NEDO Web Magazine

環境保全と両立しながら
地熱のポテンシャルを最大限生かす

日本地熱学会 会長 海江田 秀志氏 東京工業大学特任教授 博士(工学) 一般社団法人電力中央研究所 研究アドバイザー  九州大学大学院工学研究科修士課程修了。一般財団法人電力中央研究所、米国ロスアラモス国立研究所等、国内外で地熱開発の研究に従事。特に地熱貯留層を人工的に造成する高温岩体発電システムや、物理探査法による貯留層の評価に関する研究を進めている。
NEDO新エネルギー部 熱利用グループ 主任研究員 加藤 久遠

地下の地熱貯留層に井戸を掘って蒸気を取り出し、その蒸気でタービンを回す地熱発電は、いまだ課題も多いのが実情です。
開発途上にある地熱発電技術の現在の課題と将来性について、日本地熱学会の海江田秀志会長と、NEDO新エネルギー部の加藤久遠主任研究員に聞きました。

Q.さまざまな再生可能エネルギーの中で、地熱利用のメリットと、研究開発における課題を教えてください。

海江田 国産のエネルギー資源である地熱は、発電だけでなく給湯等さまざまな利用価値があります。冷暖房や農業等にも活用でき、地産地消で地域活性化にも貢献できるというメリットがあります。しかし、掘っても蒸気が出なければ利用できないので開発リスクが高く、調査費用や設備費といったコストも時間もかなりかかります。 また、日本の地熱資源量は世界第3位ですが、地熱利用できる土地の8割が国立公園、2割が温泉地にあります。自然公園法や温泉法、国有林野法などいろいろな法律が絡んでくるため利用制限が多く、温泉への影響も懸念され、調査もなかなかできなかったんです。地熱に特化した法律がないことも地熱開発が進まない原因の一つです。

Q.そうした課題を解決するために、研究開発にはどんなテーマが必要でしょうか。

海江田 まず、地下評価制度を高めることと、井戸を掘る技術のコストダウンが不可欠です。現在は、従来型の調査地域を広げること、また調査期間を短縮し、コストを下げる技術開発を優先的に行っています。高温でも蒸気や熱水がない場所に、人工的に水を入れて蒸気を取り出す「地熱増産システム(EGS)」が確立すれば、安定的に発電できるようになります。さらに、今NEDOが取り組んでいるマグマを利用した「超臨界地熱資源技術」を発展させていけば、利用できる地熱の資源量はもっと増えていくと思います。
加藤 NEDOは、①低コスト化②地熱資源のポテンシャルを増やす③地域共生・環境保全という3つのポイントを置いて研究開発テーマを策定し、中長期的なプロジェクトを進めています。 2021年4月に小泉環境大臣(当時)が「地熱開発加速化プラン」を発表しましたが、ちょうど2020年度までNEDOが進めてきた環境保全技術に関するテーマが終了し、その成果をアピールしていく段階だったので、この発表は非常にいいタイミングでした。

Q.海外では地熱利用がかなり進んでいる国もあります。地熱における海外展開はどのようにお考えですか。

海江田 太陽光や風力発電では海外の工業製品が多く使われていますが、地熱に関しては日本製が多く、品質も高い。さらに、地質が複雑な日本で開発した技術は、東南アジアやアフリカなどさまざまな場所で応用できるという強みがあります。また、JICA(国際協力機構)と九州大学が連携し、海外から研修生を集めて地熱技術の指導を行っています。こうした事業を通して、国際的な人脈やネットワークを構築することは大きな意義があると思います。
加藤 掘削から発電まで一貫体制で開発ができるのも日本の強みですね。産油国のサウジアラビアでも再生可能エネルギー開発を始めており、紅海沿岸は地熱地帯があるので、今後、地熱開発のチャンスもあるでしょう。火山を持つ台湾も地熱開発のポテンシャルが高く、いろんな場所で海外展開のチャンスはあると考えています。

Q.今後、地熱推進にはどのような連携が必要ですか。

海江田 国立公園の調査や自治体との調整、事業者の選定などに関しては、国が先導して進めてほしいですね。事業者にとって開発のリスクが少なくなれば、投資が増え、事業に参入しやすくなります。地熱発電は2030年までに150万kWを導入目標に設定しています。ハードルは高いですが、これまでNEDOが実施してきた研究成果が今ようやく見直され、民間が引き継いで本格的に資源調査が始まりますので、これからに期待しています。

NEDO事業の重点課題

<喫緊の課題>
国内におけるkW/kWh増の早期実現

①発電原価低減化

●生産量増
●コスト削減
●利用率向上

②地熱資源ポテンシャル拡大

●国立・国定公園特別地域内開発促進
●超臨界地熱資源開発の早期化

③地域共生・環境保全

●合意形成円滑化
●熱電供給システム
●環境アセス手法

超臨界地熱資源技術開発
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