NEDO Web Magazine

NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

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【14】レベル4ロボタクシー 「論よりデータ」実感(2025年3月12日紙面掲載分)

発見多いCES

TSCの役割の1つに展示会やシンポジウムに参加し、見聞したエッセンスをNEDO内外に伝えるということがある。筆者のこれまでのNEDO在籍期間の半分以上は、コロナ禍でリアルなイベントへの参加がかなわなかったが、明けてからは積極的に参加している。数あるイベントの中でも、特に発見が多いのは1月初旬に米国で行われる世界最大級の先端技術展示会CESである。

CES2025で最もショックを受けたのは、レベル4自動運転ロボタクシー事業を展開するテック企業のブースだった。1番目立つところにあるディスプレーにこう書いてある。「ロボタクシーが3300万マイル走行して、平均的なドライバーが同様に走行した場合と比較すると、負傷事故を78%、98件減らしました」(米国では保険会社が地区ごとの交通事故発生率を公表しており、同社はそれを根拠に平均的ドライバーの事故件数を推計している)。

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「3300万マイル走行して、平均的な人間のドライバーと比較して、どれだけ負傷事故を減らしたでしょうか?」
という質問の後、この画面が表示される。(会場にて、筆者撮影)

「人間より安全」

その場で直感したが、これは監督当局や業界ではなく、一般市民に向けたメッセージだ。「負傷事故は28件発生しました」ではなく、「負傷事故を人間の運転よりも8割減らしました」と言っている。ものは言いようというが、受ける印象が全く違う。「ロボタクシーは(事故はゼロではないが)人間が運転するよりずっと安全」というイメージを社会に醸成していく狙いだろう。

いかに自動運転でも、走行距離を重ねていけば、いつか重大事故は起きる。その時「人間が運転していたなら、この何倍も起きていたはず」と市民の多くが受け止めるなら、社会は自動運転を受け入れていくのではないだろうか。

驚異のスピード

一方で恐れを感じたのは、そのスピード感だ。24年6月時点では走行2220万マイルと広報していたので、半年で1000万マイル以上の実績を積み増したことになる。サンフランシスコ市内では、数百台のロボタクシーが営業運転しており、スマートフォンにアプリをインストールすれば誰でも利用できる。今では運転席に人は乗っていない。論よりデータ、安全第一を堅守しつつ、どんどん実績を積み上げるというアプローチだ。

CESというイベントは、筆者の狭い専門に限っても毎回腰を抜かすような発見がある。だが、彼らの多くは日本までやってこない。ぜひ一度現地を訪れ、そこでの驚きを皆に伝えて欲しい。特に組織のトップに。

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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
イノベーション戦略センター(TSC)
デジタルイノベーションユニット 上席技術アナリスト
松下 努

1984年東工大院(現東京科学大学)修士課程修了。電子物理工学専攻。日産自動車と内外サプライヤーにて車体電装、車内LAN、先進運転支援システム(ADAS)などの開発に従事。2020年より現職。若い頃はカーガイでしたが、還暦前にロードバイクを購入して自転車ガイに転生しています。

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