Focus NEDO

NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

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【89】微生物 産業活用広がる(2026年9月2日紙面掲載分)

包括的解析へ

近年、農業における微生物活用の動きが急速に広がっている。微生物の研究開発は新たな微生物の発見を起点とするのが一般的である。しかしながら、今回の動きはこうした発見がきっかけではなく、微生物を産業として使いこなせる環境が整い始めたことにある。

従来、有用微生物の研究開発は膨大な試行錯誤の積み重ねだった。多くの微生物は培養が難しく、発見できてもどのような機能を有するのか十分に解明されなかった。そのため、仮に研究室で何らかの成果が得られても、実際の農地では期待した効果を発揮できず、事業化・産業化に至らない事例も少なくなかった。

こうした状況が、近年大きく変化している。その大きな要因は、マルチオミクス解析の進展である。遺伝子やたんぱく質など個々の生体分子を対象とする単一オミクス解析に対し、異なる生体分子データを包括的に調べるマルチオミクス解析では、土壌や植物周辺に存在する微生物群集について、機能や相互作用の概観を把握できるようになった。

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広がる微生物の活用

農薬依存減らす

これにより、これまでは特定の“有用菌”を発見し、利用することが主な目的だった微生物研究も、複数微生物が形成するコミュニティー全体を理解し、狙った機能を発揮するようコミュニティーを設計する考え方に進化している。その結果、農薬や化学肥料への依存を減らしながら作物生産性や品質向上を実現する手段として、微生物は新たな生産基盤になろうとしている。

微生物の産業利用における環境変化としてもう一つ見逃せないのは、微生物資材ビジネスの裾野が大きく広がり始めたことだ。微生物資材というと農薬・肥料メーカーの領域と思われがちだが、実際には遺伝子解析、データサイエンス、培養装置、センサー、散布技術など幅広い産業が関わる。今後、微生物機能の解明や最適な利用を支える分析技術やデータ活用の重要性がさらに高まればビジネス参入も増えると期待される。

競争力の転換点

日本は発酵産業で培ってきた知見など独自の強みを持つ。重要なのは、微生物のみならず、その周辺に広がる植物、土壌なども含めた分析・データ・装置産業などといった新たな産業エコシステムを捉えることである。微生物が主役になる時代は、日本の産業競争力の転換点となる可能性がある。その観点から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も注目し、技術動向調査を行っている。

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NEDO
イノベーション戦略センター
アグリ・フードテックユニット ユニット長
渡邉 美鈴(わたなべ みすず)
2004年東北大学大学院修了、同年農林水産省入省。食品安全に係るリスク管理業務に従事。2026年度から現職。農林水産・食品分野のエネルギー環境・産業技術全般を担当。

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