NEDO Web Magazine

ロボット・AI・福祉機器

車いすの高速自動洗浄消毒乾燥ユニットの開発/
高性能・低公害マットレス自動洗浄消毒乾燥機の開発

車いすとマットレスの全自動洗浄で、 医療・介護従事者の負担を大幅軽減

アタム技研株式会社

取材:January 2013

INTRODUCTION 概要


福祉用具の洗浄・消毒を自動化して感染予防!

わが国は超高齢化社会を迎え、今後も増々、医療や介護の需要が高まっていくと予想されます。しかし、それに伴う医療・介護従事者の負担は、未だに改善されておらず、大きな課題となっています。従事者の負担軽減を図る機器の開発が求められていますが、福祉事業という市場では、製品開発にあたり、リスクが高いため、なかなか民間企業が挑戦しにくい事情があります。NEDOでは、そうした社会的課題に対して、国民が健康で安心して暮らせる社会を実現するために、「福祉用具実用化開発推進事業」を行っています。愛知県丹羽郡扶桑町のアタム技研株式会社ではNEDOの支援を受け、車いすとマットレスの自動洗浄乾燥機を開発しました。医療・介護従事者の負担軽減と、さらには清潔な福祉用具を使うことでの患者・被介護者の感染予防とQOL向上に貢献しています。現在、全国で車いす洗浄機器関連で、約220台、マットレス洗浄乾燥機で数十台が販売されており、病院や介護関連施設等で活躍しています。

BIGINNING 開発への道


超高齢化社会で求められるものづくり

2011年度の調査では、65歳以上の高齢者は、日本の全人口の23.3%に達しており、2007年に超高齢化社会に突入した以降も、高齢者層が年々増加していることが明らかになりました。一方、出生率は1.39(合計特殊出生率)と低水準を維持しており、このままでは、従来以上に介護者の負担が重くなりかねません。過剰な負担は、被介護者のQOL低下にもつながります。

そこで、福祉施設や病院、在宅介護の現場の仕事を機械化・自動化することによって、医療・介護従事者の負担を軽減することが求められています。

特に車いすやマットレスの洗浄は医療・介護従事者にとって大きな負担になっている作業の一つです。現在、車いすとマットレスの洗浄は手洗いが一般的で、介護に割かなければならない時間を非効率な手洗いに割り当てなければならないのが実情です。

そのため、介護現場では必要最低限の洗浄にとどまっており、不衛生な車いすやマットレスが感染症の媒介となってしまうおそれもあります。

手洗いでの洗浄負担を軽減しつつも、清潔な車いすやマットレスを使ってもらいたいという、医療・介護従事者の需要があるにもかかわらず、福祉用具の洗浄機開発は進んではいませんでした。理由は、福祉事業者を対象にした製品展開では市場規模が充分でなく、開発リスクが大きいことにありました。

燃焼とその制御のプロ集団が世界初の本格的車いす自動洗浄機開発に挑戦

愛知県丹羽郡扶桑町にある、ガス・電気に関するスペシャリスト技術者が集まったベンチャー企業のアタム技研株式会社では、あえてそうしたリスクの高い福祉用具洗浄機開発に、自分たちの技術を活かそうと挑戦を続けています。

同社では、NEDO支援のもと、以前から開発に取り組んできた「車いす自動洗浄機」の開発と改良を行い、その実用化に成功。引き続き、「マットレス自動洗浄・乾燥機」の研究開発にも取り組み、2010年に実用化・販売を開始しました。

アタム技研はリンナイ株式会社で専務取締役開発部長まで務めた玉田一實会長が中心となって起ち上げられたベンチャー企業で、設立当初は、ガス燃焼技術とそれを安全にコントロールする電子制御技術やメカトロニクスに精通した技術者が集まり、大型給湯設備の設計、製作などを請け負ってきました。しかし、車いす・マットレス自動洗浄機の開発と販売を契機に、現在では、福祉分野が会社全体の売り上げ4割強を占めるまでに成長しました。

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アタム技研が開発した車いす自動洗浄機「リフレッシャーPro」と「リフレッシャー・ライト」(左)と、マットレス自動洗浄乾燥機「MR-011」(右)

きっかけは医療用器具の洗浄装置から

アタム技研では、車いすの自動洗浄機に取り組む前に、当初、メスや鉗子などの医療用(手術)器具を洗浄殺菌消毒する装置を開発し、試行販売をしていました。医療福祉系の展示会に出展していると、「車いすも洗えるといいね」という意見を何度となく来訪者から聞かされました。

そこで市場調査を行ったところ、車いす洗浄の需要があるという結果が得られました。というのも、まだ医療・福祉市場には、世界的に見ても本格的な車いす用自動洗浄機はなく、機械洗浄は手洗いよりも衛生的で、医療・介護従事者の労働負担軽減にもつながるだろうと考えられたからでした。

これまで扱ってきた手術道具の洗浄機械は、衛生的に用具を洗浄する高度な技術が詰まっていて、煮沸や超音波、強水流での洗浄も可能でした。代表取締役社長の塚原弘祥さんは、「手術用具に比べれば技術的にはスケールダウンしたものになるだろうから、色々な洗浄方式に対応してきた自分たちの技術ならば、十分に実現できるはずと思いました」と当時を振り返ります。

しかし、そんな彼らの思いとは異なり、充分な洗浄性能を達成するための試行錯誤が続き、開発・実用化は簡単にいくものではなく、車いす特有のゴムやプラスティック部品に付着した汚れ、血液や尿、体の組織、そうした汚れが積み重なった場合など、予想していなかった問題が山積でした。

プロトタイプを開発、実際の福祉施設で試用してもらい課題や改善点をピックアップ

一方、福祉分野に関しては門外漢でも、燃焼やメカトロニクスについては専門家集団なので、プロトタイプの開発自体は、福祉分野の常識にとらわれず、自由な発想で取り組むことにしました。

2002年にプロトタイプが完成、実際に福祉施設で使ってもらうことになりました。すると施設側から、より汚れを落としたい箇所の指摘や、メンテナンス方法の簡略化、所要時間短縮など、様々な意見が寄せられました。

特に大きな改善が求められたのは車いすのセット方法でした。当初は装置にそのまま車いすを入れるのではなく、事前に車いす専用の箱にセットしてから洗っていたため、複雑な操作が必要でした。また、汚れを落とした洗浄液が再び座面にかかり、汚れがうまく落ちないという指摘もありました。

これに対して、モニター試験を行ったある施設から、「車いすをうつぶせにしてセットしてはどうか」という提案があり、採用したところ、問題改善だけでなく、価格や耐久性の点からも大幅な改善が実現できました。

その他にも、施設が受け入れられるサイズや、機器の価格について意見を聞くことができ、その後の商品展開への参考になりました。改善後の車いす洗浄機を福祉展に展示すると、「ぜひほしい」という介護事業者の声があり、商品化の可能性が高まりました。パナソニック電工との共同開発も実現して品質水準も格段に向上、2004年には一般販売までに至ることができました。

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自動洗浄機に車いすを俯せにセットしたところ(写真は現行製品のもの)

車いす洗浄機事業の道を拓いた意外な突破口

ところが、商品化第一号の初期型「リフレッシャー」は、介護現場での評判にもかかわらず、販売台数が伸び悩みました。車いすについては法制度などで衛生基準が定められていることもなく、介護施設経営者にとって、車いす自動洗浄機の導入へのインセンティブが働きにくかったからでした。また、介護施設によっては車いす自動洗浄機を置くスペースを確保すること自体が難しいという場合もありました。

代表取締役会長の玉田さんは、「思うように売れなかった初代の車いす洗浄機ですが、決して社会的に求められていなかったわけではありません。医療・介護従事者の負担を軽くし、高齢者の衛生管理を向上させることは重要な社会的課題で、技術者が取り組むべき使命だと私は考えていました」と語ります。

アタム技研では開発を諦めず、新たな改良・開発のために、2005年、NEDOの「福祉用具実用化開発推進事業」に参加しました。

市場開拓のための突破口は意外なところにありました。車いすの自動洗浄には介護施設や病院ではなく、車いすのレンタル業者にニーズがあったのです。車いすレンタル業者は、介護施設や病院、介護保険利用者に、大量に車いすを貸し出しています。

返却され、新たに貸し出すときには新品同様の清潔感が求められます。しかし、車いすの車輪(タイヤ)は汚れやすく、またそれが目立つため、真鍮製のタワシを使い手作業で磨いていました。それでもなかなか汚れは落ちません。

この厄介な汚れに対して自動で車輪を洗いあげる洗浄機を、NEDOプロジェクトで研究開発中の洗浄技術の一部を利用して製品化し、モニター販売を始めたところ、その年だけでも40台近い販売実績を上げることができました。(平成22年1月特許取得)

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車いすの洗浄機市場を拓き、アタム技研の洗浄技術を示す製品となった車いす車輪洗浄機「ピッカラー」(写真は現行製品)

車いすを全自動で洗浄・消毒・乾燥

「車いす本体の洗浄については、レンタル業者から、なるべく手作業なしで洗えるようにしてほしいとの要望がありました」と塚原さんは言います。

「そこで、利用者の手が触れないような箇所に向けても洗浄ノズルの数を増やし、ポンプの能力も上げて、さらに適切に水路やノズルを切り替えることによって、車いすのあらゆる箇所に強い水圧で水をかけられる工夫をしました」と、技術部の丹羽部長は説明します。

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車いすをくまなく洗浄できるように着けられたノズル。各部に当たるように微妙な角度が工夫されている(左)、ステップ(足載せ)にも専用の洗浄ノズルが(右)

洗浄方式は、洗浄液で洗った後、45本のノズルから80℃の高圧水を噴射します。こびりついたしつこい汚れにも集中して高圧の水を当て続けることで、付着物を剥がし落とすことができます。洗浄液は装置内で循環させて洗剤廃液による環境負荷を低減。噴射水も循環してすすぎ洗いに使用するなど、節水にも心がけました。また、短時間で作業が終わるように送風機を2つに増やして、乾燥時間の短縮も図りました。

こうして完成した車いす自動洗浄機「リフレッシャー Pro」は、全自動で車いすの洗浄・除菌・乾燥が可能になりました。大きさも、高さ180cm,幅85cm,奥行き140cmと、ある程度の小型化も実現できました。洗浄・乾燥までの工程の所要時間はおよそ60分、クイックモードならば45分で済みます。

さらに、「リフレッシャー Pro」の高い洗浄機能を維持したまま乾燥機能を外し、家庭用100V電源でも使用可能な、廉価版「リフレッシャー・ライト」も製品化、小規模の高齢者施設向けに販売を始めました。

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リフレッシャーProの庫内(左)、リフレッシャー・ライトは正立位置でも洗浄可能(右)

ガスの力で素早く乾燥、ポリウレタン製にも対応したマットレス自動洗浄乾燥機

アタム技研では車いす関連の洗浄機を販売していく中で、介護業界の事情を色々と知ることとなりました。塚原さんは、「洗浄機のデモや設置で介護施設を訪れると、車いすだけでなく、寝台のマットレスを簡単に洗浄、乾燥できたら助かるのに、という声が現場にあることがわかったのです」と話します。

そこで、アタム技研では、2008年より、新たにNEDOの支援を受け、マットレスの自動洗浄乾燥機の研究開発に取り組み始めました。アタム技研では、1枚のマットレスをラックに装着・固定し、直立させた状態で回転させて洗浄、乾燥させる方式を考え出しました。そのため機器の大きさは、高さ244cm、幅135cm、奥行き206cmと、大きなマットレスを洗浄する機械としては省スペース化が実現できました。(平成25年5月特許取得)

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自動洗浄乾燥機へのマットレスのセッティング方法

脱水では、1分間に300回の高速回転で水を遠心分離。マットレスメーカーとあらゆる材質のマットレスで共同試験を実施し、マットレスを傷めることなく洗浄・乾燥できることを確かめました。その結果、病院などで一般的に使用されているポリエステル製マットレスだけでなく、最近、増加傾向にあるポリウレタン製マットレスにも対応できる世界唯一のマットレス洗浄機となりました。

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製造工場の片隅に積み重ねられた実証試験に使用された各種素材・形状のマットレス

アタム技研の洗浄乾燥機の一番の特色は、ガス温風によって、短時間で低コストの乾燥を実現したことです。マットレスを手洗いすると、その大きさや、水分を吸った重さから、洗浄にも苦労しますが、それ以上に大変なのが乾燥です。天日干しでは1週間かけてもなかなか乾きません。アタム技研の自動洗浄乾燥機では、それを洗浄・すすぎ・脱水に23分、乾燥に67分しかかりません(図1)。また、乾燥の熱源をガスとしたことで消費電力が非常に少なくなり、高い節電効果を得ると同時に、エネルギーの多様化にも成功しました。

アタム技研では、NEDOプロジェクトで技術開発と試験を繰り返し、プロジェクト終了後の2010年に社外モニター評価を実施、事業化へと進みました。

車いすの自動洗浄機とマットレスの自動洗浄乾燥機、そこから派生した多目的乾燥機などの製品群も加わり、アタム技研は福祉介護用品の洗浄・乾燥機メーカーとしての信頼感と知名度を徐々に高めてきています。

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図1 アタム技研のマットレス自動洗浄乾燥機の洗浄・乾燥工程

BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口


何度も試行錯誤を重ねた車いすのタイヤ用洗浄ブラシ

福祉用品の洗浄乾燥機メーカーとして認知度が高まっているアタム技研ですが、開発に当たっては、やはり、いくつかのマイルストーンとなる技術開発がありました。

車いすのタイヤのしつこい汚れを落とす洗浄ブラシの開発もその一つでした。ブラシ形状を何度も作り直し、少しずつ納得の行くものへと進化させていきました。

まず、最初に試したのは、円柱型ブラシを車輪に当てて回転させるという単純な方法でした。しかし、この方法ではブラシがタイヤ接地面にしか当たらず、側面は洗えません。これでは、レンタル業者や利用者を満足させることはできませんでした。

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車いすの自動洗浄機開発の大きな転換点となった洗浄ブラシ(現行製品のもの)

そこで、円柱型のブラシに、タイヤの側面まで洗えるようU字状の溝を入れました。さらに、このブラシを左右に動かすことで、隙間なくタイヤにブラシが当たるように工夫しました。この形状ならば、タイヤをピカピカに磨き上げることが可能です。

しかし、問題はコストでした。「U字溝を入れた円柱型ブラシを回転させるだけでなく、さらに左右に動かす駆動装置を導入しなければならないため、製造コストが跳ね上がってしまったのです。これでは販売価格が上がり、介護施設や病院に受け入れてもらうことはできません」と丹羽さんは語ります。

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2005年に、本体組み込み型のタイヤ洗浄ブラシとして試したU字溝ブラシ(画像提供・アタム技研)

それでも試行錯誤の末、ついに納得の行く形にたどり着くことができました。それは、円柱型の回転するブラシでタイヤの接地面を洗い、タイヤの側面を両側から別のブラシで挟むことで、接地面、側面共に洗うことが出来る方式です。

「これならば、十分に汚れを落とすことができる上、回転軸が一つで済むため製造コストもかさみません。さらにブラシを部分ごとに分けることができるため、一部が摩耗しても、全体ではなくその部分だけを交換すればよくなりました」(塚原さん)

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車輪の接地面と側面用に段差をつけたブラシ(左)と、側面用ブラシを車輪に押しつけるスプリング(右)

本体と車輪の一括洗浄の発想を転換、それが実用化と事業化を速める

アタム技研の車いす洗浄機開発計画では、当初、車輪と本体を同時に一括して洗浄する機械の研究開発を考えていました。

ところが、「一括洗浄の装置を試作してみると、タイヤを洗浄した際に出る細かい削りカスが洗浄機内を循環、充満してしまい、車いすを汚してしまうのです。この削りカスはどんなに水流を強めても落とすことができませんでした」と玉田さんは振り返ります。

削りカスの問題は、研究開発を阻む大きな壁となりました。しかし、先述の通り、車いすのレンタル事業者には、車輪だけの洗浄機でも機械化のニーズがあることがわかったのです。車輪磨きは、1台あたり40~50分もかかる重労働で、レンタル事業者の大きな負担となっていました。

そこで、NEDOプロジェクトで開発した段差付きブラシだけを取り出して製品化したのが、車いす車輪洗浄機の「ピッカラー」でした。その圧倒的な洗浄力と省力化は、レンタル事業者の目にすぐ止まり、発売と同時に順調な売れ行きを見せ、現在も主力製品の一つとなっています。

塚原さんは、「削りカスの問題は、タイヤを洗浄機内で洗うことをやめないかぎり、解決はほぼ不可能な状況でした。そこに車輪専用洗浄機の製品化で、車輪と本体の洗浄機能を分離する考えが生まれました。結果からすれば、あっけないことですが、NEDOへ提出した計画も一括洗浄型で、発想の転換には決断力が必要でした。しかし、二つの機能を分離したことで、洗浄機の開発も事業化も先が見えてくるようになりました。NEDOでも計画内容の変更に柔軟に対応していただき、大変助かりました」と話します。

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特許取得の独自ブラシで強力な洗浄能力を誇る「ピッカラー」

ガス燃焼を用いて急速乾燥を実現

一方、マットレス自動洗浄乾燥機でも、乾燥性能の向上に工夫が必要でした。一般的な衣類乾燥機は、家庭用も業務用もガスを燃焼させた後の燃焼排ガスを空気によって温度を下げ、温風として乾燥室の中へ導入する方法が採られています(図2左)。

しかし、ガスを燃焼した排気ガスで乾燥させる方式では、期待していたほど速くマットレスが乾きませんでした。原因は、ガス(炭化水素)を燃やした際に発生する水蒸気でした。水蒸気分が乾燥室内へ持ち込まれると、乾燥能力の低下に繋がります。

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図2 一般的なガス乾燥機の仕組み(左)と、アタム技研が採用した熱交換式の温風乾燥方式の仕組み(右)

ほかにも、乾燥室下部からの温風供給が困難なこと、乾燥室を洗浄室としても利用する場合、洗浄時の水噴射による、水滴・水蒸気がガス燃焼室へ浸入すること、室内圧力の急激な増加によるガス燃焼への悪影響 など、乾燥能力の低下やトラブルを招く要素が数多くありました。

乾燥を速くするには、排気ガスを乾燥室外に排出しなければなりません。そこでアタム技研では、燃焼した排ガスを熱交換器で機外に排出し、暖められた熱交換器の周りの空気を使って、マットレスを乾燥させる方式を採用しました(図2右)。その結果、乾燥時間を半分に短縮することができました。

密閉されたガス燃焼室内で発生した燃焼排ガスは熱交換器(内部)を通り、排ガス集合部を経て機体の外部へ排出されます。一方、機外の空気が、温風ファンによって吸引され、排ガス集合部外周、熱交換器外周及びガス燃焼室外周の空間を通って、燃焼排ガスからの熱を吸収しながら、温風となって洗浄室・乾燥室内へ吹き込まれます。

この方式を採用することによって、ガス燃焼経路が洗浄室・乾燥室と空間的に絶縁しているため、洗浄室・乾燥室の工程に影響されずに、安定したガス燃焼を維持できます。また、燃焼排ガス中の水蒸気も室内に持ち込まれないため、優れた乾燥能力を確保できます。不完全燃焼による一酸化炭素発生も防げ、まさに一石何鳥もの技術で、アタム技研ではこの技術を元に、乾燥だけを行う装置も開発、販売しています。

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マットレス自動洗浄乾燥機のために開発した熱交換器。筒状の管を下部から上部へ燃焼ガスが上がって行き、その周りの空気を暖め、水蒸気を含まない温風を乾燥室内に送り込む

FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来


NEDOの柔軟な支援が開発の大きな助けに

玉田さんはプロジェクトを振り返って語ります。「このような製品開発が進められたのもNEDOの支援があればこそというものです。福祉用具は市場が限定的なため、私たちのような中小企業には研究開発の支援がどうしても必要となります。一般的な中小企業への支援では、福祉用具のような地味で小規模な事業は、なかなか採択されにくいので、NEDOの助成事業はとても貴重な支援になりました。さらに開発の過程においても、様々な意見やアドバイスをいただくことができました」

また、塚原さんは、「車いす洗浄機の開発過程で、タイヤと本体の洗浄機能を分離しなければならないことになり、計画変更へ柔軟に対応していただけたことは助かりました。通常、このような変更は認められないケースが多いのですが、社会に受け入れられるものを製品化することに主眼を置いていただき、私たちの発想を社会に届けられるように、計画変更後も開発を続けることができました」と語ります。

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リフレッシャー Proの庫内。簡単な操作で車いすの衛生状態を良好に保てるように数多い研究開発の成果を詰め込んだ

普及しやすいコンパクトで安価な製品を目指す

現在までにアタム技研では、車いすを丸洗いするタイプの洗浄機(リフレッシャー)を約60台、車輪専用洗浄機(ピッカラー)を約160台、販売しました。マットレス洗浄乾燥機も、2010年度に販売開始以来、10数台の販売実績があります。

しかし、国内の病院数は8,500、高齢者向け介護施設は約12,000もあり、まだまだ本格的普及には至っていないのが現状です。

丹羽さんは、「今後は普及型モデルとして、よりコンパクトで安価な製品を開発していくことが必要だと考えています。そのための課題は、ニーズの正確な把握と、ニーズを反映した開発ターゲットの設定、製品の製造コストの低減が重要だと考えています」と説明します。

玉田さんは言います。「私たちアタム技研が作る福祉用具が広く病院や介護施設で使われ、福祉施設での労働負担をより軽く、そして清潔で快適な介護が受けられるように貢献して行きたいと考えています」(2013年1月取材)

※玉田さんは本実用化ドキュメント取材後、2013年2月に82歳でご逝去なされましたが、記事では取材時のご発言として掲載させていただきました。

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かさばり、折れやすいマットレスも容易にセット(左)、洗浄中の様子も扉窓で確認できる(右)

開発者の横顔


他にはない社会に有用な製品開発を、その研究姿勢が福祉用具洗浄乾燥機に

技術者は常に社会への貢献を考えて

玉田さんは大学卒業後、ガス冷蔵庫の開発を手がけた後、リンナイ株式会社に勤務、ガスエンジンクーラーを開発しました。1984年には同社の専務取締役開発部長になりましたが、経営の仕事に追われ、技術者としての腕を振るう機会が失われて行きました。

そこで心機一転、リンナイを退職、従業員3人だけの小さなベンチャー企業、アタム技研を設立しました。最初はコンサルタント業務や受託開発が主でしたが、徐々に独自の製品を販売できるようになっていきました。

「社名のATAMは、Advanced Technology and Marketabilityの頭文字です。ニッチな市場での世界一を目指し、ほかにはない有用なものを開発して提供したいとの思いを込めたものです。そうした一方、私どものような小企業にとっては研究開発費をなかなか多くは割けません。今回のNEDOの支援で、福祉用具洗浄乾燥機の商品化にこぎつけ、会社もなんとか安定的な経営になりました。今後も、私たちの技術で、もっと良いものをつくって社会に貢献して行きたいと思っております」

(玉田さんは取材後、2013年2月に82歳でご逝去なされました。取材当日、本件への想いを熱く語られていたのが、とても印象的でした。プロジェクトに携わられる方々の想いを、大事にしながら、NEDOも引き続き研究開発に邁進してまいります。玉田会長のご冥福を心よりお祈り申し上げます。)

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アタム技研株式会社
玉田さん

念願の新規市場分野参入を実現

プロジェクトの主任研究者だった塚原さん。家庭用ガス器具の研究開発に携わった後、玉田さんに触発されて23年前にアタム技研へ移籍しました。当初は会社の業務内容同様、技術指導やコンサルタント業務、開発請負が主な仕事でしたが、特殊ストーブや業務用特殊給湯器の商品化も手がけました。1999年からは、新分野の開拓を求めて基礎研究に取り組み、2004年に車いす洗浄機で念願の新規市場分野への参入が叶いました。昨年から、玉田さんに代わり社長を務めることになりました。

「新分野を求めて基礎研究を始めてから5年、車いす洗浄機の開発に着手。前職では燃焼や熱交換器を専門としていましたが、それとは違う分野を求めてアタム技研へと転籍しましたが、マットレスの自動洗浄乾燥機では、その知識が役立って『ガス高速乾燥ユニット』が開発でき、製品の柱となりました。高齢者施設や介護施設で、一人でも多くの方が衛生的な環境で生活できるようにこれからも努力を続けたいと思っています」

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アタム技研株式会社
塚原さん

なるほど基礎知識


車いすやマットレスの汚れとは?

車いすやマットレスの汚れは、まず、食べ物による汚れです。特に、車いすでは、座面と車輪の隙間などに食べこぼしが入り込むため、洗浄が難しくなります。

そこで、アタム技研の自動洗浄機では、車いすをわずかにたたんで設置することで、車いすのシートをたわませ、洗浄ノズルから出る温水が、くまなく届くように工夫しています。

また、血液や吐瀉物、排泄物などは、感染症の原因となる厄介な汚れです。クッション材の奥まで入り込む熱水と高温で乾燥すれば、菌が見つからないか、ほとんど発見できない程度まで消毒することができます。

ただし、洗浄、乾燥には、手間と時間がかかるため、医療・介護機関などでは、大きな負担となっています。

車いすで一番落としにくい汚れは、タイヤの接地面の土や砂などの汚れです。通常、介護施設や病院などではあまり気にされることはありませんが、介護保険対象の車いすレンタル業者では、利用者の目に止まりやすく、清潔さの目安となるため、洗浄に気を使っています。

アタム技研の車いす車輪強力洗浄機では、タイヤの表面が薄く削り取られるほど強力なブラシで、清潔で衛生的に磨き上げています。

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車いすの使用時の状態(左)、少したたむと座面とフレームの隙間などが開いて、汚れが落としやすくなる

NEDOの役割

福祉用具実用化開発推進事業・福祉用具実用化開発費助成金

新概念 車いすの高速自動洗浄消毒乾燥ユニットの開発
新概念 高性能・低公害マットレス自動洗浄消毒乾燥機の開発

このプロジェクトがはじまったのは?

高齢社会の急速な進展に伴い、心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある高齢者や心身障害者の自立を促進し、また、介護者の負担軽減を実現する福祉用具の開発が強く求められています。このような背景のもと、1993年に、「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律(福祉用具法)」が施行されました。本助成事業は、この福祉用具法において規定されている福祉用具の実用化開発を行う事業者に対し、研究開発費用を助成しています。

プロジェクトのねらいは?

福祉用具は、高齢者や障害者がユーザーであり、使用用途や身体の障害度合いが人によって異なるなどの理由により個別用具毎のマーケットが小さく、多品種少量生産となっています。そのため、事業者には開発コスト比率が高くなり、新製品開発のリスクも大きくなります。また、福祉用具メーカーの多くは中小企業で、経営基盤が脆弱な中での技術開発投資は大きな負担となります。そこで、開発時のリスク軽減支援策として助成金を交付することにより、福祉用具の実用化開発を推進し、高齢者、心身障害者及び介護者の生活の質(QOL)の向上を図ることが本プロジェクトのねらいです。より具体的な目標としては、助成事業終了後3年経過した時点で、50%以上が製品化されていることを、NEDOでは目指しています。愛知県丹羽郡扶桑町のアタム技研では、この助成金を利用して、車いすの自動洗浄機や寝台マットレスの自動洗浄乾燥機を実用化し、すでに介護施設などに導入されています。

NEDOの役割は?

本プロジェクトでは、(1)「少し不自由な高齢者(要支援及び要介護度1)」を対象とした福祉用具の研究開発、(2)高齢者及び障害者のQOL向上を目指した福祉用具の研究開発、(3)高齢者及び障害者の社会参加を支える福祉用具の開発の3分野を重点対象に、優れた技術や創意工夫のある福祉用具の実用化開発を行う民間企業等に対し広く公募を行い、助成事業者を選定し、福祉用具実用化開発費助成金を交付します。選定に当たっては、NEDO外部から幅広い分野の優れた専門家・有識者の参画による、客観的な審査基準に基づく公正な審査を行います。特に、本プロジェクトは比較的短期間での実用化・市場化を目的とするものであることから、達成すべき技術目標や実現すべき新製品の「出口イメージ」が明確で、わが国の産業技術向上に資する案件を選定しています。

関連プロジェクト


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