NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。
【90】原子層物質で半導体開発(2026年9月9日紙面掲載分)
極薄素子を実現
AI(人工知能)技術の進展などにより、取り扱う情報量が爆発的に増大する中、情報処理を担うトランジスタに対し、より省電力でより高速処理を可能とすることがこれまで以上に求められている。今までは、トランジスタの大きさをより「微細化」する技術の進化で対応してきたが、困難になりつつある。他のアプローチによる対応が必要だ。
そこで、原子層物質をトランジスタのチャネル材料として利用する「原子層エレクトロニクス」が注目されている。利用される物質としては、二硫化モリブデンや二セレン化タングステンなどが代表的だ。
いずれも2次元層状構造結晶で厚さが1ナノメートル(ナノは10億分の1)以下という極限的な薄さでありながら、シリコンと同等の電気特性、さらにはシリコンにはない柔軟性などの特徴を有している。
また、原子層物質同士であれば、積層方向において、異種材料を自由に組み合わせられることが可能だ。
海外で開発先行
この原子層物質を用いた半導体のプロセス開発が、「モア ムーア」とも呼ばれるトランジスタ性能向上技術の今後の中心的課題だ。具体的には、表面原子の欠損を抑制できる高品質な大面積成長膜作製技術、低抵抗な電極コンタクト形成技術、ドーピング技術などだ。
解決すべき課題は少なくないが、2043年ごろに登場すると予想されているトランジスタからの採用に向けて、海外の最先端半導体メーカーを中心に開発が進んでいる。
原子層エレクトロニクスが提供するメリットの例
ヘテロ構造活用
原子層物質を用いた半導体の利点として、原子層物質同士を自由に組み合わせることができる。そこで、異なる物質によるヘテロ構造技術を活用した新しい設計指針が生み出されている。異なる特性を有する原子層材料の積層により、従来、実現困難だった電子構造や機能を採用することができる。量子デバイスやスピントロニクス、光電子融合デバイスなどで革新的な機能を持つデバイス創出を目指す「ビヨンド CMOS」に向け、原子層物質の半導体への利用は欠かせない技術基盤として国内外で期待されている。
情報化社会を支えるトランジスタの組成には、シリコンにとどまらない多様な材料が選択肢に挙がっており、新しい材料が採用されれば、周辺にさまざまな技術の進展とその産業化展開が期待される。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、アカデミアを中心としたアイデアや知見の豊富な蓄積で半導体の新材料開発に貢献していきたい。
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NEDO
イノベーション戦略センター(TSC)
デジタルユニット 上席主幹
安藤 淳(あんどう あつし)
1992年工業技術院電子技術総合研究所に任官。デバイス物理解析評価手法や原子層エレクトロニクスなどの開発、工技院・NEDO・産業技術総合研究所・AIST Solutionsにおける国プロ推進や産学連携などに従事。2025年から再びNEDOに出向中。博士(理学)。