CO2を吸収して固まる画期的なコンクリート。
鉄筋造建物や大規模建造物等へのさらなる利用拡大を目指しています。
戸島 正剛
TOSHIMA Masatake
NEDO環境部
次世代火力・CCUSグループ 主査
プロジェクトマネージャー
製造時のCO2排出量削減と
CO2の吸収を両立
一般のコンクリートは、砂や砂利に水と反応して固まるセメントを混ぜて作られますが、主原料であるセメントは製造時に大量のCO2を排出するという問題があります。鹿島建設株式会社 技術研究所では、2008年からCO2を吸収し固めるコンクリート「CO2-SUICOM」の開発をスタート。セメントの一部を、CO2と反応して硬化する性質を持つ特殊な混和材(γC2S:ダイカルシウムシリケートγ相)に置き換えることで、セメント製造時に排出されるCO2の大幅削減を可能にしました。さらに、この混和材を用いたコンクリートを、高濃度のCO2環境下で養生(炭酸化養生)することで、大量のCO2を吸収・固定させる技術を実現しました。
「CO2-SUICOMの開発は2018年にいったん区切りがついていましたが、昨今、カーボンリサイクルに対する機運の高まりとともに、問い合わせが急増しました」と話すのは、CO2-SUICOMの開発に取り組んできた同社の取違 剛氏です。
CO2-SUICOMは実用化されていたものの、CO2の吸収に時間がかかるため、コストが高くなるのが課題です。加えて、炭酸化することで鉄筋を腐食させる可能性があること、屋内でCO2を吸収させる必要があることなどの理由から、駐車場や道路のブロック、建築物の埋設型枠等、鉄筋を使用しないプレキャスト製品に限られていました。そこで、より汎用性の高いコンクリートを実現するため、NEDOの「CO2有効利用拠点における技術開発」事業に応募し、採択されました。
現場打設への適用拡大に向け
コストダウンと屋外での養生技術が鍵
コンクリートによる大量のカーボンリサイクルを実現するためには、ビル等の大きな製品や、ダムや橋といった大型建造物等、大量・広範囲に適用できるコンクリートの開発が不可欠です。本プロジェクトでは、CO2有効利用コンクリートを使った鉄筋プレキャストコンクリート製品の開発や、現場打設コンクリートへ適用するための技術の研究開発を実施。2022年度に広島県大崎上島のカーボンリサイクル実証研究拠点において屋外大型試験を行いながら、よりコストの低い混和材や、鉄筋の代替品、腐食を防ぐ保護膜等の技術開発を進めていきます。
取違氏は「現状の課題はCO2をコンクリートにいかに速く吸収させるかです。吸収の速度が上がれば、コストダウンにつながります。また、実際に施工に関わる設備や、ガスの供給を担う企業等、コンクリート以外のさまざまな企業・業者とのつながりも不可欠です」と話します。
本事業のプロジェクトマネージャーを務めるNEDOの戸島 正剛主査は、「CO2を直接吸収でき、吸収量も多いこの技術は、カーボンリサイクルの中でも有望な分野です。早期の社会実装に向け、NEDOとしてさらにバックアップしていきたい」と期待を寄せます。取違氏は、「環境面はもちろん、経済との両立という点においても時代的に追い風が吹いていると感じています。どこにでも使われていて市場規模の大きいコンクリートにCO2を吸収させるのが当たり前、という世の中にしていきたい。そのためには、コストを下げることも必要ですが、機能だけでなく環境に良いという付加価値のある製品だということをアピールしていくことも大切ではないかと考えています」と思いを語りました。