NEDO Web Magazine

低コスト・高効率を実現する
熱利用システムへの挑戦

天空熱源ヒートポンプ(SSHP)システムの事業化に向け
実建物に設置し、冷暖房性能の検証を進めています。

株式会社豊田自動織機の大府工場にシステムを設置し、事業化を目指した検証を行います。

変換ロスが小さく、エネルギーを有効活用できる太陽熱・地中熱の利用を拡大するために。

再生可能エネルギーの中でも、太陽熱・地中熱等の再エネ熱利用は初期コストが高いこと等から、太陽光発電や風力発電等の電気利用に比べ、普及が進んでいないのが現状です。しかし、再エネ熱の直接利用は変換ロスが小さく、エネルギーの有効活用が可能なため、再生可能エネルギーの利用拡大には熱利用の普及が欠かせません。こうした背景の下、NEDOは、再エネ熱利用システムのトータルコスト低減を目指した研究開発を推進しています。目標は、プロジェクト終了年度の2023年度までに、トータルコスト20%以上低減(投資回収年数14年以下)、さらに、2030 年までにトータルコスト30%以上低減(投資回収年数8 年以下)とするための行動計画を策定することを目指しています。

再エネ熱利用の普及に向け、天空熱源ヒートポンプ(SSHP)システムを構築し、その性能向上とコスト低減に取り組んでいるのが、鹿島建設株式会社の鹿島技術研究所で、早くから太陽・空気熱源ヒートポンプと地中熱交換器を組み合わせた技術の開発を行ってきました。この取り組みを進める塩谷正樹専任部長は「日本の産業が排出するCO₂量のうち、建設活動に関連する割合が最も大きく、建築分野における低炭素化は喫緊の課題となっています。開発を進めているSSHPシステムは、天空から得られる太陽熱と空気熱、地中熱を多角的に利用することが特徴です。多様な熱エネルギーをヒートポンプの熱源として利用することで、大幅な省エネルギー化を実現することができます」と語ります。同社は、これまでもNEDO事業において、SSHPユニットの小型実証機を用いた夏期冷房性能の実験を行い、さらにSSHP小型実証システムをモデル化したシステムシミュレーションによって、最適運転制御手法の構築を進めてきました。今回のNEDO事業では、これらの成果を一歩進め、実際の建物にSSHP実証システムを設置し、早期の市場投入を目指して評価をすることが狙いです。

豊田自動織機の大府工場に設置し、ユーザー目線の提案を取り入れて開発に反映。

実証場所となる株式会社豊田自動織機の大府工場では、食堂棟の空調にSSHPを設置した上で、2021年8月から実証運転を開始し、性能評価を行っています。「豊田自動織機様には、単に実証場所を提供いただくだけでなく、ユーザーの目線でSSHPシステムを導入する際の課題について忌憚のない意見をお聞きしたいと思っています。実証システムの稼働後は、運転データを共有の上、定期的に運転実績の報告と意見交換をする予定です」と塩谷氏。

豊田自動織機環境マネジメント部CO2削減推進室活動推進グループ グループ長の鳥居達也氏は「当社もさまざまな部署で、脱炭素への取り組みを開始しています。ものづくりの拠点でカーボンニュートラルを実現する鍵は、いかに低コストで省エネルギー技術を導入できるかにあります」と話します。

同じく豊田自動織機コーポレート本部総務部施設室施設グループの竹本篤史氏は「今回は導入して終わりではなく、システムの運用により蓄積したデータに基づいた提案などを行うことで、できるだけ高効率なシステムになるように協力したい」と抱負を語ります。

SSHPシステムに対して塩谷氏は「このシステムは十分な日射量があるときは、コンプレッサーを運転せずに運用ができる点が大きな特徴です。超省エネルギー設備の提案であり、まずエネルギーを極力使わないことに希望があります。この実証試験を通して、オリジナルの実用的技術として確立できればと考えています」と話し、NEDO新エネルギー部熱利用グループの谷口聡子PM(当時)は「再エネ熱利用技術開発のテーマの中でも、鹿島建設様と豊田自動織機様 がタッグを組んだこの事業は、非常にインパクトがあり将来性が期待できるモデルケースになると考えています」と言います。

豊田自動織機の大府工場敷地内に地中熱交換器を埋設する工程を紹介します。

地下約100mまでボーリングします。
今回は計8つの孔を掘削します。

目標の深さに達したかを確認します。

地中熱交換器を準備します。
今回はダブルUチューブを採用しました。

地中熱交換器の有効長は100mです。
パイプを挿入して、埋設作業を終了します。

自治体も含めたコンソーシアムを形成し、再生可能エネルギー熱利用をバックアップ。

塩谷氏は「エネルギー削減率やコスト低減の目標を達成し、次のステップに進むためにも、ここで生きたデータを取ることは非常に意義が大きいと思います。こうしたハード技術の実用化は期間、投資共に一企業では大きな負担になります。NEDOのプロジェクトは大きな支えになっています」と話し、鳥居氏も「過去、弊社工場の太陽光発電設備導入においてもNEDOの補助金を活用させていただきました。1社では限界があることも、オールジャパンでできる取り組みはありがたい」とNEDO事業を評価します。

再生可能エネルギー熱利用には、ヒートポンプ等の省エネルギー機器と組み合わせて使う必要があり、普及拡大のためにはシステム導入に関わる複数のプレーヤー(事業者)にて構成するコンソーシアム体制を組む技術開発が有効で、加えて業界団体、地域との連携が必要です。本事業でも、大府市を加えた産学官のコンソーシアム(行動計画委員会)とする、成果の普及方策について活発でフランクな意見交換が行われています。

塩谷氏は「大府市はゼロカーボンシティを目指すことを表明しており、コンソーシアムにも積極的な参加をいただいています。行政のサポートは再エネ熱利用普及の後押しになります」と明るい表情で語りました。

再生可能エネルギー熱

● 多様な再エネ熱を活用
● 一つの熱源水ループで多様な用途を実現

谷口 聡子 主査
NEDO新エネルギー部
熱利用グループ
プロジェクトマネージャー
(当時)

鳥居 達也 氏
株式会社豊田自動織機
環境マネジメント部
CO2削減推進室活動
推進グループ
グループ長

竹本 篤史 氏
株式会社豊田自動織機
コーポレート本部
総務部施設室
施設グループ

塩谷 正樹 氏
鹿島建設株式会社
鹿島技術研究所
専任部長

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