NEDO Web Magazine

木くずや微細藻類から
持続可能な航空燃料を生み出す

木くずや藻を原料にした代替航空燃料生産とサプライチェーンの
早期構築に向けた取り組みを紹介します。

東京国際空港発・新千歳空港行きのJAL515便に、微細藻類および木質バイオマス由来のバイオジェット燃料を同時搭載

開発したSAF/バイオジェット燃料を国内線定期便のフライトに実装。

—バイオ燃料利用の現状を教えてください。

現在、航空機燃料は石油由来の炭化水素を用いていますが、航空業界におけるCO₂削減の切り札として、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な代替航空燃料)/バイオジェット燃料の開発が推進されています。国連専門機関であるICAO(国際民間航空機関)は、2019年を基準に、国際線航空輸送のCO₂排出量を増やさない長期的な目標を設定し、CORSIA※(国際民間航空輸送を対象としたカーボンオフセット制度)を策定しました。これによって、2027 年からはSAFの導入やカーボン・クレジット取引の組み合わせによるCO₂排出量の削減が義務化されます。

※Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation

—現在、従事されているプロジェクトはどんなものですか。

NEDOは、SAFの原料調達から航空機への給油までを手がけるサプライチェーンの構築と2030 年頃の商用化を視野に、2017年から「バイオジェット燃料生産技術開発事業」を開始し、木くずを気化から液化(ガス化FT合成)する燃料生産技術や、大量に培養した微細藻類から抽出した油脂を精製する燃料生産技術の研究開発等を進めてきました。これまでに実施したパイロットスケールの事業では、これらを原料としたSAFの一貫生産体制を構築しています。2021年6月には、羽田・札幌間、羽田・伊丹間の国内線定期便へ給油し、サプライチェーンの実証を行いました。実際にSAFを給油した航空機が離陸したときは、取り組んできた事業が具現化し、2030年頃の社会実装を実体験することができたので感慨深かったですね。

2030年頃の商用化を目指し、微細藻類技術のロードマップを策定。

—SAF普及において重要なのはどんなことでしょうか。

初期のSAF普及においては、単一技術ではなく、多角的な燃料技術開発が必要です。例えば微細藻類は、培養さえできれば比較的原料として利用しやすいですが、一方で農業と同様に環境整備やサポートが不可欠です。回収のしやすさも重要なので、どういった環境設定が全体最適への道筋か等を研究しています。木質原料に関しては、日本は森林資源が豊富でポテンシャルは高いですが、急峻な山林から原料にできる廃木材の搬出には手間もかかるため、量も限定的となる側面もあります。廃食油の最大活用についても、食用の前提においては限界があります。当面は多種多様な原料の利点を比較検討しながら、NEDOとしては商用化に向けた足の速い技術や、微細藻類等の着実に進捗させていく原料を組み合わせたSAF開発で、2030年頃までに成果を出していきたいと考えています。微細藻類原料について、その方向性を示すものとして、実用化に向けたロードマップを策定しました。

—これからの展望をお聞かせください。

航空機エンジンの電動化や水素化への技術変革も予見されている中、現有航空機にそのまま利用可能となるSAFの技術開発は速やかに集中的に行っていくことが求められます。コロナ禍で航空需要は一時的に低迷していますが、今後再び回復すれば増えていくことが予想されています。CO₂排出量削減の義務化によって、航空各社がSAFを使えばマーケットが広がり、参加事業者は増え、投資も容易となる。さらにSAFの需要も高くなるでしょう。技術的には日本的な“匠の技” も不可欠だと考えています。これまでのNEDO事業で培った技術や、現在の航空燃料供給を担っている石油事業者のノウハウ等も活用しながら、オールジャパンの英知を結集して進めていくことが重要だと思います。

株式会社JERA新名古屋火力発電所内のガス化FT合成プラント。木くずを原料にSAFを一貫生産する実証試験を実施。

タイ・サラブリ県にて微細藻類の大規模培養池を設置し、パイロットスケール屋外培養試験を実施(右:藻体ボツリオコッカス)。(下:藻体ボツリオコッカス)。

微細藻類由来のSAFを給油した東京国際空港発・大阪国際空港行きのANA031便。

柴原 雄太 主査
NEDO新エネルギー部
バイオマスグループ

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