
NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

【30】アンモニア・水素で発電、燃焼安定性を追求(2025年7月2日紙面掲載分)
カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向け、利用時に二酸化炭素(CO2)を発生させないエネルギーである水素とアンモニアの大量生産に加え、大量利用も進める必要がある。その大本命が発電だが、水素やアンモニアの発電利用にはさまざまな技術的課題がある。NEDOはその解決に向けた取り組みを支援している。
30%混焼に成功
水素は天然ガスと比較して燃焼速度が速いため逆火が起こりやすい。また、火炎温度が高いため窒素酸化物(NOx)が発生しやすい。NEDOが補助している三菱重工業の高砂水素パーク(兵庫県高砂市)は世界初の設備であり、三菱重工は当該設備を利用してこれらの課題に取り組んだ。その結果、2023年11月に最新鋭の大型ガスタービン(JAC形)で世界初の水素30%混焼に成功した。
これにより、予混合燃焼方式による低NOxかつ安定燃焼を確認した。その後の実証で高い信頼性を確認したため、現在、関西電力は姫路第二発電所において、この技術を活用した30%水素混焼による発電実証を行っており、大阪・関西万博の会場にも供給されている。高砂水素パークでは、水素50%混焼、さらに水素専焼の技術開発も進めている。

図 高砂水素パーク水素製造・貯蔵設備およびGTCC実証発電設備
商用化が目前
一方、アンモニアは燃焼速度が遅いため保炎性に留意する必要がある。また、窒素を含むためNOxが発生しやすい。NEDOが補助しているJERA碧南火力発電所(愛知県碧南市)における技術開発では、JERAとIHIが100万キロワット級石炭火力の大型商用機で、アンモニア20%混焼に世界で初めて成功した。NOx発生を抑制する還元雰囲気中にてアンモニアを燃焼させる方式を開発し、燃焼環境性・プラント運用性・安全性など商用化に向けて求められる全ての観点で良好な結果を得られた。
加えて、IHIは世界初となる液体アンモニアを100%用いる2000キロワット級ガスタービンの燃焼技術の開発にも取り組んでおり、未燃アンモニアおよび非常に高い温室効果を持つ亜酸化窒素(N2O)の排出抑制に成功した。当該技術は、2026年度の商用運転開始を目指している。
横浜で成果報告
燃焼速度の違いを克服し、NOxの発生を抑えてこれらの成果を達成できたのは、理論的な考察に加え、実機で燃焼安定性の追求を粘り強く繰り返して最適条件を導き出したためである。そうした現場の努力も含め、世界の最先端を行くこれらの成果をどのように導いたのか、7月15~17日にパシフィコ横浜で開催する「NEDO水素・アンモニア成果報告会2025」で詳しく紹介する予定だ。是非参加いただきたい。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
水素・アンモニア部 統括課 主事
幾竹 海斗
長崎大院工学研究科化学・物質工学コース博士前期課程修了。
2024年NEDOに入構。旧スマートコミュニティ・エネルギーシステム部総括グループに配属後、同年7月にNEDO組織改編に伴い現職。