トレードオフである気孔率と高強度を両立
焼成炉からの排熱量50%削減を目指す
セメントやセラミックス等の産業分野で、1000℃以上で使われる焼成炉に投入される熱エネルギーのうち、製品加熱には2%程度しか使用されず、約98%が未利用熱として廃棄されています。これらを削減するために、高温で使用できる高断熱材の開発が求められていますが、これまで広く用いられてきたファイバー系断熱材は強度が低く発がん性も指摘されており、一方で、強度の高いレンガは熱伝導率を左右する気孔率が低いことが課題となっていました。
NEDOは、産総研、美濃窯業株式会社と共に、高強度と高断熱を両立する新たなファイバーレス断熱材の開発を進めてきました。
プロジェクトでは、2008年に産総研が開発した「ゲル化凍結法」を採用。セラミックスの粒子を分散させた水分率99%のゲルを凍結し、乾燥・焼成することで、世界最高レベルとなる98%以上の気孔率を持つ断熱材を得ることができます。また、熱伝導率が低く、強度の高いムライトの粒子を用いた断熱材を作製し、15MPa以上の高圧縮強度、0.25W/m K以下の熱伝導率、1500℃での耐熱性を達成しました。さらに、魚類由来の不凍タンパク質(AFP)を添加することで、より均一かつ細密な気孔を実現しました。産総研の福島 学氏は、「工業炉は成熟した技術とされ、イノベーションが遅れている分野でしたが、NEDOプロジェクトでこの分野に一石を投じることができたことは有意義でした」と振り返ります。NEDO省エネルギー部の岩坪 哲四郎PMは「高い目標に向かってチャレンジできたことで、技術の裾野が広がっていくと思います。今後も社会実装に向け、NEDOとしてもサポートしていきたい」と話します。福島氏は「鉄鋼や金属など、窯業以外の未利用熱の分野にも普及させていきたいですね」とさらなる展望を語りました。
福島 学 氏