NEDO Web Magazine

新エネルギー

革新的太陽光発電技術研究開発

世界一のモジュール変換効率40%超を目指す、太陽電池開発中

シャープ株式会社

取材:February 2012

INTRODUCTION 概要


短波長から長波長まで従来より広い波長領域の光をエネルギーとして利用

太陽電池には再生可能エネルギー利用技術として大きな期待が寄せられています。普及を加速させるには、さらなる変換効率の向上などが必要と言われています。長年にわたり様々な種類・方式の太陽電池の研究開発に取り組んできたシャープ株式会社は、NEDOが2001年度に開始した「新エネルギー技術研究開発」プロジェクトの「太陽光発電技術研究開発」分野で、化合物太陽電池の研究開発に取り組みました。その結果、2009年には研究用の非集光セルでエネルギー変換効率35.8%を達成し、太陽電池の世界記録を樹立。さらに、2011年には、自社記録を更新する36.9%を達成しました。現在は、2030年までにモジュール変換効率40%を達成する目標に向かい、研究開発を続けています。加えて、レンズなどを利用して太陽光を集光し50%を超えるエネルギー変換効率を目指す「集光型太陽光発電システム」の実用化開発にも取り組んでいます。

BIGINNING 開発への道


変換効率の限界に近づくシリコン系太陽電池

ひと口に太陽電池と言っても種類は様々で、使われている材料や製法によって性能や発電コストは大きく異なります。
参照:CIS系薄膜太陽電池「なるほど基礎知識」主な太陽電池の種類

現在、一般に販売されている太陽電池のほとんどは「シリコン系太陽電池」で、電力用太陽電池生産量のほとんどを占めています。しかしながら、そのエネルギー変換効率(光を電気に換える割合)は14~20%程度が一般的です。

さらに、シリコン系太陽電池は、理論上29%の変換効率が限界と言われています。それゆえ、これ以上の飛躍的な変換効率向上は難しくなってきています。今後、さらに変換効率を向上させ、太陽電池の普及を加速させるためには、従来技術(シリコン系)の延長線上にはない革新的な技術開発が不可欠となっています(図1)。

left01@2x.jpg

図1 太陽光エネルギーの変換効率の現状

set01.jpg

シリコン系太陽電池の色々。左から単結晶型、多結晶型、薄膜型

異なる複数の材料を積み重ねて発電効率を向上

太陽光には、波長の長い赤外線から波長の短い紫外線まで様々な波長の光が含まれます。波長の長さによって光の持つエネルギーは異なり、波長の短い光ほどエネルギーは高くなります。

ところが、太陽電池に使われている材料の種類ごとに電気エネルギーに変換できるエネルギーの量は決まっていて、これは材料の持つバンドギャップが関係しています。結晶シリコン太陽電池の場合、波長の長い赤外線のエネルギーは低く電気エネルギーへの変換は充分にすることができません。逆に紫外線の場合、電気エネルギーに変換したその差分は熱となって逃げてしまっています。これが、結晶シリコン太陽電池のエネルギー変換効率の上限が29%である理由の一部です。

そこで、材料が持つバンドギャップという物理的な制限を回避して、あらゆる光エネルギーを電気エネルギーに変換するための様々な方法が考案されています。その一つがバンドギャップの異なる複数の材料を積み重ねた多接合型の化合物太陽電池です(図2)。

left02@2x.jpg

図2 化合物3接合太陽電池(左)と一般的な多結晶シリコン電池(右)の光エネルギー利用の比較。化合物太陽電池ではバンドギャップが異なる材料を組合せて多層化しエネルギー変換効率を向上。現在、人工衛星用として、3種類の材料を多層化した化合物3接合型太陽電池が実用化されている

left03@2x.jpg

シャープが製造提供している衛星用化合物太陽電池アレイの例

エネルギー変換効率の向上による発電コストの低減を目指して

現在、化合物太陽電池に使われている材料は複数あります(「なるほど基礎知識」を参照)。中でもエネルギー変換効率が高く、放射線耐性に優れていることから、3種類のIII-V族化合物半導体を多層化した「化合物3接合型太陽電池」が、シャープによって実用化され、わが国のほとんどの人工衛星に搭載されています。

逆に、化合物太陽電池が現状では人工衛星用にしか使用されない理由は、結晶シリコン太陽電池の100倍以上という価格の高さにあります。製造プロセスが複雑で材料も高額なため、巨額のコストがかかってしまうからです。

しかし、他の方式の太陽電池に類を見ないエネルギー変換効率の高さは大きな魅力です。そのため、コストの低減は重要命題であり、一層の変換効率向上、製造コスト低減、長寿命化が不可欠になっています。

2000年から化合物3接合太陽電池の研究開発を進めてきたシャープでは、NEDOが2001年度から実施を開始した「新エネルギー技術研究開発」プロジェクトの中の「太陽光発電技術研究開発」分野に参画。2001~04年度実施の「先進太陽電池技術研究開発」プロジェクト、2006~07年度実施の「太陽光発電システム未来技術研究開発」、そして、2008年度~14年度実施の「革新的太陽光発電技術研究開発」を通じて、化合物太陽電池のさらなる性能向上を目指し、研究開発に取り組んできました。

そして2009年には化合物3接合型太陽電池で、エネルギー変換効率35.8%の世界記録を樹立。2011年には自社記録を更新する36.9%※(どちらも面積約1㎠)を達成しました。今後、同社ではさらなる性能向上と量産化技術等の確立による低コスト化を図ることで、人工衛星用に加え、電気自動車用や船舶用など新たな用途の開拓を目指しています。

また、太陽光をレンズなどで集めてエネルギー変換効率を高める「集光型太陽光発電システム」の実用化にも取り組んでいます。集光型は実に50%という高いエネルギー変換効率が期待できる新しい発電方式です。

※:2011年11月現在、研究レベルにおける非集光型太陽電池セルに於いて(シャープ調べ)。エネルギー変換効率は、産業技術総合研究所(世界の太陽電池の公的測定機関のひとつ)により確認された数値

人工衛星用太陽電池の開発での高い実績

そもそもシャープが太陽電池の研究開発を始めたのは1959年のことです。1963年には直径1インチの太陽電池量産化に成功し、灯台(灯浮標ブイ)に使用されました。また、1976年には、単結晶シリコンを用いた宇宙用太陽電池を開発し、人工衛星「うめ」に搭載されました。そして、宇宙用太陽電池のさらなる高効率化、軽量化、耐久性向上を目指し、2000年に研究開発に着手したのが、化合物3接合型太陽電池でした。

NEDO「太陽光発電技術研究開発」プロジェクトの下、2002年には同社が開発した化合物3接合型太陽電池が宇宙航空研究開発機構(JAXA)の認定を取得。2005年には小型科学衛星「れいめい」に、2009年には温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」に搭載されるなど、宇宙用太陽電池として次々と利用されるようになりました。現在、日本製の人工衛星のほとんどがシャープ製の化合物3接合型太陽電池を搭載しています。

そして、NEDO「革新的太陽光発電技術研究開発」プロジェクトを通じて、化合物3接合型太陽電池のエネルギー変換効率のさらなる向上に取り組み始めました。

set02.jpg

シャープの量産化モジュールの第1号(1963年)と同タイプの太陽電池モジュール(左)と、単結晶シリコンの宇宙用太陽電池

理想的なエネルギー変換効率を実現できる化合物太陽電池

化合物3接合型太陽電池ではトップ(上層)、ミドル(中層)、ボトム(下層)の3種類のセルで異なる波長の光を吸収してエネルギー変換効率を高めています。

シャープが2000年から宇宙用として開発してきた化合物3接合型太陽電池は、III-V族化合物半導体を材料に使用しています。

具体的には、トップセルにInGaP(インジウム・ガリウム・リン)を、ミドルセルにGaAs(ガリウムヒ素)を、ボトムセルにGe(ゲルマニウム)を用いています。Ge基板上に、ボトムセル、ミドルセル、トップセルの順番で連続した結晶になるように成長させて作っています。この場合、結晶を構成する原子の格子間隔はほぼ一致しています。これを"格子整合型"と言います。格子間隔が合っていて、よりきれいな結晶の方が、性能が高いことが分かっています。

しかしながら、この化合物3接合型太陽電池には、改善の余地があります。ボトムセルのバンドギャップが小さすぎることから、ボトムセルで発生する電流が、ミドルセルおよびトップセルで発生する電流よりも約1.8 倍も大きく、しかも、その電流は電力として取り出すことができないのです。

つまり、3接合セル全体の電流は、より小さいミドルセルおよびトップセルの電流値によって制限されてしまっているのです。これは、電流バランスの観点から、バンドギャップの組み合わせが最適ではないことを意味しています。より高いエネルギー変換効率の実現には、3つのセルが発生する電流を等しくなるように電流バランスを図り、電圧を上げる必要があります。

そこで、シャープが挑んだのが、ボトムセルにGeの替わりにバンドギャップが大きいInGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)を用いた3接合セルの開発でした。この構成であれば、3つのセルで発生する電流が等しくなるため、理想的なエネルギー変換効率を実現できるはずです(図3)。

left04@2x.jpg

図3 3つのセルで発生する電流が等しくなるようにボトムセルをGeからInGaAsに変更

独自技術「逆積み形成方式」でエネルギー変換効率世界最高記録を樹立

しかしながら、ここには大きな障壁がありました。ボトムセルとなるInGaAsの格子間隔がミドルセルのGaAs、トップセルのInGaPの格子間隔に比べて大きく、結晶としての連続性が失われるということ、すなわち"格子不整合"であるということです。

この問題はセル間に格子間隔の調整を施したバッファー層を形成することで解決できます。とは言え、Ge基板上に、格子間隔の大きなInGaAsをボトムセルとして成長させ、さらにその上に、格子間隔の小さなGaAsをミドルセルとして成長させるとなると、InGaAs層の上下で、2回にわたり、バッファー層を形成し格子間隔を調整する必要が出てきます。また、バッファー層がうまく形成できないと、性能が低下してしまう危険性があります。

そこで、シャープはバッファー層の形成が1回だけで済むように、基板上にボトム、ミドル、トップの順番にセルを積む「順積み形成方式」ではなく、基板上にトップ、ミドル、ボトムの順番にセルを積む「逆積み形成方式」を考案しました。

併せて、基板にはGeではなく、GaAsを採用することにしました。これであれば、ミドルとトップのバンドギャップを少しでも大きくとることができ、セルの電圧を大きくすることができます。

left05@2x.jpg

図4 シャープ独自の化合物3接合太陽電池の製造技術「逆積み形成法」

しかしながら、太陽光は、トップセルから入射する必要があります。そこで、シャープは3層の太陽電池セルを基板から分離し、ボトムセルを基板に転写する独自の方法を開発しました。

現在のところ、GaAs基板は除去していますが、今後はこの高価な基板を再利用できるようにすることで、製造コストの低減を図っていく計画です。

この逆積み形成方式による化合物3接合型太陽電池の開発について、ソーラーシステム事業本部・技術開発センターの佐々木和明係長はこう語ります。

「アイデアは、2001年度から実施された先進太陽電池技術研究開発プロジェクトの時点からありましたが、2006年度実施の太陽光発電システム未来技術研究開発プロジェクトで本格的に研究開発に取り組み始めました。しかしながら、バッファー層を作るのに大変に苦労し、2008年度からの革新的太陽光発電技術研究開発プロジェクトに入り、ようやく成功させることができました」

こうした形成法の結果、電流がボトム、ミドル、トップの3層でマッチし、ボトムセルで発生する電圧が向上し、取り出せる電力を増やすことができました。そして、2009年に当時、世界最高記録となったエネルギー変換効率35.8%の達成につながりました。

BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口


シャープが世界記録を樹立できたポイントは、逆積み形成方式の創造、バッファー層の形成技術の開発、そして、トンネル接合層と呼ばれる層の抵抗成分の低減にありました。

バッファー層の中に結晶の乱れを吸収することに成功

シャープが開発した逆積み形成方式による化合物3接合型太陽電池のバッファー層は、In(インジウム)とGa(ガリウム)の組成比を変化させることで、格子間隔の異なる複数のInGaP(インジウム・ガリウム・リン)層でできています。

インジウムもガリウムも同じIII族の元素ですが、インジウムの方が原子量が大きい分、インジウムの量(組成)を増やすことで、InGaP層の格子間隔を大きくすることができるのです。シャープの佐々木さんはバッファー層の開発におけるポイントを次のように語ります。

「格子間隔を大きくすることにより、結晶にひずみやひびなどの乱れが生じてしまうのは避けられませんでした。逆に複数のバッファー層で、その格子間隔を徐々に大きくしていくことで結晶の乱れをできる限りバッファー層内部に吸収することが、その上部に積層するボトム層の結晶をきれいにするための最大のポイントになることを、結晶の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察することにより明らかとなりました」

バッファー層の中に結晶の乱れを閉じ込めることで、ボトム層に乱れが伝播するのを防止し、ボトム層の結晶性を良好にでき、エネルギー変換効率を高めることができるわけです。そのため、シャープは、膜を形成する際の温度やインジウムやガリウムの比率調整を繰り返しました。そして、ようやくボトム層に乱れのない結晶を形成することに成功したのです(図5)。

left06@2x.jpg

図5 バッファー層の中に結晶の乱れを閉じ込めることで性能向上を可能に

トンネル接合層の抵抗成分低減で変換効率の記録をさらに更新

さらに、シャープは2011年に入り、さらなるエネルギー変換効率の向上を目指し、ボトム、ミドル、トップの3つの層を直列につなぐための"トンネル接合層"と呼ばれる層の抵抗成分の低減に取り組みました。(図6)

トンネル接合層の抵抗を低減するには、層を構成する半導体内の不純物の濃度を高めればよいということは明らかでした。しかしながら、不純物の濃度を上げ過ぎると、結晶性が悪くなり、かえって変換効率が下がってしまいます。

加えて、不純物が上下の層に拡散してしまうと、セル全体の性能が悪化してしまいます。そのため、シャープは、不純物の最適な濃度を見つけ出すと同時に、不純物をトンネル接合層内に封じ込める技術の開発に注力しました。

left07@2x.jpg

図6 トンネル接合層により抵抗成分を低減して、エネルギー変換効率36.9%の記録達成

「不純物の封じ込めに約2年の月日を要してしまいましたが、成功の結果、最大出力が高くなり、変換効率は、2年前に出した世界最高効率を一気に1.1ポイントも向上させた、世界最高の36.9%を実現しました」と佐々木さんは語ります。

革新的太陽光発電技術研究開発プロジェクトでは、2014年までにエネルギー変換効率35%の達成を目標に掲げていましたが、シャープはそれを5年も前倒しで達成することに成功しました。

「エネルギー変換効率を下げる抵抗成分は他にも複数存在するため、今後も地道に抵抗成分の削減に取り組んでいきます」(佐々木さん)

※:2011年11月現在、研究レベルにおける非集光太陽電池セルに於いて(シャープ調べ)

left08@2x.jpg

世界最高※の変換効率36.9%を達成した化合物3接合太陽電池

FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来


メガソーラーなど広がる応用分野

また、シャープでは化合物4接合型太陽電池の開発にも取り組んでいます。それが実現すれば、エネルギー変換効率40%達成も夢ではなくなります。

加えて、実用化を目指し、太陽光をレンズで集めて1,000倍の強さにする「集光型太陽光発電システム」の開発にも取り組んでいます。

太陽電池の電流は光の強さに比例します。そのため、光の強さを1,000倍にすれば、セルの大きさを1,000分の1にしても、同じ量の電流が得られる計算になります。加えて、光の強さが強くなれば太陽電池の電圧も上がるので、得られる電力は大きくなります。したがって、セルの大きさが小さくて済めば、集光することにより高価な化合物太陽電池セルのコストを削減でき、出力電力も大きくできるので、発電システム全体の製造コストを抑えることができます。

集光型では2025年を目標に、エネルギー変換効率50%を目指しています。「日本は年間降水量が多く、雨や水蒸気が太陽光を散乱させてしまうため、実は、集光型太陽光発電システムには向きません。そこで、乾燥していて広い土地のある砂漠などに設置し、メガソーラー(大規模太陽光発電所)として実用化していくのが現実的だと考えています」(佐々木さん)

一方、今回、逆積み形成方式の開発に伴い、ボトムセルを基板に転写する独自の方法を開発したことで、化合物太陽電池の応用分野も広がりました。例えば、フィルムに転写すれば、薄くて軽いフレキシブルな太陽電池が製造できます。

それにより、人工衛星など宇宙用以外にも、飛行体や自動車用として実用化できる可能性が出てきました。また、放熱板に転写すれば、集光型太陽電池の製造もより容易にできるようになります(図8)。

left09@2x.jpg

図7 集光型太陽光発電システムの仕組み

left10@2x.jpg

図8 逆積み形成法の応用

left11@2x.jpg

フレキシブル化合物太陽電池の例

set03.jpg

シャープ葛城事業所の屋上で実験中の集光型発電システムのパネル(左)、集光型フルネルレンズに寄る集光イメージ(右)、小さな四角形が3接合型化合物太陽電池

NEDOプロジェクトにより、開発に自信を持って取り組むことができました

佐々木さんは、10年間に及ぶNEDOプロジェクトの意義をこう振り返ります。「大学などとは異なり、企業の場合、収益に結び付く可能性のより高い研究に研究開発費が投入されます。そういった中、現段階では発電コストが高く、応用分野の限られる化合物太陽電池の研究開発を続けることは、一企業であるシャープにとって大変なことでした。しかしながら、NEDOプロジェクトとして採択していただき、支援していただけたことで、日本にとって必要不可欠な技術として、自信を持って取り組むことができました」

また、NEDOプロジェクトを通じて、産官学連携を深めることができたと言います。「NEDOプロジェクトを通じて知り合った社外の研究者との情報交換から、様々なヒントや発想を得ることができました。今後も、日本のため、世界のため、太陽電池の研究開発にまい進していきたいと思っています」と佐々木さんは語ります。(2012年2月取材)

開発者の横顔


人類にとって不可欠な技術と信じ淡々と取り組む

1985年にシャープ入社した佐々木和明さん。中央研究所に配属になり、1992年までは半導体レーザーの開発に従事していました。その後、2004年まで化合物太陽電池にも使われているInGaP(インジウム・ガリウム・リン)を使ったLEDの開発と量産化を担当しました。その経験を生かし、2004年からは化合物太陽電池の研究開発に携わっています。「材料の研究開発は"忍耐"の一言に尽きます。そのため、自分が想定した通りの実験結果が出たときは、技術者として最高の喜びを感じます。特に2009年にエネルギー変換効率35.8%を出したときは非常に嬉しかったですね。とは言え、思うような結果が中々出ない場合の方が圧倒的に多いので、あまり自分を追い詰めず、淡々とやるべきことをやっていくよう心がけています」

face01@2x.jpg

シャープ株式会社
栢原さん

なるほど基礎知識


多接合型化合物太陽電池とは

化合物太陽電池の最大の魅力は30%以上という変換効率の高さにあります。また、結晶シリコンに比べて、光の吸収効率が高いため、薄膜にできるのも魅力です。しかも利用できない光は透過します。それにより、バンドギャップの異なる複数の化合物太陽電池を積み重ねた多接合型が可能となります。

化合物太陽電池は、原料に用いる金属が周期表においてどの族に属するかによって分類することができます。現在、III-V族化合物、II-Ⅵ族化合物、Ⅰ-III-Ⅵ族化合物の太陽電池が開発されています。中でもIII-V族化合物は、エネルギー変換効率が最適なバンドギャップエネルギー1.5eVに近く、かつ放射線耐性に優れていることから、人工衛星用として実用化されています。ちなみに人工衛星用の太陽電池を製造している企業は今のところ世界に4社しかなく、国内ではシャープ1社だけです。

従来の結晶シリコン太陽電池の場合、IV族元素のシリコンに、IV族の両隣にあるIII族元素とV族元素を混ぜてp型とn型の半導体を作っています。それならば、いっそのこと、III族とV族だけで半導体を作ってみてはどうかというアイデアの下、開発されたのがIII-V族化合物半導体です。

III-V族化合物半導体の結晶は、一般に安定性に優れ、欠陥が少なく、大型化が可能です。エピタキシャル成長と呼ばれる薄膜結晶成長技術によって製造されており、太陽電池以外にも、半導体レーザーや光デバイス、高速電子デバイスなどの材料製造に使われています。

加えて、現在、人工衛星に使われているIII-V族化合物半導体太陽電池は3接合ですが、今後、4接合、5接合などの多接合化により、エネルギー変換効率50%以上が期待できます。

left12@2x.jpg

図 化合物半導体の種類

NEDOの役割

「革新的太陽光発電技術研究開発」

このプロジェクトがはじまったのは?

わが国のエネルギー供給の安定化や効率化、地球温暖化対策のためには、再生可能エネルギーに関する技術開発やコスト削減、性能向上が不可欠です。そこで、NEDOでは、2001年3月に閣議決定した「科学技術基本計画」などを踏まえ、「新エネルギー技術開発プログラム」の一環として、2001年度に「新エネルギー技術研究開発」プロジェクトを開始しました。この中には「太陽光発電技術研究開発」分野を設置。2001年度~2003年度に「先進太陽電池技術研究開発」を、2007年度~2009年度で「太陽光発電システム未来技術研究開発」を実施しました。そして、2008年度~2014年度計画として実施されているのが「革新的太陽光発電技術研究開発」です。

プロジェクトのねらいは?

NEDOでは、温室効果ガス半減への寄与、そして、日本の技術的優位性の超長期にわたる維持の実現を目的に、革新的な太陽電池の開発を実施する研究拠点を形成しプロジェクトを開始しました。プロジェクトでは、海外との研究協力等を含む継続的な研究開発により、2050年までに「変換効率が40%超」かつ「発電コストが汎用電力料金並み(7円/kWh)」の太陽電池を実用化することをねらっています。

NEDOの役割は?

本研究開発に参画する各研究開発グループの潜在能力を検討し、これを最大限に活用することで、効率的な研究開発を図ることができます。そのため、NEDOでは委託先の研究開発責任者(グループリーダー)を指名し、その責任者の下で効率的な研究が実施できるよう研究開発全体の運営管理を担っています。

関連プロジェクト


アンケート

お読みいただきありがとうございました。
ぜひともアンケートにお答えいただき、
お読みいただいた感想をお聞かせください。
いただいた感想は、
今後の連載の参考とさせていただきます。

Top