NEDO Web Magazine

太陽光発電の可能性を開くため
建築物の壁面と窓を利活用

将来にわたって太陽光発電の導入量を拡大するため
これまで困難だった建物壁面に設置する技術を開発しています。

大成建設技術センター人と空間のラボ(ZEB実証棟)。太陽光パネルが極力目立たないハイレベルの施工を実施。

太陽光発電の主力電源化に向けて新たな設置場所・設置環境を開発。

太陽光発電は、低炭素の国産エネルギー源として期待され、最も普及している再生可能エネルギーの一つです。日本では太陽光発電の主力電源化を進めていますが、一方で、今後、導入が拡大するにつれて、地上や住宅屋根等、低コスト・好条件の設置場所が減少していくという課題があります。

NEDOの井川博之主査は「日本の国土面積当たりの太陽電池設置量は世界のトップで、今後は設置に適した場所が限られてくることから、NEDOでは、工場の屋根等にも設置できる軽量のPV(Photovoltaic太陽光パネル)や建物の壁面にも設置できるタイプ、自動車等の移動体用等、多用途なPVの開発を進めています」と話します。

建物の外壁や窓等にPVを設置する際の課題は、発電効率の向上と建物の外観イメージを損なわない意匠性の両立にあり、この解決に向けたプロジェクトを担当するのが株式会社カネカと大成建設株式会社です。

両社はプロジェクトに先駆け、2020年2月に大成建設技術センター人と空間のラボ(ZEB実証棟)※1の壁面の太陽光発電システムを更新し、高効率化を図りました。壁面PVは建物の南東面、北東面、南西面合わせて371枚を使用しています。結果として壁面の総出力は10kWから68kWと、約7倍の創エネルギーを実現しています。

また、太陽光発電による電力量が増えると、系統に負荷がかかるため、せっかく発電された電力が使われないという問題も起きています。できるだけ系統に負荷をかけないためにも、建物で発電し自家消費するZEB(Net Zero Energy Building)の必要性が高まっています。 大成建設技術センター主任研究員の梅田和彦氏は「特に高層ビルの場合、壁面は屋上よりも圧倒的に面積が広く、都市部でZEBを実現するためには壁面の活用が不可欠です」とこのプロジェクトの意義を語ります。

※1 人と空間のラボとして2020年2月にリニューアル

都市部の建物に実際に設置することでさまざまなデータ、ノウハウを収集。

これを受け、本プロジェクトでは都市部の既設の建物の壁面にPVを設置し、環境性能や発電性能を評価します。また、BIPV(Building Integrated Photovoltaics:建材一体型太陽光発電設備)の市場化を目指し、そのデータを広く公開します。

カネカのBIPV事業開発グループリーダーの中島昭彦氏は「大成建設技術センター人と空間のラボ(ZEB実証棟)に使用したPVは、以前NEDOと共同開発したヘテロ接合バックコンタクト結晶シリコン太陽電池です。世界最高のモジュール発電効率24.37%※2を達成したもので、電極を裏面に集約することで受光面を広くでき、建物デザインも損ないません」と話します。

カネカはこれまでにNEDO事業で培ってきたノウハウを生かし、経済性・耐久性を向上させるとともに、モジュールをより効率よく配置できるよう、セルを割断する方法を検討しています。また、建築デザイナーの要望に沿うように意匠性を高め、黒色以外のカラーのセル開発にも取り組みます。

井川主査は「都市部の建物の壁面改修を行うため、周辺への配慮や近隣住民の合意形成もテーマの一つです」と話し、中島氏は「住民説明会等を実施するとともに、まぶしさを抑える低反射の防眩タイプPVを採用します。また、自治体によって環境条例等があるケースも想定してカラー化を進める予定です」と対策について話します。

寒暖差が大きい実環境でも問題なく稼働するかは、既設の建物に設置する本プロジェクトの大きなポイントです。中島氏は「ラボでの試験では、マイナス70℃から85℃までを480サイクル繰り返し、耐久性を確認済みです。また、高温高湿試験では85℃、85%という地上にはない環境で、6000時間耐えることが実証できています。しかし、実際の環境ではモジュールに荷重がかかり、変形するといった要素も加わるため、実環境の複合モードで検証することが欠かせません。コストダウンも含めて性能維持できるか、樹脂の材料や接着剤等を変えて試験しながら取り組んでいます」と展望を語ります。

一方、大成建設のエネルギー本部ZEB・スマートコミュニティ部 システム計画室長の宮嶋禎朗氏は「壁面や窓にPVを施工するためには、他の部材とのかねあいや止水、耐久性等に配慮が必要です。配線の取り回しやその処理の方法等も一から考える必要がありました。今後は既設の建物に設置するケースも増えてくるはずですから、今回はそのノウハウを蓄積するチャンスでもあります」と課題と本プロジェクトの狙いを話します。

※2 Martin. A. Green et al. (2017), Progress in Photovoltaics: Research and Applications, 25, 668-676.

バックコンタクト構造

右は従来型のモジュール。左の新しく開発した太陽光発電モジュールは、電極を裏面に集約することで建物の外観イメージを損なわない形状が可能になった。

発電効率の向上、低コスト化等高い目標をクリアするために。

本プロジェクトでは2024年までに、色むらがなく、建築物としての耐久性(40年以上)を持つ壁面に設置できる太陽電池を開発することを目指します。

また、壁面だけでなく窓部分にも設置できるように、可視光透過率20%の半透明の太陽電池モジュールを開発し、窓の置き換えを狙います。

中島氏は「当社はPVの開発で50年近い歴史があり、住宅用に製品化したPVにはNEDOのサポートを受けて実現したものもあります。建物壁面への設置がユーザーの標準的な選択肢になるためには、コストダウン等解決すべき課題がまだまだあり、NEDOの支援は頼もしい限りです」と話し、梅田氏は「さまざまな課題を解決するために、NEDO事業を活用して可能性を追求したい」とプロジェクトへの期待を込めました。

井川主査は「現在、PVは海外調達品が多いですが、海外製は供給リスクがあるので、国内で生産しているカネカは重要な存在です。さらにNEDOはこれまでの取り組みに加え、ビル壁面等の新市場向けにペロブスカイト太陽電池等の研究開発も後押しして国内企業の競争力を高めたいと思います」と話します。

ソリッドタイプ(外壁部)とシースルータイプ(窓部)の特徴

井川 博之 主査
NEDO新エネルギー部
太陽光発電グループ

中島 昭彦 氏
株式会社カネカ
PV&Energy management Solutions Vehicle
BIPV事業開発グループリーダー

梅田 和彦 氏
大成建設株式会社
技術センター都市基盤技術研究部
空間研究室
空間・設備チーム主任研究員

宮嶋 禎朗 氏
大成建設株式会社
エネルギー本部
ZEB・スマートコミュニティ部
システム計画室長

大成建設技術センター人と空間のラボ(ZEB実証棟)前にて撮影

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