NEDO Web Magazine

バイオ・医療

「研究開発型スタートアップ支援事業」

美容と医療に革新をもたらす痛くない注射針「中空型マイクロニードル」

シンクランド株式会社

Sep.2023

INTRODUCTION 概要


シンクランド株式会社代表取締役の宮地邦男さんが、注射の痛みや恐怖を解消したいと考えるようになったのは、創業メンバーの一人が糖尿病患者であり、毎日インスリン注射を打つ姿を目にしていたことがきっかけでした。2016年に千葉大学の尾松孝茂教授との出会いから、光渦レーザーを利用した中空型マイクロニードルの製造に取り組むことになりました。中空型マイクロニードルは、痛みや恐怖を感じることなく、普通の注射針と同じように薬液を投与できる特徴があります。その開発を支えたのがNEDOプロジェクト「研究開発型スタートアップ支援事業」(2014年度~2023年度)です。NEDOの支援により、シンクランドは中空型マイクロニードルの製造技術を確立し、その結果、誕生したのが、美容用途で使われるノック式マイクロニードル「Seleia(セレイア)」です。この先さらに医療用途での実用化を目指して、現在も研究開発が進められています。

BIGINNING 開発への道


注射の痛みと恐怖感の解消を目指して

子どもが病院に行くのを嫌がる大きな理由の一つが注射への恐怖です。大人になっても、注射で針を刺される際の痛みは、誰もが避けたいと思っていることでしょう。

「創業メンバーの一人が糖尿病患者で、毎日インスリン注射をお腹に打っている様子を見て衝撃を受けました。これは大変そうだ、もっと楽にできないか──」そう話してくれたのは、シンクランド代表取締役の宮地邦男さん。

同僚が毎日ランセット針を指に刺して採血し、センサーで血糖値の計測を行い、その値に応じてインスリンの量を決めて、お腹に注射を打つ様子を見ていた宮地さんは、なんとかして注射の痛みや負担を和らげてあげたいと決意しました。ちょうどその頃、宮地さんは千葉大学で光渦レーザー技術を研究していた尾松孝茂教授と出会い、光渦レーザーを使えば生分解性ポリマーで「マイクロニードル」を作れるのではないかという着想を得ました。光渦レーザーとは、光が螺旋状に進む特殊なレーザーです。マイクロニードルとは、その名の通り極小の針で、太さがマイクロメートルオーダーのものを指します。

「尾松教授は、金属に光渦レーザーを当てて溶かし中心部を引き抜くことで、極小の注射針を作っていましたが、金属製では皮膚に刺した後折れたりすると体の中に残ってしまいます。そこで、すでに実用化され、体の中で自然に分解され抜糸しなくてもすむ手術用糸に使われていた、生分解性ポリマーを使って極小の針を作ればいいのではないかと考えました」(宮地さん)

目指したのは穴が開いた注射針のような中空型マイクロニードル

当時、マイクロニードルの開発を行っていた企業はありましたが、宮地さんが目指したマイクロニードルは中空型と呼ばれる特別なマイクロニードルです。マイクロニードルは、その形状や使い方によって次の4種類に大別できます(図1)。

 ・ソリッド型
 ・コート型
 ・溶解型
 ・中空型

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図1 マイクロニードルの種類とその使用法。図中の黄色と赤点が薬液を表している(資料提供:シンクランド株式会社 「Biomedicine & Pharmacotherapy 109 (2019) 1249-1259, Fig. 3」を一部改変)

ソリッド型は極小のトゲのようなもので、皮膚に穴を開けるだけの機能しかありません。ソリッド型で穴を開けた後で、薬液を染み込ませた基材を上から押し当てて、薬液を皮膚内に浸透させます。コート型は、ソリッド型の表面に薬液をコーティングしたもので、刺さった部分の薬液が溶け出して皮膚内に浸透します。溶解型はマイクロニードル自体が薬液を混ぜた生体内で溶解する材料でできていて、刺さったニードル部分が溶けて皮膚内に浸透する仕組みです。コート型では、表面にしか薬液がコーティングされていないので、浸透できる薬液の量がとても少ないという欠点がありますが、溶解型ではマイクロニードル全体が薬液を混ぜた生体内で溶解する材料なので、刺さったニードル部分が溶けて浸透するため薬液の量を増やすことができます。

しかし、これらの3つの方法には、薬液量のコントロールが難しく、浸透できる量もわずかだという欠点があります。それに対し、シンクランドが開発した中空型は、マイクロニードルの先端に穴が開いており、普通の注射針と同じように薬液を投与できることが特徴です。中空型マイクロニードルなら、理論上は自由に投与する薬液量を制御できます。薬液量を制御できることが、中空型マイクロニードルのメリットですが、穴を開けるため強度が弱くなることや、製造が難しいというデメリットもあり、これまで量産に成功した事例はありませんでした。しかし、そのメリットを魅力に感じた宮地さんは、世界でまだ誰も成功していなかった中空型マイクロニードルの量産に挑戦することにしたのです。

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図2 シンクランドが取り組む中空型(ホロー)マイクロニードルの3つの特徴(資料提供:シンクランド株式会社)

BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口


長さ100マイクロメートルの針の開発を目指して続けた試行錯誤

シンクランドは2016年から生分解性ポリマーを利用したマイクロニードルの開発を開始しましたが、創業間もないスタートアップであり、開発に必要な装置などを購入する資金が潤沢ではありませんでした。そこで宮地さんは、NEDOプロジェクト「研究開発型スタートアップ支援事業」の実施項目の一つである「シード期の研究開発型スタートアップに対する事業化支援」への応募を決意し、見事に採択されました。

「2016年からのNEDOの支援でマイクロニードルの開発に必要なデジタルマイクロスコープなどの機材を購入することができ、大変助かりました。金銭的な支援だけでなく、TCP(NEDO Technology Commercialization Program)という、技術を基に事業拡大を目指す起業家を応援するというプログラムでシリコンバレー視察に誘っていただくなど、助成期間中だけでなく、助成期間終了後にも何かと気に掛けていただいて、アジア最大規模のオープンイノベーションカンファレンスであるInnovation Leaders Summit (ILS)の推薦企業にも選出していただきました。ILSでプレゼンテーションやピッチもさせていただき、さまざまな方と出会えたのも大きな財産です」と、宮地さんは当時を振り返ります。

このとき採択されたテーマの名称は「光渦レーザーを利用した、インスリン注入用マイクロニードルの事業化」で、樹脂(生分解性ポリマー)で作られた成形土台から、長さ100マイクロメートルの中空型マイクロニードルを実現することが目標の一つとして挙げられていました。

しかし、この長さ100マイクロメートルを実現するのが大変だったと、宮地さん。

「なかなか長くすることができなくて、かなり試行錯誤しました。事業期間内に達成できないのではないかと焦るほどで、事業期間終了の数か月前にようやく長さ100マイクロメートルを達成でき、ほっと胸をなで下ろしました」(宮地さん)

この取組により、シンクランドの中空型マイクロニードルは基礎的な研究が完了し、事業化への目処が見えてきました。しかし、実際に製品を量産し、市場に投入するには、解決しなくてはならない問題がいくつもあり、シンクランド単独ではそのハードルを乗り越えるのは困難でした。

そこで救いの手となったのが、NEDOプロジェクト「研究開発型スタートアップ支援事業」の実施項目の一つである「企業間連携スタートアップに対する事業化支援」です。これは、一社単独ではなく複数の企業と連携して事業を進めるスタートアップに対する事業化支援で、次のステップに進むために事業会社のパートナーを探していたシンクランドは、こちらにも応募し、2018年度からの支援対象に選ばれました。シンクランドは、シミックCMOを含む3社と共同研究契約を締結し、シンクランドが開発した中空型マイクロニードルを用いた次世代型DDSの実現を目指すことになりました。採択されたテーマの名称は「ホローマイクロニードルによる次世代型医療用DDSの実用化開発」です。DDSとは、Drug Delivery Systemの略で、治療効果の向上や副作用の軽減を図ることを目的として、薬物を体内の特定の部位に送り届ける送達技術のことです。

皮膚は、角質層や基底層などから構成されている表皮と、その下の真皮に分けることができます。中空型マイクロニードルを医療用途で利用するには、マイクロニードルの長さを最低でも400マイクロメートル以上にし、真皮まで針先を到達させる必要があります。シンクランドは、当初の2年間の研究で長さ100マイクロメートルを達成しましたが、医療用途で使うためには最低でも4倍の長さにする必要があったのです。

この課題を解決するための中空型マイクロニードルの実用化に向けた開発において、中心的な役割を果たしたのが、マイクロニードル事業部 副部長の橋本義浩さんです。橋本さんは、大手セメントメーカーで、新規事業として光通信用デバイスなどの研究を行っていましたが、実家の家業の関係で退職し、一時実家の金型工場で金型の製作に携わっていました。しかし、前職の先輩から、光の技術を活用して痛くない注射針を作ろうとしている会社があるという話を聞き、世の中に貢献するという方針に共感して、2019年にシンクランドに入社しました。

当初は光渦レーザーを使って、マイクロニードルを形成していましたが、橋本さんがさらなる長さを求めて試行錯誤をした結果、光渦レーザーを使った技術開発で得られたノウハウを活用しつつ、複合的な処理でマイクロニードルを形成することで、0.8ミリメートル(800マイクロメートル)の長さを出すことに成功しました。しかし、今度はその高くなった針先部分に正確に穴を開けるという新たな課題が生まれました。

「針を長くすることはなんとかできましたが、薬液を通すための穴を開けないと針として使い物になりません。ただ先端が極小すぎて穴を上手く開ける手段がなかなか見つからなかったのですが、我々は光の技術に長けていますので、レーザーを上手く使って微細な穴を針先部分に正確に開けることに成功しました。現在では、より長い1.5ミリメートル(1500マイクロメートル)の形成にチャレンジしています」(橋本さん)。

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写真1 極小の針(100マイクロメートル程度)に、さらに微細な貫通孔を形成した「痛くない注射針」中空型マイクロニードル(資料提供:シンクランド株式会社)

FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来


実用化への第一歩、世界初のノック式中空型マイクロニードル化粧品

シンクランドは、2018年度の「企業間連携スタートアップに対する事業化支援」に採択され、次世代型医療用DDSの実用化開発を目指して人工皮膚を用いた検証などを進め、一定の成果を得ることができたことを踏まえ、美容向けマイクロニードルを最初のステップとして実用化する計画で進めることにしました。

マイクロニードルの実用化におけるキーマンとなったのが、マイクロニードル事業部 部長の木村泰治さんです。木村さんの前職は製薬会社社員で、新薬の研究開発に関する知見を生かして、美容向けマイクロニードルの開発に取り組みました。その結果誕生したのが、ノック式中空型マイクロニードル化粧品「Seleia」です(写真2)。

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写真2 ノック式中空型マイクロニードル化粧品「Seleia」(資料提供:シンクランド株式会社)

「Seleia」は2022年4月に販売が開始された世界初のノック式中空型マイクロニードル化粧品で、肌のシワに着目し、肌の健康を守ることを目的として開発されました。いわゆるアンチエイジング製品の一つです。

医療用中空型マイクロニードルと美容用中空型マイクロニードルの最大の違いは、その長さにあります。医療用途では血管の通る真皮まで針先が到達する必要があるため、最低でも400マイクロメートルの長さが必要になります。これとは逆に、美容用途では皮膚の表面にある厚さ20マイクロメートルほどの角質層を超えてはならないという規定があります。そのため「Seleia」は針先をあえて尖らせず、コニーデ型という火山の山頂のような形状にすることで、針先が必要以上に深く刺さらなくするように工夫が行われています。「Seleia」に使われているのは長さ200マイクロメートルのマイクロニードルですが、針先がコニーデ型になっているため、皮膚に刺さるのは20マイクロメートル以下で、角質層を越えない美容用途に適合するように設計されています(図3)。

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図3 美容用途と医療用途の中空型マイクロニードル(資料提供:シンクランド株式会社)

「Seleia」は、化粧品とはいえマイクロニードルを使った製品ですので、その販売に際して、シンクランドは慎重に準備を進めてきました。

「2001年以前は化粧品も厚生省(現・厚生労働省)による事前承認、許可制等の厳しい規制がありましたが、2001年以降規制緩和が行われ、化粧品を製造・販売する企業がしっかり責任を持って化粧品を出してくださいということになりました。市場に出すにあたっては、私たちとしては安全性をしっかり示すことが大切だと考え、ヒトの皮膚に蛍光色素がどこまで入るかという試験を行い、角質層を越えて中に入っていかないことを確認し、厳しく安全性を検証し品質を確認した上で販売を開始しました」(木村さん)

「Seleia」の主なターゲットは肌のシワに悩んでいる30~70代で、年間で1万5000本以上を販売するヒット商品となり、ユーザーからの評価も非常に高いとのことです。しかし、まだまだ十分に認知されているとはいえないので、今後はマイクロニードル化粧品のさらなる認知拡大が課題だと木村さんは語りました。

次世代医療用DDSの開発・実用化に向けて

しかし、シンクランドの目標は、やはり当初の計画通り、医療用途でマイクロニードルを実用化し、注射の痛みや恐怖から人々を解放することにあります。

「薬液の投与には、筋肉内投与や経口投与などがありますが、その選択肢を増やすということが大切だと思います。その一つがマイクロニードルによる経皮投与です。経皮投与であれば、注射の痛みを無くすことはもとより、静脈注射や点滴のようにあらかじめ血管を確保する必要もなく、また筋肉内注射や皮下注射のように血管や神経を傷つける可能性もないので、自宅でのセルフケアも楽に行えるようになります。そんな時代が早く来ればいいなと思っています」(木村さん)

医療用マイクロニードルの実用化には、まだまだハードルが多く、いつ実用化されるかを予測することは難しいと木村さんは言います。

「難しさの一つは、我々が作っているのは、まだ世の中に出たことがない製品だということです。普通の注射針なら、厚生労働省も、このステップを踏んでくださいねと言ってくれますが、医療用マイクロニードルはまだ世の中にない製品なので、承認の過程も、これはなんですか?というところから始まります。市場にいつ出るのかを予測するのは難しいのですが、2026年の終わりぐらいまでには臨床試験にたどり着きたいという目標を持っています」(木村さん)

「私はもう極端に言えば、自分の代ではできなくてもいいと言ってはいますが、ここまで来たら本当に最短の道を進んで、早く形にして世に出していきたいというのが本音です。それが我々のメンバーのモチベーションになり、実績になり、私の孫かひ孫くらいの代の子どもたちが、注射で泣かないような世の中になってくれればよいと思っています」(宮地さん)

開発者の横顔


さまざまな人との関わり合いを通じて実現した事業です

宮地邦男さんは、金沢大学理学部化学科(現在は理工学域に改組)を卒業後、大手セメントメーカーに入社し、射出成形を研究開発しました。その後、光電子事業部に移籍して光通信関係事業に従事。2014年にシンクランドを創業し、代表取締役に就任しました。

子どもの頃は、とにかくやんちゃだったという宮地さん。しかし、その当時から宮地さんは人付き合いが得意で、みんなが敬遠している人やいじめられている子にも声をかけたりしていたそうです。それが自分のルーツの一つになっているのかもしれないと宮地さんは言います。

「社員にも言っているのですが、私には技術もないし、持っているものは何もないのですが、一つあるとしたら、それは人の縁だろうと思います。この会社を始めたときも3年間で名刺を4000枚くらい集めました。研究会後の飲み会は最後まで必ずいるようにして全員と名刺を交換しました」

何も持たない人間でも、縁をつなぐことでビジネスは作れる。本事業でのこれまでの成果も、そんな宮地社長の信条がつないだものかもしれません。

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シンクランド株式会社
代表取締役
宮地 邦男 さん

医療でも美容でも皆さんに貢献していきたい

木村泰治さんは、長年、製薬会社で新薬の研究開発に従事してきました。その経験を生かし、シンクランドでは、医療用マイクロニードルの良さをアピールするための薬理実験を計画・実施し、美容向けの製品開発にも携わっています。

木村さんは、大学に入るときに進路で悩んだそうです。

「医療の道を目指したいなと思ったのですけど、血を見るのは嫌だから医者じゃないよなと思って薬学部に入り、その後、製薬会社に入社しました。製薬会社では新薬の研究開発に従事しましたが、患者さんの顔があまり見えない。もっと臨床に近いようなところで仕事をしたいなと思いました。マイクロニードルはまさに医療機器で、もっと患者さんに近づけるかなと考えています」

今は、医療に加え、美容でも貢献していきたいとのことです。

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シンクランド株式会社
マイクロニードル事業部 部長
木村 泰治 さん

小さい頃から手先が器用でした

橋本義浩さんは、大手セメント会社で、新規事業として光通信用デバイスなどの研究を行った後、一時実家の金型工場で金型の製作に携わっていましたが、社の方針に共感して、2019年にシンクランドに入社。中空型マイクロニードルをより長くしたり、先端をあえて鈍くしたりするなど、中空型マイクロニードルの研究開発を一手に引き受けてきました。

橋本さんは、小さい頃から手先が器用で、ものづくりが得意だったそうです。

「振り返りますと、小さい頃から手先が器用で、工作とかは結構好きでやっていたんですね。 社会人になって、光技術の業界に入ると、光ファイバーという微細なものを扱ったりしました。この会社でも微細な構造物であるマイクロニードルを扱っていることを考えると、私に向いている仕事なのかなと思います」

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シンクランド株式会社
マイクロニードル事業部 副部長
橋本 義浩 さん

なるほど基礎知識


痛みを感じない針の秘密

マイクロニードルはなぜ刺しても痛みを感じないのでしょうか? それは針の長さと太さの両方に関係があります。

神経は皮膚の深部を通っています。そのため、針を短くすることで、痛覚を感じる部分である痛点にまで針が到達しなくなるため、ほとんど痛みとして感じられません。

皮膚は表面から順に表皮、真皮、皮下組織という3重構造になっていて、約0.6~3.0ミリメートルの厚さがあります。このうち、表皮に当たる部分は約0.2ミリメートル、真皮は約1.8ミリメートルで、痛点は真皮の深い部分に多く集まっています(図4)。このため、真皮の深い部分にまで一定以上の刺激が届かないと、痛みとして認識されないのです。

また針の太さも痛みに関係があります。例えば、蚊に刺されても痛くないのは、針がとても細いからだと言われています。蚊の針の太さは60~80マイクロメートルほどです。痛点と呼ばれてはいますが、実際には痛みを脳に伝えるための神経ですから、血管のように毛細状の線になって基底層の中に広がっています。針が細ければ、たとえ基底層まで針が届いたとしても、痛点に当たる確率が減ります。針を刺しても痛みを感じないようにするには、細く短くするのがいいというわけです。しかし、これを注射に応用しようと考えた場合、細く短くし過ぎると、必要な薬液を投与できなくなってしまいます。マイクロニードルを痛くない注射針として実用化するには、長さと太さのバランスが重要なのです。

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図4 マイクロニードル使用時の肌断面図(資料提供:シンクランド株式会社)

NEDOの役割

「研究開発型スタートアップ支援事業」
2014年度~2023年度

イノベーション推進部

NEDOは研究開発型スタートアップの創出、育成を図り、経済活性化、新規産業・雇用の創出につなげることを目指しています。そのため、本事業では研究開発型スタートアップに対して事業化のための支援を実施しています。具体的には、研究開発に対する資金面の支援のみならず、ビジネスマッチングのためのプレゼンテーションや展示の機会の提供、カタライザによる助言など、幅広い支援メニューにより研究開発型スタートアップの成長を後押ししています。

NEDO担当者の声(川原信広さん)

私も子どもの頃は痛い注射を打たれるのは、やはり嫌なものでした。痛くない注射針を実現するというシンクランドの提案は画期的で、社会に大きなインパクトを与えるだろうという期待を持ちました。

スタートアップが成長するための要素として、資金、また広報・アピールが必要です。そしてある程度規模が大きくなってきたら人材確保。この3つが重要だと考えています。NEDOからは資金面での支援とアドバイスが主体で、助成事業に提案していただいた目標をしっかりと完遂いただく、というのが我々の立ち位置であり、目標完遂のために主に資金面でのサポートをしていました。助成事業終了後も継続的な広報支援として、ILS(Innovation Leaders Summit)という大手企業とスタートアップとのマッチングイベント、他各種イベントへの参加のご案内をさせていただきました。

スタートアップは、技術的な面はクリアできても、それをビジネスにしようとなると、多くの壁にぶつかります。シンクランドは、技術的な面での課題はもちろんのこと、ビジネス化についてもしっかり考えられて対応されたことで、大きく成長されました。その成長に少しでもお手伝いができたのではないかと考えています。

自分が関わった事業者が大きく成長するのを見るのが楽しみで、それが仕事のやりがいにつながっています。さまざまなスタートアップがあり、それぞれステージの違う業界の問題がありますので、アドバイスをする立場でありながらも、こちらから押し付けるような助言にならないように心掛けています。今後も我々の立ち位置を常に考えながら、スタートアップが何に困っているのかということに耳を傾けて対応していきたいと考えています。

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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
イノベーション推進部 専門調査員 
川原 信広 さん

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