
NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

【21】脱炭素 省エネ 日本勢、東南アに商機(2025年4月30日紙面掲載分)
化石燃料に依存
東南アジアは商機にあふれており、日系企業はこのチャンスをつかむ技術力・地力を十分に備えている。筆者が現地タイから強く伝えたいことの一つだ。
アジア地域は現在も化石燃料に依存しており、世界の二酸化炭素(CO2)排出量の約6割を占めている。タイでも利用量増加に加えて国内油田・ガス田の枯渇により現在は天然ガスの4割を輸入に頼っているなど、エネルギー調達の安定化・使用量削減は急務である。一方で、主要なエネルギー消費地である工業団地に目を向けると、脱炭素化・省エネルギーに対しての課題は非常に多い。
投資回収シビア
「コンプレッサーは非常に電力を使うので、音を聞いて調子が悪そうなら変えている」。これはタイ大手の工場設備担当にヒアリングした際のコメントだ。現地でエネルギーマネジメントを実践する工場はごく少数で、多くは「何をやってよいのか分からない」というのが現状だ。またタイでは投資回収が非常にシビアである。設備投資の回収期間を3.5年と定め、それ以上の投資はしないという現地企業もある。海外進出は難しいといわれるが、もともと脱炭素・省エネ技術に強い日系企業はこれら現地情勢を理解すれば、多くの商機が見えてくる。
日系企業により活躍の場を提供するべく、弊事務所では工業団地の脱炭素・省エネに向けた事業を2024年度から実施している。タイ現地工場に対してエネルギー利用状況の診断(脱炭素化診断)を行い、利用量削減ポテンシャルを可視化していく取り組みである。
加えて、診断により可視化された各工場の課題に対して、ソリューションを持つ日系企業を紹介する個別マッチングセミナーを開催し、25年3月の開催では約60社、150件以上の個別商談を実施した。精緻な脱炭素化の可視化サービスを提供する会社群が人気であり、何をするべきかを知りたいという強いニーズを表す結果となった。

日系企業との個別マッチング
支援基盤も続々
また当日は日本貿易振興機構(JETRO)、国際協力銀行(JBIC)、海外産業人材育成協会(AOTS)などの日系政府法人とも連携し、各法人の持つ支援スキームの紹介も実施した。現地では大使館を中心に政府系法人の連携強化が進められており、海外進出支援、ファイナンス、人材育成などをシームレスにサポートする新たな支援プラットフォームの立ち上げも進んでいる。
日系企業の技術はタイの潜在的なニーズとマッチしており、さらなるマーケット獲得は可能である。ぜひNEDO含め現地政府系機関のスキームを活用しつつ海外進出を検討いただきたい。
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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
バンコク事務所 次長
木内 茂(きうち しげる)
09年筑波大院(電子・物理工学)修士修了、同年NEDO入構。半導体・材料部門においてプロジェクト運営を経験。広報部・総務部において組織運営に従事後19年ミシガン大学ロススクールオブビジネス(MBA)修了。22年より現職、同地域への日系企業進出に向けた実証事業の運営を中心に業務を実施。