NEDO Web Magazine

CNF実用化の鍵を握るプロジェクト。 炭素循環社会の構築と新たな産業創出へ、 イノベーションを加速したい。

プロジェクトリーダーのコトモノガタリ

CNF実用化の鍵を握るプロジェクト。
炭素循環社会の構築と新たな産業創出へ、 イノベーションを加速したい。

第三者的な立場から取り組みを評価し、企業研究者のモチベーション向上につなげたいと語る八尾PL。

PROJECT LEADER INTERVIEW 「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発」プロジェクトリーダー 八尾 滋 PROJECT LEADER INTERVIEW 「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発」プロジェクトリーダー 八尾 滋

実用化に向けた開発が加速するセルロースナノファイバー(CNF)。 脱炭素社会の実現にも大きく貢献する本プロジェクトの意義や進捗、 今後の展望を、八尾滋プロジェクトリーダーに聞きました。

福岡大学工学部化学システム工学科教授、同大学産官学連携センター長、機能・構造マテリアル研究所所長。博士(工学)。1981年京都大学工学部を卒業後、宇部興産株式会社ナノテクノロジー推進グループグループ長、株式会社三菱総合研究所シニアリサーチプロフェッショナルを経て、2011年から現職。専門は高分子材料研究。

― NEDOは、2020年度からCNFの実用化や普及を加速するプロジェクトを進めています。八尾先生が、このプロジェクトリーダーに就任されたときのお気持ちを聞かせてください。

京都大学の矢野先生が15~16年前、産学連携プロジェクトで研究開発を始めた頃から、個人的にも大変興味深い研究だと注目していました。前身に当たる「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発」でも、確かな成果を上げられ、今回はいよいよ社会実装を目指すステップを任せられたわけで、責任の重さを感じながらも、事業化に貢献したいと思い引き受けました。

― 現時点まで、プロジェクトに取り組んでみての実感はいかがでしょう。

まず、革新的製造プロセス技術の開発については、コストダウンの成果も上がっていて、目標達成に向けて着々と進んでいるという印象です。量産効果が期待できる利用技術の開発については、いくつか課題の克服にまだ工夫が必要かと思います。今まで積み上げてきた成果を生かすことは大事ですが、逆にそれにとらわれすぎると、思考が固まってしまい、なかなかブレークスルーできない恐れもあります。遠回りのように見えても、あえて異なる視点から道筋を探ることも有効ではないでしょうか。事業化へのキーの一つはコンパウンディングにあるため、私の専門であるプラスチックマテリアルリサイクルのノウハウや、かつて企業研究者だった経験なども生かしたいと考えています。

― プロジェクトの課題については、どうお考えですか。

2021年3月に実施したオンラインミーティングでも、企業の多くがコストを問題としていました。しかし、水分散液で運ぶことが多いCNFですが、90%が水分で利用時には不要ですから、廃棄するものに運搬コストをかけているといった一面があります。事業化を目指す上で、一旦コストへの意識を取り払い、企業がいま一度CNFの収益性やポテンシャルを十分に評価することができれば、そうした無駄は省くことが可能ではないかと思っています。
多様な製品用途に対応した有害性評価手法の開発と安全性評価については、CNFの幅広い分野での利活用が期待されている一方で健康被害を懸念する声が少なからずあります。実用化や普及を後押しするためにも、CNFの安全性評価を実施し結果を示すことは非常に重要と考えています。

― 最後に、NEDO事業に期待することを聞かせてください。

やはりさまざまなプレイヤーが参加し、多様な視点から情報交換ができることがNEDO事業の利点だと思います。コロナ禍で議論の場が思うように持てないことは残念ですが、今後は感染防止を心がけ、現場や現物を見ながら課題を話し合い、ヒントや気づきを得る機会を設けたいと思っています。また、CNFの製造・利用で得た知見は多方面に生かせると思いますが、原材料を森林資源だけに頼っていると、需要が急激に拡大した際、新たな環境問題が起きる可能性もあるため、原材料の多様化についても留意しておくべきでしょう。

プロジェクトマネージャー 山本 教勝 主査(左)
NEDO材料・ナノテクノロジー部 バイオエコノミー推進室

Top