NEDO Web Magazine

NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

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【25】量子計算機 実業側と用途発掘(2025年5月28日紙面掲載分)

海外勢は速く

量子コンピューターにどのようなイメージをお持ちだろうか。筆者が数年前に突然量子コンピューターの担当となった時には「スーパーコンピューターよりすごそうな計算機」というイメージだったが、少し勉強すると「適応領域の極めて狭い計算機」という幻滅期に陥った。暗号解読や量子化学など、量子有用性が証明されている用途はごく一部で、しかも実用化はまだ先だという。

しかしその後、さまざまな研究現場に触れることで次第に「現状の用途は限定的だがスーパーコンピューターを丸ごと包含し、さらに新たな価値を付与する可能性を持つ計算機」へと変わるとともに、海外での取り組みの速さに焦りを感じるようになった。量子コンピューターで用いられる量子ビットは従来型計算機のビットを包含する概念であり、データを重ね合わせた上で求める解の出現確率を高め、飛躍的な計算量削減を可能にする。

この強みを生かす新たな用途発掘は、量子アルゴリズムに精通した量子専門家よりはむしろ実業側に依存する部分が大きい。各領域の専門家によるアイデアに対して量子専門家が量子アルゴリズムを適用する流れが生まれれば、爆発的な用途拡大につながると考えられる。海外では用途拡大に向けた各種産業で動きが広がっており、「うまくいったら総取り」という姿勢での挑戦が進んでいる。

課題幅広く

NEDOで公募中の懸賞金活用型プログラム「量子コンピュータを用いた社会問題ソリューション開発」事業は、まさにそのユースケース発掘を喫緊の課題としている。懸賞課題としては3領域・44課題をすでに公表しており、量子コンピューターの有望分野である、最適化(経路・配置・プロセスなど)やシミュレーション(材料化学・病態・災害など)、機械学習(画像・センサーデータなど)はもちろん、量子との相性が未知の分野(ゲーム・アニメなど)も含めた幅広い募集内容となっている。

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図 NEDO量子懸賞課題キーワード

懸賞金2億円

興味のある課題があれば量子技術者とのマッチングもNEDOに相談できる。課題解決に至る研究開発の優秀なアイデアには無償の量子コンピューター開発環境を提供する予定だ。優れた原理検証の成果には総額2億円を超える懸賞金を用意し、有益なユースケースを発掘する。日本での取り組みが遅れ、海外企業に総取りされるリスクを冒してはならない。

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「NEDO懸賞金活用型プログラム」第4弾 「NEDO Challenge, Quantum Computing “Solve Social Issues!”」 懸賞広告を開始します(2025年4月4日ニュースリリース)

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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
AI・ロボット部 量子ユニット
量子利用促進チーム 主査
岸本 太郎

2000年3月東大農卒。02年3月東大院農学生命科学研究科博士前期課程修了。同年4月三菱ウェルファーマ(現田辺三菱製薬)入社。主にタンパク質の研究に従事。13年3月東京医科歯科大(現東京科学大)院医歯学総合研究科にて博士号取得。23年11月からNEDOに出向。趣味はバイオリン。

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