NEDO Web Magazine

NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

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【13】高性能電力用半導体 脱炭素社会に普及必要(2025年3月5日紙面掲載分)

現代社会では、半導体がさまざまな分野で活躍している。中でも「電力用半導体」は、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)化実現に向けて重要度が高まっているが、技術課題も見えている。

電源に広く利用

電力用半導体は、高電圧(数百ボルトから数千ボルト以上)・大電流(数十アンペアから数千アンペア)を扱うスイッチの働きをする。スイッチのオン(導通)とオフ(非導通)の動作は、電力の変換/制御を行う「パワーエレクトロニクス」の中核技術であり、電池の充放電、誘導加熱(IH)、電気自動車(EV)/ハイブリッド車(HV)や電気鉄道などのモーター駆動、各種電気製品の電源などに広く使われている。

近年の風力・太陽光発電の大量導入やエネルギー利用の電力シフトの高まりから、電力の変換/制御能力の大幅な向上が求められており、電力用半導体の高性能化が強く期待されている。

その切り札として、シリコン(Si)に代わる半導体である炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などが注目されている。これらは、バンドギャップ、破壊電界強度がSiに比べて大きいなどの物性的特徴から、スイッチの高温動作化、高耐圧化、超低損失化など、Siを大きく上回る性能の実現が期待されている。

周辺技術を整備

しかし、物性値の優位性だけでは高電圧・大電流を扱うパワー回路は実現できない。技術階層全体を通しての周辺技術整備が必要である。例えば、不純物導入では、p型/n型の両方において、必要濃度の不純物をダメージなく導入する技術の開発が必要だが、現状では製造上の課題が残る。

スイッチの耐圧、動作速度、動作温度などの向上を生かす実装技術、接合・封止用材料の開発も必要である。また、スイッチ操作に必要な駆動回路を含むパワー回路などに能力不足があると、スイッチ性能は引き出せないので、部品や回路の技術向上も必要である。

すなわち、半導体以外の技術も含む全体の技術水準向上が必要である。これまでのNEDO事業などからも、周辺技術の不足に起因する課題が見えており、対策の重要性が指摘されている。

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図 電力の変換/制御に関する技術領域と必要とされる周辺技術
―電力の変換/制御能力の向上には周辺技術向上も必要―

横断的取り組み

2050年のカーボンニュートラル化実現には、高性能の電力用半導体を利用した応用製品が社会全体に広く普及することが必要である。応用製品の普及にも相応の時間を要することから、今後10~15年の技術開発が極めて重要である。半導体以外の業界が持つ技術にも期待が大きいので、業界横断的取り組みも期待される。

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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
イノベーション戦略センター(TSC)
デジタルイノベーションユニット 首席研究員
山口 浩

1994年3月 東京工業大学(現東京科学大)博士課程(電気・電子工学専攻)修了。博士(工学)。
東京工業大学、電子技術総合研究所、産業技術総合研究所で電力機器やパワーエレクトロニクス技術の研究開発に従事。2023年4月よりNEDO技術戦略研究センター 統括研究員。24年7月より現職。

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