動的再構成技術を活用した組み込みAIシステムの研究開発
推論と学習を実行可能なオンチップ学習システムと、
実製品へのAI組み込みを容易化するツールで、ユーザーニーズに対応。
高齢化や労働人口の減少に伴う
さまざまな社会課題を解決するために
少子高齢化に伴って労働人口が減少する中、工場、サービスロボット、物流、医療等、さまざまな現場で、データを処理し、リアルタイムで応答する組み込みAIが求められています。
NEDOは、こうしたニーズに応えるため、複雑なタスクを処理する動的再構成技術(DRP:Dynamically Reconfigurable Processor)をベースに、低消費電力で動作させる組み込みAIシステムの社会実装を目指し、アーキテクチャと設計支援ツールの開発を進めています。
本プロジェクトでは、ルネサス エレクトロニクス株式会社がハードウエアの開発を担い、国立大学法人東京工業大学は先進的なアーキテクチャの開発を担当。機械学習アルゴリズムの開発と実証実験をSOINN株式会社が受け持ち、AI軽量化ソフトウエア技術を三菱電機株式会社が担当するというように、4つの組織が連携して取り組みを進めてきました。
高性能・低消費電力のDRP-AIと、
AI組み込みを容易化するツールを開発
組み込みAIを実現するためには、大きく二つの課題をクリアする必要があったと語るのは、ルネサスエレクトロニクス 製品・技術開発部 主幹技師の野瀬 浩一 氏です。
「一つは複雑なタスクを高速で処理することで、もう一つは、その際の発熱をいかに抑えるかでした」。そこでルネサス エレクトロニクスは、長年培ったリコンフィギュラブルプロセッサ技術をベースに、高いAI処理性能と低消費電力を兼ね備えたAIプロセッサ(DRP-AI)と、実製品へのAI組み込みを容易化するツールの開発に取り組んできました。
同じく製品・技術開発部 課長の戸井 崇雄 氏は、10 TOPS/W※という目標を達成することは、そう簡単ではなかったと振り返り「計算量を削減するため、当初、低ビット量子化で対応しようと考えていました。試作まで進めたのですが、この技術のみでAIの認識精度を維持して実現するのは難しいことが分かり、ニューラルネットワークの枝刈り率を高める方法を併用する方針に切り替えたところ、2回目のAI試作チップで『これならいける!』と見通しが立ち、それを基にようやく納得できるAIチップが完成しました」と話します。野瀬氏も「非常に高い目標に挑戦することは、開発のモチベーションにもなりました。この5年間でAI技術は大幅に進化しているので、今となっては正しい目標設定だったと思います」と手応えを語ります。今回、ルネサス エレクトロニクスが開発したDRP-AIは、機器が置かれる環境に対応して学習する機能も備えた柔軟性があることも特徴です。
同社のエンタープライズ・インフラ・ソリューション事業部シニアダイレクターを務める馬場 光男 氏は「市場調査の結果、例えば製造業の外観検査の場合、照明等の条件が変化しても対応できることが求められていました。そのような場合でも、新しいDRP-AIであれば容易に対応可能です」と説明します。
高い目標をクリアしたことが、
事業化に向けた大きなアピールになる
NEDOプロジェクトについて、野瀬氏は「チャレンジングな目標を達成できたのは、NEDOの枠組みと支援の中で、複数の機関が同じ目標に向かって歩調を合わせたからです」とその意義を話し、戸井氏も「技術推進委員会で、有識者のアドバイスを受けたことも開発の助けになりました」と声をそろえます。
NEDO IoT推進部の広瀬 賢二 主査は「この組み込みAIシステムはプロジェクトの一つの到達点」と成果の大きさを語り、プロジェクトマネージャーを務めるNEDO IoT推進部の岩佐 匡浩 主任は、「国産の半導体として競争優位に立つことを期待しています」と話しました。
10 TOPS/Wを実現したこと、そしてAI組み込みを容易化するツールを開発したことは、事業化の際の大きなアピールポイントであり、社会実装を進める上でもプラスになります。
馬場氏は「1年以内には上市する予定です。ソフトウエアでどんな仕様も実現できるDRP-AIが、市場をドライブする日はもう間もなくです」と力を込めました。
広瀬 賢二 主査
野瀬 浩一 氏
戸井 崇雄 氏
馬場 光男 氏