マザーズ上場3社、成功の鍵
-創業から上場までの苦難の道、乗り越えた秘策-
NEDOでは、「輝けNEDOスタートアップ」と題して、さまざまな事例を紹介していきます。
初回は、直近1年以内に上場を果たした3社の方にお集まりいただきました。
株式会社オキサイド
×株式会社QDレーザ
×株式会社ファンペップ
モデレーター : NEDOイノベーション推進部長 吉田 剛
撮影場所 : Kawasaki-NEDO Innovation Center(K-NIC)
吉田本日はよろしくお願いします。最初に各社の技術とビジネスについてお話しください。
三好当社は、大阪大学発のベンチャーで、機能性ペプチドの研究成果を基にしています。NEDOからの助成も活用し、開発している抗体誘導ペプチドは、既存の抗体医薬品に比べ、安価に供給でき、リスクの低い医薬品開発が可能という優位性があります。
菅原当社の量子ドットをはじめとした各種レーザーは電子通信機器、検査・加工機器、センサー等、さまざまな用途があり、また、特にロービジョンと呼ばれる方たちがものを見えるようになる技術を開発し、医療機器事業にも取り組んでいます。業界では唯一のファブレス体制による自由度の高いものづくりが特徴です。
古川私たちは国立研究所発のベンチャーで、酸素を含む化合物結晶から始まり、デバイス、レーザー装置へと事業を拡張してきました。ソニーから受け取った紫外線レーザーの性能を400倍に向上させた例もNEDOの助成を受けています。
吉田次に創業のきっかけをお聞きします。2000年創業の古川社長からお願いします。
古川研究所時代、私たちの結晶技術は、民間企業5社からオファーを受け、事業化は順調だと思っていました。しかし、なかなか製品にならず、自分たちでやるしかないと思って始めました。何の準備もなくプレハブ小屋からのスタートでした。国家公務員からベンチャーへの転身でしたから家族の理解を得るのは大変でした。
吉田2006年創業の菅原社長はいかがでしょう。
菅原私は、富士通研究所の研究員として、1995年に発見した量子ドットの実用化に向けた研究を進めていました。しかし2001年のITバブル崩壊で、デバイス事業の売却が決まってしまいました。実は同じ頃NEDOと文部科学省の支援プログラムを受け、2004年には基礎技術がほぼ完成していたため、ここで断念するのは忍びなく、懇意の東大教授とも相談してスピンオフを決めました。
吉田続いて2013年創業の三好社長お願いします。
三好私は製薬会社の研究職から職歴をスタートし、その後ベンチャーキャピタリストを経て2013年にファンペップの創業に従事しました。2015年、ファンペップは大阪大学発の有望な医薬品になりうるペプチドを導入して本格的に創薬ベンチャーとしても道を歩むことになりました。
吉田ではいよいよ本題の創業から上場までの苦難やそれを乗り越えた秘策についてお聞きします。菅原社長には、なぜアイウェアを手がけたのかを、ぜひうかがいたいと思います。
菅原構想では、まず量子ドットレーザーで光通信市場のシェアの半分を取り、20年後には世界中のコンピューターの光通信が当社の技術になるはずでした。ところが5年かけて量産体制をつくったものの製品の規格にばらつきがあり、通信規格に入れないという、まさかのつまずきがありました。その時点でコンピューターの光通信が収益化するまで待てないと考え、ピボットしたわけです。加工用レーザー、センサー用レーザーを開発する中で、網膜投影技術が医療機器として大きなポテンシャルがあることに気づき、アイウェアを手がけることになりました。
吉田古川社長には、装置にも取り組もうと決断した背景についてお聞きします。
古川設立当初は、結晶の製品化はすぐできるだろうと思っていましたが、半年経ってもうまく結晶ができず、ようやく安定して結晶ができるようになったときには青色レーザーにマーケットを奪われていました。それが装置に手を広げたきっかけです。
吉田三好社長には、一度上場を取り下げ、IPOの主幹事も変更されていることについて、さしつかえない範囲でお聞きできればと思います。
三好2019年に上場を取り下げた背景には、当時、我々のような先行投資型ベンチャーに対して機関投資家の評価が厳しい時期だったことがあります。また、皮膚潰瘍治療薬の次の臨床試験の具体的な内容が決定してから上場しようということになり、2020年に上場申請しました。主幹事についても、我々の開発プラン等の事業計画を評価してくれる幹事をゼロから探した結果です。
吉田視聴者からの質問で「最も大きな決断は何ですか? そのタイミングはいつでしたか?」。これは各社にお聞きしたいと思います。では三好社長どうぞ。
三好医学部との共同開発のメリットは、技術を製品につなげるときに、今困っている患者さんを救うことに使えないか、応用する方法がないかを考えやすい環境だということです。事業の考え方から見直し、そのことを社員全員が理解してスタートしたことが一番大きいと思います。
菅原盲学校の先生から、レーザー網膜投影技術を生徒に使わせてほしいと言われ、実際に生徒がものを見られたことで、医療機器メーカーになる決断をしました。量子ドットレーザーの市場の成長を待てないという切迫した問題もありましたが、2015年9月に厚生労働省に確認したところ、人間の視力を上げる医療機器だと言われ、社会実装する意義の大きさを感じました。
古川大きな決断は3度あります。当初、株式を33%持つという約束で始めたものの実際には4%ほどで、51%を持つ企業の業績悪化でプレハブ小屋からも追い出されてしまいました。これは資本政策の失敗です。2度目は10年前にソニーの紫外線レーザー事業を引き受けたことです。自分たちの成長には絶対必要と、反対する従業員たちを説得しました。3度目は日立の事業買収です。こちらも当時売り上げ14億円の当社が10億円を投資することに大反対されましたが、この決断は大きかったと思います。
吉田次も視聴者の方からの質問で「IPOに当たって時期や時価総額等、株主間での意見の不一致はありましたか?」。上場順で三好社長からお願いします。
三好2019年に上場申請を取り下げた後、前回より株価を下げてファイナンスすることとなり、既存の株主さまにいかに説明するかは苦労しました。
菅原公募価額の決定の際、少し低めに設定されたときは足並みが乱れかけましたが、我々のアイウェアの社会的な意義や、医療とヘルスケアの業界や制度が大きく変わるタイミングでIPOする重要性をご理解いただきました。
古川IPOについては8年ほど前から準備し、何度か見送っています。私たちは地味なものづくりですので、しっかりと利益が出てから上場したいと考えていました。その意向を資本提携のある事業会社がよく理解してくださったことは幸いでした。
吉田ものづくりというキーワードに関連して菅原社長に質問が。「先端技術のファブレス企業とのことですが、どのように技術のある製造先を見つけられましたか?」ということですが、いかがですか。
菅原日本にはレーザー技術のファンドリーがたくさんあり、一社一社訪問して、構想を語り、意気投合した方とお付き合いしています。常にフェアに、お互いの事業発展を心がけていれば、必ず良い契約ができると思っています。
吉田なるほど。続いての質問は「10年後の未来予想図をお聞かせください」。これは古川社長からお願いいたします。
古川これからの10年も、私たちの結晶とレーザー事業には非常に重要な役割があります。私たちの技術で社会問題の解決に貢献したいと思っています。
三好10年後は、多くの患者さまが入手しやすい価格の代替薬を提供できるでしょう。また、当社の社員の子息から、学校を卒業したらぜひファンペップに入りたいと言われる会社になっていたいですね。
菅原量子ドットレーザーがコンピューターの高速化に役立つことが一番の願いです。また、誰でも簡単に自分の目の健康管理ができるプラットフォームをつくりたいと思っています。
吉田マザーズ上場3社のお話は、スタートアップを目指す皆さんにとって非常に参考になったと思います。ご登壇の皆さん、ありがとうございました。
株式会社オキサイド
古川 保典 氏
株式会社QDレーザ
菅原 充 氏
株式会社ファンペップ
三好 稔美 氏
株式会社オキサイド
最先端の半導体プロセスを支える
高出力深紫外線レーザ
株式会社QDレーザ
視覚支援用 網膜投影アイウェア
RETISSAメディカル
株式会社ファンペップ
標的分子の働きを阻害する抗体を体内で産生
抗体誘導ペプチド
当日の座談会の様子は「Kawasaki-NEDO InnovationCenter」チャンネルでご覧いただけます。
「Kawasaki-NEDO InnovationCenter」チャンネル