広報誌 Focus NEDO 91号
02.
特集|技術戦略で明日への地図を描け NEDO技術戦略研究センターの10年
ワン長官と岸本センター長とのハイレベル対談
イノベーションの創出へ、グローバルな連携を強化
(写真左から)
TSCセンター長
岸本 喜久雄
ARPA-E
Evelyn N. Wang(エヴリン・ワン) 長官
米国エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)は、エネルギー分野に変革をもたらす技術の研究開発プログラムを推進するエネルギ一省傘下の公的機関です。NEDOはARPA-Eと協力し、カーボンニュートラルに貢献していくことを目指しています。ワークショップが開かれた2023年7月には、ワン長官と岸本センター長とのハイレベル対談も行われ、交流を深める貴重な機会になりました。
エネルギーサプライチェーンの確立のために協力関係の構築が重要
岸本 | 現在の世界的なエネルギー市場の不安定さと、今後も続くエネルギー価格の上昇は、主要なエネルギー源を輸入に頼っている日本にとって大変重要な課題となっており、安定したエネルギーサプライチェーンの確立のためには、エネルギー関連の技術開発を着実に進展させることが必要です。その上で米国やその他の国々との協力関係を築くことが必要と考えています。 |
ワン | 我々も単一の資源やサプライヤーへの依存が、サプライチェーンを混乱させていると感じています。ARPA-Eが開発を支援している技術は、例えばMINERプロジェクト(重要鉱物の国内収量拡大を目指すプロジェクト)や藻類のプロジェクト等、サプライチェーンの観点からも非常に重要な意味を持っています。安心かつ安全なサプライチェーンを確立するために、日本と同様、同盟国と協力したいと考えています。 |
岸本 | 地球上の資源は限られており、ある素材を他の素材に代替する技術開発も必要だと考えます。これは素材メーカーにとっても挑戦的な課題となっています。また、それらの原料のリサイクルにも目を向けていくべきで、例えば、最近だと衣類リサイクルについて個人的に着目しています。ただし、適切なリサイクルを行うためには、個人がリサイクル活動に参画しなくては意味がありません。そのためにも個人の行動原理を理解することが重要だと感じています。 |
ワン | 衣料リサイクルであれ何であれ、技術の展開においては個人の行動原理のことを考えなければなりませんね。市場のニーズや経済性も重要と考えます。 |
社会実装をサポートする技術と実用化の専門家として
岸本 | カーボンニュートラルの達成のためには、我々の世代のことのみを考えるのではなく、将来を見据えて、良質な開発をしなければなりません。必要な技術開発を通じて、非連続なイノベーションやブレークスルーを実現することが資金配分機関の役割の1つですが、若い世代にもその問題に取り組むよう促すことも重要な役割だと考えています。 |
ワン | 米国内では2050年のネット・ゼロの達成に向けて、多様なアプローチが必要だと認識しています。例えば、自動車だけではなく、航空機も含むモビリティの電化などです。その他にもARPA-Eは低排出な鉄鋼プロセス、セメント製造や、海洋における炭素の回収や貯留等にも注目しています。 |
岸本 | ブルーカーボンは、日本も注力しています。海はまだ解明されていないことも多いため、私たちは深海をターゲットとし、CO2の固定化だけでなく海洋組成について理解する必要がありますね。 |
ワン | ARPA-EやNEDOのような政府機関は、技術的な専門家であると同時に、成果の実用化の専門家としてもその道筋をサポートすることが役割の1つです。そうすることで、民間企業が投資を開始し、成果を世に送り出すことができます。 |
岸本 | 同感です。若い世代が自身のテーマについて考え、挑戦することを奨励するためにも、我々は資金を提供するだけでなく、プロジェクトの評価機能や制度設計、プロジェクトマネジメントの役割を果たすことも必要となります。 |
より良いアイデアを生み出すコラボレーションに期待
岸本 | 本日ワシントンで開催したワークショップでは互いの専門家が参加し、共通の関心・見解が多く得られ非常に素晴らしかったですね。 |
ワン | 同感です。ARPA-EとNEDOが追求したい分野は相乗効果があり、今後も長い友好関係を持つことができればうれしいです。NEDOのプロジェクトマネージャーをARPA-Eに招いて、長期滞在してもらい、一緒に呼吸・生活すれば、より良いアイデアが生まれるのでは、と考えています。名付けるならば「LIVE AND BREATH」でしょうか。 |
岸本 | それはとても良いアイデアですね。このような関係は知見の獲得のみならず、経済安全保障の観点からも重要で、日米のより強固な人的ネットワークを構築できる非常に素晴らしいチャンスだと思います。 |
ワン | 今後も交流を続け、人材交流や共同プロジェクトを実施できればと思います。そうすることで互いに進歩し、イノベーションを加速させる大きなチャンスになるでしょう。 |
ARPA-Eとの「協力交流についての覚書」締結までの経緯
2015年5月
●川合センター長とARPA-E Williams長官が面談@ワシントン
2015年10月
●Kosinski副長官ICEF(Innovation for Cool Earth Forum)に参加
2016年2月
●初となるARPA-Eとの共同ワークショップを開催@ワシントン
●ARPA-E Energy Innovation SummitにTSCから初めて参加
2016年10月
●Kosinski副長官 ICEFに参加
2023年7月
●ARPA-Eとの第2回共同ワークショップを開催@ワシントン
2023年10月
●Wang長官 ICEFに参加
●ARPA-Eと「協力交流についての覚書」を締結