NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。
【51】CNF、社会実装へ着々(2025年11月26日紙面掲載分)
炭素循環に貢献
セルロースナノファイバー(CNF)は、木材や植物細胞壁の主要成分のセルロースをナノメートルサイズまで細かくほぐした繊維状の材料である。軽量高強度で吸水性に優れるなど、さまざまな特徴を持つ天然素材として注目されている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、CNFの社会実装の加速を目指し、①コストダウンを実現する量産化技術の確立 ②市場拡大を目指した利用技術開発 ③ナノ繊維材料としての安全性評価とライフサイクルアセスメント(LCA)手法の確立―を目指す「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発」プロジェクトを2020年度から2025年度まで進めてきた。

NEDO事業によるCNF市場拡大の姿
安定供給を確立
①の量産化技術開発の成果として、日本製紙は実用プラント設備を富士工場に設置し、サンプル提供を開始した。また、大王製紙は自社の抄紙工程を活用した年産2000トンのCNF複合樹脂の商用プラントを伊予三島工場に設置して稼働を開始した。いずれも、低コスト化を実現した安定的な供給体制の確立に至っている。
②の利用技術開発においては、詳細な機能発現メカニズム解明を実施し、必要性能を満たす製品開発をスピード感良く行ってきた結果、パナソニックは家電筐体(きょうたい)への適用を実現した。また、スピングルカンパニー(広島県府中市)はスニーカーソールへの適用を始めている。さらに、東ソーとバンドー化学は大型バギー用伝動ベルトへの適用を、スギノマシンはCNFの分散体や乾燥体の販売を始めた。
③の安全性評価では、肺への吸入暴露による発がん性に注力した評価を行った。炎症反応は認められるものの、現時点で発がん性などの懸念データは確認されていない。同じく③のライフサイクルアセスメントについて、リサイクルを考慮した評価や地域経済への影響の可視化など、先制的LCAの研究を進めており、国内外に積極的に情報発信している。
耐久性克服へ
さまざまな用途に使用されつつあるCNFであるが、衝撃に対する耐久性が低いことも分かってきた。NEDOではこれを克服するための新たな事業も推進している。また、技術開発事業と並行して実践的な人材育成講座も行ってきた。その活動は、産学官が連携して発足したナノセルロースジャパン(NCJ)に引き継がれ、CNF利用製品の裾野拡大につながっている。

NEDO
バイオ・材料部
バイオマテリアルユニット
バイオプロダクトチーム 専門調査員
松永 啓之(まつなが よしゆき)
名古屋工業大学大学院修士課程修了(物質工学専攻)。1988年東芝に入社。2020年からNEDOに入構して炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発事業の推進業務を担当。2023年10月から本事業のプロジェクトマネージャー、2023年度から先導研究プログラム事業の推進業務も担当。