排ガス、廃水に含まれる、有害な窒素化合物を
エネルギーをかけず、資源として活用する研究が進んでいます。
佐野 亨
SANO Toru
NEDO環境部
主任研究員
無害化のために投じていた
エネルギーとコストを見直す
農作物の肥料として使われている窒素化合物の多くは土壌や河川、海などの環境中に残り、自動車や火力発電所の排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)は大気に放出され、汚染物質へと変化します。例えば、水質を悪化させる硝酸イオン(NO3-)、大気汚染の原因となるNOx、CO2以上に地球温暖化に影響する一酸化二窒素(N2O)等が、環境中へ排出されることによる、湖沼や海域の富栄養化、酸性雨や気候変動等への影響が懸念されています。
プラネタリーバウンダリー※の研究においても、人間活動に由来する反応性窒素の量は、現在すでに自然が処理できる限界を超えていると報告されており、今後は自然が吸収・無害化できる量を上回らないことが重要です。そのためNEDOは、回収が難しかった排ガスや廃水中に含まれる低濃度の反応性窒素を回収し、資源として活用する技術の先導研究に取り組んできました。
NEDO環境部 佐野 亨主任研究員は「現状は、排ガスや廃水の反応性窒素を、エネルギーをかけて回収し、無害化して放出しています。脱硝のためのアンモニア(NH3)製造には大量のエネルギーを必要とし、無害化のためにエネルギーを投じてきたことになります。これをゲームチェンジし、極力エネルギーをかけずに無害化し、資源にすることを目指しています」と説明します。
水や炭素と同様に、
窒素も循環できる未来へ
2021年7月まで取り組んできた窒素循環に関連するテーマは2つあり、一つが産業廃水からの反応性窒素の高濃縮・資源化技術、もう一つが燃焼器から排出されるNOxからのアンモニア創出プロセス開発です。
産業廃水の反応性窒素については、廃水中窒素化合物のほぼすべてを省エネルギーでアンモニア態窒素に変換、N2Oの発生を抑え、資源化するための研究開発に取り組み、効率よく処理する微生物の候補を絞り込みました。また、汚泥資源化のための破砕・混合技術を検討し、汚泥を56%減容化することに成功しています。
排ガス中のNOxについては、触媒を使って、省エネルギーで有用資源のNH3に変換する研究を行ってきました。1段階で直接NH3に変換するNTA(NOx-to-Ammonia)法と、2段階でNH3にする方法の2つがあり、いずれも良い結果を得ています。
これまでの先導研究について、佐野主任研究員は「NEDOが関わることで、さまざまな研究者が連携し、それぞれの得意分野を生かすことができました。情報交流を図り、有識者にも意見をいただいて、着実に成果を上げることができています。一方、コロナ禍で、研究室に入ることもできない時期があり、オンラインの活用や実施場所の確保等の工夫が必要でしたが、目標をクリアでき、苦労したかいがありました」とNEDO事業のメリットと、マネジメントの苦労を振り返ります。
以降、この成果はムーンショット型研究開発に引き継がれ、ベンチスケールでの実証を行う計画です。
今後の課題については、「微生物で有力な候補が9種ほど見つかったので、より良い制御の条件を探ることが必要です。また、排ガスを変換する触媒も、常圧・低温で実現できる目標としていた性能は達成し、1段階方式、2段階方式のどちらが優位か、これから検討する必要があります」と話します。
NEDOは、水や炭素と同じように窒素も循環できる未来を目指しています。そのために必要な要素技術について、引き続き先導研究に取り組み、全体として良い循環を生むシステムに育てたいと考えています。