NEDO Web Magazine

日本の環境に合わせた洋上風力の
低コスト化を目指す

広大な洋上を生かし、日本の複雑な海域・地質に対応する
多様な洋上風力発電の技術開発を進めています。

北九州市沖で実証を行っている日本初のバージ型浮体式洋上風力発電システム「ひびき」

水深の深い海域に対応するバージ型浮体式の実証運転もスタート。

日本のエネルギー供給を支えるエネルギー源の一つとして、再生可能エネルギーの大量導入が可能な風力発電への期待が高まっています。ヨーロッパを中心に世界的に導入が拡大しており、日本でも2018年に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」の中で、洋上風力発電の導入促進および着床式洋上風力の低コスト化、浮体式洋上風力の技術開発や実証を通じた安全性・信頼性・経済性の評価を行うことが盛り込まれました。NEDOは、2008年から水深50m未満の海域に対応する着床式洋上風力発電技術、2014年からは水深100m未満の海域に対応する浮体式洋上風力発電技術の研究開発に着手。現在は北九州市沖で日本初となるバージ型浮体式の実証運転を行っています。

「風力発電等技術研究開発事業」および「風力発電等導入支援事業」のプロジェクトマネージャー(PM)を務めるNEDO新エネルギー部の佐々木淳統括研究員は、「2019年に再エネ海域利用法※が施行され、最大30年間、海域の計画占用ができるようになったことで事業環境が整備されました。また、2020年12月に洋上風力発電の産業競争力強化に向け、国と関連する産業界による官民協議会が開かれ、明確な目標が設定されたことも大きな後押しになりました」と説明します。

しかし、資本費や運転維持費の高さ、設備利用率の低さ等から、他国と比較して発電単価が高いのが実情です。そこで、NEDOはさらなる低コスト化を目指し、施工技術の確立や、量産化・大型化に対応した新しい風車の研究開発を推進しています。

※海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律

日本の気候・地盤に対応する技術で国際的競争力を強化。

本事業の課題の一つは、海域の地形が複雑な日本では、設置場所に合わせた多様な技術が必要だということです。
「ヨーロッパは遠浅の海が多く、海底の地質が比較的安定しています。一方、日本の近海は急に深くなるところが多く、地盤もさまざまです。また、台風や地震等、日本特有の自然環境に耐えられる強度も必要です。ヨーロッパの技術に倣いながら、さまざまな地質や気候等に対応する風車や、維持管理の技術開発が不可欠です。ただ、こうした風力発電技術は、日本と似た環境を持つアジアの国々にも応用が可能で、台湾をはじめ、急成長が見込めるアジア市場への展開も期待できます」

もう一つの大きな課題は、長期スパンのメンテナンスや維持管理の効率化です。そこで、AIやセンサーでデータを収集し、故障予測を行う維持管理システムや、ドローンや3Dレーザースキャナを活用したチェックシステム、風車に接岸できる船舶の開発等も進めています。

佐々木PMは、事業を進める上で「常に事業者の話に耳を傾けることを心がけている」と話します。「自立したエネルギーである再生可能エネルギーを自給自足することは、エネルギーセキュリティにつながります。目標数値や、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、国の政策を着実に実行していかなければなりませんが、まだまだハードルは高い。市場で何が求められているかを把握し、企業と一緒に考え、国と事業者をつないで具現化していくのが私たちの役割です。また、地元の理解も不可欠です。風力発電のメリットを知ってもらい、地元の事業者や漁業者と共存共栄していけるよう理解を広げていくことも大切だと考えています」と思いを語りました。

洋上風力の種類

※海域面積は、離岸距離30km未満、社会的制約なし、年平均風速7m/s以上を基に推計
※浮体式の図示位置は、適用範囲もしくは最適水深ではありません

佐々木 淳 氏
NEDO新エネルギー部
風力・海洋グループ
統括研究員

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