NEDO Web Magazine

NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

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【37】エンジン熱効率 限界に挑む(2025年8月20日紙面掲載分)

HV脱炭素化

バッテリー電気自動車(BEV)の普及が停滞する中、エンジンとモーターを搭載するハイブリッド車(HV)の伸びが著しい。車両価格を抑えつつ燃費が良く、電池残量を気にせず使える利便性が選択される理由だ。しかし、従来の化石燃料を使ったままでは脱炭素はできない。そこで、二酸化炭素(CO2)フリーの合成燃料を使うエンジン技術が注目されている。日本が強みを持つエンジンやHV分野で脱炭素化の多様な解を用意すべく、「グリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いた燃料製造技術開発事業」の中で、e-fuel(CO2などを用いた燃料)とこれを利用するエンジンの開発に取り組んでいる。

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「エンジン性能ラボ試験」(左)と「エンジン試験装置例」(右)

燃費でカバー

e-fuelの価格をガソリン並みに下げることは困難だ。そこで同事業では、「燃料コストが2倍なら、燃費を2倍にして、消費者に負担をかけない」をコンセプトにエンジン開発に取り組んでいる。SIP/革新的燃焼技術(2014~2018年度)で達成した「最大熱効率50%越え」技術を基盤に、現行の乗用HV用ガソリンエンジン比でCO2半減、商用車用ディーゼルエンジンでは最高熱効率55%以上を目標に、2022年度から6年計画で取り組んでいる。

2024年度末までにHV向け発電用エンジンとして最高熱効率48.2%、CO2削減率39.1%を達成した。最終目標である50%削減に向け、エンジン最高/平均熱効率の追求とパワートレイン全体効率の追求(エンジン高効率領域の広域化+直結機構を含むHVシステムの最適化)を並行して推進する。

商用車向けディーゼルエンジンでは、燃料噴霧と燃焼室形状の最適化および独自の燃焼室コーティングなどにより最高熱効率50.9%を達成した。最終目標の達成には高膨張比下での冷却損失の低減が肝要であり、燃焼室コーティングの進化やオフセットノズルによる低貫徹力噴霧の適用、筒内流れも含めた燃焼室形状の最適化を推進する。

総力戦で臨む

BEVメーカーとして注目される中国BYDも、実はBEVとHVの販売台数がほぼ同じであり、HV向けエンジンの開発にも余念がない。既に熱効率は46%台を達成している。2025年5月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) が中国SAEと意見交換を行った際に示されたロードマップには、さらなる熱効率の改善に向け、日本が取り組む技術開発とほぼ同じ項目が並んでいた。競争のカギは細かな技術の積み上げとすり合わせだ。NEDOのプロジェクトは、主要な完成車メーカー(OEM)が参画する自動車用内燃機関技術研究組合の下に60を超えるアカデミアが加わるオールジャパン体制だ。経済産業省が掲げる「EVと内燃機関、両市場で勝つ」マルチパスウェイ戦略の実現に向け、総力を結集して臨みたい。

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NEDO
自動車・蓄電池部部長兼基盤ユニット長
古川 善規(ふるかわ よしのり)

1991年NEDO入構。経済産業省出向。NEDOバンコク事務所長、スマートコミュニティ部長、次世代電池・水素部長、ロボット・AI部長を経て現職。産業技術部門を中心に多様な業種を経験。海外勤務で触れた多様な価値観、外から日本を見た経験も生かし、自動車業界の変革支援を目指す。

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