
NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

【34】世界をリード オールジャパンの革新電池(2025年7月30日紙面掲載分)
「全固体」の先へ
次世代の車載用蓄電池として全固体リチウムイオン電池の実用化が目前に迫る中、NEDOではさらに先を見据え、資源制約が少ない安価な材料を用いた高性能電池を目指し、電気自動車用革新型蓄電池開発事業(RISING3)に取り組んでいる。同事業は2009年度に開始した革新型蓄電池先端科学基礎研究事業にルーツを持つ。以来、3期17年間にわたりわが国の自動車メーカーや蓄電池メーカー、電池・材料・解析に優れたアカデミアの研究者が組織の垣根を越えて協業してきた。これまでの多数の試みを経て、現在は「フッ化物電池」「亜鉛負極電池」に焦点を当てて研究開発を進めている。

RISING3内部シンポジウム(大学および企業研究者が議論)
特許出願で圧倒
自動車の電力消費は今後大幅な増加が見込まれる。電動化に加え、自動運転に必須のAI(人工知能)、さらには車載インフォティンメントによる娯楽も広がる。近未来の自動車には、エネルギー密度の高い蓄電池が不可欠だ。フッ化物電池はリチウムイオン電池(LiB)の理論容量を超える究極の電池であり、かつてはドイツや米国も研究開発に取り組んだが、技術的ハードルの高さ故に現在は日本のみが研究を続けている。その結果、日本からの国際特許出願数が約8割を占め、他国を圧倒的にリードしている。
亜鉛負極電池は、マンガンや亜鉛といった廉価な遷移金属を用いた水系の電池である。コストや安全の面で優れており、世界的に研究が活性化している。欧州では鉛の人体安全性が懸念されており、鉛を使わない亜鉛負極電池への期待は高い。
これらの電池はサプライチェーン(供給網)の観点からも日本が優位に立つ。日本にはフッ化物電池に欠かせないフッ素化合物の材料メーカーが多く、亜鉛負極電池に係るサプライヤーも存在する。実現すれば、供給リスクの低減と既存サプライヤーの活性化が期待される。
研究の「余白」
課題もある。フッ化物電池は作動温度の低温化、亜鉛負極電池は正極の高容量化をさらに進める必要があるが、学術研究フェーズからの出口は近い。NEDOの支援事業である以上、実用化を見据えた計画的な推進が必要だが、筆者は、研究者が創造性や独創性を発揮できるよう、あえて立ち止まったり回り道をする「余白」がないと真に革新的な物は生まれないと考えている。計画性と余白のバランスをどう取るか、さじ加減が試されるところだ。日本発の新たな電池が社会実装されている姿を想像しながら、日々研究者と向き合っている。2025年度はRISING3の最終年度である。集大成と言える成果がまとまるので注目してほしい。

NEDO
自動車・蓄電池部
革新蓄電池チーム長
齋藤 俊哉(さいとう としや)
北大院理学修了。博士(理学)。2021年に入構以来、「電気自動車用革新型蓄電池開発」に従事。現在、サブプロジェクトマネージャー。入構前は民間企業にて蓄電池や燃料電池の研究開発に携わっていた。物理と化学、産業と研究の交差点で苦悩する日々。