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INTERVIEW
AI研究開発プロジェクトのこれまでとこれから|AIの社会実装で見えてきた課題、そして、次世代AIへの期待を語る。AI研究開発プロジェクトのこれまでとこれから|AIの社会実装で見えてきた課題、そして、次世代AIへの期待を語る。
INTERVIEWER 工藤 祥裕 KUDO Yoshihiro NEDO ロボット・AI部 主任研究員
SPECIALIST 辻井 潤一 TSUJII Junichi 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 フェロー 人工知能研究センター 研究センター長 英国マンチェスター大学 教授 博士(工学)

AIに関する技術が飛躍的に発展を続ける中、NEDOはAIに関するさまざまな研究開発に取り組んできました。
NEDOプロジェクトの「これまで」と「これから」について、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下:産総研) 人工知能研究センターの研究センター長でもある辻井 潤一プロジェクトリーダーにインタビューしました。

分野によって異なるAI導入のハードル

工藤 NEDOは2015年からAIの研究開発に取り組んできました。目的はAIの基盤技術の開発とともに、Society5.0を見据えたものでもあったわけですが、プロジェクトの進捗や現状を辻井先生はどう捉えていますか。
辻井 大量のデータを使って推論するAIというのはそれなりに実現できたと思います。DXもAIによって大きな広がりを見せています。しかし、実際に社会実装を進める中では、さまざまな開発要素や課題が見えてきたというのが実感です。現在のAIにできる限界としては、例えば深層学習はブラックボックスになりやすく、人間の介入が困難です。また製造業や医療では現場ごとに状況が異なるため、汎用性が持てません。金融系やロジスティクスなど情報が生きる業種では比較的AIの利活用が進んでいますが、製造業や医療・介護、あるいは自動運転といった分野では、まだまだ導入が難しいのが現状です。
工藤 分野によってハードルの高さが違うということですが、もっとAIが社会で活用されるためには、どんな革新が必要でしょうか。
辻井 現状を乗り越えるためには、大量のデータから推論するだけでなく、人とAIが協働するようなアプローチが必要になると思います。そのために今後は「説明できるAI」や「容易に構築できるAI」、さらには「信頼できるAI」を実現することが必要です。
工藤 私たちが取り組んでいるテーマはまさにそこにあります。AIのさらなる社会実装には、人とAIが相互に作用できるようになり、人とAIが共に成長・進化する「共進化」の実現が重要と考えています。

大量データと知識表現をつなぐ知識融合型AIへ

辻井 今後進むべき方向性としては、大量のデータと知識表現をつなぐ知識融合型AIが挙げられます。
工藤 それが次世代のAIの主軸になると考えて良いでしょうか。
辻井 これまでのAIは大量データの学習を基に帰納的な処理を行うため、問題の構造が変わるとうまく対応できませんでした。次世代のAIは意味を理解する汎用性の高い AI、つまり演繹的な処理ができるAIだと考えています。例えば、AIに化合物の分子式を与えて物性を予測するケースでは、高分子のデータが少量のため結果の誤差が大きくなっていました。ところが物性研究の専門家の知識をAIに組み込むと、演繹的なモデルを作ることができ、高分子でも精度が上がることが分かっています。幸い日本には、ものづくりの技術基盤があり、医療・介護分野においても世界トップクラスのノウハウがあります。また、高度な知識を持った専門家がいて、最先端の研究環境があることが大きなアドバンテージになるはずです。
工藤 そうした日本の強みを生かすことが大切ですね。
辻井 そうです。社会の隅々までAIが活用されるようになれば、生産性を向上させ、日本の競争力を下支えすることができるでしょう。また、個々の産業分野の問題を解決し、分野を強靭にしていくとともに、質の高いサービスの提供に貢献するものになるでしょう。
工藤 NEDOでも2023年度から、知識融合型のAI開発に着手する計画があります。また、共進化の関係性を「AIと人」の1対1の関係から、AI群と人間社会の関係へ拡張するための基盤技術開発に加え、AIがさらに広く社会実装されていく上で欠かせないコンピューティングリソースの高度化を念頭に、量子コンピューターの活用にも取り組みます。AIが社会実装された未来について、辻井先生はどのようなイメージを持たれていますか?
辻井 人とAIでは、知能の「質」が違います。人のような創造性を発揮することや柔軟に問題設定を行うことはAIにはほとんどできません。一方で今や一人の科学者に解ける問題は数少ないことも事実です。環境問題のような複雑に要因が絡んでいる場合には多分野の科学者とAIの機能を組み合わせて解決を探るようになるでしょう。人とAIが互いの得意な領域で協力することで、より高度な問題を解決する社会になると考えています。
工藤 人とAIが共存する社会というコンセプトは日本独自のものです。その実現に向け、NEDOはさらに取り組みを加速するつもりです。ありがとうございました。
御代川 知加大 MIYOKAWA Chikahiro NEDO ロボット・AI部 主任研究員

深層学習がブレイクして以来、NEDOではAIプロジェクトを推進してきました。
これまで学習してきたことを今後のマネジメントに反映させるとともに、日本の強みを見極めつつ、データのみでなく知識をうまく取り込むことでAIの質を高める研究開発を進めます。そして、NEDOの研究成果が広く社会に普及するよう社会実装を進めます。

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