NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。
【97】眠れる数学、産業の力に(2026年10月28日紙面掲載分)
構想力で勝機
中学・高校では全ての生徒が学ぶ数学も、大学に入ると文系はもちろん、理工系でも多くの学生は工学、生命科学、医学などの応用分野に進むため、数学そのものの新しい理論や考え方を探求するのは限られた学生に絞られるのが実情だ。
今日の産業を支えてきたのは工学などの応用分野である。その工学では、数学は現象を数式で表し、設計、製造、品質管理につなげる道具として活用されてきた。一方、道具として使われる数学は本質的には従来のものと変わらず、計算の量やスピードが競争の要素となっている。計算機とそれを操る人の数で決める規模の競争で日本が打ち勝つのは厳しい。新しい数学を技術開発に生かす構想力で勝機を見いだす必要がある。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のイノベーション戦略センターは、毎年度Innovation Outlookを発行し、国内外の市場・技術・政策動向を俯瞰(ふかん)し、日本が新たに取り組むべき「フロンティア領域」を提案している。6月の最新版で「数理科学による産業革新」を提案したのには、こうした背景がある。
構造読み取る
カギとなるのが、図形やつながりの特徴を捉える幾何学やトポロジーだ。材料開発のデータや製造設備の運転データなどから形や構造の特徴を読み取る。トポロジカルデータ解析によって、材料内部の微細な組織変化、流れの中の渦、設備異常の予兆を把握できれば、故障の早期発見、品質予測、設計最適化などを、より確かな根拠に基づいて進められる。
トポロジカルデータ解析の例(パーシステントホモロジー)
海外でも数学を産業に生かす取り組みが広がっている。米国の国防高等研究計画局(DARPA)は、AI(人工知能)も活用しながら数学研究の進展を加速するプログラムに取り組むなど、将来の科学技術基盤につながる研究に投資している。欧州では、ドイツのフラウンホーファー技術・経済数学研究所が、産業数学を掲げ、企業との共同研究を通じてシミュレーションや最適化を実装している。フランスの国立情報学自動制御研究所(Inria)も、情報科学と応用数学を軸に、大学、企業、スタートアップと連携し、デジタル技術の社会実装を進めている。
製造業とつなぐ
日本には、厚みのある数学研究と、国際競争力を有する製造業の双方がある。NEDOは今後、大学の数学研究シーズと企業ニーズを結ぶマッチングイベントなどを通じ、数学の社会実装を後押ししていく方針だ。「眠れる数学」をモノづくりの現場に生かすことこそ、日本発の新たな挑戦である。
NEDO
イノベーション戦略センター(TSC)
統括課 課長
幸本 和明(こうもと かずあき)
2002年NEDO入構。産学連携プロジェクトの企画運営の他、産業技術・科学技術イノベーションマネジメントの制度設計・評価などの業務に従事。2008年資源エネルギー庁出向。2023年科学技術振興機構(JST)出向。2025年4月から現職。2016年東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科博士後期課程単位取得満期退学。