CONTENTS
INTRODUCTION
誰もが日常的に使える装置を目指してBEGINNING
あって当たり前の〝酸素〟。その発生装置が必要な理由は?BREAKTHROUGH
従来にない窒素ガス吸着方式を採用FOR THE FUTURE
販売面でのNEDOの効果は予想以上FACE
酸素の価値を誰もが認識する社会にしたいINTRODUCTION 概要
誰もが日常的に使える装置を目指して
高齢者人口が増加する現在、健康増進につながる新たな福祉用具の開発や普及には、社会の大きな期待が寄せられています。しかし、先進的な福祉用具の製品開発にはコストなどさまざまなリスクがあり、中小企業が単独で技術を開発して製品化することには困難が伴います。そうしたなか、誰もが日常的に使える「高濃度酸素発生装置」の開発を続けてきたVIGO MEDICAL株式会社は、NEDOプロジェクト「課題解決型福祉用具実用化開発支援事業」を通じて、高濃度酸素発生装置の使い勝手を、飛躍的に改良する研究開発に取り組みました。酸素濃度を高めるために世界でもまれな「真空スイング吸着方式」を採用、また中心部の酸素濃縮機構をカートリッジ式にするなど、世界最小・最軽量かつメンテナンスが容易な高濃度酸素発生装置「Oxy'z(オキシーズ)」を開発しました。現在、アスリートや高齢者など、高濃度酸素を求める国内外の多くの人たちに使われています。
BIGINNING 開発への道
あって当たり前の〝酸素〟。その発生装置が必要な理由は?
自然の大気中で、酸素は約2割を占めています。「高濃度酸素発生装置」は、大気の約8割を占めている窒素を大気から除去することで酸素の体積比を高め、酸素濃度の高い気体を供給する機器です。医療に使われる「人工呼吸器」や「酸素マスク」「酸素ボンベ」などがその代表例です。これまで、医療用や工業用に高濃度酸素を発生させる大がかりな装置はありましたが、日常で、誰もが気軽に使えるものはありませんでした。
そこでVIGO MEDICALでは創業以来、日常的に手軽に高濃度の酸素を扱える製品の開発に取り組んできました。それは、創業者である同社取締役会長 鈴木 暢晃さんの「病気治療よりも前段に高濃度酸素を摂り込むことで、血流回復や血圧低下などの健康増進や体力向上による未病の体質作りにつながる効果が得られる」との考えからでした。
父・暢晃さんから経営を継承した、現・同社代表取締役社長の鈴木 凱星さんはさらに、「人間や生物が酸素を吸入することは当たり前のことのようですが、実は酸素を摂り込める量は年齢とともに減っていってしまいます」と同社事業の背景を説明します。
「日本人の平均肺活量は20代を過ぎると減っていきます(図1)。特に60代以上の方が若いときのように酸素を摂り込むには、深呼吸をしても賄いきれません。そんなとき高濃度酸素発生装置のような機器で補うことができれば、高齢者の健康維持や増進のためには有効なはずです」(鈴木さん)
たとえ、大気中に約2割という一定比率の酸素があるとしても、ストレスや加齢とともにその酸素を摂り込む身体の能力は減っていってしまう。その能力の低下を補うためや健康管理などのため、大気よりも高い濃度の酸素を人工的に摂り込むことが、誰でも、どこでも、手軽にできたら、ということが、VIGO MEDICALが高濃度酸素発生装置の研究開発に取り組んできた理由でした。
図1 年代別平均肺活量に関するグラフ(出展:佐々木英忠,他,“日本人スパイログラムと動脈血ガス分圧基準値―日本呼吸器学会肺生理専門委員会報告―“.日呼吸会誌 39: 1-17, 2001.)
高濃度酸素発生装置の小型化や使いやすさの向上を目指す
そもそも高濃度酸素は、世界中の病院で延命や蘇生に利用されている酸素マスクや酸素ボンベ、スポーツ選手がケガの回復に利用している酸素カプセルで用いられていることで有名です。しかしながら、従来の高濃度酸素発生装置は、呼吸器系疾患の患者さんなどが使う医療用はもとより、健康機器として普及している酸素カプセルのように、使用に当たって専門技術や医療資格が必要になったり、購入時や使用時にも高額な負担がかかるなど、誰もが扱うには難しいものばかりでした。
それに対してVIGO MEDICALでは、誰もが日常で使える製品を目指して高濃度酸素発生装置の小型化に挑んできました。これまでの製品化事例では、家庭内で据え置き型として使うタイプや、持ち運びを考えた大型キャリーバッグのような姿をした装置もありました(写真1)。
しかし、より利便性を高めるには、さらに小型にすることが重要と考えました。また、使い続けることで医療機器を含めたすべての機器で起きる高濃度酸素が発生しにくくなってしまう問題に対して、これまではユーザーに製品を送ってもらい補修や交換をしていました。ですがVIGO MEDICALでは、ユーザーでできるようにすることも、目標にしました。
「酸素を水と同じように『いつでも』『どこでも』『手軽に』使える時代を創造したい」そう望むなかで、VIGO MEDICALはNEDO事業を知り、2011年度の「課題解決型福祉用具実用化開発支援事業」に応募することにしました。「病気で倒れてから使うのでなく、健康のために日常的に使えるような福祉向けの高濃度酸素発生機器を普及させたい。その思いが通じたのか、事業に採択されました」(鈴木さん)
こうして、世界最小・最軽量でかつ、世界初のユーザーで補修や交換ができるといった、これまでの高濃度酸素発生装置にはない、使いやすさを備えた新製品「Oxy’z」実現への挑戦が始まりました。
写真1 (左)据え置き型と、(右)キャリーバック型の高濃度酸素発生装置 (写真提供:VIGO MEDICAL)
BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口
従来にない窒素ガス吸着方式を採用
VIGO MEDICALはNEDO事業における「Oxy’z」の研究開発にあたり、はじめに「使い勝手のよさのためにこれらは必須」という設計条件を定めました。それは、「装置はA4サイズ以内」「メンテナンス方法は脱着可能な酸素濃縮カートリッジ方式」といった条件であり、従来の高濃度酸素発生装置では考えられないような難度の高い目標でした。
研究開発を担当した技術開発本部長の蛭田 恵一さんは、「大きく三つのことをNEDO事業で実現し、製品化させることができた」と話します。
その一つ目は、自然の大気から窒素ガスを除去するために、「真空スイング吸着(VSA:Vacuum Swing Adsorption)」方式、特に世界初の「Rapid VSA(RVSA)」方式を採用したことです。
高濃度酸素を発生させるためには、装置の中で、大気中から窒素ガスを除去する必要があります。そのためにVIGO MEDICALは、窒素ガスを吸着剤に吸着させて相対量を減らし、酸素の相対量を増やそうとしました(図2)。
その方法にはいくつかの方式がありましたが(「なるほど基礎知識」参照)、装置の小型化の目標達成のため、原理的には知られていても、当時、高濃度酸素発生装置にはほとんど実装されていなかったVSA方式をVIGO MEDICALは選びました。
従来の一般的な高濃度酸素発生装置では、窒素ガスの吸着法として、「圧力スイング吸着(PSA:Pressure Swing Adsorption)」方式が採用されてきました。PSA方式は、窒素ガスの吸着筒に圧力を加えて、自然の大気から窒素ガスを取り除く仕組みです。蛭田さんは「そのためPSA方式では圧力を加えるために装置の大型化につながるコンプレッサーが必要になり、製品が大型化してしまいます」と話します。
図2 高濃度の酸素発生の仕組み (資料提供:VIGO MEDICAL)
「一方、VSA方式では、ブロワーを用いて吸着塔内を真空圧にし、吸着圧を形成させる方式で、大型コンプレッサーが要りません。開発目標であるA4サイズ化達成のために、私たちにはVSA方式が唯一の選択肢でした」(蛭田さん)
ただし、VSA方式にも弱点はありました。PSA方式より窒素ガスの吸着力が小さいため、医療現場で使われているような酸素濃度が90%の従来製品より薄くなってしまうことでした。しかし、鈴木さんは言います。「私たちの製品は健康機器で、医療用のような高濃度の酸素は必要なく、40%程度の酸素濃度でも効果が期待できることが長年の研究で分かっていました。さらに、濃度が低いことで引火の心配も少なく、装置の取り扱いも楽になります。そうしたことから弊社の開発目的を達成するには、VSA方式でも十分と判断しました」
写真2 (左)「Oxy’z」の内部機構(右)窒素ガスの吸着筒。吸着筒は2本あり、交互に作動させることで、連続的に高濃度酸素を得る
また窒素ガスの吸着剤もVSA方式による小型化の利点を生かすため、従来と違う物質を選択しました。
一般的に窒素ガスの吸着には人工鉱物「モレキュラシーブ」(合成ゼオライト)に陽イオンをもたせた吸着剤を用いますが、VIGO MEDICALでは、その陽イオンを従来のナトリウムイオンでなくリチウムイオンに変更しました。蛭田さんは、「リチウムイオンはイオン半径がナトリウムイオンより小さいため、電荷密度が高くなり、吸着に関わる極性が強く、吸着力の劣るVSA方式に向いていたからです」と説明します。
VSA方式とリチウムイオンのモレキュラシーブという、従来にない高濃度酸素発生の仕組みを組み合わせることで、VIGO MEDICALは、開発目標の一つであるA4サイズ化達成へと踏み出すことができました。
特殊なT字型モーターポンプを開発
二つ目は、独自のT字型モーターポンプの開発でした。高濃度酸素発生装置でのモーターポンプは、モーター1個とポンプ2個からなる機構で、大気を吸着筒に送り込んだり、吸着筒を真空状態にして圧力を減らしたり、真空状態を解放して圧力を大気圧まで高めたりする役目を担っています。
従来の発生装置にもモーターポンプは備わっていますが、今回の「Oxy’z」では、A4サイズ化達成という至上命題がありました。そこで、VIGO MEDICALでは、モーターポンプの形状をT字状にして、T字の横棒の左右にポンプ1個ずつを配置しました。そして、左右のポンプの間から下へおろすようにモーターを配置しました。その理由は、小型化にも、使いやすさの向上にも、つながるからでした。
写真3 独自設計し、開発した「T字型」のモーターポンプ
小型化の効果について蛭田さんは、「通常のモーターポンプでは、モーターの両端に縦型のポンプが置かれています。それだとどうしてもA4サイズに収まりにくくなります。T字型にすると収まりがよく、また空いたスペースに別の機構を配置することもできます」と説明します(写真3)。
また、使いやすさの向上については、「小型化達成という開発目標と同様に、ユーザーの利便性を考えて、装置を立てて置いても寝かせて置いても、酸素濃度が安定に保たれることも重要な開発目標でしたが、従来の配置では無理でした。しかし、T字型にすることで、この開発目標も同時に実現することができました」と蛭田さんは言います(写真3,4)。
とは言ってもその実装は一朝一夕にいくものではありませんでした。蛭田さんは、「もしT字型モーターポンプの既製品があるならそれに飛びついていたかも」と当時の苦労を振り返ります。当然ながら高濃度酸素発生装置の小型化と縦横自由な置き方を可能にするようなT字型モーターポンプが市場にあるわけもなく、独自に開発するしかありませんでした。
「試作してみては、デカイねということになり、また試作してみて、まだデカイねと、何回も試作を繰り返しました」(蛭田さん)。こうして試作を重ねた結果、ついに目的を満たすT字型モーターポンプを実現させました。
写真4 横置きしても使える「Oxy’z」。カートリッジの交換時期を知らせてくれる機能もある
「孔」の大きさの最適解を追求
「三つ目は、酸素濃縮カートリッジの孔の大きさを極めたことです」(蛭田さん)。酸素濃縮カートリッジは、窒素ガスの吸着筒が備わる、まさに装置の中心部といえます。吸着筒は2本あり、片方の吸着筒で窒素を吸着し酸素濃度を上げているときに、もう片方の吸着筒では吸着した窒素を脱着して、吸着剤(モレキュラシーブ)の再生を行います。
写真5 「Oxy'z」の酸素濃縮カートリッジ
このように酸素濃縮カートリッジでは、2本の吸着筒を交互に使うことにより、連続的に酸素濃縮空気を供給していますが、そのためにカートリッジカバーの内部には3個の細孔が開いています。
図3 「Oxy’z」の機構略図。VIGO MEDICALでは、VSA方式による吸着をさらにスピード化させたことから、「RVSA(Rapid Vacuum Swing Adsorption)方式」と独自に呼んでいる (資料提供:VIGO MEDICAL)
一つは生成された濃縮酸素を取り出すための「孔」。残り二つは、吸着された「窒素」を脱着するための孔です(図4)。
「採用した方式の場合、この2個の細孔径が吸着圧(高濃度酸素生成)に深く寄与します。小さくすれば吸着圧を上昇させ、高濃度酸素を効率良く得ることができますが、窒素の効率の良い脱気の妨げ、常に高濃度酸素を生成するといった急速性を弱めてしまうという問題が有りました。また、サイクルタイムの関与も注視しなくてはなりませんでした」(蛭田さん)
図4 細孔の配置(資料提供:VIGO MEDICAL)
吸着のための圧力を保ちつつ、モレキュラシーブ吸着剤の破過をなるべく抑えるといった条件を最適に満たす孔径とは。また、それを有効にするサイクルタイムとは。蛭田さんらは、その答えを見つけるためにまた試行錯誤を繰り返しました。
孔径が、わずかに0.01mmごとに異なるカバーをいくつも試作し、サイクルタイムを0.1秒単位で変更するといった試験を重ねました。さらに、RVSA方式を形成するスイングの中間点に存在するサイクルタイムの変化や、稼動停止時に吸着筒にスイングタイムを追加しても孔径と相互作用してしまい酸素濃度に変化が生じてしまうなど、様々な調整が必要でした。
孔の径がわずかに異なるカバーを何百通りにもわたり試作したのは、VIGO MEDICALの製造委託先である山形県東根市の株式会社吉田です。吉田では、直径が0.01mmずつ異なる孔を開けられるピンを交換できる治具を製作し、VIGO MEDICALの要望に応えました。
吉田の代表取締役である吉田 英樹さんは、「こうした細かさでの孔径のリクエストは、これまでほとんどありませんでした。けれども対応できるよう、専用の治具を作っていきました」と振り返ります。
写真8 カートリッジのカバーに専用治具で孔を開ける。両脇に2つの孔があり、また中央に別種の孔がある。孔の大きさは0.4mmほど
試験では、大きさが0.01mmずつ異なる孔を20種類ほど用意して組み合わせを変えてみるとともに、真空にしたり戻したりする時間設定も0.1秒単位で変えるなどして、最適解を求めていきました。
こうした試行錯誤の積み重ねの末に、世界最小・最軽量で、世界初のユーザーが交換可能なカートリッジ式濃縮機構を搭載した高濃度酸素発生装置「Oxy'z」が完成しました。また、この技術は独自性があり、世界的にも新規であったことから、日本はもとより世界各国で特許を取得するに至りました。
写真9 「Oxy'z」のカートリッジ試作用に製作した独自の治具の調子を確かめる、(左)代表取締役の吉田 英樹さんと(右)技術部長の小松 省悟さん
FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来
販売面でのNEDOの効果は予想以上
鈴木さんは「Oxy’z」の完成時のことを思い返して言います。「前機種までと比べると、特長のある製品にすることができました。小型化もそうですが、吸着剤の交換をカートリッジ交換だけで済ませられたことで、ユーザーさんから製品まるごと送り返してもらう必要がなくなりました。これで、事業の世界展開もできるようになるだろうと、期待が大きく膨らみました」
鈴木さんは続けて「実際、NEDOの名前は海外でとてもよく知られていることを実感しました」と言います。「日本だけでなく海外の代理店にも積極的に『Oxy’z』を紹介していますが、NEDOのロゴマークの入ったパンフレットを渡すと、信用度がまったく違ってきます」(鈴木さん)
鈴木さんらは「Oxy’z」の研究開発に着手の際、開発資金の調達元としてベンチャーキャピタルなども検討していましたが、「製品が完成できたら、それを広めていくには、NEDOの方が有効ではないかと考え、NEDO 事業に応募しました。実際、NEDO事業に採択されたことで、お客様や代理店にもよりいっそう安心していただき、その効果は想像よりも大きなものでした」と話します。
高齢者だけでなく、アスリートも使用
VIGO MEDICALは、NEDO事業終了後の2014年1月に「Oxy'z」を本格的に発売しました。鈴木さんによると、これまでおよそ1万台を販売しています。利用者層は大きく二つあります。
「一つは、呼吸弱者であるご年配の方々です。当初の狙いどおり、肺活量の低下などで十分な呼吸がしづらくなってきた方々にお使いいただいています。こうした層が、ご利用者の6割ほどです」
「もう一つの主要な利用者層は、より若い世代」と、鈴木さんは続けます。「スポーツ関係者やアスリートといった若い世代の方々です。練習の合間や試合後などに、『Oxy’z』を使っていただいています」
こうしたアスリート層での利用の広がりを見てVIGO MEDICALでは、その利用効果を検証するための研究にも取り組み始めています。2019年には、Jリーグ・大分トリニータの公式クラブスポンサーとなり、トリニータの選手たちに製品11台を無償貸与し、継続使用後の選手の体温、血圧、心拍数、走行距離、スプリント回数の増減などの計測や、血液検査を実施しています。
鈴木さんは、「1年間ほど使用しつづけていただいた選手たちには、未使用の選手たちに比べて酸素を体内に取り込む能力、骨格筋が酸素を利用する能力が改善され、運動能力の向上効果が見えてきています」と話します。
「例えば大分トリニータは、試合中のチーム走行距離について、2019年のJ1リーグ18チーム中3位でした。そうした結果と酸素吸引の効果との因果関係をいま学術的に調査・研究しています。各種の計測の結果などは、桐蔭横浜大学の桜井 智野風先生(スポーツ科学研究科スポーツ科学専攻研究科長・教授)に監修していただき、関連学会に学術論文として発表する準備もしています」(鈴木さん)
写真10 VIGO MEDICALの高濃度酸素発生装置を利用する大分トリニータの選手 (2020年シーズン当時に在籍していた選手の写真となります)(写真提供:OITA F.C.)
さらに機能性を高め、販路も広げたい
NEDO事業での成果をさらに大きなものにすべく、VIGO MEDICALでは現在、さらなる研究開発と販売拡大の両方で、努力を続けています。
研究開発面では、さらなる小型化・軽量化を目指すことはもとより、酸素濃度をさらに高めるための挑戦もしています。鈴木さんは、「NEDO事業で努力を重ねてきたプロセスやデータを生かすことで、40%が限界と思っていた酸素濃度を、約50%まで高められることができるようになりました」と言います。VIGO MEDICALでは2021年1月から、その成果を活用して「Oxy'z」よりも高濃度の酸素を発生させることができる「Oxy'z Ⅱ」の発売を開始する予定です。
写真11 「Oxy'z」の後継機種として、2021年1月に販売開始する「Oxy'z Ⅱ」。外観も一新。(写真提供:VIGO MEDICAL)
また、販売については、海外への販路拡大を本格化させようとしています。鈴木さんはその意気込みを語ります。
「海外には、大気汚染の課題を抱える国もあります。空気を清浄する技術は日本発のものが貢献していますが、そうしてきれいにした空気から、効率よく酸素を摂り込むことの利点までは、まだあまり気付かれていません。小型で軽量なことや、カートリッジを脱着できることに対して、『Oxy’z』は海外でも高い評価をいただいています。メイドインジャパンの技術を、これからもっと世界に広めていきたいと考えています」
開発者の横顔
酸素の価値を誰もが認識する社会にしたい
鈴木さんは、今回のNEDO事業での研究開発を統括しました。広告代理店勤務後、創業者である父・鈴木 暢晃さん(現会長)の意志を継ぎ、高濃度酸素発生装置の事業を担い、2017年よりVIGO MEDICAL代表取締役社長に就いています。
「父の代から足かけ40年ほど高濃度酸素に関わっています。かつて水を飲むといえば、もっぱら水道水からでした。でも、いまはミネラルウォーターなどの水を買うのが当たり前になっています。空気中にある酸素も同様に、ゆくゆくはみなさんが特別な価値があるものという認識になってもらえるようにすることができればと思っています」
VIGO MEDICAL株式会社
代表取締役社長
鈴木 凱星 さん
製品開発は学びの連続
蛭田さんは、NEDO事業における研究開発の中心人物でした。もともと機械設計を専門とし、VIGO MEDICAL入社以前は自動車メーカーでオーディオの外装設計などを手がけてきました。
「孔の大きさをわずか0.01mm変えたり、サイクルタイムをたった0.1秒変えたりするだけで、圧力が大きく変わるというのは自分でも驚きでした。組み合わせを考えると、何通り試験すればいいのだろうと途方に暮れたこともありましたが、研究開発の仕事は、学びの連続。さらに使いやすい装置の開発に取り組み続けます」
VIGO MEDICAL株式会社
技術開発本部 本部長
蛭田 恵一 さん
なるほど基礎知識
酸素濃縮・発生方法のいろいろ
高濃度酸素を発生させるためには大気を利用します。大気の主成分である窒素と酸素のうち、窒素の量を減らせば、相対的に濃い酸素を得ることができます。
そのために、一般的に使われているのが「圧力スイング吸着(PSA:Pressure Swing Adsorption)」方式です。
吸着剤であるゼオライトを充填した吸着筒に大気を送り込み、コンプレッサーで圧力をかけていきます。すると、酸素と窒素のうち、ゼオライトと親和性の高い窒素が多く吸着します。こうして酸素濃度の高いガスが分離されます。
一方、吸着された窒素は、吸着筒の大気圧まで減圧されてゼオライトから脱着して排ガスとして大気に放出されます。この脱着と吸着の繰り返しを二つの吸着筒で交互に行い、連続的に高濃度酸素を得ていきます(図5)。
図5 PSA方式の模式図
一方、VIGO MEDICALが採用した「真空スイング吸着(VSA:Vacuum Swing Adsorption)」方式では、ブロワーで吸着筒内を真空にし、常圧に戻る時に形成される「吸着圧」を利用し窒素を吸着させます。その後、吸着筒内を真空にして、大気圧以下にして窒素をゼオライトから脱着していきます。
PSA同様に、VSAでもこの吸着と脱着の繰り返しを二つの吸着筒で交互に行い、連続的に高濃度酸素を得ていきます(図6)。
PSAでは、窒素吸着のために吸着筒内の圧力を高め、吸着筒内が大気圧に変化することで生じる圧力で脱着させます。その際、特有の音も生じてしまいます。VSAでは、逆に窒素脱着のための真空圧が大気圧に戻る際に生じる圧力で窒素を吸着させます。この方式により吸着方式の酸素濃縮器特有の「音」も軽減されます。
図6 VSA方式の模式図
NEDOの役割
「課題解決型福祉用具実用化開発支援事業」
(1993年度~)
NEDOは本事業で、心身の機能が低下した高齢者や障害のある人の健康の増進、生活の質の向上(QOL)に貢献する技術の確立を目指して、福祉用具の実用化開発を行う中小・ベンチャー企業に対して、1993年度から支援を行っています。
その際、支援企業の研究開発を促進させるだけでなく、展示会への開発品の出展やビジネスマッチングの場を設け、市場の声やユーザーニーズを取り込めるような環境作りも併せて実施しています。
VIGO MEDICALは本事業にて研究開発を行い、A4サイズで重量約2.6kgのためいつでもどこでも手軽に酸素を補給できる小型高濃度酸素発生器「オキシーズ®」の製品化に成功しました。
関連プロジェクト
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