神戸大学
バイオ×デジタルでスマートセルを高速に開発
DBTLサイクルを回すことで従来の10倍の速さで開発を可能に
NEDOと神戸大学の近藤 昭彦教授は、バイオと計算科学を組み合せることで、設計(Design)、構築(Build)、試験(Test)、学習(Learn)のDBTLサイクルを高速で回し、医薬品やバイオ燃料等のさまざまな有用物質の生産を加速させることを目指しています。
近藤教授は「有用物質を生産するスマートセルを生み出すためには、1,000個、1万個といったたくさんの仮説をつくり、一つひとつ検証していく必要があります。これを人間の手ではなく、全てAIとロボットに任せることで開発は一気に加速します」と話します。
拠点となる神戸DBTLバイオファウンドリでは、独自に開発した技術を組み合わせることで、目的の物質を高収率、高濃度で生産する「スマートセル」を従来の10倍の速さで開発することができます。このバイオファウンドリをスマートセル開発の場として広く活用することにより、化学品や医薬品の原料等をバイオで製造したい企業のステップとなることを目指しています。近藤教授は、バイオものづくりの社会実装は、プラネタリーヘルスのため、つまり人間だけではなく、人々が暮らす地球の健康のためでもあると位置づけています。
AI・ロボット技術の活用によって、たくさんの実験が可能になればAIの学習データが大量に集まって精度が向上し、実験のコストも下がります。NEDO材料・ナノテクノロジー部の平松 紳吾主査は「バイオ系と情報系の研究者が分野を超えて協働していることがこの拠点の特徴です」と話します。
高機能な化学品や医薬品原料等を、バイオの力で生産することが世界的にも主流になる中、神戸大学のバイオファウンドリは、この分野のフロントランナーとして、日本のバイオものづくりを牽引しています。
応用先
生産性に優れたスマートセルを短期間で開発したい事業者
02.
特集|実用化への歩み、着々 バイオものづくり拠点 ととのう!
バイオものづくり拠点をご紹介
京都大学/ちとせ研究所
微生物培養の「匠の技」をAIが受け継ぎ、超える日
コンボリューショナルデータ※を活用したバイオ生産マネジメントの確立へ
バイオ生産の技術は、熟練技術者のノウハウや五感など、いわゆる「匠の技」に頼る部分が大きかったため、効率化と安定化が難しい分野でした。ちとせ研究所の河合 哲志氏は「微生物培養の技術は1940年代に基本形が形成されて以降、革新的な技術が生まれず、生産性は頭打ちでした。熟練者の技の継承も困難なため、誰でも安定した培養を行える技術開発が必要だと考えました」と話します。
NEDOと、ちとせ研究所は、温度やpHに加え、光学系や電位等、独自開発を含む多種多様なセンシングデバイスを整備。AI学習に特化したコンボリューショナルデータを集積することで、微生物の動態を把握し、AIが培養状態を自律的に最適化するシステムを開発しました。河合氏は「有用なデータが取れない可能性もある中、センサーの開発に挑戦できたのはNEDO事業だからです」とプロジェクトの意義を話します。
実際に、ちとせ研究所と協和発酵バイオ株式会社が行った生産性実証試験では、リアルタイムで培養条件を制御することにより、熟練者の生産量を約10%上回る生産性を達成しました。このAIによる最適化は、これまでの生産現場の常識を覆すこともしばしばあり、人間では実現が難しい制御を行うことが特徴です。NEDO材料・ナノテクノロジー部の小塚 高広主任は「AIの制御で人を超える生産性を発揮したことは産業界にとっても大きなニュースです」と成果を話します。ちとせ研究所のバイオファウンドリでは、今後、醸造や培養の知見を有する生産現場の声を聞きながら、データの質・量とともにAIの性能を高め、高い生産性と安定した培養プロセスを確立することで、産業のバイオ化とバイオエコノミー社会の実現を支援します。
応用先
培養条件の最適化によって効率的・安定的なバイオ生産を目指す事業者
02.
特集|実用化への歩み、着々 バイオものづくり拠点 ととのう!
バイオものづくり拠点をご紹介
大阪工業大学
実験と実生産の間をつなぐ「バイオものづくりラボ」
試作、人材育成の拠点としてバイオものづくりの社会実装を支援
カーボンニュートラル社会の実現に向けて、注目が集まるバイオ由来製品ですが、現在は高コストで製法に汎用性がなく、試作できる施設が少ないなど、企業の新規参入には障壁が少なくありません。NEDOと大阪工業大学の長森 英二准教授は、こうした課題を解決し、生産プロセスの開発を支援するため、「バイオものづくりラボ」を2021年に開設しました。「バイオものづくりラボ」は0.25Lサイズの培養槽を32連、1Lサイズを12連、5Lサイズを4連、さらに教育用としては国内唯一の30Lサイズまで備え、バイオ産業界の多様なニーズに応えることができます。長森准教授は「多連の培養槽を利用することで、一度にさまざまな条件下で検討でき、試作、評価を数年単位で短縮できます」と話します。
醸造や発酵食品製造は熟練技術者の経験とスキルに頼る部分が大きく、次世代の人材を育成することも急務です。NEDO材料・ナノテクノロジー部の秋葉 幸範専門調査員は「技術者の負担を軽減し、魅力ある産業にするため、解析アプリの開発や自動分析装置の設置など、生産プロセスの自動化も進めています」と話します。また、培養装置を正しく扱える技術者も必要であることから、大阪工業大学ではNEDO特別講座の一環として座学と実技のセミナーを実施しています。NEDO材料・ナノテクノロジー部の浅石 理究主任は「試作支援、セミナーともに大変な人気で、若い技術者の交流も生まれています」と成果に手応えを感じています。
次のステップとして長森准教授は「生産物の分離精製を試せる施設をつくる予定です」と語ります。これによってバイオ由来製品の製造がさらにスピードアップし、持続可能な社会の実現に向けた原動力になると期待されています。
応用先
バイオ産業への新規参入に向け、試作、人材育成を目指す事業者
02.
特集|実用化への歩み、着々 バイオものづくり拠点 ととのう!
バイオものづくり拠点をご紹介
Green Earth Institute株式会社
最大3,000Lの発酵槽でスケールアップ実証
スケールダウンモデルによる生産システムの開発にも挑戦
「バイオものづくりの実用化への課題は、時間やコストがかかるスケールアップと人材の確保」と話すのは、Green Earth Institute株式会社のバイオファウンドリ研究所長を務める古城 敦氏です。
同研究所は、バイオ生産実証を推進する拠点として2023年6月に本格始動。企業や大学、公的研究機関がラボで開発した有用なスマートセルを培養し、製品化に向けた生産プロセスの最適化や、同研究所が備える最大3,000Lの発酵槽を用いたスケールアップ検証を行える国内唯一の施設です。2024年には精製設備の導入を予定しており、バイオマス残渣等で発酵用の原料をつくる「前処理」から「精製」「サンプル作成」まで、一連の生産工程から目的に応じたメニューを提供できるのが特長です。
さらに、段階的なスケールアップにかかる時間とコストを大幅に削減するため、発酵槽内の状況をシミュレーションするCFD解析※1を用いた「スケールダウンモデルでの生産システム」の技術開発にも取り組んでいます。
古城氏は「人材育成も社会実装の1つ。当社は技術を売る会社なので、裾野を広げていくことも使命だと考えています」と話します。プロジェクトマネージャーを務めるNEDO材料・ナノテクノロジー部の小笠原 真人専門調査員は「バイオものづくりは技術の継承が大切。ぜひいろいろな方に実用化に近いものを、実際に手にとって体験していただきたい」と期待を寄せます。「新たなバイオものづくりに携われることがやりがい」という古城氏。「NEDOプロジェクト終了後も、DX化や自動化を取り入れて民間事業として成り立つ道筋を立てたい。オールジャパンでバイオものづくりが花開くといいですね」と熱く語りました。
応用先
パイロットテスト※2およびサンプルの作成
経験を有する人材の育成を目指す事業者