NEDO Web Magazine
AI社会実装促進 人工知能技術適用によるスマート社会の実現

多様なAI技術の活用事例を超スマート社会の呼び水に

加藤 宏明 KATO Hiroaki

NEDO ロボット・AI部 主査

便利なサービスや豊かさを
当たり前に享受できる社会へ

少子高齢化による生産年齢人口の減少が進む日本では、国際競争力の維持・向上や、生産性向上、高齢者の健康向上や医療・介護に係るコスト低減等、さまざまな社会課題があります。これらを解決する有効なアプローチとして、AI技術の早急な社会実装が大きく期待されています。NEDOは2018年から、これまでに蓄積してきたAI技術を実装したスマート社会の実現に向けたプロジェクトを開始しました。このプロジェクトでは「次の時代へ、もっと豊かな“あたりまえ”を。」をスローガンに揚げています。

加藤PMは、「プロジェクトが始まった当初は、AIを活用した事例は多くありませんでした。AIはあくまでも人間の手助けをするツールであり、AIをどんな分野でどう使うかを考えることが重要です。本事業では、研究開発から社会実装まで一元的に取り組むことで、AI技術活用の先行事例を積み上げてきました」と説明します。

具体的には、国の「人工知能技術戦略」(2017年3月公表)の中で掲げられた「生産性」「健康、医療・介護」「空間の移動」の三つの重点分野において、11のテーマで研究開発に取り組んでいます。例えば、「生産性」では「植物工場のバリューチェーンの効率化システムの開発」や「フードチェーンの最適化によるフードロス削減」、「健康、医療・介護」では「脳動脈瘤破裂リスクを判定するAIシステム」や「新薬開発を効率化する製剤処方設計AI」の開発、また「空間の移動」では、現実とサイバー空間を融合した「三次元マップの構築」や「AIドローン技術」等があります。次ページで紹介する「AIを活用した交通信号制御」の技術開発は、歩行者やドライバーが直面する、ストレスのない移動や交通渋滞といった身近な課題を解決するものとして期待されています。

加藤PMは、「研究開発から社会実装されるまでにはさまざまな課題がありますが、その橋渡しとなるのがNEDOプロジェクトの役割です。今後は、これらの事例がAI技術の社会実装を進める“呼び水”となり、多様な分野に応用されることで、新しいサービスの創出や豊かな社会の実現に役立ってほしいと思います」と語りました。

AI社会実装を目指す三つの重点分野。

Project 人工知能を活用した交通信号制御の高度化に関する研究開発
交通状況を判断し、AIが信号を自律制御

AIとセンシング技術で信号を制御し、
渋滞解消と低コスト化を目指す

日本の道路は、交通信号機と中央の交通管制センターを通信回線でつなぎ、高度に制御されています。しかし、車両感知器や有線の通信回路、大規模な中央制御装置等が必要で、その維持管理に膨大なコストがかかることが課題となっています。また、信号機が中央の交通管制センターと接続されていないため、十分に有効な交通制御ができない地域も多いのが実情です。

これらの課題を解決するため、NEDOと東京大学、一般社団法人UTMS協会を中心としたチームは、AIを活用した自律・分散型の信号制御による新たな交通管制システムの開発に取り組んでいます。

プロジェクトでは、交差点に設置したレーダーや画像情報から歩行者や車両の動態を、プローブ情報(車の走行情報)から過去の渋滞状況等を把握し、これらを組み合わせてAIが交通情報の分析を行う「データ生成技術」を開発。また、AIを搭載した信号機にこれらの情報を入力し、最適な交通信号制御を行う「適応型自律・分散型信号制御システム」の開発に成功しました。2022年3月からは、静岡市の12カ所の交差点において実証実験を実施しました。その結果、AIを用いたセンサーデータ生成、およびAIを用いた新たな信号制御アルゴリズムにより、良好な制御性能が得られることが実証できました。さらに、このシステムを導入すると、現状より平均旅行時間を約20%短縮でき、年間約550万tのCO2排出量の削減が見込めます。

本事業のプロジェクトリーダーを務める東京大学の大口 敬教授は「車が来ていないのに赤信号で待たされる、といった経験は誰にでもあると思います。AIやセンシング技術を活用し、安心・安全にストレスなく移動できることが当たり前の社会を作る、それがこのプロジェクトの狙い。今回の事例を基に、本事業で築いたネットワークを生かし、全国に普及していきたいですね」と意気込みを語りました。

髙岸 香里

NEDO ロボット・AI部
主査

大口 敬 氏

東京大学 生産技術研究所
人間・社会系部門 教授
次世代モビリティ研究センター(ITSセンター)センター長
モビリティ・イノベーション連携研究機構
大学院工学系研究科社会基盤学専攻 博士(工学)

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