NEDO Web Magazine

NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

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【8】日本が輸出国に!? 天然水素に脚光(2025年1月29日紙面掲載分)

高コストを解消

使用時に二酸化炭素(CO2)を出さないエネルギー源として水素が期待されている。問題はその価格である。天然ガスなどの炭化水素からであれば安価に製造できるが、同時にCO2が生成する。水の電気分解ならCO2は発生しないが、電力価格の高い日本で製造すると高くつく。

こうした中、天然ガスならぬ天然水素がにわかに脚光を浴びている。オマーン、トルコ、フィリピン、米国など。白馬八方温泉でも天然水素が確認されている。フランスでは2023年にロレーヌ地域で天然水素鉱床が発見されたことを皮切りに研究が加速している。

こうして確認されているのはごく一部で、地中には数十億~数千兆トンもの莫大な水素が蓄えられているらしい。採掘コストは1キログラム当たり1ドル(1ノルマル立方メートル当たり約14円)程度と試算されており、日本の2050年の水素価格目標1ノルマル立方メートル20円を下回っている。既に欧米加豪の数々のスタートアップが鉱区取得、試錐を進めている。

天然水素を作る

天然水素生成メカニズムの中でも注目されているのがマントルの成分で知られるかんらん岩の蛇紋岩化反応である。40℃から300℃の高温中で蛇紋岩に変わる際、かんらん岩中の鉄イオンが水分子の酸素を抜き取り、水素分子が生成する。

これが地中を上昇し、通常ならそのまま大気に放出される。途中に緻密な岩石があれば、その下に貯留している可能性があるという。それを探すのが第一歩だ。

しかし、貯留層に巡りあえなかったらどうするか。かんらん岩があって地熱も十分なら、水を注入することで蛇紋岩化反応を起こせるかもしれない。砕くとか、他の岩石を投入すると水素分子の生成が促進されるかもしれない。

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図 貯留水素の回収と注水による水素生成促進

生成環境に強み

日本はプレート境界に位置し、複雑な地質構造を有している。このため、本来地中深くにあるかんらん岩を地表で見つけることさえできる。蛇紋岩は日本各地に分布し、中には蛇紋岩化が完結していないものもあるだろう。地熱や水も豊富で、蛇紋岩化反応に必要な条件がそろっていると言える。

私たちはこの日本の強みを最大限に生かし、さまざまな挑戦を後押ししたいと考えている。石油技術協会、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とともに天然水素ワークショップを2月14日に開催する。これを1つのきっかけとして探鉱や生成促進などの研究開発が進み、2050年には天然水素で日本がエネルギー輸出国になっていたら良いと思う。

関連イベント


天然水素ワークショップ(Natural Hydrogen Workshop in Japan)のご案内

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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
イノベーション戦略センター(TSC)
サステナブルエネルギーユニット ユニット長
原 重樹

1995年東大院にて博士(工学)を取得。産業技術総合研究所(産総研)での研究および研究マネジメントへの従事を経て、24年より現職。

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