り組みを通じて、企業のバイオものづくりを効率化し、「コストが高い」「参入のハードルが高い」といった不安を少しでも減らしたいと考えています。企業が安心してこの分野に参入し、事業として持続的に成長していける環境を整えること。それが、バイオものづくりプロジェクトで目指していることです。私たちの取り組みが貢献できることを願っています。
