
NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

【9】オープン&クローズ戦略 戦略策定に助言(2025年2月5日紙面掲載分)
協調と競争
「オープン&クローズ戦略」という言葉を聞いたことがあるだろうか。研究開発の成果を社会実装して、新たな市場を形成し、その中でシェアを獲得していくためには、単に研究開発を進めるだけでなく、その成果について、他社も自由に活用できる協調領域(オープン領域)と、自社で独占して活用する競争領域(クローズ領域)に分け、標準化や知的財産を活用していく必要がある。このオープン領域とクローズ領域の見極めや、標準化や知的財産を一体的に活用する戦略のことを「オープン&クローズ戦略」という。
成功例はQR
オープン&クローズ戦略の成功例としては、例えば、デンソーウェーブのQRコード(登録商標)に関する戦略が挙げられる。同社は、QRコードの基本仕様を国際標準化(オープン)するとともに、その読み取り技術を秘匿化(クローズ)した。QRコードが世界中に広がり、同社は読み取り機のシェアを獲得した。
NEDOの関わった事業では、筑波大学発のベンチャー企業であるサイバーダインの「ロボットスーツHAL」(登録商標)がある。同社は、基本原理を特許として保有(クローズ)しつつ、NEDOの生活支援ロボット実用化プロジェクトで、サービスロボットや医療用ロボットの安全性検証手法の研究開発やその国際標準化(オープン)に取り組んだ。
発行された国際標準は世界の規制当局の審査基準として採用され、同社の製品は、世界20カ国の規制当局から医療機器としての認証を取得し、国際展開に成功した。

図 オープン&クローズ戦略の成功例
新制度スタート
企業・大学などが共同で実施する研究開発について、オープン&クローズ戦略の策定・活用を促進するため、産業競争力強化法が改正され、2024年9月に特定新需要開拓事業活動計画の認定制度(OCEANプロジェクト)がスタートし、第一弾として9件の計画が認定を受けた。NEDOは、工業所有権情報・研修館(INPIT)などとともに、認定を受けた企業・大学などに対する助言を担っている。
NEDOによる助言などの活動を通じて、企業・大学などにオープン&クローズ戦略が広がり、市場形成やシェア獲得につながる研究開発成果が生み出されることを期待している。また、オープン&クローズ戦略を策定・活用する人材が育成されることも期待している。
関連ページ

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
イノベーション戦略センター(TSC)
標準化・知財ユニット ユニット長
玉木 宏治
2000年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年特許庁入庁。主に通信技術の特許審査に従事。その後、審査基準室、審判企画室などを経て2022年審査第四部インターフェイス技術担当室長。2024年4月より現職。