NEDO Web Magazine

広報誌 Focus NEDO 90号

02.

特集|再エネ主力電源化の実現へ!知っておきたい、次世代電力ネットワーク

再生可能エネルギーの大量導入に向けた次世代電力ネットワーク安定化技術開発/日本版コネクト&マネージを実現する制御システムの開発

「日本版コネクト&マネージ」の実現は
脱炭素への大きな一歩です

再エネを大量導入するための鍵は?|地域の再エネの発電量と電力需要の予測精度を向上させることです。再エネを大量導入するための鍵は?|地域の再エネの発電量と電力需要の予測精度を向上させることです。

「日本版コネクト&マネージ」とは?
なぜ必要なのか

小笠原再エネ発電設備は、いまや身近な存在になってきましたが、2050年のカーボンニュートラルに向けて再エネ導入をさらに拡大するためには、さまざまな課題が残されています。その1つが「送電容量の制約」の問題です。既存の系統(電気を送る電力網)の設備では、電気を流すことができる「容量」が決まっているため、再エネ発電事業を推進したくても、空き容量が少ないために電気を送ることができないといった問題が起きていました。
系統に空き容量が少ないのであれば、設備を増強すればいいのでは?と思う人も多いでしょう。しかし、それには多額の費用と時間がかかります。そのコストは、最終的には電気を使う需要家が負担することになります。ですから市場に受け入れられるためには、できるだけ低コストで再エネを早期に導入できるようにしなければなりません。
小笠原そこで、まず接続(コネクト)し、管理(マネージ)することで既存の設備を最大限に活用しようとする「日本版コネクト&マネージ」の取り組みが始まりました。コネクト&マネージはもともと欧米で始まった概念で、日本の電力取引制度を前提とした独自の仕組みとすることから「日本版」と呼んでいます。

系統に空きがあるときにそれを活用する「ノンファーム型接続」のための制御システムを開発

小笠原「日本版コネクト&マネージ」は、国が主導する形で「想定潮流の合理化」、「N−1電制※1」、「ノンファーム型接続※2」の3つのタイプで検討が進められました。既存のシステムで対応可能な前者2つはすでに全エリアで適用されましたが、残る課題が「ノンファーム型接続」でした。これまで日本では、発電した電気を流すために必要な系統の容量をあらかじめ確保しておく方式で運用してきましたが、常にその容量を100%使い切っているわけではありません。そこで、あらかじめ系統の容量を確保せず(ノンファーム)、系統の容量に空きがあるときにそれを活用し、系統の容量に空きがなくなったときには、発電量の「出力制御」を行うことを前提に接続契約を結ぶ、再エネ等の新しい電源をつなぐ方法が「ノンファーム型接続」です。
それによって、既存設備が有効に活用できるようになりますが、再エネの発電出力がどんどん拡大していくと、設備に流せる電気の量を超過してしまい、設備を損壊してしまう恐れが生まれます。そうした中で再エネによる電力をできるだけ多く系統に流せるように、プロジェクトでは次世代の系統安定化に必要な基盤技術として、「日本版コネクト&マネージ」を実現する制御システムの開発を行ってきました。ポイントは、地域の再エネの発電量と電力需要の予測精度をいかに向上させるかです。再エネの主力となる太陽光発電や風力発電は、気象条件によって出力が変化するため、時々刻々と移り変わる気象予測から、発電量や設備に流れる電気の量を想定した上で、制御する必要があります。

※1 需要に応じて実態に即した電源稼働を想定して算出する手法
※2 送変電設備で単一設備故障(N−1故障)が起きたとき、瞬時に発電を停止することで、緊急時用に空けておいた容量を活用する取り組み

事業期間途中の仕様変更という局面をチーム力で乗り越え、打開する

小笠原この事業は、国の議論と同時並行で検討を進めてきました。より社会にとって合理性のある方法が追求される中、国の審議会での議論の結果から、出力を制御する方式やその対象を変更することになり、開発システムの仕様の変更等、実施者の皆さんには事業期間の途中で大きな変更を強いることになりました。
一時は期間内の完成が危ぶまれましたが、関係者全員が何とか期限に間に合わせようと、短いスパンで打ち合わせを重ね、進捗を確認しながら、発生しそうなリスクも管理しました。株式会社日立製作所、四国計測工業株式会社、株式会社テプコシステムズといったシステム開発ベンダーの多大な協力もあって、期限内に開発を完了できる見通しが立ちました。乗り越えることができたのは、やはりカーボンニュートラルへの貢献という旗印があったからこそだと思います。皆が目標を共有し、気持ちを1つにしたことで、高いハードルを越えることができました。
小笠原ご尽力いただいたことに心から感謝します。このプロジェクトで開発したシステムは、世界的にも非常に先進的なものだと考えています。今後NEDOとしても、今回の成果を国内外問わず広く展開できるよう、広報を含め引き続き支援していくつもりです。
まずは国内で、他の一般送配電事業者へ基本的なシステム仕様を共有し、全国展開に向けて取り組んでいきます。その上で、海外にもニーズがあれば積極的に提案できたらと思っています。また、2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、電力供給の将来像を見据えて、今何が必要か、今後何が求められていくかといった課題の整理も重要と考えています。
小笠原再エネ導入量のさらなる拡大・普及に向け、まずは本事業の完遂と2024年4月からのシステムの運用開始のために関係者で連携を図りつつ、将来を見据えて必要となる活動を今後も進めたいと思います。よろしくお願いします。
プロジェクトマネージャー 小笠原 有香 NEDO スマートコミュニティ・エネルギーシステム部 主任プロジェクトマネージャー 小笠原 有香 NEDO スマートコミュニティ・エネルギーシステム部 主任

プロジェクトマネージャー
小笠原 有香
NEDO スマートコミュニティ・エネルギーシステム部
主任

研究開発責任者 岸 栄一郎 氏 東京電力パワーグリッド株式会社 系統運用部長研究開発責任者 岸 栄一郎 氏 東京電力パワーグリッド株式会社 系統運用部長

研究開発責任者
岸 栄一郎 氏
東京電力パワーグリッド株式会社
系統運用部長

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