NEDO Web Magazine

NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

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【26】量子計算機の産業事例開発(2025年6月4日紙面掲載分)

本格利用見据え

量子コンピューターの驚異的な計算能力をいち早く産業利用する動きが始まっている。すぐに活用できる技術の産業化を加速し、来たるべき量子コンピューター本格利用時代の競争力強化につなげていくため、NEDOは2023年度から「量子・古典ハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業」(量子・古典事業)を推進している。

魅力を発信

量子・古典事業では、NEDOは企業や大学などと連携し、量子コンピューターが適用可能な顕在化している課題を選定し、仮説検証実験から実証実験まで段階的に支援する。政府機関自らがモデルケースの事例を積み上げ、国内企業に魅力を伝えることで量子コンピューターの産業利用の「起爆剤」とするのが量子・古典事業のコンセプトだ。

現在は「素材開発」「製造」「物流・交通」「ネットワーク」の四つの産業分野において、アプリケーション開発を進めている。その一例が、量子コンピューターを用いた物流倉庫内の搬送ロボット(AGV)の経路計算だ。これまでのコンピューターでは、AGVが500台を超えると計算が困難だった。量子・古典事業では、1000台規模のAGVの効率的な経路計算の実現を目指す。

NEDOのAI・ロボット部が中心となって進める量子コンピューターのユースケースに関する懸賞金事業は、量子コンピューターに初めて触れる機会を提供するなど、試行錯誤しながらユースケースを「発掘」し、裾野を広げながら多様かつ独創的なソリューションを創出することが狙いだ。

これに対し、量子・古典事業は、より具体的な産業応用を見据え、顕在化している課題に直結する実践的なユースケースの「開発」を進める。懸賞金事業で生み出されたユースケースを事業化につなげる可能性もあり、両事業は相補的な関係にある。

まずは探索から

量子コンピューターの社会実装を進めるには、産業利用の実例を潜在的な利用者に産業分野ごとに分かりやすく紹介し、今後必要となる国際標準の検討の素材とすることも重要だ。その第一歩として、NEDOは国内の公的機関として初めて、製造、創薬医療、金融、交通、エネルギーなどに分けて利活用例を56件集めた事例集を2025年2月に公開した。この事例集で量子コンピューターの産業利用で今何が起きているか、探索の扉を開けていただきたい。

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図 「量子コンピューター ユースケース事例集」の構成

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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
AI・ロボット部 量子ユニット
量子ユースケースチーム 主査
橋本 就吾(はしもと しゅうご)

筑波大院数理物質科学研究科物理学専攻博士前期課程修了。2012年NEDOに入構し、ナノテクノロジー・材料分野の技術戦略策定やAIチップに関する事業、報道関係の業務などを担当。24年より現職。「量子・古典ハイブリッド技術のサイバ-・フィジカル開発事業」のプロジェクト・マネージャー。

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