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戦略的省エネルギー技術革新プログラム

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医薬品製造の常識を変える 連続生産設備「iFactory®」

株式会社 iFactory 、国立研究開発法人産業技術総合研究所

December, 2025

概要

INTRODUCTION

産業の各分野で省エネルギープロセスの開発が行われる中、医薬品に使用される機能性化学品の製造プロセスにおいても積極的な取り組みが行われています。こうした中、従来の「バッチ式製造法」から脱却し、連続生産を導入する試みとして、「iFactory®」の開発が進められました。「iFactory®」は、各製造工程を同一サイズ(1 辺 2.32 メートル)の立方体のモジュール(iCube)に収め、必要な工程を連結することで、「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ」連続生産できる多品目・少量のオンデマンド生産を可能にします。
NEDO プロジェクトでの 5 年にわたる研究開発の末、1 時間あたり 10kg の生産能力を持つ連続生産設備の実証に成功しました。従来のバッチ式製造と比較して、エネルギー消費量を約 8 割、廃棄物排出量を約 6 割削減するなど、医薬品製造の新たな選択肢として注目を集めています。

年表

TIMELINE

経緯
2015 年 フロー精密合成コンソーシアム(FlowST)設立
2017 年 FlowST 連続生産社会実装部会設置 連続生産設備「iFactory®」の検討開始
2018 年 NEDO プロジェクト「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」参画
2019 年 株式会社 iFactory 設立
2021 年 NEDO ステージゲート審査通過 掛川工場での実証フェーズへ移行
2022 年 日本オープンイノベーション大賞 経済産業大臣賞受賞
2023 年 iFactory®実証検証完了/NEDO プロジェクト終了 実用化・普及フェーズへ移行
2024 年 NEDO 省エネルギー技術開発賞 理事長賞受賞
2025 年 NEDO「経済安全保障重要技術育成プログラム」参画

開発への道

BEGINNING

医薬品製造を支えてきたバッチ方式の課題

図1 バッチ式製造(イメージ).jpg

1 バッチ式製造(イメージ)

医薬品は、有効成分である「原薬」と、それを服用しやすくするための「添加物」から構成されています。原薬の製造は、複数の有機化合物を段階的に反応させるプロセスで、現在主流となっているのがバッチ式生産です。原料をすべて装置に投入し、反応が終わるごとに装置を止めて内容物を取り出すこの工程を繰り返すのが、バッチ式製造の基本です。

医薬品には、「常に同じ品質であること」と「不具合発生時に原因を追跡できること」が強く求められます。工程ごとに区切って管理できるバッチ式生産は、品質検査やロット回収が容易であり、品質確保の観点から長年にわたり採用されてきました。

一方で、環境負荷という大きな課題も抱えていました。原薬を製造する大型の装置の動作には大きなエネルギーが必要であり、CO₂排出の主要因となります。また、大量の原料を一度に反応させるため反応ムラが生じやすく、基準を満たさない生成物は廃棄せざるを得ません。さらに、反応釜の洗浄液は焼却処理されるため、環境への負担は決して小さくありませんでした。

危機感から始まった挑戦

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写真1 株式会社iFactory 代表取締役 齊藤隆夫さん

こうした医薬品製造の現状に強い危機感を抱いていたのが、本プロジェクトを立ち上げた齊藤隆夫さんです。約40年にわたり、原薬の受託製造など医薬品製造の最前線に立ってきました。齊藤さんを連続生産の実現へと駆り立てたのは、以前社長を務めた株式会社高砂ケミカルでの経験でした。当時、原薬製造の工場では、採用難による人手不足が深刻化していました。

齊藤さん:バッチ式は工程ごとに装置の操作や原料の供給、反応釜の洗浄などの作業が発生し、最低でも十数人の人手が必要です。でも今は、地方の工場で若い人を採用しようとしてもなかなか来てくれません。毎年あと何人確保できるかという状況で、現場は限界に近づいていました。日本の労働人口は少子高齢化で減り続けるなかで、従来の製造体制を維持すること自体が難しくなっています。バッチ式のままでは、いずれ必要な薬が作れなくなるという危機感がありました。

さらに、国際的なコスト競争の面でも人件費の低い中国に勝てず、委託元企業からは「もう日本の企業には頼まない」という声が上がっていたといいます。

世界が注目する“連続化”の波

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写真2 本プロジェクトで開発された連続生産設備「iFactory

こうした課題を打開する鍵が、製造工程の「連続化」です。原料投入から製品完成までを一気通貫で行うことで、人の介在を最小限に抑え、製造コストを下げると共に生産の安定化と省エネルギーを同時に実現する新しい製造アプローチです。

2010年以降、米国では国家プロジェクトとして医薬品製造の連続化・自動化が進められ、医薬品規制調和国際会議(ICH)でも連続生産に関するガイドラインが策定されるなど、世界的な潮流となっていました。こうした流れのなかで、国内でも連続生産を実現したいと考えた齊藤さん。しかし、新たな設備の開発には莫大な費用と時間がかかるため、1社での実現は困難でした。

そこで国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と東京大学が立ち上げたフロー精密合成コンソーシアム(FlowST)のなかに、社会実装を担う部会を設立し、仲間集めを始めました。

齊藤さん:部会には約50社が集まっていましたが、実際に出資を募ると、なかなか「はい」と言ってくれる会社はいませんでした。そこで1社1社に電話して、「社長と会わせてください」とお願いしたんです。直接話しをするなかで、将来を見据えた課題意識を共有し、少しずつ『おもしろいことやっていますね』と賛同してくれる会社が出てきました。

齊藤さんの粘り強い説得の末、8社と1機関が集結し、NEDOが公募していた「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」に採択されることとなりました。

  

なるほど基礎知識

医薬品の有効成分である「原薬」は、いくつかの工程を経て製造されます。ここでは、原薬づくりの基本となる代表的な工程を紹介します。

図2 原薬製造の代表的な工程.jpg

原薬製造の代表的な工程

【反応】原料となる物質を組み合わせ、化学反応によって薬のもとになる成分をつくります。原薬製造の出発点となる工程です。

【晶析】液体の中に溶けている原薬成分を結晶として取り出します。結晶の形や大きさは、品質にも影響します。

【ろ過】できあがった結晶を液体と分ける工程(分離とも言う)。不要な液体を取り除き、原薬の結晶だけを集めます。

【乾燥】分離した結晶に残った水分や溶媒を取り除きます。保存性や安定性を高めるために重要です。

【充填】完成した原薬を決められた容器に詰めます。次の工程や出荷に備えるための最終段階です。

プロジェクトの突破口

BREAKTHROUGH

異分野連携 要は産総研

プロジェクトは20187月に始動しました。前半3年間はNEDOがプロジェクトの継続を承認するためのステージゲート審査通過を目標に、各操作単位のプロセス検証やユーザー要求仕様書(URS)の策定、原薬や精密化学品の製法開発に取り組みました。ステージゲート審査通過後の2年間は、各単位装置の製作と検証を行い、高砂ケミカル掛川工場に設備を集約して実証実験を実施しました。

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図2 プロジェクト体制図

プロジェクトの体制は、装置システム開発グループと製法開発グループで構成され、全体の統括は高砂ケミカル株式会社が担いました。化学、機械、IT、建設など異なる分野の企業8社と産総研が参画し、それぞれの専門性を生かした連携体制が構築されました。

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写真3 国立研究開発法人産業技術総合研究所

産総研は、企業の垣根を超え、集中して研究できる拠点(集中研)を整備し、オープンな共同開発環境を提供しました。さらに、掛川工場に展開する前段階として、実験室レベルでの単位操作プロセス構築と検証を支援しました。当時、産総研の責任者としてプロジェクトに参画した甲村長利さんは、こう振り返ります。

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写真4 国立研究開発法人産業技術総合研究所 触媒化学研究部門 副研究部門長 甲村長利さん
(当時:産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター)

甲村さん:産総研としては、医薬品を含む化学品製造のプロセスはすでに成熟した分野である一方、(従来の生産方式での)これ以上の省エネルギー化や省人化には限界があると感じていました。その打開策として連続生産は、研究機関としても正面から向き合うべき重要なテーマでした。FlowSTを通じて、民間企業が連続生産の社会実装に本気で取り組もうとしている動きを感じ、この流れを一過性で終わらせないために、産総研としてどのように支えられるか模索してきました。

齊藤さん:NEDOプロジェクトで一番大きかったのは、産総研と一緒に取り組めたことです。産総研という中立的な研究機関が腰を据えて取り組める場を用意してくれたことで、企業の立場や利害をいったん脇に置き、技術そのものに集中できました。役職は関係なく、1人の技術者として議論し、試し、失敗もできた。そのフラットな環境がなければ、ここまで踏み込んだ開発はできなかったと思います。

装置開発の肝 URS

前半3年間は、前述のステージゲート審査の通過を目標に、続生産システム全体の設計と原薬連続製造における一つの鍵となるサージ工程のプロトタイプの製作が行われました。

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写真5 株式会社iFactory 取締役CTO 鶴本穣治さん

開発の中心を担ったのが、鶴本穣治さん。長年、原薬のプロセス開発に携わってきた研究者です。

鶴本さんが最初に取り組んだのが、URSことユーザー要求仕様書(User Requirements Specification)の策定でした。URSとは、装置やシステムの開発チームに対し、「どのような機能を持つ装置が必要か」を明確に伝えるための仕様書です。

本プロジェクトでは、高砂ケミカル、コニカミノルタケミカル、田辺三菱製薬の3社が、実際に製造している3種類の化合物を同一設備で製造できることを目標としていました。そのため、各社で異なる製造プロセスを整理し、操作性やコストのバランスを考慮しながら、共通設備として成立する仕様へと落とし込む必要がありました。

鶴本さん:私は以前、製薬会社でプロセス開発に携わっていたため、その現場経験を生かしながら必要な要求を聞き出し、取りまとめていきました。たとえば鍋に例えると、カレーを作るのであれば深めの鍋が適していますし、餃子を焼くのであれば焦げつきにくいテフロン加工の鍋が望まれるように、目的によって求められる機能は変わります。装置づくりも同じで、「何を作りたいのか」に応じて、どのような機能が必要なのかを見極めることが重要です。そうした点を丁寧にヒアリングしつつ、自身の経験も踏まえながら検討を進めていきました。

連続化最大の難関「晶析」

本プログラムでは、これまでのバッチ製造では使用されてこなかった製造方法の開発にも取り組みました。鶴本さんは、それらが長時間の連続運転に耐えられるかどうかを、自ら検証していきました。

そのなかで、最大の壁となったのが「晶析」の工程でした。晶析とは、液体に溶けている原薬成分を、固体の結晶として取り出す重要なプロセスです。

図3 バッチ式晶析 (イメージ).jpg

図3 バッチ式晶析 (イメージ)

従来のバッチ式晶析では、原薬が溶けた溶液に、原薬成分が溶けにくい別の液体を徐々に加え、攪拌することで過飽和状態をつくり、結晶化させていました。しかしこの方法では、2種類の液体が均一に混ざるまでに時間がかかり、混合ムラが生じやすくなります。その結果、結晶の粒径がばらつきやすいという課題がありました。

鶴本さん:よく例に挙げるのが、コーヒーにクリームを入れる場面です。コーヒーにクリームをさっと注いで混ぜると、完全に均一になるまでには意外と時間がかかりますよね。混ぜ合わせるというのは、思っている以上に難しいものです。これは、バッチ式晶析で大きな反応釜に上から何百リットルもの液体を加える場合と似ています。表面では混ざっているように見えても、液体が流れた筋がしばらく残り、全体が均一になるまでには時間がかかることがあります。そうすると、結晶の大きさがそろわないんです。

結晶粒度のばらつきは、原薬の品質だけでなく、配管詰まりなどの運転トラブルにもつながります。連続生産において、結晶粒度の均一化は極めて重要な要件でした。

図4 テイラー渦流晶析装置 (イメージ).jpg

図4 テイラー渦流晶析装置(イメージ)

そこで着目したのが、電池材料の製造にも用いられていた「テイラー渦流」を利用した晶析装置でした。2 つの同心円筒のすき間 3 ミリの間に液体を流し込み、外側を固定した状態で内側の筒を1分あたり約 2000 回の高速回転をさせると筒の中で小さな渦巻きが数多く発生します。この「テイラー渦流」により、2つの液体を瞬時に均一に混ぜ合わせることで、粒径のそろった結晶を得ることができるのです。

写真6 テイラー渦流晶析装置.jpg

写真6 テイラー渦流晶析装置

しかし、実際に装置を動かしてみると、すぐに問題が発生しました。30分もしないうちに生成した結晶が装置内に詰まり、運転が停止してしまったのです。

どうすれば詰まることなく装置を動かし続けられるのか。鶴本さんは、温度、濃度、流速、混合比率、回転数といった条件を一つひとつ変えながら、地道な実験を繰り返しました。さらに装置メーカーと協力し、装置形状の改良も重ねました。3年に渡る試行錯誤の結果、8時間以上の長時間連続運転が可能なテイラー渦流晶析装置の設計と運転方法を完成させました。

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写真7 産総研で実験する鶴本さんたち

鶴本さん:正直、改良のアイデアがどんどん出てくるわけでもないので、途方に暮れていた頃もありました。でも、『そんなに簡単にできるのなら、すでに誰かがやっているでしょ』と思っていた。それができていないということは、やっぱり難しくて当然なんです。そこを乗り越えないと新たな技術や競争力のある技術にはならないので『やるしかないよね』という気持ちがありました。会社の人だけでなく、産総研も含めていろいろな仲間が一緒にやってくれたということも当然ながら支えになっていました。

改善の積み重ねで実現した全体最適

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写真8 サージキューブ

晶析以外の工程でも、数多くの課題がありました。前後工程の処理速度の差を吸収するサージキューブでは、ポンプ配置の最適化が求められました。ろ過装置では、連続運転時のろ過や結晶剥離の再現性を維持するための改良を重ね、乾燥装置ではバルブ詰まり対策や耐久性の向上に取り組みました。これらひとつひとつの改善の積み重ねが、連続生産システム全体の安定化につながっていきました。

応用によって生まれたイノベーション

このプロジェクトの根底にあったのは、「まったく新しい技術を一から生み出す」のではなく、「他業界で使われている技術も視野に入れ、既存の技術を医薬品製造に適した形に改良し、応用する」という考え方でした。晶析に限らず、ろ過では平板ろ過技術を連続化し、乾燥では製剤分野で使われてきた技術を原薬プロセスに応用するなど、既存技術を基盤とした開発が進められました。

鶴本さん:医薬品製造では品質管理や製造管理に関する厳格なルールがあり、これまでにない特殊な装置やプロセスを導入するには高いハードルがあります。新規性の高い装置は、設計や運用が難しく、現場で安定的に扱えるようになるまで時間がかかるうえ、規制当局の承認面でも負担が大きくなります。そのため、まったく新しい機械を一から作るのではなく、他分野ですでに実績のある技術を、医薬品分野のルールに合わせて丁寧に適用していくことが重要だと考えています。既存技術を生かすことで、品質の安定性を保ちながら、新しい価値を生み出すことができます。

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写真9 産総研で開発に取り組む鶴本さんとプロジェクトメンバー

実機へ進むための大きな関門

開発開始から3年を経た2021年、プロジェクトは実用化に向けた最初の関門であるNEDOのステージゲート審査を迎えます。連続生産システム全体の設計図を完成させ、サージキューブを製作することで審査に挑みました。サージキューブとは、処理時間が異なる前工程と次工程の間で流量を調整しつつ、中間生成物の合否判定を自動で行うiFactory®の要となる装置です。ステージゲート審査を無事通過したプロジェクトは、後半2年の実証フェーズへと進みました。

数字で示された連続化の成果

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写真10 株式会社高砂ケミカル 掛川工場

プロジェクト後半となる4年目以降は、高砂ケミカル掛川工場に建屋を建設、連携各社でURSに沿って製作された設備を設置し、実証実験を行いました。製作時は国際情勢の不安定化に伴う部材調達の遅延のような想定外の事態に直面し、実証実験でもスケールアップや長時間運転で初めて起こるトラブルが起こりましたが、一つ一つ対応しそれらを解決していきました。

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写真11 連続生産設備「iFactory®

その結果、7工程を連結し、3種類の異なる化合物について、1時間あたり10kgの生産速度で8時間以上の全自動連続生産を達成。得られた化合物はいずれも規格を満たし、バッチ式生産と同等の品質が確認されました。さらに、エネルギー消費量は8割以上、廃棄物排出量は6割以上の削減に成功し、5年間の本事業を完了したのです。

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写真12 連続生産で生成した化合物を持つ鶴本さん

鶴本さん:大型設備を使った研究開発は費用面から企業単独では難しい場合がありますが、NEDOのプロジェクトでは産総研や複数の企業が連携し、それぞれの強みを生かして取り組めた点が大きなメリットでした。また、NEDOという信頼性の高い枠組みのもと、展示会や共同プレスリリースなどを通じた情報発信でも支援を受け、新たな対話や取り組みにつながったことをありがたく感じています。

NEDOによる事業化に向けた後押し

プロジェクト成功の要因として、齊藤さんが重要だったと振り返るもう一つの要素が2019年に実現した株式会社iFactoryの設立です。NEDOでは、研究開発型スタートアップの起業および事業化支援も行っており、そのアドバイザーとなるのが「NEDO事業カタライザー」です。

齊藤さん:プロジェクトの成果をどう社会につなぐかを考えたとき、背中を押してくれたのが、NEDO事業カタライザーの津嶋辰郎さんでした。参加企業にはそれぞれ本業があり、連続生産の普及だけに専念するのは現実的ではない。だったら、この成果を引き受けて責任を持って進める受け皿をつくるしかない、という判断に至りました。それが、株式会社iFactoryを設立した一番の理由です。技術開発を支えるだけでなく、事業化までを見据えてカタライザーが伴走する。そうした仕組みも含めて、NEDOの支援は非常にありがたかったと感じています。 

プロジェクト開始当初、高砂ケミカルの社長であった齊藤さんは株式会社iFactoryを起業、開発に専心することで1時間あたり10kgの生産能力を持つ実証プラントで、固体取り扱いを含む製造プロセスの連続生産を世界に先駆けて実現しました。このプロジェクトは高く評価され、2023年度「NEDO省エネルギー技術開発賞」の最高位にあたる理事長賞を受賞しました。

開発のいま、そして未来

FOR THE FUTURE

導入検討進む 社会実装フェーズ

NEDOプロジェクト終了後の現在は、大手製薬会社を含む複数社と導入に向けた検討を進めています。装置を納入して終わりではなく、どのような製品をどの構成で作るのが最適かをクライアントと共に考えるコンサルティングも行っています。

鶴本さん:一定の成果が得られたことには安堵と喜びもありましたが、本当に目指しているのはその先です。連続生産の全自動技術を活用し、さまざまな装置が社会に広がることで、労働人口が減少する中でも、本当に必要な医薬品を自動で安定的に作り、誰もが使える世界を実現したいと考えています。新薬だけでなく、生活に根付いた薬も継続して届けられる仕組みづくりに、これからも取り組んでいきたいと思っています。 

連続生産を担う人材育成

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写真13 iFactoryの実験用小型スケール機を用いた研修風景

一方、産総研では、NEDOプロジェクトで開発した知見と成果をもとに、iFactoryの実験用小型スケール機を構築しました。この装置を活用し、製薬会社や装置メーカーを対象とした研修プログラムを実施しています。連続生産を理解した技術者を育成することで、装置の普及と社会実装を推進するねらいです。

甲村さん:NEDOプロジェクトで得た学びをもとに、企業が自ら連続生産を体験できるをつくりたいと考えました。プログラムでは、装置の分解、洗浄、組み立てなど、機械の原理を見て触って学び、操作を習得することを重視しています。連続生産はスイッチを押せば出てくると勘違いされやすいですが、内部で何が起こっているかを把握していないときちんと動かせません。装置を理解し、操作できる人材を育成することが社会実装につながると考えています。

医療インフラの強靱化へ 次の挑戦

さらに2025年からは、NEDOの「経済安全保障重要技術育成プログラム」の1テーマとして、災害などの有事を想定し、遠隔地からのリモート操作によってiPS細胞由来の人工血小板や低分子薬などを現地でリモート連続製造する技術の開発に取り組むことになりました。医療インフラの強靱化を目的とした挑戦です。

齊藤さん:アメリカではすでに、大型トラックにラボを載せて現場に運び、医療機関のすぐ近くで薬をつくる取り組みが始まっています。日本でも、災害や感染症のような有事の際に、必要な場所で必要な量だけ薬を製造できることを目指します。医療インフラを強靱化し、どこにいても薬が届く社会を実現したいです。

開発者の横顔

FACE

誰かがやらなければ、世界は変わらない

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株式会社iFactory 代表取締役 齊藤隆夫さん

製薬業界の常識を変えようと挑んできた齊藤さん。その視線は今、はるか海の向こう、「どんな場所でも薬がつくれる世界」を見据えています。将来的には、トラックや船舶にコンテナiFactoryを搭載し、遠隔操作で遠隔地や洋上でも薬を製造できる「移動型プラント」構想を描きます。

齊藤さん:NEDOプロジェクトによって、連続生産で自動化の実機がきちんと動くということを証明し、国内外に向けてアピールできました。最終的な目標は、船の上で薬をつくることです。広大な海を使えば、災害時やパンデミックのような緊急時でも、必要な薬を現場に届けられます。そんな動く工場を実現させることが長年の夢です。

齊藤さんが思い描く未来は、単なる技術の進化ではありません。少量多品目の新薬製造やリモート操作によるオンデマンド生産など、医薬品のつくり方を根本から変えることを目指します。

齊藤さん:新しいことをやるってうまくいかないことのほうが多いんです。でも、やってみないと何も始まらない。やりながら考えて、直して、また試して、その繰り返しです。医薬品製造の世界は自動化が進んでおらず、他の産業に比べてずいぶん遅れていると感じます。だからこそ、誰かがやらないと変わらない。私ひとりの力ではできないけれど、志を同じにする仲間と一緒なら、どんな難題も乗り越えられると信じています。

バイネームの仕事を大事にしたほうがいい

iFactory開発現場をまとめ、装置を動くシステムへと導いた鶴本さん。もともとは、新卒で入社した製薬会社の社員としてこのプロジェクトに参画しましたが、開始1年ほどでプロジェクトを離れざるを得なくなりました。鶴本さんは悩み抜いた末に会社を辞め、プロジェクトの中心を担う高砂ケミカルへ転職することを決断しました。連続生産の開発に身を投じた選択の背景には、「自分にしかできない仕事」に懸ける思いがありました。

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株式会社iFactory 取締役CTO 鶴本穣治さん

鶴本さん:これまで製薬会社で薬づくりに携わってきましたが、大切でやりがいのある仕事である一方、どこか先人たちが築いてきた技術の延長線上にいるという感覚が拭えませんでした。そんな中でこのプロジェクトに関わる機会をいただいたとき、これは自分たちの世代だからこそ挑戦でき、成し遂げる価値のある仕事だと強く感じました。
私はよくバイネームの仕事を大事にしたほうがいいと話しています。つまり、鶴本穣治だからこそできる仕事があるなら、それは大切にすべきだと思っています。このプロジェクトは、まさにその1つだと感じました。

粘り強い試行錯誤を支えたのは、やりきるという強い覚悟です。

鶴本さん:人生は短い。ぼーっとしていると『気づいたら棺桶の中』だと自分に言い聞かせています。せっかく生きているなら、これは自分がやった仕事だと胸を張って言えることに挑戦したい。でも、そういう仕事は簡単にはできず、十何年と時間がかかる。だからこそ、人生で取り組めるのは3つくらいが限界だと思っています。その数が限られているのなら、今やっていることには全力で向き合わなければならない。いつかやろうではなく、ちゃんと今やる。その積み重ねでしか、自分の仕事は残せないと思っています。

新しいものを見つけ、つくる

産総研に研究拠点を整備し、プロジェクトを支えた甲村さん。「連続生産」というテーマに挑んだ取り組みの根底には、研究者としてのゆるぎない信念がありました。

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国立研究開発法人産業技術総合研究所 触媒化学研究部門 副研究部門長 甲村長利さん
(当時:国立研究開発法人産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター)

甲村さん:長年研究者として有機合成化学の基礎研究をやってきました。研究者として自分の根幹にあるのは、とにかく新しいものをみつける、つくるというポリシー。そして、積み上げてきた研究を武器に、常に新しいことにチャレンジすることです。

今回のNEDOプロジェクトへの挑戦を支えたのは、多様な立場の仲間との連携でした。産学が一体となって、それぞれの知見を持ち寄って課題に挑んだことが、プロジェクトを前進させる原動力になったと語ります。

甲村さん:チームや仲間と取り組み、成功したときにそのよろこびを分かち合えることは1つのやりがいです。今回のテーマは、製薬会社、装置メーカー、研究機関など多くのプレーヤーが連携して初めて成り立つプロジェクトでした。1社だけでは到底実現できないスケールでの挑戦で、まさにNEDOプロジェクトにふさわしい事業だったと思います。産学が力を合わせることで、技術が社会実装へとつながっていく。助成事業のなかでも、理想的な連携の形を示せた好例になったのではないでしょうか。

  

NEDOの役割

戦略的省エネルギー技術革新プログラム
2012年度~2024年度

フロンティア部

NEDOでは経済成長と両立する持続可能な省エネルギーの実現を目指し、「省エネルギー技術戦略」で掲げる産業・民生(家庭・業務)・運輸部門等における重要技術を中心に、2030年に高い省エネ効果が見込まれる技術について、事業化までシームレスに技術開発の支援をおこないました。本事業においては期間中に延べ258テーマを採択し、今回紹介した「医薬品製造用iFactory®」もその中の1テーマとなります。 

そして本事業の取り組みは後継事業である「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」に引き継がれています。こうした取り組みを通して、NEDOは我が国における省エネルギー型経済社会の構築及び産業競争力の強化に向けて、今後も継続して寄与していきます。 

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