NEDO Web Magazine

環境問題対策

「高効率ノンフロン型空調機器技術の開発」

温室効果の低い冷媒の普及を実現 安全性評価法を踏まえ国際規格が改訂

東京大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所

取材:November 2019

INTRODUCTION 概要


低温室効果なエアコンの普及へ

地球温暖化対策は、世界で年々重要なテーマとなっています。特定フロンは、モントリオール議定書によってオゾン層破壊物質として生産・消費を規制されていますが、その代替物質として利用が進んでいた代替フロン等3ガスも温室効果が高いことから、京都議定書において排出削減対象ガスに指定されています。さらに、2016年にはモントリオール議定書の改正(キガリ改正)が行われ、代替フロンの生産・消費についても、段階的な削減が求められることとなりました。東京大学と国立研究開発法人産業技術総合研究所は、NEDOプロジェクトで、これまでより温室効果が低い冷媒が持つ燃焼性(微燃性)に関する安全性評価法を確立し、環境水準により適合した新しい空調システムの開発に大きく寄与しました。今後は低温室効果な冷凍空調機器の国際的な拡大に寄与していきます。

BIGINNING 開発への道


脱フロンへの取り組み

冷媒とは、暖かい熱を移動させて冷たい熱を持ってくるために用いられる物質のことです。エアコンの冷房の場合、室内機の熱交換器によって、部屋の中の熱が冷媒に伝わり、冷媒は熱を乗せて室外機の熱交換器まで熱を運びます。室外機で熱を外に出して冷たくなった冷媒は、室内機まで戻り室内に冷たい空気を吐き出します。この冷媒による熱移動が冷房・暖房を実現しています。家庭用エアコンには、フロンという冷媒が使われています。

そもそもフロンは20世紀に人類が発明した人工物質で、自然界には存在しません。正式名称をフルオロカーボン(炭素とフッ素の化合物)と呼び、冷蔵庫などの冷媒、断熱材やクッションの発泡剤、半導体や精密部品の洗浄剤、スプレーの噴射剤など様々な用途に活用されてきました。

しかし、フロン類のうち、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)やCFC(クロロフルオロカーボン)といった「特定フロン」は、オゾン層破壊物質であることが分かりました。そして、オゾン層保護の観点から、1987年に採択された「モントリオール議定書」により生産の段階的な廃止が義務付けられたため、オゾン層を破壊しない物質からなる「代替フロン」(ハイドロフルオロカーボン:HFC)等が開発され普及してきました。

代替フロンは、その優れた特性から、冷凍・冷蔵庫、空調機器、自動車エアコン等で、冷媒として利用されてきました。しかし近年、大気中に長期間にわたって安定に存在し、かつ極めて大きな温室効果を発揮する化合物であることから、地球温暖化の原因になるという、次なる問題が明らかになりました。

地球環境対策における海外の動向

温暖化防止に関しては1988年、国連環境計画(UNEP)が、世界気象機関(WMO)と「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」を設立し、地球温暖化に関する自然科学的及び社会科学的取り組みを開始しました。また、1992年には「気候変動枠組条約」が締結され、その具体的な温室効果ガスの排出抑制対策として、1997年に「京都議定書」が採択されました。京都議定書では「代替フロン等3ガス」(HFC、PFC、SF6)が対象物質となり(2013年に新たにNF3が指定され、現在は「代替フロン等4ガス」となっている)、これらはCO2の数百倍~数万倍という大きな温室効果をもっていることから、排出抑制に向けて最大限の努力が求められています(図1)。

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図1 特定フロンや代替フロンの特徴一覧

その後2015年に、2020年以降の地球温暖化対策の国際的枠組みを定めたパリ協定が採択されました。これによって先進国、発展途上国を問わず、すべての国が参加し、世界の平均気温の上昇を産業革命前の2℃未満(努力目標 1.5℃)に抑え、21世紀後半には温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることが目標となりました。また、2016年にはモントリオール議定書の改正(キガリ改正)が行われ、代替フロンの生産・消費量についても段階的な削減が求められることとなりました。先進国は代替フロンの生産及び消費量を、2036年までに段階的に85%削減、開発途上国は2045年頃までに段階的に80%超削減するとしています。

こうした中、欧州における規制は、代替フロン等3ガス(欧州ではFガスと呼ばれる)の冷凍空調機器からの漏えいを削減することに重点が置かれました。欧州では自動車向けエアコン用の冷媒で、R1234yfと呼ばれている冷媒への全面切り替えの動きが加速していきました。R1234yfは、オゾン破壊係数および地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)が非常に低く、地球環境に優しい冷媒とされ、カーエアコンや自動販売機用の冷媒として使用されています。東京大学大学院新領域創成科学研究科教授の飛原英治さんは、この時の衝撃を次のように語ります。
「特定フロンを規制しなければならない時に、R1234yfが欧州で出た時は驚きました。カーエアコンはCO2冷媒が中心になると思っていたので。2007年、2008年ごろの話です」(飛原さん)

一方、空調機器に対しては、当時、R32と呼ばれる冷媒が、性能がよくGWPが低いことから(「なるほど基礎知識」参照)、新たな代替フロンとして世界的に注目されていました。R32のGWPは675で、作動効率が比較的良好で安全性、経済性にも優れています。ところが、わずかな燃焼性(微燃性)を有するという課題がありました。
飛原さんは、「これまで不燃なものを使っていたところに燃焼性のある冷媒であるR32を使うということをメーカーは嫌がりました。家庭に置く製品に燃焼性のある冷媒を使うのは危険だと考えたからです。そこで評価法のニーズが出てきました」と語ります。さらに、国内では高圧ガス保安法において、不燃性のフロン冷媒に比べて「微燃性」冷媒には多くの制約が課せられるとともに、製造工程の防爆対策が必要です。そのため、実際に危険かどうかという観点とは別に、家庭用や業務用の空調機器への使用は避けられる傾向にありました。

しかし、環境規制の強化により、よりGWPの低い冷媒を検討しなくてはなりません。一方で、R1234yfやR32といったGWPの低い冷媒は燃焼性やその他の課題があるため、その安全性をしっかり検証し、評価する必要がありました。こうして、GWPが低い冷媒の開発とその安全性の評価法の確立を目指して、2011年から今回のNEDOプロジェクト「高効率ノンフロン型空調機器技術の開発」がスタートしていきます。

BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口


微小重力装置で正確なデータを計測

今回の評価手法の開発では、冷媒の燃焼性を定義する性質のうち、微燃性冷媒の着火に必要な最小のエネルギーと燃焼速度との関係を明らかにするとともに、消炎距離と燃焼範囲(燃焼上下限界)との関係を一般化しました。消炎距離とは、火炎が生まれたあと継続的に伝播することができなくなる最大の隙間の大きさのことです。これに対し、既に持続して伝播している火炎が消炎に至る隙間の大きさを消炎直径と呼びます。このプロジェクトの成果として生み出された新しい概念です。
国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)機能化学研究部門主任研究員の滝澤賢二さんは、「微燃性冷媒の燃焼限界や燃焼特性などを日本冷凍空調工業会と連携して、実機の安全性評価に使えるような指標を作っていきました」と語ります。そして、微燃性冷媒の燃焼特性を明らかにすることや、実用上の危険性との相関が大きなステップだったと振り返ります。

実際に燃焼性の評価をする際には、微燃性冷媒の非常に燃焼性の低い火炎が安定しないことが最大の難関でした。消炎距離の測定は、冷媒を満たした容器内で平行平板の間で火花による放電を行い、着火に至る最小の平板間距離を測定しなくてはなりません。しかし、微燃性冷媒の火炎は浮力の影響を受けるので安定せず、客観的な評価を行うのに必要な実験データを取得することができません(図2)。浮力の影響により火炎が平板間から上方に抜けてしまい正しい測定ができないのです。そこで、従来の評価方法が適用できないものについては、過去にNEDOプロジェクトで使用した北海道の産総研にある微小重力装置(写真1)を利用し、浮力の影響を受けずに燃焼速度と消炎距離を正確に計測することに成功しました。滝澤さんはその成果について、「燃焼速度は、冷媒の燃焼性等級を規定する指標でもあります。これによって、ほぼ不燃の冷媒から強燃性の冷媒まで横並びで比較できるようになりました。また消炎距離は、着火・消炎特性の指標でもあるため、消炎距離や消炎直径などをデータとして入手し、燃焼速度との関係を数式として明らかに示すことができるようになりました。これによって微燃性冷媒は低着火性であるということを結び付けました」と語ります。

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図2 消炎距離dq測定時の火炎浮上現象

実際の使用環境を想定した微燃性冷媒評価方法の確立

冷凍空調の主要分野で冷媒の低 GWP 化を図るためには、微燃性冷媒を安全に使いこなす必要があります。ところが、冷凍空調機器での冷媒の使用、充填、回収、輸送、保管についての安全を定める冷凍保安規則や一般高圧ガス保安規則において微燃性冷媒の取り扱いに関する規定はなく、プロパンなどの強燃性冷媒と同様の厳しい扱いが求められてきました。そのため産業界からは、微燃性冷媒の燃焼性に応じた取り扱い規制の緩和が要望されていました。

そうした中、NEDOプロジェクトで微燃性冷媒の消炎直径が明らかになったことで、冷媒の安全性を定量的に示す方法が確立されました。つまり、微燃性冷媒を使用したエアコンの室外機に冷媒が漏れ、その内部にある電磁開閉器(リレー)内でスパークが発生した場合、リレーカバーに設けた開口部が消炎直径よりも小さいため、カバー内で万一着火しても火炎は開口部で消炎し、カバー外に通過しないことを証明することに成功したのです(写真2)。

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写真1 北海道の微小重力実験装置の模型
上から落下させながら火炎の測定を行うことで、
人為的に微小重力状態をつくり、浮力の影響を受けないようにする。

また、滝澤さんは、冷媒の燃焼性評価と着火エネルギー評価において、冷媒を実際に使用する際の環境を想定した温度・湿度条件における燃焼特性の評価、そして実用化する上で現に使用されている不燃性冷媒との比較評価を行いました(写真3)。従来ほとんど取り組まれていなかった湿度を考慮した冷媒の燃焼性を定量的に測定することで、微燃性冷媒の燃焼危険性を明らかにすることが可能になったのです。

「今までの燃焼実験では湿度が0%でテストしていましたが、そのあたりを現実に近い形で規格に盛り込むことができました。今回のNEDOプロジェクトの成果は二つあると思います。一つは微燃性のR32冷媒の安全性を評価できたこと。それにより、R32冷媒を利用するエアコンが普及し、家庭用エアコンで使用される冷媒のGWPが1/3になりました。そしてもう一つはR32が高圧ガス保安法において、微燃性がありながらも一定の要件を課すことで不活性ガス扱いとできる(特定不活性ガス)認定をうけたことです」(滝澤さん)

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写真2(左)エアコンの室外機の内部にある電磁開閉器
丸で示した三つの隙間ネジの手前にある隙間が問題となった部分。
隙間の大きさと消炎直径との関係性から微燃性冷媒の着火危険性において
問題がないことが証明された動画 (下)消炎直径実験の様子

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写真3(左)今回の評価法確立に貢献した消炎距離の測定シーン
   (右)実験機器の外観

家庭用エアコンの普及拡大に貢献、実用化と国際化

このプロジェクトでは、東京大学や産総研などのNEDOプロジェクト実施者と日本冷凍空調工業会などが連携した「微燃性冷媒リスク評価研究会」を設置し、プロジェクトの成果と業界のリスクアセスメントの知見を集約しました。微燃性冷媒リスク評価研究会の最終報告書には、「燃焼特性」、「事故シナリオに基づく安全評価」、「危害度評価」、「リスク評価手法」などがまとめられています。これらの成果に基づき、国際電気標準会議(IEC)が制定する国際規格「IEC 60335-2-40(家庭用及びこれに類する電気機器の安全性:空調機・除湿機への特定要求事項)」の電磁開閉器の安全要求などについて改訂が提案され、2018年1月26日付で発行されました。

改訂された国際規格IEC 60335-2-40の主な適正化のポイントは3つあります。第一は、リレーなどにおいて微燃性冷媒の火炎伝播を防止する開口部の最大サイズ(消炎直径)が規定されました。第二は、消炎直径を決定するために必要となる燃焼速度について、湿度の影響を考慮することとされました。第三は、燃焼速度に応じて、一定容量以下のリレーなどの電気接点は着火源と見なさないこととされました。

飛原さんは冷媒規制について、国内問題ではなく、国連の条約や国際的な動きの中にあるものだと捉え、日本は積極的に発言していかなければならないと言います。
「日本の産業界や行政の主張を国際的にアウトプットしないと意味がありません。今回もアニュアルレポートを作成し、日本語、英語のそれぞれで公開しています。工業会は英語で発信する人は多くないので、そうした流れを断ち切って、英語での国際性にこだわることが大事だと考えています。日本の産業競争力を高めるということを考えると、もっと国際発信をしてイニシアティブをとっていかなければならない」(飛原さん)

この国際規格改訂により、微燃性冷媒を使用する家庭用エアコンに対する安全要求が適正化されるとともに、安全性が担保された家庭用エアコンの普及拡大が期待されます。また今後も温室効果の低い冷媒を用いる次世代冷凍空調技術の開発に大きく貢献すると考えられます。

FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来


燃焼性のリスクとGWPの低い冷媒

冷媒の利用における地球環境対策上の課題、「オゾン層保護」と「地球温暖化防止」の二つの側面から、これまで開発が進められてきました。「オゾン層保護」の観点では、オゾン層を破壊する塩素原子を含む冷媒からODP(オゾン層破壊係数)がゼロの冷媒への転換を進めることにより既に対策が行われていますが、もう一方の「地球温暖化防止」の観点では、現状使用されているものよりもさらにGWPが低い冷媒が要求されています。

GWPの低い冷媒には燃焼性を有するものが多いため、安全性の観点から、冷媒の循環量が少量であることが望ましいとされています。ただし冷媒循環量を削減すると、一般に機器性能は低下する傾向にあるため、このような燃焼性を有する冷媒への転換においては、機器の性能を維持しながら冷媒循環量が可能な限り少ない機器の開発が望まれています。
また、機器の普及においては、単に高効率なだけでなく、機器の使用時における高い安全性が確保されていることが重要です。特に、燃焼性や毒性を有する冷媒を使用しようとする際には、冷暖房性能等に関する機器性能評価、安全性評価のほか、実際の使用条件におけるトラブルなどを想定したシナリオに基づくリスク評価を含めた総合的な評価を行い、機器使用における効率と安全を両立することが必要となります。

冷媒の今後

空調機器は一旦市場に出荷されれば十数年にわたり利用され、その期間、温室効果ガスが漏れ出ないような管理が必要です。また、機器の廃棄時にも、冷媒は焼却処分されるか、再生処理によって再び冷媒などの原材料として利用できるように技術開発をする必要があります。

「冷媒そのものでなく、それを扱う機器に関しても評価・制御していき、総合的なリスク評価をしていけば、一番あるべき冷媒の利用と自由なコントロールが可能だと思うのです。ベストソリューションは環境負荷と安全性のバランスです」(飛原さん)

滝澤さんは、今後あるべき冷媒の利用について最後にこう明かしてくれました。「実用化されているエアコンの電磁開閉器には、隙間がありますが、微焼性冷媒の消炎距離の大きさとの関係で安全であることが証明できました。連続的に冷媒の燃焼性を評価することで、実際にどこからどこまでが安全で商品化が可能かということをきちんと定義することができます。世の中に存在している可燃性素材の燃焼危険性は、着火確率と着火危害の程度という点でそれぞれ特徴が異なります。低濃度でも火がつきやすいけれど、激しく燃え広がらないものもあれば、高濃度になるまで火はつきづらいが一度燃えれば危害性の高いものがあります。これに対して評価法を連続的に定めておけば、実用化を検討する際にベストなソリューションを選ぶことができると思います」
地球環境のカギを握る冷媒は、今後もさらなる技術開発が期待されます。

開発者の横顔


より安全な冷媒への挑戦

今回のNEDOプロジェクトで国際的な冷媒評価方法を確立した飛原さんは、産学官の様々な組織の主導的リーダーとしてプロジェクトをけん引してきました。冷凍空調機器の冷媒については特定フロンからHFCへの転換が進行することにより、HFCの排出量は今後急増が見込まれることから、これを減少に転換させることにつながる展開が期待されています。世界の空調に先駆けた研究を続ける飛原さんは、「私の夢は冷媒を回収しなくてもよい世界をつくること。ガスを大気に出しても安全な社会を作る。そのためには、プロパンを中心として、水や他の素材も使って、究極的には大気中に排出してもOKだと言えるくらいの冷媒を作り出したい」と未来への希望を語ります。

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東京大学大学院
新領域創成科学研究科 教授
飛原 英治さん

あらゆる選択肢を視野に

滝澤さんはNEDOプロジェクトの中で実験と評価法の確立に大きく貢献しました。評価法の確立に必要となる、微小重力実験装置や消炎直径の測定などを利用して信頼性の高い実証データを得ました。冷媒評価のプロフェッショナルである滝澤さんはR32を超える次世代の冷媒の可能性を模索し続けています。
「冷媒探索の難しいところは、自然界でパーフェクトの答えがないということです。沸点を下げなければならないのですが、沸点を下げるということは分子数が小さくなるので、自ずと組み合わせが限られてくる。新しい素材開発もこれから頑張っていかなければならないのですが、同時に既にある素材についても今回のように新たな評価法を確立することで選択肢を増やしていきたい。結果として温室効果の低い技術開発につなげられればと思います」

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国立研究開発法人産業技術総合研究所
機能化学研究部門 主任研究員
滝澤 賢二さん

なるほど基礎知識


冷媒の種類と規制、そして微燃性冷媒実用化までの流れ

2006年より、欧州における定置用冷凍空調機器についての規制では冷凍空調機器からの冷媒漏出を削減することに重点が置かれています。具体的には、適切な機器管理、作業者の研修、Fガスを使用している機器のラベリング、Fガスを生産・輸入・輸出している事業者の報告義務などを課しています。こうした中、欧州では自動車用エアコン用の冷媒で、R1234yf への全面切り替えの動きが加速していきました。R1234yfは、ODPおよびGWPが低く、地球環境に優しい冷媒とされ、カーエアコンや自動販売機用の冷媒として使用されています。ただし、R1234yfは密度が低く、出力を上げるには多量の冷媒を封入する必要があります。結果として機器の大きさがネックとなるため設置用には向いていません。

設置型のエアコンには長くR410AやR22という冷媒が使われていました。しかし、2015年のパリ協定以降、先進国、発展途上国を問わず、21世紀後半には温室効果ガス排出の実質ゼロ化を目指しています。このように、温室効果ガスについて削減が求められたことから、今回のR32冷媒のようにそれまでの冷媒よりGWPが低い冷媒が注目されて本プロジェクトによって実用が開始されました。

一方で、ビル用のマルチエアコンは、室内機が複数あるのに対して室外機は通常一つしかありません。従って、1つの冷媒で、多くの部屋に空気を共有しなければならないため、家庭用エアコン等と比べ、微燃性冷媒使用のリスクが上がります。また、ビル用のマルチエアコンはパイプやダクトなどを長くひかなければならならず、これらの物理的な損傷、腐食も発生する可能性があるため、微燃性・低燃性の冷媒を使うことはまだ難しい部分もあります。

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図3 低GWP冷媒R32、従来品との比較図 (『微燃性冷媒リスク評価研究会最終報告書』より抜粋)

NEDOの役割

「高効率ノンフロン型空調機器技術の開発」
(2011~2015年度)

(NEDO内担当部署:環境部)

現在、HFCをはじめとした冷媒は地球温暖化防止の観点から、その使用が世界的に見直されています。規制が定められるとともに、より低いGWP特性を持つ冷媒の開発が引き続き求められています。
NEDOは「高効率ノンフロン型空調機器技術の開発」において、低GWP冷媒を用い、かつ高効率を両立する空調機器を実現するため、機器システム、冷媒の両面からの技術開発、及び冷媒の性能、安全性評価を実施しました。

NEDOは、過去に実施した冷媒関連のプロジェクトの成果を踏まえた開発目標を設定し、進捗を管理しました。また、外部有識者による技術検討会を開催し、その指摘を踏まえ、選択と集中による実用化研究の後押しを行いました。

その結果、微燃性冷媒の安全性評価手法を確立し、実用化に成功しました。今後も、環境負荷が低い空調機器の開発に貢献していきます。

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