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クリーンデバイス社会実装推進事業
課題解決型福祉用具実用化開発支援事業

半導体レーザー技術を使い視覚支援用アイウェアを開発

株式会社QDレーザ

取材:October 2017

INTRODUCTION 概要



ロービジョンの人々のQOL向上のために

白内障や極度の屈折異常など、目の疾患により視機能が極めて弱く、メガネやコンタクトレンズでは視力矯正が困難な“ロービジョン(社会的弱視)”と呼ばれる人たちは、国内だけでも150万人を数えます。量子ドットレーザーのトップ企業である株式会社QDレーザは、NEDOプロジェクト「クリーンデバイス社会実装推進事業」(2015~2016年度)及び「課題解決型福祉用具実用化開発支援事業」(2015年度)にて、同社の先進的半導体レーザー技術を応用し、網膜に直接画像を映し出す画期的なアイウェア「RETISSA(レティッサ)」を開発しました。「RETISSA(レティッサ)」を装着すると、ロービジョンで見えにくかった世界が、くっきりと見えるようになる可能性があります。また、今までにない視機能検査器としての応用展開も期待されています。

BIGINNING 開発への道


ロービジョン者は国内に150万人、全世界で2.5億人も

近視や遠視、乱視などがあっても、ある程度であればメガネやコンタクトレンズで視力を矯正でき日常生活は送れます。ところが、著しく視機能が低下している“ロービジョン(社会的弱視)”の状態になると、メガネ等を使った視力矯正は難しくなります。

ロービジョンの原因は、強度の近視や遠視、乱視などの屈折異常、水晶体が混濁する白内障、網膜疾患の加齢黄斑変性や緑内障など様々です。屈折異常のように遠くや近くが見えないこともあれば、視界の一部がぼやける、見えない、徐々に視野が狭まってくるといったように、疾患によって見え方も様々です(図1)。

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図1 目の構造と各部位に生じる眼疾患(資料提供:QDレーザ 出典:National Eye Institute, National Institutes of Health)

ロービジョンの人は、国内で150万人、全世界で2.5億人にものぼるといわれており(日本眼科学会調べ、WHO統計など)、高齢化が進むに従って、ロービジョンの人の数はさらに増えていくと考えられます。

ロービジョンの人たちに対しては、ルーペや拡大読書器、スマホアプリなどの視覚支援ツールが開発されています(写真1)。しかし、器具を使って文字は読めたとしても、目の前の人の顔や表情までは見えない、映画館で映画が見られない、一人で外出ができない、というように日常生活において数々の不便を強いられています。

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写真1 ロービジョンのための視覚補助具(ルーペ、拡大読書器、単眼鏡)(画像提供:QDレーザ)

レーザー光を網膜に直接投影するアイウェア

人間の視覚は、外から入ってきた光が角膜を通り、水晶体というレンズの厚みを変えることでピントを調節し、網膜で像を結びます。そうして映し出された像が、視神経を通じて脳へと送られます。

ところが、角膜や水晶体といった前眼部に病変や屈折異常があると、網膜でうまく像を結ぶことができません。「RETISSA(レティッサ)」(写真2)は、目の中にレーザー光を入れ、網膜に直接映像を映し出します。この方法ならば角膜や水晶体に異常があっても”見る”ことが可能です。

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写真2 メガネのような外観の網膜走査型レーザアイウェア「RETISSA(レティッサ)」

今回、「網膜走査型レーザアイウェア」の開発を行ったQDレーザ社は、量子ドット(QD:Quantum Dot)レーザーの研究開発からスタートした企業です。創業者であり同社代表取締役社長の菅原充さんは、もともと株式会社富士通研究所に勤務しており、その頃から半導体レーザーの開発に携わってきました。そして、量子ドットレーザー技術を実用化するためのスピンオフベンチャー企業として、2006年に同社を設立しました。

設立直後から現在まで、複数のNEDOプロジェクトにて研究開発を進め、世界で初めて通信用量子ドットレーザーの開発と量産にも成功しました。

半導体レーザーの研究開発から領域を広げ、医療・福祉分野へ

同社のコア技術ともいえる量子ドットレーザーは、半導体に電流を流してレーザー発振させる半導体レーザーの一種で、ナノメートルサイズの半導体粒子「量子ドット」をN型半導体とP型半導体の層で挟み発光させるものです。

従来の半導体レーザーの弱点である温度依存性が少なく、200℃でも安定して動作するほか、従来のレーザーの1/10という低消費電力での高速通信が可能です。そのため光通信デバイスの小型化、省電力化、高密度実装を可能にするだけでなく、低コストで大量生産も実現できるものとして注目されています。

さらに同社では、あらゆる波長に対応できるレーザーの精密波長制御技術を確立し、様々なアプリケーションへと発展させていきました。それによって、量子ドットレーザーだけでなく、さらにそこから発展した光通信・シリコンフォトニクス、情報処理デバイス・材料の高精細加工技術や、これまでにない緑・黄緑・橙の光を発する半導体レーザーによるバイオ系検査装置なども手がけました。このようなレーザーによる応用領域のひとつとして、ロービジョンの人のためのアイウェアの開発があると、菅原さんは話します。

「当社は、通信用インフラであった半導体デバイスをもっと身近なものとして、様々なアプリケーションに適応することを目指してきた会社です。設立以来、半導体レーザーのチップや素子を製品としてメーカーに卸し、メーカーが加工装置や検査装置、通信装置に組み込む形で事業を続けてきました。当社のコアは半導体レーザーの材料技術と光学設計技術、及びそれらを下支えするナノテクノロジーと基礎理論です。さらに、数年前から、それを基盤として自社の最終製品を開発し、自ら積極的に新しい市場を作ることに乗り出しました。それが結実したものがアイウェアです」(菅原さん)

同社が参画したNEDOの「クリーンデバイス社会実装推進事業」は、省エネルギー化を実現するデバイスを、従来利用を想定してきた機器などだけではなく、様々な製品・サービスの新規用途に拡大し、省エネルギー効果を最大限に活用することを目的とした事業です。同社は2015年度から本事業に参画し、実用化・標準化に向けたレーザー方式ヘッドマウントディスプレイの優位性の評価と要求機能の明確化を実施しました。

そうした中で、NEDOの福祉関連の支援事業の存在も知り、もともと同社で開発を進めていた可視光半導体レーザーを活用したアイウェアの開発を本格的に行うタイミングで、NEDOの「課題解決型福祉用具実用化開発支援事業」に採択され、ロービジョンの方が実際にアイウェアを日常的に使用できるよう、小型化、高画質化に取り組みました。

BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口


高度な光学設計を駆使し、歪のない高精細映像投影に成功

網膜走査型レーザアイウェア「RETISSA(レティッサ)」のフレーム内側には、超小型のレーザープロジェクターが取りつけられています。そこから照射された赤、緑、青の微弱な光(RGBレーザービーム)が、高速で振動するMEMS (機械部品と電子回路を融合し微細部品を形成した微小電子機械部品)ミラーと半球状の反射ミラーによる2段階の反射を経て、瞳の中へ入っていきます。その光で映像が網膜に直接投影される仕組みです(図2、写真3)。

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図2 赤緑青(RGB)の3原色のレーザー光に変換された映像は、MEMSミラーと反射ミラーを経て瞳孔を通り、網膜に直接投影される(資料提供:QDレーザ)

菅原さんは、「眼球の奥にある半球状の網膜というスクリーンに、映像を映し出すプラネタリウムのようなものだ、と言うとわかりやすいかもしれませんね」と、その原理を説明します。

網膜の視神経には、赤、緑、青に反応する3種類の錐体細胞があり、片眼の網膜上に合計で約600万個並んでいます。この錐体細胞が赤、緑、青のレーザーの刺激を受けると、光の強さの比率に応じて色を感じるという仕組みで、原理としてはブラウン管ディスプレイと同様です。

網膜に映す画像がより鮮明に見えるようにするためには、光の強さではなく、解像度が高いことが重要でした。レーザーの光点が小さく緻密な点描を行うほど、高精細な画像を映し出すことができるからです。最新の「RETISSA(レティッサ)」が投影する画像は、1秒あたり60フレームで、横・約1,000点、縦・約600点の点描です。さらにドットを細かくしていけば、技術的にはいわゆる8Kテレビ相当の高画質を実現することも可能です。しかし、この性能を実現させるためには、いくつかの技術的課題のクリアが必要でした。

まず、「RETISSA(レティッサ)」は既存の可視光レーザーを利用していますが、赤、緑、青の3色のレーザーを束ねて網膜にきれいに映すことは想像していたよりも困難でした。そこで、何もせずに斜めから光を入れると描画領域の形が歪んで台形になってしまうので、それを補正する方法を開発しました。

また、照射する光は目の中の瞳孔で収束させて、網膜でちょうどピントが合うように調整する必要があるのですが、レーザー光が太くなってしまうという問題にも直面しました。

「この部分の光学設計はかなり複雑で、最初のうちは焦点を合わせるにも時間がかかりました。目そのものがレンズの機能を持っているので、目を通すことで光が収束してしまうのです。最終的にどの状態が一番良いかは、普通のメガネと同様に、かけた人が『見える』と感じる、その感覚を重視して調整していきました」(菅原さん)

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写真3 3色のレーザー光を複数のミラーを経て、瞳孔に入れる光学系。それらが全てメガネの片目部分に収まるよう設計されている

レーザービームの太さは、網膜上で最適になるように光学設計をする必要があります。しかし、ただ細ければよいのではありません。細くしすぎると光の回折現象により広がってしまうため、ある程度の太さを持たせることが重要でした(写真4)。

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写真4 極めて小さなミラーだが、高速で横・約1,000点×縦・約600点という高精細な画像を描画することが可能

メガネとして日常的にかけられるよう小型化

「網膜走査型アイウェア」については、アイデア自体はかなり以前からありました。1990年代初めにアメリカのワシントン大学で開発されたものが最初です。また、レーザーによる網膜スキャンは、それより古く1980年代半ばに、レーザーで網膜をスキャンして撮影するSLO(Scanning Laser Ophthalmoscope)技術による眼底観察方法が開発されています。

しかし、その後製品化されたアイウェアは、メガネ内側の液晶パネルなどの映像を見せるタイプが主流でした。これに対して「RETISSA(レティッサ)」は、直接目の中にレーザー光を入れます。そのため、当然ながら使用する光は安全でなければなりません。

QDレーザでは、レーザーの安全に関する国際/国内規格(IEC60825-1/JIS C 6802)及び米国食品医薬品局(FDA)の基準をともにクリアすることを確認の上、より厳しいFDAの基準に合わせてレーザーを設計しました。光の強さとしては室内の照明に使われているものよりも弱く、安全基準の中でも厳しい数値に合わせて設定しています。

「当初予定していたよりも弱い光を使うことにはなりましたが、網膜走査による画像認識には、弱い光でも問題ないことがわかりました。弱い光を使うことによって、安全性が高まることに加え、省エネ化・小型化を進めやすくなりました」(菅原さん)

2000年代に入って製品化されたレーザアイウェアの中には、QDレーザのアイウェア同様の網膜投影型のものもありましたが、ヘルメットをかぶるような大型なデバイスであったため、普及しませんでした。そこで菅原さんとそのチームは、メガネの中に収まるような光学系を発明。MEMSミラー、反射ミラー、前面を撮影するカメラといった光学系部品が収まるようにしました(写真5)。

「メガネサイズにするための光学設計については、特許を20件ほど出願していて、そのうち十数件はすでに取得済みです」(菅原さん)

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写真5 初期プロトタイプはコントローラー部分だけでもA4サイズもあり、総重量は7kgを超えた(写真左)、9.5代目となる最新プロトタイプはメガネ部分が約60g、コントローラー部分も約460gと、大幅な小型化・省エネ化を実現している(写真右)

開発初期のNEDO助成により、各事業が大きく前進

富士通研究所勤務時代からNEDOプロジェクトに関わり、2006年のQDレーザ設立後も量子ドットレーザー、精密加工、バイオ系検査装置、レーザアイウェアと、数々のNEDOプロジェクトに携わってきた菅原さんとQDレーザ。それぞれの事業は、NEDOの支援を受けたことで大きく前進したと菅原さんは話します。

「たとえばバイオ系検査装置に使われている黄色やオレンジのレーザーは、当時まだ世の中になかったもので、NEDOの支援がなければ最初の一歩を踏み出すこともできなかったと思います。レーザアイウェアにしても、プロトタイプ作りのところで支援していただいたことが大きいですね。そのように開発の極めて初期段階において支援を受けたことが、課題解決やブレークスルーにつながっています。当社の要素技術やデバイス技術の多くの部分は、NEDOの支援によって達成されたものと言っていいでしょう」

「量子ドットレーザーは通信に特化した波長域で有利なレーザーなので、アイウェアに搭載することは考えていません。しかし、レーザー光で世界を変えることを目指す当社にとっては、量子ドットも、アイウェアも、広い意味でレーザーの応用範囲のひとつとして捉えています」(菅原さん)

FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来


QDレーザは、福祉系や電子機器系の展示会に設けられたNEDOブースに、網膜走査型レーザアイウェアを、何度も出展してきました。そして、その開発成果により、「CEATEC JAPAN 2016」で「経済産業大臣賞(富士通と共同受賞)」「米国メディアパネル・イノベーションアワードグランプリ」をそれぞれ受賞しています。

「RETISSA(レティッサ)」のメガネの中央には小型カメラが埋め込まれていて、正面を撮影して、そのまま網膜に投影することができます。また、スマホやパソコンなどと繋いで、望みの画像を映すことも可能です(写真6)。

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写真6 メガネ前面中央に取りつけられたカメラ。このカメラを通して見れば、目の前の現実世界をリアルタイムで見ることができる(拡大も可能)

網膜に直接画像を映すので、網膜の機能がある人ならば、装着者の視力やピント位置にほぼ関係なく、くっきりと対象を見ることができます。このような”フリーフォーカス”であることも、「RETISSA(レティッサ)」の大きな特長です。加齢黄斑変性などの網膜の病気があっても、網膜の一部に正常な部分が残っていれば、その部分を使って画像を投影することもできると期待されます。

「RETISSA(レティッサ)」と同様の技術は、民生機器として2018年夏に発売される予定となっています。ただし、カメラは内蔵されておらず、医療機器ではありません。まずは外部から入力した画像を見るための”ウェアラブルディスプレイ”として販売を予定しています。このウェアラブルディスプレイでは、スマホやタブレットに接続して画像を見る用途を想定しています。

医療機器として承認されるための体制作りにも奔走

また、医療機器として製造ラインを構築して、製造販売承認の取得を目指しています。光学設計は得意とするところでしたが、医療機器開発に賛同してくれるパートナーを発掘して、資金を集めるというプロセスには特に苦労したと菅原さんは話します。

「医師とのコネクション作りや臨床試験の準備など、基本的には自分たちのコネクションを駆使して進めてきました。しかし、NEDOの支援があったお陰でプロトタイプを作ることができましたし、医療関係者につながる人的サポートなど、まだ実用化にもほど遠い初期段階では、特にNEDOに助けられることが多かったです」(菅原さん)

「RETISSA(レティッサ)」を医療機器として世界で販売するために、国外でも医療機器としての認証を取得する準備も進めました。日本とドイツでは、医師とともに臨床研究を行っています。

医療機器として普及するためには医療界のバックアップが不可欠であるため、国内の眼科医を中心に人脈も広げてきました。2016年4月には、SLO技術の医療応用研究会が設立されました。研究会には日本を代表する眼科医が名を連ねており、QDレーザはこれに協賛企業として参加し、「網膜走査技術・装置の発展と医療応用の拡大、社会的認知と信頼の獲得」を目的とした活動を展開しています。そして、その先の医療・福祉応用としては検眼装置を考えていると菅原さんは話します。

「網膜機能検査装置が保険内診療として認められれば、医療機関での普及が加速するでしょう。糖尿病の症状として緑内障を発症することもあるなど、眼疾患が内科の病気と関連することもありますから、内科で使うことも考えられます。一方で、普及版検診装置の構想もあり、病院の待合室や健診センターなどに設置して気軽に視機能の検査ができるようにし、病気の早期発見につなげたいと考えています」(菅原さん)

この検眼システムは簡単な手順で使用できるため、眼鏡店や自宅での検眼が可能になり、眼科技術の新興国への進出を後押しすることも期待されます。

次世代スマートグラスとしての展開も

「RETISSA(レティッサ)」はロービジョンの人向けのレーザアイウェアとして研究開発をスタートしましたが、「網膜に直接レーザーで描画する技術を人類共通のプラットフォームにする」という、壮大なビジョンを菅原さんは抱いています(図3)。将来予想図にはAR(拡張現実)やVR(仮想現実)、スマートグラスという道筋が描かれています。

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図3 QDレーザが目指すレーザー網膜走査技術のロードマップ。福祉・医療からスタートして“メガネ型スマホ”と呼べるほどのIT機能を目指す(資料提供:QDレーザ)

「RETISSA(レティッサ)」には、投影した画像に重ねて目の前の現実世界を見ることができるという特徴があり、画像が投影されているときでも肉眼でのビジョンがぼやけることがありません。フリーフォーカスの投影画像と現実世界を重ねてどちらもくっきり見ることができるため、特にARで強みを発揮すると期待されています(図4)。

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図4 フリーフォーカスの「RETISSA(レティッサ)」(左)は、液晶ベースのアイウェア(右)と違って現実の視界と投影画像の両方を同時に見ることができる究極のARを実現(資料提供:QDレーザ)

「将来的には、プロジェクターをさらに小さくし、IT機能を盛り込んだスマートグラスに発展させたいと考えています。クラウドと連携して過去と現在の映像と重ね合わせたり、道順をナビゲートしたりといったことが可能になります。また、緑内障の検査など、日々の健康状態を無意識下でチェックすることもできるでしょう。そういったことが実現すれば、人類の“見る”という行為が大きく変わるかもしれません」(菅原さん)

開発者の横顔


レーザー光で社会課題を解決していく

富士通研究所勤務当時から半導体レーザーの研究開発に携わってきた菅原さんは、レーザー光によって社会課題を解決することを目指してきました。

「ロービジョンの人々への寄与も、解決すべき社会的課題の一つ。医療技術が大きく進歩する現代において、ロービジョンの眼科医療は未解決な課題も多く、効率的な視機能検査手法が確立されていませんし、眼科医の関心も高いとは言えません」

「そのような実情を知るに従って、私たちがやるべき意義を感じています。目とレーザー技術は親和性が高く、視機能もいかに光を捉えるかというものです。私たちの強みとする技術をそこで活かしていきたいと考えています」

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株式会社QDレーザ
代表取締役社長
菅原 充 さん

なるほど基礎知識


半導体レーザーから量子ドットレーザーへ

半導体レーザーは、半導体に電流を流してレーザー発振する小型素子のことです。レーザー媒質が気体であるガスレーザーなどよりも小型・軽量であることが特徴で、DVDやBlu-rayなどの光記録や、光ファイバーなどの分野で応用範囲が広がり、情報通信社会の進歩に大いに貢献しました。

レーザー光の波長は、アルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)や窒化ガリウム(GaN)といった活性層の材料によって変わりますが、400~800nmの短波長から1,300~1,600nmの長波長まで発振できます。集光性に優れた短波長は光記録などに、一方の長波長側は光通信用途にと、波長によってその応用分野が分かれます(表1)。

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表1 半導体レーザーの波長と主な応用例

ただし応用分野に合わせて波長ごとに開発されてきた半導体レーザーは、細かい波長制御技術が確立されていないこと、熱変化に弱く応用範囲が限られること、といった課題もありました。

そうした中、東京大学の荒川泰彦教授が1982年に提唱し、富士通研究所において菅原さんが研究を積み重ねて世界をリードするとともに、自らが起業したQDレーザが量産化に成功したのが「量子ドットレーザー」です。レーザー発振の仕組みはそれまでの半導体レーザーと同じですが、PN接合層に“量子ドット”と呼ばれる数nmサイズの粒子を挟み込み、その粒子が発光します。

“量子ドット”によって光を増幅する電子密度が極めて高くなることから、従来の半導体レーザーに比べ、大量生産や高集積化が容易になるばかりでなく、温度変化にも強いという特性もあります。

QDレーザでは量産化とともに、「グレーティング露光技術」「GaAsエッチング技術」「GaAs上の再成長技術」を駆使して、半導体レーザーの波長を自在かつ精密に制御できる技術を確立しました。そして、従来不可能とされてきた、”黄緑”や”オレンジ”の半導体レーザーも実現しました。

「量子ドットレーザー」は、温度変化に強く、それまでの半導体レーザー以上の小型化・低消費エネルギー化が可能で、光波長制御技術と組み合わせることで、半導体レーザーの応用範囲を一気に広げました。

現在、グローバルに増え続けるデータ通信量への対応やデータ処理能力のさらなる向上が必要とされています。そして、その解決のカギを握るとされているのが「量子ドットレーザー」による「シリコンフォトニクス」です。電子で行われてきた信号伝送を、「量子ドットレーザー」で光に置き換えることで、情報伝送能力は100倍になり、低電力化・低コスト化も可能になります。

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図5 200nmの量子ドットレーザー素子のPN接合層には数nmサイズの量子ドットが多数並んでいる。温度変化にも強いので、ワンチップLSIとして光回路を実現(画像提供:QDレーザ)

NEDOの役割

「課題解決型福祉用具実用化開発支援事業」
(2015年度)

(NEDO内担当部署:イノベーション推進部)

NEDOは、より社会のニーズに沿った福祉用具の実用化を後押しするため、課題解決型福祉用具実用化開発支援事業の助成対象を選定する際に、(1)新規性・研究開発要素を持っていること、(2)利用者ニーズに適合するものであること、(3)具体的な効用が期待され、一定の市場規模を持ちユーザーにとっても経済的に優れていること、を支援の前提として、公正に支援企業を決定しています。

また採択された企業に対しては、開発状況を確認するとともに、展示会への開発品の出展も支援するなど、ビジネスマッチングを後押ししながら、市場の声やユーザーニーズを踏まえた支援を行っています。

株式会社QDレーザは、本事業にて研究開発を行い、半導体レーザー技術などを応用し、網膜に直接画像を投影する画期的なアイウェア「RETISSA(レティッサ)」を開発しました。

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