辻井 |
今後進むべき方向性としては、大量のデータと知識表現をつなぐ知識融合型AIが挙げられます。 |
工藤 |
それが次世代のAIの主軸になると考えて良いでしょうか。 |
辻井 |
これまでのAIは大量データの学習を基に帰納的な処理を行うため、問題の構造が変わるとうまく対応できませんでした。次世代のAIは意味を理解する汎用性の高い AI、つまり演繹的な処理ができるAIだと考えています。例えば、AIに化合物の分子式を与えて物性を予測するケースでは、高分子のデータが少量のため結果の誤差が大きくなっていました。ところが物性研究の専門家の知識をAIに組み込むと、演繹的なモデルを作ることができ、高分子でも精度が上がることが分かっています。幸い日本には、ものづくりの技術基盤があり、医療・介護分野においても世界トップクラスのノウハウがあります。また、高度な知識を持った専門家がいて、最先端の研究環境があることが大きなアドバンテージになるはずです。 |
工藤 |
そうした日本の強みを生かすことが大切ですね。 |
辻井 |
そうです。社会の隅々までAIが活用されるようになれば、生産性を向上させ、日本の競争力を下支えすることができるでしょう。また、個々の産業分野の問題を解決し、分野を強靭にしていくとともに、質の高いサービスの提供に貢献するものになるでしょう。 |
工藤 |
NEDOでも2023年度から、知識融合型のAI開発に着手する計画があります。また、共進化の関係性を「AIと人」の1対1の関係から、AI群と人間社会の関係へ拡張するための基盤技術開発に加え、AIがさらに広く社会実装されていく上で欠かせないコンピューティングリソースの高度化を念頭に、量子コンピューターの活用にも取り組みます。AIが社会実装された未来について、辻井先生はどのようなイメージを持たれていますか? |
辻井 |
人とAIでは、知能の「質」が違います。人のような創造性を発揮することや柔軟に問題設定を行うことはAIにはほとんどできません。一方で今や一人の科学者に解ける問題は数少ないことも事実です。環境問題のような複雑に要因が絡んでいる場合には多分野の科学者とAIの機能を組み合わせて解決を探るようになるでしょう。人とAIが互いの得意な領域で協力することで、より高度な問題を解決する社会になると考えています。 |
工藤 |
人とAIが共存する社会というコンセプトは日本独自のものです。その実現に向け、NEDOはさらに取り組みを加速するつもりです。ありがとうございました。 |
深層学習がブレイクして以来、NEDOではAIプロジェクトを推進してきました。
これまで学習してきたことを今後のマネジメントに反映させるとともに、日本の強みを見極めつつ、データのみでなく知識をうまく取り込むことでAIの質を高める研究開発を進めます。そして、NEDOの研究成果が広く社会に普及するよう社会実装を進めます。