正解は一つではありません。
失敗を恐れず挑戦を楽しんでください。
昨年、世界の人口は80億人を超えました。宇宙から見る夜の地球は人間が放つオレンジ色の光でどの大陸もすでに一杯です。地球のキャパシティが限界に近づく中、さらに戦争や紛争、感染症など、さまざまな障害を乗り越えるには、人間だけでなく地球上のあらゆる生命との共生を考えなければなりません。そうしたときに、地球を全体として捉えるズームアウトの視点と、高精細なデータで捉えるズームインの視点を併せ持つことが、これから非常に重要になります。
私は全体と個、総体と部分を同時に捉えるという感覚を持つ大切さが宇宙飛行を通じてとてもよくわかりました。そうした観点からも、今回の「NEDO Supply Chain Data Challenge」 は、非常に良い企画だったと思います。広域を見る衛星データと地上のさまざまなデータを融合するアイデアが多く見られ、イノベーションへの期待はますます高まりました。さらに言えば、民間を含めた衛星データの蓄積が進み、衛星データプラットフォームである 「Tellus」からのデータ提供等によって、さまざまな産業に役立つビジネスが次々に立ち上がる可能性も感じさせてくれました。
折しもウクライナへの侵攻があり、新型コロナウイルスで各国のサプライチェーンが打撃を受けている時期に、衛星データを使ったビジネスを確立できれば、日本が先行し世界に貢献する機会にもつながります。正解が一つではない多様な現代社会では失敗経験の中に次のビジネスチャンスが生まれます。そのためにも、誰でも使えるデータを提供するシステムを構築することと、積極的にチャレンジした結果であれば失敗も評価し再チャレンジできるビジネス環境になることが大切です。
参加したチームは背景も発想もバラエティ豊かで、特に若い人たちがチーム力を発揮していたことが印象的でした。こうしたコンテストを二回、三回と継続することで、より多くの挑戦者たちの興味を引き出し、彼らが競って衛星データを活用する時代が日本で世界に先駆けて到来することを期待しています。
宇宙ビジネスの壁を越えるきっかけとして。
衛星データの有効性を実証することと事業化することの間には、まだ高い壁があるのが実情です。今回のコンテストは、その壁を越えるきっかけの一つになったのではないでしょうか。特に、サプライチェーンという分野を絞った課題を設定したことで、より先鋭化されたサービスインに近い提案が集まりました。参加者の方々には今回の評価をクレディビリティとして活用し、事業化という次のステップに立ち向かってほしいと思います。
意欲ある人をつなぐ「場」としてのイベントに。
参加者のプランはどれも完成度が高く、事業化を目指す本気度を感じました。懸賞金事業は、衛星データというものがビジネスに活用できることを周知する格好の舞台になったのではないでしょうか。今後も事業を継続する上では、上位入賞者が一種のサロンに加入できるようなインセンティブを設け、知の交流や事業連携の場を提供することで、イベントとしての価値がさらに高まると思います。
NEDO初の試みを評価。
今後の展開に期待します。
日本で政府系の懸賞金コンテストは、おそらく初めてのことで、その意義は大きいと思います。受託契約と異なり、技術があるベンチャーや大学などが参加しやすく、意欲的なテーマに取り組むことで、勝者以外も技術を磨くことができます。今後も回を重ね、メディアが注目し、より魅力あるプログラムに育つことで、多くの参加者がステップアップのチャンスをつかむことに期待しています。
新しいプレイヤーを発掘し後押しする機会に。
今回の懸賞金コンテストは、サプライチェーンという現実的なトピックだったこともあり、宇宙以外の幅広い分野から新しいプレイヤーを発掘できた意義のある取り組みだったと思います。衛星データの活用は、物流やサプライチェーンはもちろん、ナショナルセキュリティという意味でも非常に重要です。この機会が参加者にとって新しい宇宙事業へのキックオフになることを願っています。
NEDO Supply Chain Data Challenge Review
懸賞金事業という新しい支援のカタチへの挑戦でした。
従来の委託・助成事業のような限られた事業者による研究開発ではなく、広く知見と技術を募り参加者が互いに競い合う場での課題解決に向けた優れたアウトプット創出を期待し、NEDOとして初めての懸賞金事業を実施しました。制度設計に当たっては既存の研究開発支援とは異なり、解決に向けた複数のアプローチを提案していただくことがポイントであるため、どのようなテーマ設定の粒度とするか、どのチャンネルでの広報が効果的なのかなど、今までにない検討を重ねながら、委員や事務局メンバー等とディスカッションして組み立てて参りました。
結果、日本のみならず世界各国から応募があり、最終審査会で華々しく受賞者を決定することができたことは、衛星データを活用した新たなアイデアの創出、裾野拡大による業界活性化につながったものと自負しております。懸賞金事業がNEDOの新たな支援制度の柱となるよう今後も取り組んで参ります。