NEDO Web Magazine

環境問題対策

ノンフロン型省エネ冷凍空調システムの開発

CO2冷媒を採用した、冷凍ショーケース用ノンフロン冷凍機システム

パナソニック株式会社 アプライアンス社 (旧:三洋電機株式会社)

取材:December 2011

INTRODUCTION 概要


年間消費電力23%削減

安全、無害と信じられてきたフロンガス(CFC・HCFC)がオゾン層を破壊していることが判明し、その代替製品として開発された代替フロン(HFC)。しかし、地球温暖化防止の観点から、CO2よりもはるかに高い温室効果があるHFC についても、その使用と排出削減が求められています。パナソニック株式会社アプライアンス社(旧:三洋電機株式会社)では、早くから自然冷媒(CO2)に着目し、ノンフロン冷凍システムの開発に取り組んできました。2000年代初めにはCO2冷媒を利用した家庭用ヒートポンプ給湯器「エコキュート」を開発、販売しています。しかし、CO2冷媒は、加温には適しても、冷凍・冷蔵用途に使うことが難しく、とくに大型の業務用設備には装置の大型化や効率面で不向きでした。同社では、NEDOの支援を受けて、スーパーなどの冷凍ショーケースを対象としたCO2冷凍機システムの研究開発に取り組み、独自のコンプレッサー技術などによりCO2冷媒の抱える諸課題を克服、従来の代替フロン冷凍機に負けない冷凍効率や省エネルギー効果を発揮させることに成功しました。開発されたノンフロン冷凍機システムは、2010年9月より販売を開始、全国のスーパーやコンビニで利用され始めています。

BIGINNING 開発への道


地球環境保護のジレンマを克服するためのCO2自然冷媒

フロンガスは、スプレー噴射剤、精密部品の洗浄などにも使われてきましたが、元々は安全に効率よく物を冷やし、温めるための冷媒として開発されました。HCFCやHFCも冷媒としての性能は高く、1995年のCFCの全廃後は、冷凍・空調機の冷媒のほとんどがHCFCやHFCに置き換えられてきました。HCFCの場合、CFCほど強力ではないものの、オゾン層を破壊する性質を持っています。モントリオール議定書ではHCFCは2020年に全廃というスケジュールになっており、日本では2004年から大幅な生産削減が開始されています。

しかし、代表的な代替フロンHFCには、オゾン層を破壊するおそれがない代わりに、強力な温室効果があります(なるほど基礎知識参照)。地球温暖化防止の観点からすると、冷媒として使用されているHFCが、使用中や廃棄時に漏洩し、不用意に放出されると、CO2に比べて排出総量は少なくとも、地球温暖化に与える影響は見逃せないものがあります。温室効果ガス削減を定めた「京都議定書」でも、HFCをはじめとする代替フロンガス3種(HFC、PFC、SF6)は、温室効果ガスとして指定され、削減対象となっています。

オゾン層保護のために開発された代替フロンの増加で地球温暖化が進行してしまうおそれが増大する、というジレンマを克服するためには、HFCに見劣りのしない安全性やエネルギー効率を維持できる冷媒やその利用システムが必要です。

こうした状況を背景に、温暖化の影響が少ない自然冷媒が注目されるようになりました。なかでもCO2は、アンモニアやイソブタンなど他の自然冷媒と比べて、燃焼性や毒性など安全性の面で優れた点が多くあり、その利用拡大が期待されました。

冷媒を大量使用するスーパーの冷凍・冷蔵ショーケースを自然冷媒に

しかし、安全性に優れた点がある一方、CO2を冷媒として使用するには、超臨界状態まで圧縮してガスを発生(気化)させる必要があり、システム全体が高温・高圧になってしまうという難点があります。

そのため、すでに実用化、普及している「エコキュート」のように、60℃以上の温水を作り出すことには向いても、高効率なエアコンや、冷凍・冷蔵システムでの、CO2冷媒採用は難しいとされてきました。また、圧縮機が高圧になるため機器が大型化すること、圧縮時に騒音が発生することなども問題点でした。

同社は、スーパーなどで使用される業務用冷凍・冷蔵機器(店頭のショーケースと室外に置かれる冷凍機)の大手メーカーで、早くから自然冷媒、なかでもCO2冷媒について、その安全性や省エネルギー化の可能性などに着目して、研究開発を続けていました。

同社では、そうした技術を発展させ、わが国初のCO2冷媒によるスーパーマーケット向けノンフロン冷凍機システムの開発に挑戦しました。大量の冷媒が必要な業務用冷凍・冷蔵機器で、CO2冷媒を利用できればHFC使用削減に大きく貢献できます。また、開発に当たっては、HFC 使用機以上の省エネルギー化も目標に掲げました。HFC削減と消費エネルギーの両面から、地球温暖化防止に貢献できる製品開発を目指しました。

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ノンフロン冷凍機システムの利用拡大は温暖化防止へと貢献する

加温から冷却へ。逆転の発想でCO2冷媒の可能性を広げる

同社によるCO2冷媒への取り組みが始まったのは、2001年に販売開始した「エコキュート」が、そのきっかけでした。ヒートポンプ技術でお湯を沸かすエコキュートはCO2冷媒に最も適した利用法であり、各家電メーカーや電力会社でも、同様のエコキュート製品を製造、販売しています。

しかし、外気温が-10℃を下回るとCO2冷媒が高温・高圧になりにくく、冬場には十分な性能が発揮できないことを理由に、当時、エコキュートの販売は寒冷地以外に限定されていました。

そこで、寒冷地用エコキュート開発に取り組み、他社に先駆け、2003年に寒冷地用エコキュートを発売しました。この寒冷地用エコキュート製品向けに開発した「スプリットサイクル」が、今回のノンフロン冷凍機システム実現の鍵となりました(詳細は次項目「ブレークスルー この技術にフォーカス」参照)。

パナソニック株式会社アプライアンス社技術本部エアコン・コールドチェーン開発センター開発第5グループの石井武グループマネージャーは、「CO2冷媒は加温にしか適さないと考えられてきましたが、寒冷地用エコキュートが実現できたのなら、逆に気温が高い場所での冷凍・冷蔵もできるはずと考えたのが、ノンフロン冷凍機システム開発の原点です」と説明します。

同社は、このコンプレッサー技術をベースにNEDOプロジェクトに参画、2005年からの3年間を基礎研究に、2008年からの2年間をスーパーマーケットの実店舗での実証試験に当てました。基礎研究では、騒音解消や高効率化、小型化のための様々な開発が行われましたが、「最終的には、実証試験で得たものが、かなり大きかった」と石井さんは振り返ります。

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CO2冷媒に対応したノンフロン冷凍リーチインショーケースとCO2ロータリー2段圧縮コンプレッサー。冷凍機システムと同時にCO2冷媒に対応したノンフロン冷凍リーチインショーケースも開発

「過冷却給湯機」との組み合わせで夏場の消費電力をピーク抑制

CO2冷媒に対応したノンフロン冷凍機システムは、CO2の臨界温度が31℃と低いため、外気が高温になる夏場の放熱不足(フィルタ詰りのような症状)がネックとなります。冷蔵条件の場合、実証試験での消費電力の年間推移グラフを見てみると、夏場以外は、従来のHFC冷凍機に比べて3割程度の省エネ効果があるにもかかわらず、気温が25℃を超える7、8月は、HFC冷凍機とほぼ同じくらいの消費電力になってしまいます(図1)。

そこで、ノンフロン冷凍機システムに「過冷却給湯機」を組み合わせて排熱を促進することで冷凍機の冷凍機能を高め、有効消費電力を削減するシステムを開発しました(図2)。これにより、年間消費電力を23%削減することが可能になりました。

このシステムは、「過冷却給湯機」からの排熱を利用した給湯(65℃)が可能で一石二鳥の効果があり、更に、夏場のピーク電力を抑えることも可能です。結果として給湯に要する電力を差し引くと年間消費電力量を42%、給湯電力を加えてもトータルで23%も削減することにつながりました。(実証試験より)

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図1 「過冷却給湯機」と組み合わせた場合の年間消費電力推移

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図2 CO2冷凍機とショーケースの間に「過冷却給湯機」を介することで、排熱を給湯に活用

CO2冷媒の特性を活かした使い勝手の良さ

新開発のノンフロン冷凍機システムでは、従来のHFCと同じように冷媒を直接、ショーケースに引き込んで冷却する「直膨式」を採用しています。そのため、冷凍機の設置や配管工事についても、従来同様の要領で行うことができます。新方式の冷凍システムながら、店舗側に特別な設備上の負担を強いる必要がありません。

自然冷媒でも引火性や毒性などのある危険物では、大勢の人が出入りする商業施設内に冷媒を直接引き込むことなど考えられません。

また、CO2冷媒はHFC冷媒に比べてガス密度が高いため、ガスを送る配管を細径化でききます。これにより配管単位長さ当たりの銅使用料の削減になります。さらに、冷媒封入量(質量)も、HFC従来機の1/5と少ないため、システム全体の安全性・安心を確保することができるメリットがあります。

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ノンフロン冷凍機システムの仕様

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CO2冷凍機

BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口


高圧力負荷を軽減する2段圧縮コンプレッサー

臨界温度が31℃と低いCO2冷媒は、冷凍サイクルでの各部圧力が他の冷媒に比べて数倍も高く、コンプレッサー圧縮前後の圧力差が大きくなるため、筐体や部品、圧縮モータートルクを大型化するなどして耐圧強度を高める必要があります。しかし、大型化すればコスト増になるだけでなく、設置場所などの問題も発生します。市場投入を考えると、従来のHFC冷凍システムと機体サイズが変わらないことも、ノンフロン冷凍機システムの研究開発にとって重要な課題でした。

そうした問題点解決の切り札となったのが、エコキュート開発以来活用されてきた独自の「ロータリー2段圧縮コンプレッサー」でした。圧縮工程を高圧と低圧の2段階に分散することでケース内部を中間圧にし、高効率化と小型化を実現する方法です。冷媒を1回で圧縮する方式と比べて、コンプレッサーにかかる負荷を半減することが可能で、耐久性や信頼性に優れています(図3)。

2段圧縮コンプレッサーは、エアコンの振動吸収のために開発された「ツインロータリー」が技術の源泉で、エコキュート開発を経て、今回の冷凍機システムでも活用されることになりました。

ノンフロン冷凍機システムにおいても、騒音や振動吸収につながった上、コンプレッサーの小型・高効率化が大きく貢献して、機体の大きさも目標としていた「HFC冷媒システムと同等」まで小さくすることができました。

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図3 2段圧縮コンプレッサーの仕組み

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ロータリー2段圧縮コンプレッサーのカットモデル(左)、2段のローターがある圧縮部(右)

冷凍効果を増大させるスプリットサイクル

ノンフロン冷凍機システムを支えるもう一つの重要な技術が「スプリットサイクル」です。CO2の臨界温度が31℃と低いため、外気が高温になる夏場の放熱不足(フィルタ詰りのような症状)がネックとなります。従来のCO2冷媒回路の場合、CO2冷媒の臨界温度に近い30℃を超える夏期には、冷媒と外気に十分な温度差が得られなくなるために放熱が難しくなります。この状態ではHFC冷媒より大幅に低いCOP(エネルギー効率)しか得られません。

そこで、放熱器(ガスクーラー)で冷却された高圧冷媒(ガス)の一部を「スプリット(分岐)」して、「スプリット膨張弁」で中間圧力レベルまで膨張させ、冷凍機出口の近くに置いた「スプリット熱交換器」により本流の冷媒を外気温度以下に冷却することで、気温に関係なく高い放熱効果を維持する仕組みが「スプリットサイクル」です。

本流の冷媒を冷やして冷却効果を失った冷媒は、2段圧縮コンプレッサーの中間圧力に戻ります。

こうした方法の組み合わせで、CO2冷媒が不得意とする高温環境であっても、HFC冷媒に負けないCOPを示すことができました(図4)。

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図4 ノンフロン冷凍機システムの回路図

隣接する異なる温度設定のショーケースを制御する

2008年からの2年間は、大手流通グループイオンの東京都大田区にある「マックスバリュエクスプレス六郷土手駅前店」の食品売り場にノンフロン冷凍機システムを実際に設置し、実証試験が行われました。

技術本部エアコン・コールドチェーン開発センター開発第5グループ第2チームの三原一彦チームリーダーは、「ノンフロン冷凍機システムは、これまで入念に検証した技術の集積とはいえ、大勢のお客様が利用するスーパーマーケットでの試験ですから、不具合のないように神経を使いました」と語ります。「また、導入後には想像もしなかった課題を多数発見。試験開始前以上に頭を悩ませることになりましたが、結果的にはCO2冷媒の強みを実感することにもなりました」

例えば、CO2冷凍機の制御のスピードとショーケースの動作スピードの間で、HFC冷媒のようにバネのような余裕ある連動がないため、システム全体をコントロールすることは非常に難しい問題でした。安定したコントロールを確立するのに多くの工夫が必要でしたが、結果的にHFCよりキメ細かな冷却制御が可能となりました。

石井さんは実証試験を振り返って、「当社には独自の2段圧縮ロータリー技術や新開発のスプリットサイクルという技術がありました。CO2冷媒を使って冷却すること自体はすぐに可能になりました。しかし、本当に役立つシステムに仕上げるためには実際の店舗での実証試験が欠かせませんでした。社内テストを続けるなかで幾度も仕様変更を行うことがありましたが、より良いシステムを追求することを認めてくれたNEDOプロジェクトの柔軟さには、大変助けられました」と話します。

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(左)店舗内の冷凍ショーケース、(右)店舗の屋上に設置されたノンフロン冷凍機

FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来


国内初CO2冷媒冷凍機システムのCO2換算値の削減効果

新開発された国内初のスーパーマーケット向けCO2冷媒対応ノンフロン冷凍機システムは、2010年9月から販売を開始し、順次導入店舗を増やしています。

CO2冷媒によるノンフロン冷凍機システムは、従来型のHFC(R404A)冷媒を使用した冷凍機システムに比べて消費電力を定格値で約10%削減することができ、この値をベースとした年間CO2換算削減量では約3トンの削減効果があります。

しかも、CO2冷媒の温暖化係数も1と小さい(R404Aの温暖化係数3920)ため、使用時冷媒漏洩起因によるCO2削減換算値は35トンとなります。従って、消費電力削減の間接影響と冷媒漏洩による直接影響も勘案すると、CO2換算値の削減効果は38トンにもなり、従来システムに比べて61%の削減が実現可能な試算となります。

関西地区で行なわれた冷凍条件の実証試験結果(図7)では、夏場においても10%以上の省エネ効果が認められ、年間消費電力削減効果は24%となりました。

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図7 関西地区で行われた実証実験による冷凍系統の消費電力推移

高まるCO2冷媒への関心

2008年から行われたNEDOプロジェクトによる実証試験設備は製品化されたものに置き換えられ、「マックスバリュエクスプレス六郷土手駅前店」でその後も使用されています。

同店を運営するイオングループでは、実証試験で温室効果ガスが50%以上削減されることが確認できた結果を見て、2011年11月に、2015年以降にオープンするグループ新店舗の冷凍・冷蔵ショーケース全てに自然冷媒を採用し、既存店舗も順次代替フロンからCO2自然冷媒に切り替えることを発表しました。

同社は、長年にわたってスーパーマーケットなどで使われる冷凍・冷蔵ショーケースで国内トップシェアを誇ってきた実績があります。石井さんは力を込めて言います。「だからこそ、私たちには、HFCによる地球温暖化防止に向けて技術的なチャレンジを行い、率先して発信していく責務があると思っています」(2011年12月取材)

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コンビニエンスストア、スーパーマーケットへと拡充するCO2冷凍機システムのラインナップ

開発者の横顔


CO2冷媒の可能性を切り拓く

なぜCO2冷媒かと自問自答を繰り返したことも

技術本部エアコン・コールドチェーン開発センター開発第5グループのグループマネージャーを務める石井武さんは、冷凍機システムでもショーケース側の開発を長年担当してきました。ノンフロン冷凍機システムの開発には2004年から関わるようになり、以来CO2冷媒関連の研究開発に携わっています。しかし、最近までは「本当にCO2冷媒でやる必要があるのか」と自問自答を繰り返したと言います。「CO2冷媒は冷蔵・冷凍には向かないのでは? CO2冷媒は本当に地球環境にいいのか?」といったことをよく尋ねられ、自分でもその問いに対して明確な答えを持ち合わせていませんでした。しかし、今回のプロジェクトを通じてCO2冷媒の進むべきロードマップを描けたと思っています。今は胸を張ってCO2冷媒の意義を語ることができます」

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パナソニック株式会社 アプライアンス社
(旧:三洋電機株式会社)
石井さん

CO2冷媒の面白さがわかってきました

開発第5グループ第2チームのチームリーダーである三原一彦さんは、入社以来コンプレッサー事業部で冷凍機の設計を行ってきました。今回のプロジェクトではCO2冷媒を扱っていますが、それまではHFC冷媒機器を世に出すことが仕事だっただけに、戸惑うことも多かったと言います。「CO2冷媒を推進することは、これまでの自分の仕事を否定するような部分もあり、複雑でした。それ以上にHFCとCO2の特性の違いに慣れるまでが大変で、『こんなものが冷媒になるのか』と思ったほどです。しかし、こうして実用化してみると、CO2冷媒の面白さがわかり、やればやるほど可能性が広がるCO2冷媒に大きな期待を抱いています」

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パナソニック株式会社 アプライアンス社
(旧:三洋電機株式会社)
三原さん

なるほど基礎知識


温暖化指標ガスであるCO2を冷媒として利用する理由

オゾン層破壊の実態が明らかになるまでは、冷却能力が高い上に不燃で無害のフロンガスは、理想の冷媒だと考えられてきました。しかし、大気中に放出されたフロンガスは成層圏で強い紫外線に当たると塩素分子を放出し、その塩素がオゾンと反応してオゾン層を破壊してしまいます。1987年締結の「モントリオール議定書」で国際的な規制対象となり、1996年には先進国での生産が全廃されました。

特定フロン(CFC・HCFC)に代わる冷媒として、塩素分子を含まない(放出しない)代替フロン(HFC等)が開発されましたが、HFCをはじめとする代替フロンは、オゾン層を破壊するおそれはないものの、CO2の100〜1万倍もの温室効果があることがわかり、1997年採択の「京都議定書」で、削減対象物質に指定されました。そこで注目され出したのが、フロンや代替フロンのように人工的に合成された物質ではない「自然冷媒」の利用でした。

自然冷媒にも様々な種類があり、それぞれに長所と短所があります。ポイントとなるのは「環境特性」「安全性」「熱的特性」の3点で、CO2冷媒は、この3点において優れているため、大きな期待が寄せられています。一方、高温・高圧への対応が必要であることなどが短所で、それをカバーする技術開発が急務とされています(表a、b)。

「CO2を冷媒として利用する」と聞くと、多くの人が「CO2は地球温暖化の元凶なのでは?」という疑問が浮かぶことでしょう。しかし、CO2を冷媒利用することは、はるかに温室効果の高いHFCの使用・排出削減につながり、地球温暖化防止へ貢献することになるのです。

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表a 冷媒の特性比較表

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表b CO2冷媒には優れた特性も多い反面、克服すべき課題もある

NEDOの役割

「ノンフロン型省エネ冷凍空調システムの開発」

このプロジェクトがはじまったのは?

わが国では、オゾン層保護のために、特定フロン(CFC)の全廃を決めた「モントリオール議定書」を批准しています。一方、地球温暖化防止のため温室効果ガス削減を定めた「京都議定書」も批准しています。しかし、特定フロンに代わる代替フロン(HFC等)は、温室効果が極めて高く、オゾン層保護のため代替フロン(HFC等)への転換を進めれば進めるほど、強力な温室効果ガスを増やすことになってしまい、二つの議定書の内容を両立することは極めて困難です。そこで、特定フロンでも代替フロンでもない物質の利用や新規開発が必要になってきました。とくに、冷凍機の場合は、特定フロンのほとんどが代替フロン(HCFC)に置き換えられていましたが、モントリオール議定書によるHCFC全廃を2020年にひかえ、今後急速にHFC化が進むと見られています。地球温暖化への影響の少ない自然冷媒の活用を目指して本プロジェクトは開始されました。

プロジェクトのねらいは?

「京都議定書」では、1990年比での温室効果ガス削減が定められていますが、代替フロン3種(HFC、PFC、SF6)については、特定フロンの全廃が実施された1995年比での削減が定められています。わが国の場合、1995年の排出量52百万 CO2tから、31百万 CO2tへの削減が目標になっています。代替フロンの回収や破壊なども行われていますが、冷凍機に使用される冷媒は、使用中や廃棄時に漏洩をゼロにすることが難しいため、自然冷媒利用の冷凍システムの開発が急がれました。とくに、スーパーマーケットなどで使用される、冷凍・冷蔵ショーケースは冷媒の使用量が多く、ノンフロン化が達成できれば代替フロンの削減効果が大きいと考えられました。また、冷凍・冷蔵ショーケースに使用されるエネルギーは、スーパーマーケットの消費エネルギーの60%を占め、省エネルギー化の向上も、本プロジェクトのねらいでした。

NEDOの役割は?

プロジェクト開始当時代替フロンに代わる安全で温暖化への影響が少ない物質はまだ開発途上にあり、目前に迫る「京都議定書」の目標を達成するためにも、自然冷媒を利用した冷凍システムの開発を支援することは重要な役割と考えられ、NEDOでは、自然冷媒のなかでも安全性の高いCO2冷媒によるノンフロン冷凍機システムの開発を支援しました。その結果、わが国初の冷凍・冷蔵ショーケース用のノンフロン冷凍機システムの実用化に至ることができました。

関連プロジェクト


    • ノンフロン型省エネ冷凍空調システムの開発(2005〜2007年度)
    • 代替フロン等3ガスの排出削減設備の開発・実用化支援事業(2008~2009年度)

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