NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。
【93】デジタル感性 AIに価値(2026年9月30日紙面掲載分)
人間の役割
生成AI(人工知能)やAIエージェントの進展により、資料作成から設計、生産計画まで、産業活動に関する多くの知的業務をAIが担う時代が到来しつつある。では、人間に残された役割は何だろうか。それはAIが示した結果に価値や違和感を感じ取り、「もっとこうしたい」というイメージや意図を示すことではないだろうか。
AIによって個人に合わせた製品やサービスを大規模に提供できる時代には、人が何に価値を感じ、何を実現したいのかを深く捉え、それを設計や提供に反映できることが競争力の源泉となる。また、人と関わるAIやロボットが普及する中で、人の価値判断や意図を理解し、適切に寄り添うことも重要になる。
こうした価値判断や意図形成を支えるのが感性である。感性は単なる好き嫌いや感情ではない。製品に魅力を感じたり、「しっくりくる」と感じるのも感性の働きである。それは経験や学習で蓄積された知識をもとに、物事の価値や意味を素早く、直感的に見いだす仕組みである。また、感性は快・不快を通じて心身の健康を支えるとともに、他者との相互理解などの社会性を形成する基盤でもある。
「デジタル感性」の概念図
感性を予測
こうした感性の振る舞いをデジタル空間上で再現し、理解・予測・支援する技術がデジタル感性である。人間の感性をデジタルツインとしてモデル化することで、従来は言語化が難しかった感覚や直感を共有するとともに、人の価値判断を継続的かつ多面的に捉え、予測に活用できるようになる。
その実現には、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚や環境情報などの多様な入力情報と、人の行動や生理反応などの非言語反応から人間の感性や価値認識を推定する技術が必要となる。さらに、感性をAIが扱える内部表現としてモデル化するとともに、経験や文化的背景を反映できる仕組みの構築が重要となる。
社会につなぐ
デジタル感性が実現すれば、感性に響く製品・サービスの開発、判断支援や技能継承に加え、人に寄り添うAIやロボット、創造性を引き出す教育への応用も期待される。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)イノベーション戦略センターは、2026年に発行した「Innovation Outlook Ver. 1.0増補版」においてデジタル感性をフロンティア領域に位置付け、社会実装に向けた支援の検討を進めている。デジタル感性を、AI時代において人間の価値や意図を社会へつなぐ新たな基盤技術としたい。
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NEDO
イノベーション戦略センター(TSC)
デジタルユニット 上席研究員
昆陽 雅司(こんよう まさし)
2004年神戸大学大学院博士課程修了。慶応義塾大学理工学研究科助手、東北大学大学院情報科学研究科助教、准教授を経て、2024年から同研究科教授。ロボット、触覚技術、バーチャルリアリティーなどの研究に従事。2025年10月からNEDO TSCにクロスアポイントメントとして着任し、デジタル感性関連技術分野を担当。