CONTENTS
INTRODUCTION
エンジン総排気量(ℓ)9.2(一般の大型路線バス)
→4.9(ハイブリットバス)
BEGINNING
商用車に求められる環境対応にどう答えるか
BREAKTHROUGH
プロジェクトの突破口FOR THE FUTURE
走り始めているハイブリッド商用車
FACE
開発者の横顔INTRODUCTION 概要
エンジン総排気量(ℓ)
9.2(一般の大型路線バス)→4.9(ハイブリットバス)
温室効果ガスや大気汚染物質の排出を抑えることのできる環境対応型自動車が本格的に普及し始めました。乗用車だけでなく、トラックやバスなどの商用車にも、内燃機関と電気モーターで走るハイブリッド車が普及しつつあります。それには、走行距離や耐久性、走行性能など、乗用車とは違った厳しい条件がありました。三菱ふそうトラック・バス株式会社は、そうした難題をクリアするために2つのハイブリッドシステムを開発。また、エンジンやモーターなどの構成部品を統合的に制御する独自の新技術を確立し、環境、経済、操作性のバランスが取れた商用車づくりを行っています。
BIGINNING 開発への道
商用車に求められる環境対応にどう答えるか
日本の二酸化炭素(CO2)全排出量のうち、約2割が旅客・貨物などの運輸部門によるものです。中でも、商用車によるCO2排出量の割合は少なくありません。貨物車のCO2排出量は運輸部門の約35%にのぼります。バスも約2%を占めています。
近年、乗用車ではハイブリッド車や電気自動車が普及してきていますが、トラックやバスなどの商用車でも、ハイブリッド車などの低燃費車が既に導入されており、これらが普及していけば、CO2排出量の削減が進み、地球温暖化の抑制につながることになります。
トラックやバスに対しては、制度面での燃費改善の動きも進んでいます。「エネルギーの使用の合理化に関する法律」の改正により、ディーゼルトラック・バスの重量車に対して、車両の総重量ごとに平成27年度(2015年度)に達成すべき新たな燃費基準が制定されました。
環境負荷の低いハイブリッド型のトラック・バス誕生
三菱ふそうトラック・バス株式会社では、ハイブリッドシステムを採用した小型トラック「キャンターエコハイブリッド」と、同じくハイブリッド式の大型路線バス「エアロスターエコハイブリッド」を開発しました。どちらの車も、すでに街中を走っています。また、平成27年度重量車燃費基準を達成しています。
小型トラックのキャンターエコハイブリッド(左)と、大型路線バスのエアロスターエコハイブリッド(右)
また、走り始めの段階などでエンジン音を発しないため、騒音の低減にも一役買っています。キャンターエコハイブリッドの開発の根幹にある、Ecology(エコロジー)、Economy(エコノミー)、Easy Drive(イージードライブ)の「3つのE」が形となっています。
ハイブリッド自動車には、車を動かすための方法が複数種類ありますが、エアロスターエコハイブリッドの機構は「シリーズ方式」、キャンターエコハイブリッドは「パラレル方式」と呼ばれています(下記「なるほど基礎知識」参照)。
キャンターエコハイブリッド、エアロスターエコハイブリッドとも、平成17年排出ガス規制値より、PM(粒子状物質)/NOx(窒素 酸化物)の排出量をさらに10%以上低減。
また、平成27年度重量車燃費基準も達成している
トラック・バスの低公害車、特徴は様々
実際の走行パターンを、キャンターエコハイブリッドを例に見てみます。発進時はモーターのみで走行。エンジンを使わないため騒音の低減にもなります。一定速度以上になると効率性を発揮するエンジンに切り換わります。
さらに、加速時や登坂路走行時などの駆動力が必要な場面では、エンジンとモーターの両方が使われます。
減速時にはモーターが発電機として働き、車が進もうとするエネルギーを使って電気を生み出します。車の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収することから、回生ブレーキと呼ばれます。回収した電気エネルギーは再び、蓄電池に蓄えられ駆動用に使われます。
一方、エアロスターエコハイブリッドには、シリーズ方式のハイブリッドシステムを採用しました。エンジンを発電用にしか使わないため、車の速度に関係なく、最も効率の良い回転数でエンジンを働かせる事が出来ます。そのため、小さなエンジンでも効率良く走ることができるのが、特徴のひとつです。エアロスターエコハイブリッドに搭載されているエンジンは総排気量が4.9ℓですが、エンジンだけで走る同型バスでは総排気量が9.2ℓもあります。これに、回生ブレーキなどの技術を組み合わせることで、低燃費を実現しました。エアロスターエコハイブリッドは、平成20年に「第19回省エネ大賞 省エネルギーセンター会長賞」を受賞しています。
トラック、バスとも蓄電池には、NEDOの別のプロジェクトから誕生したリチウムイオン電池が採用されています。キャンターエコハ イブリッドでは、車体に搭載されたリチウムイオン電池を衝撃から守り、かつ冷却性能を 高めるために開発された独自の蓄電池容器が使われています。
低公害化のための技術はハイブリッドシステムだけではありません。大気汚染の原因となる粒子状物質(PM)や、一酸化炭素(CO)、また温室効果ガスとされる炭化水素(HC)などのキャンターエコハイブリッドにはエンジンからの排出ガスを浄化する装置も搭載されています。装置には、PMをとらえるフィルターと、COやHCなどの未燃 焼物質を酸化させて、水や二酸化炭素に変えて除去する酸化触媒と、NOxを削減するクールドEGRが用いられています。
図3 キャンターエコハイブリッドの走行のしくみ
アロスターエコハイブリッドのエンジンルーム。
エンジンは、発電のみに使うため、同社の4.9ℓクラスの小型トラック用を流用。車体は通常バスと同仕様のため、エンジンルームに比べてエンジンが、小振りに感じられる
箱状の容器に収められたキャンターエコハイブリッドのリチウムイオン電池
BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口
三菱ふそうトラック・バス株式会社のハイブリッド商用車を実用化に近づけたのが、NEDOのプロジェクト「高効率クリーンエネルギー自動車の研究開発」(平成9年~15年)でした。
プロジェクトでは、まずCNG(天然ガス)エンジンを使った試作車両で、ハイブリッドシステムの基盤技術習得とコンセプト固めがなされました。その後、検討の末、プロジェクトではシリーズ・パラレル方式の技術開発を目指すことになりました。
開発本部グローバルハイブリッドセンターの近藤勉シニアエキスパートは、「開発でのポイントは制御技術の確立にあった」と、振り返ります。自動車の走行は、速度の加減や道路の環境など、ありとあらゆる状況が考えられます。その中で、効率よく車を走行させるため、エンジン、トランスミッション、モーター、インバーター、蓄電池などの各要素を連携させるための統合的な制御システムを開発しました。
各要素の性能向上を単体で考えるだけでは、例えば追い越しや登坂路走行などの加速時に、 エンジンに加えて急にモーターの駆動が加わるため、走行がぎくしゃくしてしまいます。 要素ごとの連携をスムーズにするため、プロジェクトでは様々な状況での制御の仕方が検 討されました。7年のプロジェクト期間中、最初の2年間でシミュレーション実験を含む システム設計、次の3年で試作車製作を経て、最後の2年で実証検討がなされました。
キャンターエコハイブリッドの制御機構。
ECUは電子制御ユニット。INOMAT-IIは三菱ふそうトラック・バス独自の機械式自動変速機。CANは各機構間通信用コントローラー・エリア・ネットワーク
機械式自動変速機INOMAT-II(右側)とモーター内部(中央)
FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来
走り始めているハイブリッド商用車
NEDOプロジェクトの参加当時を、近藤シニアエキスパートはこう振り返ります。「技術的な点、資金的な点だけでなく、プロジェクト終了後のフォローもあり、NEDOの支援は大きかった。プロジェクトでは各研究段階の達成期限なども決まっており、かなりタイトではあったが、逆にその都度成果をまとめることができたのでよかった」
プロジェクトでの技術が活かされ、キャンターエコハイブリッドは2006年に、エアロスターエコハイブリッドは2007年にそれぞれ発売されました。
快走するキャンターエコハイブリッド。見た目はごく普通のトラックだが、その潜在力に期待が高まる。
キャンターエコハイブリッドの販売台数は、2009年末時点で800台ほど。アイルランドやオーストラリアからの受注もあり、世界的な関心を集めています。近藤さんは、「キャンターシリーズのうち3割がエコハイブリッドで占めるくらい使用台数を増やすことが真の意味での目標達成になります」と、今後の目標を話します。
エアロスターエコハイブリッドは、各バス企業が導入を進めるなどして、全国各地で活躍中です。
エアロスターエコハイブリッドはエンジン以外にも多くの既存製品を使って、信頼性向上とコスト ダウンを図っている。
車体(左)は、ルーフカバーにリチウムイオン電池を搭載できる圧縮天然ガス(CNG)バス用を流用、モーター(中央)とインバーター(右)は、それぞれ路面電車用 の汎用製品を使用している。
トラックもバスも膨らむ用途
トラックは、輸送用途の他、塵芥車(ゴミ収集車)などのように各種装備が備わった車もあります。これらの装備にも、現在のところ動力としてエンジンが使われています。装備面でもハイブリッドシステムで使われる電気やモーターが使われるようになれば、街中での静穏な作業が実現することでしょう。
バスについても技術開発による用途の拡大が期待されます。現在のエアロスターエコハイブリッドは、回生ブレーキをこまめに活用できる市街地路線用に特化していますが、企業渉外・環境部の久保田茂樹マネージャーは、「今後は、高速道路用でも利点を出せるようなハイブリッドのトラック・バスも視野に入れたい」と話します。
商用車では、今後も多くの用途で、ハイブリッドシステムの活躍が期待されています。
エアロスターエコハイブリッドのメーターパネル。中央に大きくバッテリー残量計がある(左)
エアロスターエコハイブリッドのシフトレバー。モーターで走るため、前後進だけを選択する(右)
開発者の横顔
トラックとバスのハイブリッドシステム技術の開発を手掛けてきた近藤勉さんは、「昔から自動車が好きで入社しました」と、入社の理由を振り返ります。技術開発部門で自動車の安全性向上のための研究開発をした後、ハイブリッドシステムの技術開発部門の発足に伴い、環境の視点から自動車を見つめなおすことになりました。
「電気を組み合わせることで自動車の可能性が広がっていく点が、ハイブリッドシステムの魅力」と、近藤さんは考えます。「これまで自動車の世界では、技術はある程度、成熟の域に達していたと思われていた中で、ハイブリッド車という新しい技術が現れました。今後、自動車の世界に新しい風が吹く期待感がありますね」
三菱ふそうトラック・バス株式会社
近藤 勉さん
なるほど基礎知識
ガソリンや軽油などの燃料で動くエンジンと、電気で動くモーターの両方を搭載した低公害車は、「ハイブリッド車」と呼ばれています。ハイブリッド車では、普通は捨ててしまうクルマが減速するときのエネルギーを、モーターを発電機として蓄電池に蓄え、次の走行や加速のときに利用することができます。減速エネルギーを再利用することによって、エンジンの負担を軽減し、排出ガスに含まれる二酸化炭素や大気汚染物質の量をトータルで抑えることができます。
このハイブリッド車の仕組みは、エンジンやモーターなどの使い方に応じて、いくつかの方式に分けることができます。
エアロスターエコハイブリッドの方式では、自動車は蓄電池により電気モーターで走行します。エンジン、発電機、 モーターがそれぞれ直列に並び、クルマを動かすために、「シリーズ方式」と呼ばれます。 減速エネルギーだけでは、クルマを走らせる全てのエネルギーを賄うことは出来ないので、エンジンで発電機を駆動して不足分を蓄電池に充電します (エンジンはクルマを直接には走らせません)。
図1 エンジンで発電し蓄電池に充電して、モーターで自動車を動かす方式の、エアロスタ ーエコハイブリッド
図2 エンジンとモーターで自動車を動かす、キャンターエコハイブリッド
エネルギーの不足分だけをエンジンで補えば良いので、エンジンは小型で済み、排出ガス量は少なくなります。いっぽう、モーターと蓄電池はエンジン無しでクルマを動かすため、大きなものが必要となります。
キャンターエコハイブリッドで採用されているのは、エンジンとモーターのどちらも自動車を動かすために使う方式です。減速エネルギーを蓄えた蓄電池により、通 常のエンジン駆動に加えて電気モーターがエンジンを助けます(アシスト)。エンジンは小さな出力でクルマを動かすことができるため、二酸化炭素や大気汚染物質を減らすことができます。また、エンジンと共同でクルマを動かすために、モーター出力や蓄電池はシリーズ方式にくらべて小さくて済みます。
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