NEDO Web Magazine

ロボット・AI・福祉機器

次世代人工知能・ロボット中核技術開発

防犯カメラにAIを実装して事件・事故を予防・抑止 五感AIカメラの実用化

アースアイズ株式会社

取材:Oct. 2021

INTRODUCTION 概要


日本経済の持続的発展には、AI技術の開発力強化やその社会実装促進が欠かせません。AI技術を活用した新たなサービス・製品の誕生に向けて、特に機動力のあるスタートアップ企業の活躍が期待されています。NEDOは、そうしたAI分野で将来の発展が期待されるスタートアップ企業を発掘し、支援するために、NEDOプロジェクト「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術分野」の中でAIコンテストを企画しました。2017年の第1回コンテストにおいて、アースアイズ株式会社は、3D空間把握技術とAIによる自動監視技術を組み合わせた独自の「五感AIカメラ」で受賞。その後、同プロジェクトの中で「五感AIカメラ」をブラッシュアップしてゆき、万引き防止などに利用できる「監視ソリューションサービス」を開始しました。アースアイズは「予防と抑止」をコンセプトに、誤検知や失報を減らすことで店舗運営者などの管理負担軽減を図ることを目指しています。「心を救うAI」を目指して、防犯分野のみならず、人流把握、ソーシャルディスタンス確保、介護などに、その応用範囲を広げています。

BIGINNING 開発への道


万引き犯を捕まえずに済む方法があったら

アースアイズは、「五感AIカメラ」の開発のために2015年に創業したスタートアップ企業です。しかしアイデアは創業以前からありました。創業者で代表取締役の山内三郎さんは、父親が経営する警備会社で万引き監視員として各地のスーパーなどで売り場に潜入して万引きを監視していました。そしていつも「やりきれない思いを胸に抱えていた」と言います。

「私たち警備員は言ってみれば『万引きをする瞬間』を待ち構えて声をかけ、認めさせて捕まえます。嬉しいはずがありません。毎日とてもつらかった」と山内さんは振り返ります。

本当に必要なことは、万引き犯を捕まえることではなく店の損害を少なくすることのはずと考えた山内さんは、万引きをするまで待って犯人を捕まえることを止め、その代わりに万引きをしそうな人に声をかけることにしました。するとたいていの場合は思いとどまり、みるみるうちに万引き被害額も減りました。こうした実績から、万引きが起こる前に予防、抑止をするという山内さんの考えを警備先の店舗も認めるようになりました。

山内さんは、「声をかけた人の中には万引きではなく、商品を探して本当に困っている人もいました。そういったお客様には必要な手助けをすることもできました。この経験から、人間の五感(感覚)を生かしたカメラを開発できれば、さまざまな事件、事故を予防、抑止できて、見守る人も見守られる人もつらい思いをすることがなくなり、みんなの心が救われるのではないかと考えるようになりました」と話します。このひらめきが、防犯カメラに人の行動を分析、判断させる「五感AIカメラ」開発のきっかけとなりました。

万引き犯には独特の行動パターンがある

元々、小売業では万引き対策として、防犯カメラが店内に数多く設置されています。しかし、こうしたカメラには致命的な欠点があります。それは「誰かがその映像を、絶え間なく見続けていないと、万引きを防げないことです」(山内さん)

山内さんによると、万引き犯には普通の買い物客には表れない行動パターンがあると言います。「たとえば通常、お客様は売り場を平行に移動されます。陳列棚に並んだ商品を見て選びながら進みますから。しかし、万引き犯は人に見られていないかを気にして、陳列棚から後ろに下がって周囲を見渡します。つまり、売り場に対して垂直の動きが表れやすいのです」(山内さん)

万引き監視員としての経験から、山内さんはこうした万引き犯特有の「不審行動」をたくさん知っています。防犯上の理由から詳しくは紹介できませんが、体の動きや手の動きなど「言葉にしてもニュアンスが伝えられないような細かなものがたくさんあります」と山内さん言います(図1)。

ea_set01.jpg

図1 「五感AIカメラ」が検知する不審行動の一例 (資料提供:アースアイズ)

この「不審行動」をAIが学習して、似た行動を取る利用客を発見し、店舗運営者(従業員)などに自動的に知らせるシステムが構築できれば、「もう防犯カメラの映像にかじりついていなくても済む」と山内さんは考え、「五感AIカメラ」の構想を立て始めました。

技術を組み合わせて、ソリューションサービスを考案

「五感AIカメラ」を実現するために、山内さんは大きく4つの技術が必要だと考えました。それは、A)一般的なカメラで距離を認識する技術、B)骨格モデルを適用し、行動を把握する技術、C)顔情報などの匿名化、D)不審行動分析と行動学習です。

A)一般的なカメラで距離を認識する技術

防犯カメラに人間の行動を分析する力を持たせるにはどうすれば良いのか。アースアイズでは、人間の不審行動分析とその把握に、カメラと人間の「距離」を利用することを考え出しました。なぜ距離情報が必要かというと、例えば画面に映り込んだ手の距離から位置関係がわからなければ、手前の人物の手か、奥の人物の手なのか、それが誰の手なのか判断できないからです。

一般的なカメラは単眼レンズですが、距離を計測するには、人間の目が2つあるように、カメラ(レンズ)が2つ必要になります(ステレオカメラ)。しかし「五感AIカメラ」としてステレオカメラを採用すると、すでに一般的な単眼カメラを防犯カメラとして設置しているクライアントにとっては、設備入れ替えのコストがかかることになり普及の壁になります。アースアイズは、クライアントが利用している既存の防犯カメラを活用できるよう、単眼カメラでの距離計測の実現を試みました。

試行錯誤の末、「遠近法」を利用した、カメラ1台でも距離を測ることが可能な技術を開発しました(特許取得)。「遠近法にのっとり、防犯カメラ映像に平行になる補助線を2本引くことで、そこに映る物体の距離、前後関係を単眼カメラでも推測することが可能になります(図2)」(山内さん)

ea_set02.jpg

図2 アースアイズ独自の3D空間把握技術。画像処理時に陳列棚に沿って遠近法で補助線を引くことで(左)、人物の前後関係などを把握できるようになる(右) (資料提供:アースアイズ)

B)骨格モデルを適用し、行動を把握する技術

距離を認識できるようになるだけでなく、画面の中の人間の動きも把握できなくては、「不審行動」を発見できません。そこで、映像に映る人間を骨格モデル化しました。人間の手・足・胴体の動きなどを骨格モデル化することで、映像から詳しく正確に動作を分析できるようになります(写真1)。

例えば万引き犯の手の動きや方向、立っているか、屈んでいるか、座っているかなど、さまざまな情報を得ることができます。山内さんは、「ここではオープンソース・ソフトウエアを利用していますが、骨格モデル化するソフトウエアにもいろいろあって、ものによっては『立っている人物に強い』『寝ている人物に強い』などの特徴があり、それらをうまく組み合わせて活用しました」と説明します。

ea_set03.jpg

写真1 防犯カメラが撮影した画像(左)と骨格モデル化された画像(右) (再現イメージ)

C)顔情報などの匿名化

骨格モデル化のもう一つの利点は、顔情報などの匿名化ができることです。人間が映る映像を骨格モデルにすることで、顔などの個人情報を匿名化することができます。骨格モデルを見ても個人の特定は不可能なため、プライバシーを守ることができます。匿名化は「五感AIカメラ」を万引き防止対策だけではなく、人流把握など他分野に応用する際に役立つ機能です。

例えば昨今のコロナ禍に対応するために、「五感AIカメラ」は人々が集まる施設での「密」を避ける「ソーシャルディスタンスカメラ®」として利用されました。各施設に備え付けの防犯カメラ映像をインターネットで配信することで、施設の混雑状況を公開し、利用客はその配信を見て施設への訪問を判断するという仕組みです。その際、骨格モデル化により匿名化することで、利用客にとってインターネットでの配信を受け入れやすくしています(図3) 。

ea_set04.jpg図3 匿名化のイメージ図 (資料提供:アースアイズ)

D)不審行動分析と行動学習(詳細は「なるほど基礎知識」参照)

画面の中の人間の動きが把握できるようになると、いよいよその動きの意味を分析し、不審行動を判定する段階になります。AIに判断させるためには、データが必要です。さまざまな人間の動きのデータを大量に収集して、どのようにAIに学習させるか、効率的な方法を考えなくては社会実装までに何年もかかってしまいます。

BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口


NEDO「AIコンテスト」へ参加

こうした中でNEDOとの出会いは大きかったと山内さんは振り返ります。きっかけは新聞でNEDOプロジェクト「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術分野」において実施される「AIコンテスト」の存在を知ったことでした(詳細は「NEDOの役割」参照)。

「受賞する自信はありました」と山内さんは話します。「その自信の理由は、いろいろなベンチャーコンテストで受賞経験があったこともありますが、一番は『人間の五感を生かしたカメラを開発すればさまざまな危険を察知できる』というコンセプトに間違いはないと強く信じていたからです」

アースアイズは「五感AIカメラの開発」をテーマに、2017年の第1回コンテストに応募し、見事、審査員特別賞を受賞しました。受賞後、2017年度から2018年度にかけてNEDOプロジェクトとして、「五感AIカメラ」の社会実装を目指して研究開発をさらに進めることになりました。

みんなで開発するスキーム作り

NEDOプロジェクトでは、設計、実装、テストを短い周期で何度も繰り返すことにより完成度を高めていくアジャイル開発を行い、不審行動分析と行動学習の精度向上を目指しました。山内さんは、「最も難しかったのがこの分野でした」と話します。特に人の認識間違い、誤報を少なくすることに骨が折れたと言います。「実はAIはよく不審者と従業員を間違えてしまうのです。なぜなら、従業員は品出しなどで通常のお客様と異なる行動を取るからです」(山内さん)

では、その行動の意味をどのようにAIに学習させるのか。山内さんらは試行錯誤の果てに、実に明快で確実な方法にたどり着きました。

「私たちのシステムでは不審行動を検知すると、店舗運営者のスマホアプリに不審者の画像を送りますが、それが従業員だった場合は、アプリの『従業員ボタン』を押して報告してもらいます。そうやってAIは、これは不審者ではなく従業員だったのだ、と学習することができます」(山内さん)(写真2

ea_left01@2x.jpg

写真2 店舗運営者のスマホアプリの通知画面例 (再現イメージ)

山内さんは語ります。「もし私がAIの専門技術者だったら、技術の力でなんとか従業員を見分け、学習できるようにしようと思ったかもしれません。しかし、サービス利用者の立場と、その目的を考えれば、クライアントである店舗運営者に協力していただくことが、一番効率的な学習法だと考えました」

アースアイズの技術開発の特徴は、「一つの技術にこだわらず、いいとこ取りを目指すこと」と山内さんは言います。柔軟に応用方法や組み合わせを考え、精度を上げるために日々、新技術の採用や応用を検討することはもちろんのこと、サービス利用者も巻き込んだスキーム作りに労を惜しみません。

データ収集も研究開発の重要項目

NEDOプロジェクトでは、実際の店舗などでの人間行動情報(データ)の収集に力を入れました。プロジェクト1年目には、スーパー、ホームセンター、ドラッグストア、衣料品店の「小売業4業態」にカメラを設置してデータを収集しました。それぞれの業態によってAIに学習させるべき行動とその意味が異なるためです。

データを収集すると、山内さんも参加して防犯カメラの録画映像を見続けました。設置されている防犯カメラの数が多ければ多いほど、また録画時間(店舗の営業時間)が長ければ長いほど、確認作業は膨大になります。大変な作業ですが、「五感AIカメラ」により事件や事故が未然に防げるようになれば、今後このような作業を人がする必要はなくなります。店舗運営者の声も聞きながら、防犯カメラの設置場所も調整しつつ、データを集めては分析を行いました。

プロジェクト2年目のデータ収集は、「精度を上げることが一番の目的でした」と山内さんは言います。万引き防止対策の最大の目標は、クライアントとなる店舗が棚卸しをしたときに商品のロス率が下がっていることですが、「五感AIカメラ」の開発目標としては、それに加えて誤検出をできるだけ減らすことも同様に重要でした。

AIが検知した不審行動情報に基づいているとはいえ、従業員が来店客に声をかけるのはやはり精神的な負担が大きい業務となります。さらに誤検出となれば、従業員の負担は何倍にも膨れ上がります。万引き監視員としてのつらく、厳しい経験のある山内さんにとって、誤検出の最小化は譲ることのできない研究開発目標でした。

不審者と従業員の見分け学習のときのように、2年目のデータ収集では、不審行動とそうではない行動の例をできるかぎり多く集め、AIに学習させました。その結果、誤検出を5%以下にまですることができました。

“捕まえない”万引き防止システムが完成

こうして構築されたアースアイズの監視ソリューションサービスの流れを示すと以下のようになります(図4、写真3)。既存の防犯カメラなどの撮影映像を、「五感AIカメラ」の機能(画像処理ボード)を付加したサーバーなどで分析し、不審行動を検知した場合は、店舗の従業員にアプリで通知します。アプリであればその様子の静止画も添付送信され、万引き防止に役立てます。すでに全国で3,300台以上のカメラが導入され、稼働しています。

ea_set12.jpg

図4 監視ソリューションサービスの流れ。不審行動を「五感AIカメラ」が分析、検知すると、店舗運営者のスマホに通知される (資料提供:アースアイズ)

ea_set05.jpg

写真3 陳列棚の前で不審行動をする利用客(左)、「五感AIカメラ」がそれを検知すると人物を囲む枠が、黄から赤へと変わり警告する(右)(再現イメージ)

NEDOの多岐にわたる支援体制

NEDO「AIコンテスト」での受賞、そこから進んだNEDOプロジェクトの2年間と、その後、現在に至るまで、NEDOの多岐にわたる継続的な支援には「感謝しかない」と山内さんは言います。

「当時は起業したばかりでしたので、NEDOプロジェクトに参加できたことは、経済的な支援ばかりだけでなく、こういう企業があると社会に認識してもらえることにもつながりました。開発途上のスタートアップ企業ながら、受賞により発表の機会や評価を受ける機会にも恵まれ、その後の研究開発や社会実装にも弾みがつきました」(山内さん)

また山内さんは、「本来、成長のためには重要なことですが、私を含めて一般的にスタートアップ企業は、進捗管理やその体制づくりが得意ではありません。ですから本プロジェクトで、NEDOとタッグを組んで進捗を確認し合えたことはとても良かったと思っています」とも話します。

「研究開発への情熱があるのはいいことなのですが、何が前進したのかを確認して目的地を見失わないことも、とても大切で難しいことなのです。NEDOの担当者さんへ『こういう資料が欲しい』などとよく電話して、いろいろなお願いもしましたが、いつも親身になって対応してくださり、助かりました」(山内さん)

プロジェクトが終了した後もNEDOとアースアイズの関係は続いています。山内さんは、「NEDOはフォロー体制が素晴らしい」と言います。「世の中にスタートアップやベンチャーのコンテストはたくさんありますが、一過性のイベントで終わってしまう場合が少なくありません。しかし、NEDOはそうではなく、プロジェクト期間中は常にフォローしてくれますし、プロジェクト終了後でさえ気を配ってもらえます。技術の告知や宣伝の機会もいただけました」(山内さん)

山内さんは言います。「『五感AIカメラ』のコンセプトは20年以上前からありましたが、当時はハードウエアもソフトウエアも技術条件が不十分で実用化できませんでした。挑戦と失敗を重ねるうちに時間が経過して、技術がコンセプトに追いついてきました。そして、過去では難しかったことが、新しい技術との組み合わせでできるようになり、タイミングよくNEDOの支援も得られて実用化へと進むことができました」

FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来


画像処理・分析機能内蔵カメラなども開発

「五感AIカメラ」の研究開発プロジェクトを振り返って山内さんは、「さらなる実用化に向けて、まだ少しの課題は残っていますが、NEDOプロジェクトのおかげで『五感AIカメラ』の基礎的な方向性は打ち出せたと思います」と語ります。今後、システムの充実に努めるのはもちろん、万引き防止以外の分野へも事業拡大を図ろうとしています。

アースアイズでは、クライアントの導入負担を下げるために、既存の防犯カメラとパソコンに画像処理ボードを組み合わせることで使用できることを「五感AIカメラ」の特色にしてきましたが、既存の防犯カメラがない場所でもすぐに「五感AIカメラ」の監視ソリューションサービスを導入できるように、画像処理、分析機能を、パソコンではなくカメラに内蔵した製品も開発、提供しています(写真4)。最新のカメラでは、マイクやスピーカーも内蔵し、画像ばかりでなく音声での状況把握ができるほか、双方向に会話ができる機能も付加しています。

ea_set06.jpg

写真4 歴代のカメラ。
左上:初代「<ee1>」、右上:距離測定センサーのみの「<ee2>」、左下:画像処理機能を内蔵した「<ee3>」、右下:マイクとスピーカーを内蔵した最新版の「<sAIcam-C>」

また、クライアントのパソコンに画像処理ボードを追加するのではなく、既存の防犯カメラ網にプラグイン方式で接続して「五感AIカメラ」の監視ソリューションサービスを導入運営できる小型の画像分析機能付きのサーバーも開発して提供を始めました(写真5)。接続可能なカメラ数は、現在のところ8台までですが、近い将来には16台まで接続できるよう、処理能力を向上する予定です。

ea_set07.jpg

写真5 画像分析機能付サーバー「Server lite」。既存の防犯カメラ網に接続して使用できる

人手不足の分野へのさらなる応用展開

そして、山内さんはサービス提供分野の拡大について、「我々はまずは万引き対策に特化することで製品の基礎を整えましたが、もっと社会の広い分野で事件や事故を防ぎたいと思っています。それは小売業に固執することなく、それ以外の分野へと応用範囲を広げていきたいということです」と言います。

山内さんが思い描くそうした「技術の応用分野」の一つにビル警備があります。ビル警備にはそれなりの警備員の数が必要で、人件費がかかり人材不足でもあります。また、その業務にはどうしても危険が伴います。こうした警備員の業務を「五感AIカメラ」でシステム化できないかと考えています。

また、同じく人材が不足している介護分野でも「五感AIカメラ」を活用できるはずだと考えています。高齢者施設などの転倒事故の7〜8割がベッド周りで発生すると言われており、例えば認知機能が低下した入所者が起き上がろうとする場合、昼間であれば介護者の目が届きますが、夜間には介助が間に合わず転倒してしまうといった事態も生じかねません。

もし、そのような入所者の動きを感知して、事前に転倒事故の可能性を察知できれば、入所者の安心、安全はもとより、介護者の負担を大幅に減らすことができると山内さんは考えています(写真67)。

ea_set08.jpg

写真6 介護分野を想定しての「五感AIカメラ」の応用例。上段:安眠している状態、下段:ベッドから起き上がろうとする状態を検知 (再現イメージ)

ea_set09.jpg

写真7 介護分野での利用が期待されるソリューションサービス「介護見守DX」に使用される最新の「五感AIカメラ」(左)と、介護者への通知画面例(右) (再現イメージ)

「こうした人材不足の分野で、我々の技術がその一翼を担える自信がついてきました。私は、さまざまなジャンルに我々の技術を応用するのは、それほど難しいことだとは考えていません。たとえ新しい分野であっても、実際に現場へ行き、現場の声に耳を傾けて、一緒に試行錯誤を繰り返せば、ソリューションは見つかると思っています」(山内さん)

「五感AIカメラ」の開発で「心」を救う

万引き発見といった防犯分野でのセンサーやAIは、関連業界のどの会社でも「誤検出をいかに減らすか」ということが最大の課題になっています。木の葉が揺れただけでも、イヌやネコが動いただけでも、誤検出が起きてしまうからです。

その誤検出を5%以内に抑えられれば、システムの信頼性は高まると業界内では言われています。山内さんは、「我々は誤検出を5%以内に抑えられるようになってきました」と胸を張ります。

「世界中に防犯カメラはありますが、そのほとんどが単なる『録画装置』に過ぎません。何かが起きた後に人が『過去の記録』として見ているだけです」と山内さんは指摘します。「その『録画装置』を事故や事件の予兆を捉えられる人間の五感を備えたような『予防・抑止装置』に変えることができたら、救われる人が多いはずです」(山内さん)

AIには心はないが、人の心を救うことができる」と山内さんはよく言います。例えば、長時間労働につらい思いを抱える介護者が、夜間に巡回しなくて済むようになれば、心に余裕ができて幸せになれるのではないかという意味です。

「人は万が一の時だけ動けばいい。人の無理をなくして、AIによって余裕ができたら、もっと仕事や人生が楽しくなるはずです。そこに我々の技術がつなげられたらと考えて事業を進めています」(山内さん)

開発者の横顔


野球少年から起業家へ

山内さんは、アースアイズの創業者であり、「五感AIカメラ」の考案者でもあります。NEDOAIコンテスト」受賞後は研究開発を先導して「五感AIカメラ」の開発に取り組みました。

「警備会社勤務時代のやるせない経験から思いついたアイデアでしたが、当時はカメラもパソコンも処理能力が低くてアイデアを形にすることがなかなかできませんでした。それが最近の画像処理プロセッサーの能力向上と、さらにNEDOの支援により、一気に実用化の速度を上げることができました」

実は山内さんは根っからの野球少年。甲子園出場常連高校野球部から大学進学後も野球部に所属しました。山内さんはトップ選手や指導者との活動をとおしてチームプレーの大切さとともに、「どんなに死に物狂いで努力しても、特別な才能がある人にはかなわない」ことを学んだと言います。

「ならば組織を使って良い方向に向かえばいい、個人の能力や才能が飛び抜けていなくてもみんなで一緒にやれば何か良い結果を残せるはず」

スタートアップのアースアイズを率いる山内さんの信条です。

ea_face01@2x.jpg

アースアイズ株式会社

代表取締役

山内 三郎 さん

なるほど基礎知識


不審行動分析とAIによる行動学習

一般的に、AIに何かを判断させるためには、データが必要になります。店舗で役に立つAIにするために、できるだけ実際の環境で、自然な行動情報を取り込む工夫が必要ですが、効果的で効率的な方法を考えなくては、学習にいくらでも時間がかかってしまいます。

「五感AIカメラ」では、犯罪心理学をはじめとする心理学的な知見に基づき、人間の行動パターンをデータベースにして、カメラの撮影映像から利用客の行動を判別しています。あらゆる人間の行動情報を全て分析、判断することは難しいため、目的に沿って行動情報を絞り込んでAIに学習させています。

例えば、人間は「興味がある方向にヘソが向く」と言われています。また、「手の動きは目の動きのように物を言う」とも言われます。不審行動を分析し、判断の鍵となる体の部位を絞り込み、カメラとの距離計測から「大まかな動き」や「その移動距離」などを摘出して、対象者が「何をしようとしているのか」ということを判別していきます。

次に、検知した内容が、本当に不審行動であるかどうかをAIに学習させる必要があります。「五感AIカメラ」では、AIが不審行動と判断した人物に色枠(白枠=問題無し、黄色枠=警告、赤色枠=問題あり)を付けて、赤枠になると店舗運営者のスマートフォンなどに通知します(図5)。

ea_left02@2x.jpg

図5 「五感AIカメラ」から送信される通知画面例 (資料提供:アースアイズ)

AIからの通知画面を見た店舗運営者は、それが本当に不審行動なのかどうか、確認・判別し、「学習ボタン」を押してAIに知らせます。この積み重ねによりAIの学習精度が高まり、誤検出を低減させていきます(図6)。

ea_set10.jpg

図6 「五感AIカメラ」の学習の流れ (資料提供:アースアイズ)

「五感AIカメラ」の学習の流れは、個々の店舗、事例に合わせて適応が可能です。例えばセルフレジのスキャン逃れの場合、画像からどのように商品を手に持っているかを判別し、さらに手の動きに不自然さがないかを判別します。また画像情報だけでなく、例えば手の動きとバーコード音が一致するかなども検知します。AIが判断した内容を人間が確認し、AIに知らせることで、学習精度を向上させます(図7)。

ea_set11.jpg

図7 セルフレジでのスキャン逃れ防止の学習内容例(資料提供:アースアイズ)

NEDOの役割

「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術分野」
2015~2019年度

NEDO内担当部署:ロボット・AI部

近年、AI技術はさまざまな分野へ応用できるため多くの業界から注目を集めています。日本でも「人工知能技術戦略会議」が設立され、20173月には開発目標と産業化のロードマップが公表されました。AI技術の利活用を一層促進するために、NEDOは「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」の中でAIスタートアップの優れた研究テーマを発掘し支援することを決めました。

AIコンテスト」の特徴はデモンストレーションによるパフォーマンス審査です。また従来よりも簡素なエントリーシートとし、審査の進捗に合わせて追加資料を求めることで事務負担の軽減も意識しました。2017年度の第1回コンテストでは、57件もの応募があり、その中からアースアイズ株式会社を含む6件のテーマを採択しています。

2019年度には、AI技術の利活用は民間により活発に行われる段階への移行期間に入ったと判断し、「AIコンテスト」は、新しく民間資金を募りコンテスト方式で資金提供先を決定する「HONGO AI」に引き継がれました。

関連プロジェクト


アンケート

お読みいただきありがとうございました。
ぜひともアンケートにお答えいただき、
お読みいただいた感想をお聞かせください。
いただいた感想は、
今後の連載の参考とさせていただきます。