NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。
【94】測れないもの量子で測る(2026年10月7日紙面掲載分)
社会実装近く
超スマート社会では、現実世界で収集した大量なデータをAI(人工知能)を活用して高付加価値の情報とすることで、経済発展と社会課題の解決を両立させた豊かな生活が可能となる。実現のカギを握るのが量子技術である。量子センシングは、その中でも社会実装に最も近い技術として期待される。
限界打ち破る
量子センシングでは原子や電子、光といった「量子」の性質をセンサーとして活用することで、従来センシングの限界を打ち破る感度、精度や測定範囲が達成される。「測れなかったものを測る」技術として、エネルギー、インフラ、製造、医療など、幅広い分野の産業競争力向上への貢献が期待できる。一方、高感度であることは環境ノイズにも敏感に反応してしまうことを意味する。従って、量子センシングの社会実装には高性能と堅牢(けんろう)性の両立という課題がある。
この課題を解決した例が、原子を利用する「光格子時計」だ。レーザーで冷却した多数の原子を光格子に個別に閉じ込めることで誤差の要因となる過度な感度を抑え、高精度な計測が可能となった。東京大学の香取秀俊教授が考案し、秒の基準である原子時計の100倍以上の精度を達成した。新しい秒の国際基準として期待されている。
ダイヤモンドNV結晶欠陥によるセンシング領域
磁場と温度同時
もう一つの例が、宝石として知られるダイヤモンドの中にNVと呼ばれる結晶欠陥を導入した量子センサーだ。ダイヤモンドNVは、超高感度でありながらゼロ~数テスラの磁場、マイナス273℃~プラス600℃の温度といった非常に広範囲の測定が可能である。さらに、磁場と温度の同時計測ができる特徴を持つ。東京科学大学などは、脳磁場計測や、電気自動車のバッテリーの状態診断技術の開発を進めている。また、量子科学技術研究開発機構などは、細胞内の計測ができるよう、ナノサイズのダイヤモンドを用いた超小型・局所センシングの開発を進めている。
これらを含め、材料の高品質化から堅牢・高信頼性なシステムまで、量子センシングを本格的に社会実装するための研究開発が内外で精力的に進められている。NEDOフロンティア事業では、量子センサーの社会実装を加速するゲームチェンジャーとなる技術の開発に向け、小型化・集積化や品質の均一化・安定供給などに関する研究開発に取り組む予定だ。
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NEDO
イノベーション戦略センター(TSC)
量子センシング領域 プログラムディレクター
大島 武(おおしま たけし)
1994年筑波大学大学院工学研究科修了(博士〈工学〉)、同年から日本原子力研究所(現量子科学技術研究開発機構)に所属。固体量子センシング、半導体材料・デバイスの放射線照射効果研究に従事。現在、同機構量子機能創製研究センター長。2026年5月から現職併任。