NEDO Web Magazine

NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

img_nikkan_Page_Hedder_250806.png

【40】製法開発・原料開拓 SAFを安定供給(2025年9月10日紙面掲載分)

脱炭素の切り札

航空分野の脱炭素の取り組みの切り札として、石油以外の原料で造られるが燃料品質が石油由来のジェット燃料とほぼ同じであるため、従来の航空機でそのまま使える持続可能な航空燃料(SAF)の実用化が進んでいる。SAFは使用しても温室効果ガス(GHG)の排出増加につながらない点で共通しているが、原料ごとに製造手法は異なり、その原料もさまざまである。

例えば、廃食用油からは水素化処理によるHEFAプロセスで製造され、エタノールからはエチレンへの脱水と重合によるATJプロセスで製造される。前者は製造コストが比較的安価である観点から、後者は原料のエタノールが海外で広く流通している観点から実用化が先行することが期待されている。

img_nikkan_250910_Fig_SAF_2.png

欧州におけるSAFの製造技術予測(出典:Sky NRG A Market Outlook on SAF)

10%置き換え

日本政府は2030年には国内エアラインによる燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標を掲げており、これは172万キロリットルに相当する。石油元売り大手各社は、2030年代前半にかけてHEFAまたはATJの製法で年間数万から数十万キロリットル製造できる規模のプラントの建設計画を複数立案しており、目標を達成する方向で進んでいる。

2030年以降もSAFの需要増が予想される中、どれか一つの原料や製造手法に絞り込むのではなく、さまざまな製法、さまざまな原料で、供給量を積み上げていく必要性が世界的に共有されている。

選択肢増やす

こうした見通しを踏まえ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、HEFA、ATJの後に続く新たな製法の開発と原料開拓に取り組んでいる。例えば、HEFAプロセスの原料となる廃食用油の国内供給ポテンシャルが13万トンと試算されているため、廃食用油に代わる未利用の油脂原料の開拓に取り組んでいる。

また、世界的にバイオマス原料として最も賦存量が多いのは、草木などのセルロース系原料である。森林残渣(ざんさ)、農業残渣、製材残渣などのセルロース系原料からSAFを製造する方法としては、バイオマスをガス化し、FT(フィッシャー・トロプシュ)合成で製造する手法が有望視されており、NEDOは具体的な手法の開発を進めている。

その他、既存の石油精製施設で、植物由来のバイオ原油と石油とを共処理(コプロセッシング)することによってSAFを製造する技術開発にも取り組んでいる。コプロセッシングをSAF製造の選択肢に加えるとバイオ原油を製造する事業者の新規参入が期待され、新たなSAF製造サプライチェーン(供給網)の構築につながる可能性がある。

新たな選択肢の開発によりSAFの安定的な供給に貢献していきたい。

関連ページ


事業紹介:バイオジェット燃料生産技術開発事業

バイオマスLeader’s Vision(執筆者インタビュー記事)

分野紹介:バイオマス燃料開発分野

関連動画


NEDOが支える未来の技術 #1 循環型社会のカギになる「バイオマス燃料」

持続可能な航空燃料SAF

img_nikkan_250910_Profile_YanoTakahisa_1.png

NEDO
再生可能エネルギー部
バイオマスユニット
ユニット長
矢野 貴久(やの たかひさ)
1997年筑波大院修士修了、同年NEDO入構。研究評価、バイオテクノロジー、医療技術の研究マネジメントなどを経て現職。「持続可能な航空燃料(SAF)等の安定的・効率的な生産技術開発事業」および「木質バイオマス燃料等の安定的・効率的な供給・利用システム構築支援事業」のプロジェクトマネージャー兼務。

一覧に戻る
Top